小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
――……誰かが、泣いている声がする。

ぼんやりと、エドワードは辺りを見回した。

薄ぼんやりとした霧の中。視界に映るのは一面のグレーの色。
何もない。多分、地面すらも。
上も下もわからない気がする。まるで空に浮かんでいる雲の中にいるようですらある。

――えーと、ここどこだ?
 
「おーい」
呼びかけてはみたものの、返ってくる声はない。仕方なく、エドワードは泣き声がする方に足を向けた。
――なんか、足元がおぼつかねえつうか、一体全体ここどこだっつーの。
どのくらい歩いたのかわからないほどの時間が経過したのち、誰かの背中が見えた。
エドワードはその誰かに向かって走る。
黒い髪の、どこかで見たことがあるような女性が一人。「どうして」と、震える声で何度も何度もつぶやいていた。
エドワードがその女性に手を伸ばそうとした途端に場面が変わる。
「え……?」
見たこともない黒髪の男がすまなそうに俯く。
「君を嫌いになったんじゃなくて……、別の人を好きになっただけで……その、」
言い訳じみた弱々しい声。
また、風景が変わる。
どこかのキッチンで、幸せそうに歌を歌いながら料理を作る女性がいた。
そして、その女性の部屋を黒髪と金の髪を持つ二人が訪れる。出迎えた女性の顔が強張る。
「その方、どなた……?」
次々と場面が変わる。
くるくると。
時系列など無視してランダムに浮かび上がっては消えていく様々な場面。

――あー、これって魔女の記憶、とかか?それがオレに今見えている?

多分これは過去に起こったことだ。
そう、理解し、エドワードはその場面を無言で見つめ続けた。


――……あー、なんか。なんて言ったらいいのかな……。もしかしたら呪いとか解く手掛かりとかあるのかもしれないけど……、なんか覗き見してるみたいで気分良くねって言うか……。


他人の、恋愛。
告白して付き合ってプロポーズをされて、そして破局を迎えた。その過程を目にしている現状。


――うー、強制的に恋愛小説とか読まされるカンジっつーか……。アルフォンスならなんか言えるんだろうけどオレはな、こーゆーのに興味ねえって言うか。

けれど、三文小説のように先が読める展開が繰り広げられている。

恋人から突然の別れを告げられ、信じられずに茫然とする魔女の、過去。

エドワードは頭を抱える。


失恋した女性に対してどういえばいいのか。
そんなことわからない。

――そもそもそんなケーケン、ないっつか。恋愛初心者マーク付きのオレになんか言えることなんてない。だけど、……ちょっとだけ可哀想だな。


そこまで思ってはっと気がつく。


――可哀想って同情されて、それ嬉しいか?


自分ではどうしようもない事態に遭遇する。
そして他人から可哀想だと思われる。

――オレなら、嫌だな。現状不幸だったらオレは自分で状況を変える。可哀想だなんて、誰からも思われたくはない。


例えば、無関係の魔女からの呪いを受けて、もうすぐ死ぬと言われる不幸。
例えば、生まれたときから二十歳までは生きられないと言われ、誰かを恨むことを原動力に生にしがみつく不幸。
例えば、何故恨まれているのがわかりながら、敢えてその恨みを煽り続けなければならない不幸。
例えば、結婚間近だと思っていた恋人から突然別の相手を好きだから別れてくれと言われる不幸。


同情なら、不幸だと、可哀想と言われ、ただそれだけでしかないのだ。
何の手助けもすることもなく、無関係に無感動に、義務的に同情心を見せる。

当事者の辛さなんてわかりはしないのに。
代わってやることもできないくせに。
イイヒトのふりで。
いい人の顔で。


当人が、本当にどんな気持ちかなどは決してわかりはしないのに。なのに「可哀想」だと同情されたら。


――オレなら怒るかな?かわいそーとか言ってんじゃねえよ、とかさ。


だけど、同情ではなく相手に共感をすることはできる。相手のことを思って心を寄せることはできる。相手のためになにが出来るのか。出来ることがあればそれをすることだってできる。


――ええと、魔女みたいに例えばオレが……、アイツとつき合ったとして、そんでもって付きあった後に、アイツからいきなり別れ話解かされたりしたらどう思うんかな……。さっきのあの黒い髪の男……あれが、魔女の元恋人のやつだよな。ソイツみたいに、アイツから「君を嫌いになったんじゃなくて……、別の人を好きになっただけで……その、」とか言われちまったら……。


怒るだろうか。
悲しむのだろうか自分は。
諦めるのだろうか。
それとも、魔女のように相手を殺してしまうのだろうか。

わからない。


わからないままで、このままにしてもおけない。


――じゃあ、オレのできることって何だ?同情でもなく、理解することでもなく。


何が、出来る?


エドワードは考えた。


――オレなら、同情はされたくない。現状に不満があるなら、それを変えるために努力する。魔女はどうなんだろう。魔女は何を求めてる?


魔女は「どうして」と言い続けてきた。


――誰か、その問に答えを出してあげればいいのに。


けれど、魔女の元恋人は既に亡くなっているのだ。
問の対する答えが無いまま魔女は永遠に問い続けるのだろうか?
魔女の過去を見てしまったエドワードが、推測で魔女の元恋人の心情を語ったところで意味はないだろう。

「オレが、出来ることは……」

エドワードの呟きに、耳を塞ぎたくなるような轟音がかぶさった。




気がつけばエドワードはロイの腕の中に抱かれていた。
ロイは左の腕で、強くエドワードを抱きしめ、そして右の手には銃を持っていた。
持っていただけではなく、その銃口を魔女に向け、容赦なくそれを撃つ。ホークアイの持つ大口径のライフルから響く轟音と衝撃波。ハボック達もだ。撃つ、撃つ、撃ち続ける。銃声は途切れることがなく続く。アルフォンスのカードも空を切り裂いて魔女へと向かう。
皆が皆、一斉に魔女へと攻撃をかけていた。
耳が、痛い。
エドワードは耳を、ふさごうと身じろぎをした。
「気がついたかエドワード」
ロイは、エドワードの方を見もせずに、銃を撃ち続けながら告げる。
「魔女の呪いを解こうなどと悠長なことを初めからしなければよかった。……元凶を倒してしまえば問題ない。そのまま待っていろ。すぐに消してやる」
ロイの、恐ろしく暗い声。
すぐさままた銃口が火を吹く。
が、魔女は微動だにしない。
ロイが舌打ちをした。
「……89式小銃程度では無意味か。ホークアイっ!」
「はい」
「対戦車ライフルの用意はあるか?」
ホークアイは無言でアンチマテリアルライフルを差し出した。
「ちょ、それ……」
これまた無言でそれを受け取ったロイにエドワードは慌てた。
「それ、人間に向けていいんかよっ!対戦車ライフルって……」
「魔女は人間では無かろう。これはな、本来の目的は遠距離から敵の兵器や車両を破壊するものだが、コンクリートや壁に隠れた敵を遮蔽物ごと撃ちぬくような使われ方もされている。だから、問題ない。すぐに仕留めて見せるから、君は安心して待つように」
やはり、エドワードを見ずに言う。
まるで、鬼か悪魔のような形相で。
ロイは魔女を睨みつけ、そして銃を構える。

――あ、こんなコイツの顔、初めて見た。

容赦なく、ライフルを撃つ。何度も何度も何度もだ。轟音が重なり続ける。

――あー、オレが魔女に首なんか絞められて、気絶とかしちまったから、コイツ怒ったんだ……よな、多分。

エドワードは何故だか少しだけ嬉しさを感じた。

――こんなになるくらいに、オレのこと、心配だったとか。オレのことをこんなふうにした魔女にムカついた、とか。

けれど、そんな少しの嬉しさよりも、エドワードの心を占めているのが「ロイにこんな顔をさせたままで居たくはない」ということだった。
手を伸ばして、そっとロイのシャツを引っ張る。
「……やめろ、」
魔女を、攻撃するのは止めろと、告げた言葉は銃声にまぎれてロイにも誰にも聞こえはしなかった。
仕方なく、エドワードはロイの胸を叩く。
「やめろってばっ!アンタもみんなもっ!いいから止めろ―っ!」
大声を出し過ぎて、ゲホゴホとむせる。
「エドワード?」
「だから、止めろって。アンタも、みんなも。……アルフォンスもやめろ。攻撃すんなよ女の人に」
ロイを押しのけて、エドワードはふらりと立ち上がる。
「兄さん?」
「大丈夫だから。アルも落ちつけよ」
ゆっくりと、魔女へと向かっていく。
――まだ、考えとかまとまってねえけどな。
魔女の元へ一歩一歩、大地を踏みしめるように足を進める。
魔女はエドワードを見る。暗い瞳で。探るように。
「攻撃して悪かったな。ごめん、痛かっただろ?」
魔女に手が届く位置で、足を止めた。
「とりあえず、魔女とか呼ぶのもなんだかなーって気がするからさ。なあ、アンタ……、アンタの名前、教えてくれよ」
ぴくりと、魔女の目が細められる。
「……なぜ?」
「知りたいから。オレに、名前知られるの、嫌か?」
「いいえ……」
「オレは、エドワード。エドワード・エルリック。アンタは?」
握手を求めるように、瘴気の塊のような魔女にエドワードは手を伸ばす。
「……ラフィーナ、よ」
「そか、教えてくれてありがと。いい名前だな、ラフィーナ」
魔女の名を、呼ぶ。
瘴気が、少しだけ薄まった。



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