小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
「……にーさん、眉間に皺」
あてがわれている部屋に戻ってからずっと、無言で、微動だにせず何事かを考え続けているエドワードの、その凝り固まった額をアルフォンスは指でぐいぐいと押した。
「アル……」
「せっかくの兄さんの美少女ちっくな顔が台無しでしょそれじゃ」
「だれが美少女ちっくだ誰が」
エドワードの低い声にもアルフォンスはにっこりと笑った。
「ようやくこっち向いてくれた。さっきからずうううううううううううううっと兄さんのこと呼んでるのに気がついてもくれなかったからさ」
「え……、あ、ごめん……」
「何を考えこんでんの?ボクに話す気、ない?」
「アル……」
「何悩んでんのかしらないけど。一人でそんなふうにしてたって解決なんかしないでしょ」
「あ、ああ……」
頷きはしたが、エドワードは口籠る。もやもやとした感情をどう言ったらいいのか、わからなくて。
「殿下のこと、悩んでるんでしょ?」
「え、あ……っ、その……」
すぱっと切りこまれて、エドワードは動揺した。
ロイの、ことを。
考えていたのだ。
確かに。
自分から手を伸ばしてロイを抱きしめてしまった。
アルフォンスもまた、ロイの運命の相手ということに動揺した。
それでもロイがアルフォンスではなく自分を、自分だけを運命の相手だと断言してくれたことにほっとした。
エドワードはそんな自分自身の心がわからない、のだ。
ロイに出会う前までは世界は単純だった。
いや、ロイに出会ってすぐの時も。出会いがしらにプロポーズなど告げるような相手は一刀両断に拒絶すればそれで話は終わっていたのに。
なにが、変わったのか。
このイーストエンドにやってきて、ロイを知ったからか。
運命の相手だからなのだろうか。だから、無条件に好意を持つのだろうか。
……違う、と思った。
――なんで、こんな気持ちになるんだオレは。
わからない。
いや、違う。
きっと心の奥底ではわかってる。
――アイツの……指が、震えてたから、だ。きっと。
従兄のことで苦しんでいるロイを知った。
あの時、震えていたロイの指。
その指が、ロイのどんな気持ちを含んでいるかなんてわからなかった。
だけど。
――だけどオレはきっと。あの指を見たときに。
何かをしてやりたいと自然に思った。
辛さを、取り除くようなことは出来ないのもわかっていた。
――それでも、もう少しだけ。何かできることはないかって思ってそれで。
抱きしめたのだ。
自分から腕を伸ばして、ロイの背中に腕を回した。
――それで、アイツがオレに『ありがとう、エド』って言って。かすれた声が、風に消えるくらいに小さい声で。
その声が、今でも耳の奥に残って。そして、エドワードの心のどこかに引っかかってしまったのだ。
その引っかかりが恋なのかどうなのか。
違うと思った。
けれど、違うのならばそれが何なのか、わからない。
「なんか、してやりてぇ、って思うのは……好きだってことなのか……な?」
ぼそり、と呟いた。
この感情を恋ではないと思うのだ。
アルフォンスの読む小説の文言のように『恋に堕ちた瞬間、世界はこれほどまでに美しいものだと気がついた』などという、そんな目の前の風景が一変するような感情ではない。
ロイが言うようにブラックホールに吸い込まれるような強烈な吸引力など感じはしない。
恋というものが、それほど強いものであるのなら、今のエドワードのように悩むようなことはないと思うのだ。
もっとはっきりと。
これが恋だとあからさまにわかるほどの強い感情。
そんなものは抱いてはいない。
ならば、ロイに向ける感情は恋ではない。
そう思うのに、すっきりとしない。
「好きだから何かしてあげたいとか思うものじゃないの?少なくともボクは好きでもない人に指一本動かしたくはありません」
「だ、けど……さ。恋とか、そーゆーもんじゃねえと思うんだけど。そこまで強い感情じゃねえし……」
――強い感情じゃなくても、即時即断すっぱり決行型の兄さんがここまで悩むってのはそれだけ深い感情なんじゃないのかなぁ……?
などとはアルフォンスは口には出さなかった。
エドワードが悩んで迷っているのならば。
その感情の方向性に指針を与えてはいけないような気がしたのだ。
これが恋で、あれは違うなどと、そう決めるのはアルフォンスではなくてエドワード自身の心でなくてはならない。
アルフォンスは自身の考えに頷いた。
一言でまとめられるような簡単な感情が何であるのか、それはエドワードが決めなくてはならないことだと。
もしも、命を守るためだけに、恋に堕ちたと錯覚させるのならば。
ロイならば、そのくらいきっと簡単にできるのだろう。
けれど、ロイはそんなことはしなかった。
エドワードの方から、ロイと同じようにロイに恋に堕ちて欲しいのだと言っていた。
ならば、今自分が言うべきことは、たった一つだけだと、アルフォンスは考えた。
「初恋もまだのボクらには、どんな感情が恋なのかなんてそんなのわからないよね。殿下が仰ったように強い吸引力があるものかもしれないし、もっとぼんやりしてるものかもしれないし。少なくとも、ボクが読んだたっくさんの恋愛小説にはどれひとつとして同じ形のモノはなかったけどね。出会い頭に恋に堕ちる、ってものもあるし、じわじわ好きになっていくとかいうのもあったし。それからねえ、全然意識してなかったのに、ふとしたきっかけで気になったなんてものあるし……」
「そー……なのか?」
「うん。これが恋ですなんてフォーマットはないよ。だけど、悩んでたって答えなんか出るものじゃないと思う。心なんて見えないし。自分自身の感情だってあやふやだし。理論とか理屈とかじゃないし。……だからさ、兄さん」
じっと、見上げてくるエドワードに、アルフォンスはにっこりと笑いかける。
「立ち止まって考え込んでもしかたかないよ。動かなきゃわからないものもある」
「え……」
「恋なのかどうなのかとかさ、そんなの置いておいて。気になるものにはぶつかっていけばいいと思うよ。何かしてあげたいのならすればいい。……大体兄さんは考えるより行動の方が先の人なんだからさ。動いたら、その結果自然にわかるんじゃないかな何事も。動かないで考え込んでも仕方がないでしょ?」
アルフォンスの言葉をゆっくりと反芻する。
「そっか……」
すとんと、付き物が落ちたように。エドワードの身体がら力が抜けた。
「うん、動こうよ」
「そだな……」
考えたってわからないのであれば行動あるのみ。
ごちゃごちゃとしたことはそれから考えればいいのだ。
「何が恋かなんて、そんなの人それぞれだろ?兄さんはやりたいようにやりたいことすればいいんだよ。結果なんてその後に勝手についてくる。ボクはそう思う」
「うん……。そだな。オレも、そう思う……」
ロイに対する感情が何かなど、考えてもわからない。
ならば、ぶつかってみるしかないのではないか。
恋であっても恋じゃなくても。
もやもやとしているよりはよほどいい。
「どーせ明日とか、アイツと二人きりとかにならなきゃいけねえんだから。うん、そだな。真正面からアイツ観察してみっか」
「そーだよ。それでいーと思うよ」
「ああ……。さんきゅーな、アルフォンス」
どーいたしまして、と言うアルフォンスに、エドワードも笑顔を向けた。
「あ、だけど……さ。ちっと疑問があるんだけど」
重く圧し掛かっていたもやもやとして気持ちが、少々すっきりしたところでふと疑問が湧いた。
「ん?なに兄さん?」
「……アルフォンスも、アイツの運命の相手って。手札で出ただろ?」
「うん。出たね」
「それってさ……。元々はオレがアイツの運命の相手だったけど、オレはもうお役御免でアルフォンスに運命が変わったとかいうことだったり……」
「それはないよ」
アルフォンスは即座に否定した。
「運命は、変わらない。殿下の運命の相手は兄さん。兄さんの運命の相手は殿下。これは動かない。だけど、ボクも殿下の運命の相手って出た。それも事実」
「それってどういうことだ……?」
「色々考えられるけどね。一夫多妻制的にボクも兄さんも二人とも殿下のお相手だとか」
「じょ、冗談じゃねえぞそれ」
「うん、ボクもそーゆーの嫌だねえ。恋愛は一対一が基本でしょ。一対二とかはねえ……、そういう思考の人もこの世の中には居るだろうけど、それを否定はしないけど……、ボクの趣味じゃないしねえ」
あはははは、とアルフォンスは笑った。が、エドワードは嫌なものを見るように目を顰めている。
「ホントは兄さんと殿下が運命の相手で。だけど、それが上手くいかなかった時のスペアがボク……とかいう考えもある」
「な、なんだよそれっ!」
「落ち着いて兄さん。解釈なんていくらでも出来てしまうんだよ。ボクの手札は間違わない。間違うのは……読みとる方のボクだよ。解釈が正しいかもしれないし、間違うのかもしれない」
「結局わかんねえってことかそれ……」
「うん、手札は正しくてもね。示されたものが正しくてもね。……結局選ぶのは自分自身だよ。ボクの運命の相手は殿下だって出た。だけど、さっきも言ったけどボクは殿下のことは恋愛と言う意味では好きではないと思うしこれからも恋になんて堕ちないと思う。まあ未来では何かがあってボクの感情も変わるのかもしれないけど正直今はピンとこない。だから、手札が運命を示しても意味がない。まあ『運命に逆らう』ってほど大仰ではないけど、僕は自分でボクの道を選ぶ。手札が正しい未来を示しても、ボクは人間だからね。間違うこともあるし、それでいいんだと思う。正しいことをするだけとか、運命をなぞるだけの人生とか、それ、違うと思うんだ。間違っても何でも、運命を選んでも選ばなくても。自分自身で選んだ結果なら納得が出来るし、ボクは少なくともそういう道を選びたい」
「アル……」
「とりあえず、明日はリザさんとデートするしね。今は好意以上のモノは抱いていないけどデートとかしちゃったら好きになっちゃうかもしれないしそれに……」
「それに……なんだよ?」
「……ボクの運命の相手は殿下の側にいる。最初に占った時にはそう出たのに、さっきはボクの運命の相手も殿下だった。……矛盾しているとまでは言わないけど、詭弁なような気もするしね、この占いの結果は。殿下の側にいる人が殿下自身なんてさ」
「あ、そうか……、そうだったよな……」
考え込みそうなエドワードに、アルフォンスは首を横に振った。
「はいはいはいはいに―さんそこで考え込まない。さっきも言ったでしょ。悩んだってわからないモノはわからないんだよ。解釈なんて正確かどうかわっかんないし。ただ、自分が納得できるように行動するしかないんだよきっと」
それでいいんだよきっと、と笑うアルフォンスに、エドワードも頷いた。
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