小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

酒を飲んでいなくても雰囲気で酔っぱらえるのは天城とりせだ。
「……なんかものすげえ、見覚えのある風景が…、」
げんなりと隣に座っている陽介が肩を落とす。
「まあ、そうだな」
「ちゃんとノンアルコールで注文したのに……」
「諦めろ陽介」
修学旅行の時に同じようなことがあった。ソフトドリンクしか飲んでいないのに酔っぱらう女子二名。
あの時はクラブで、今はカラオケボックスだが。
さっきまでりせが自分の曲を歌っていて。みんなで「おおお『生りせちー』だ」とか盛り上がっていた。
普段はりせが芸能人だということはあまり意識には上らない。りせはりせ。芸能人の部分も仲間の部分もひっくるめての「りせ」。俺の中ではそういう認識。
「それじゃーさっそく『王様ゲーム』開始ー」と、そのりせがぴょんと跳ね出した。
……またか。まあいいが。
「いーぞいーぞ」と天城が賛同。そこにクマが乱入して、あっという間ににっちもさっちもいかなくなる。
「ほら完二ぃ!さっさと割り箸用意してよ」
「あぁ?テメ、またそーゆー流れかよっ!」
文句は言うが基本完二は逆らわない。否、逆らえない。
結局付き合いのいいメンツは雰囲気酔っぱらい達を止めることなく『王様ゲーム』に巻き込まれる。
「さってぇ、場も盛り上がって来たことですしー、そろそろチッスタイム開始であります」
王様に当たったクマがきりっと宣言する。
「おーっ!」
「きたきたぁ☆」
止める間もなく天城とりせの「チッス」コールが始まって。
「オマエらまたかよっ!」
陽介の叫びなど誰一人として聞いても居ない。
「ちょっと雪子っ!アンタまた……やめなさいよ」
里中がけなげに止めようとするが「きゃはははは」と笑う天城を誰が止められるというのだろうか。止められない。
すっと白鐘が席を立った。
「じゃ、ボクはこれで……」
さっさと退室しようとする白鐘を「だぁめっ!直斗帰ったら絶交しちゃうんだからっ!」とりせが無情にも引き止める。
「先輩っ!なんとかしてくださいよ頼んますっ!」
完二が俺に救いを求めるが。俺はと言えば、そんなみんなをぬるい目で見るだけだ。
止める気などさらさらない。
まあ、気にするな。
男ならドーンとがんばれ。
そんなカンジ。
「それでは『三番が一番にちっすー』王様の命令であります!」
クマの声に「あ、三番」と片手を上げる。
……まあそろそろ当たるかなとか思っていたんだ。まあ、キスくらいどうとでも……と俺は思っているのだが、陽介が何故だが驚愕の叫びをあげてきた。
「マジかよ相棒っ!」
その陽介の声にかぶって「あ、あたし……、いち、ばん……」茫然と呟く里中の声がした。
「お、おおおおおっ!とするとぉ、センエイがチエちゃんにちっすですねー」
別に俺はいいのだけれど、真っ赤になって青ざめるなどと実に器用な顔をした里中が後ずさるから。ちょっとまあ可哀想かなと思ってみたり。多分、里中にはこういう経験がないんだろう。それなのに、最初のキスが皆の前での晒しモノ、では……トラウマになるかもしれないし、そういうのに俺が加担するのも心が痛い。別に唇にキスをしろと言われているわけではないので、手や頬にキスをして誤魔化すことも可能なのだが。期待に満ちた皆様に対し、それでは肩透かしなのだろう。
「ちょっとまて洒落になんねーだろそれっ!」
クマを止めようと完二が立ちあがるが「うるさーい完二っ!王様の命令は絶対よ」「そーだそーだ、千枝ちっすー」と酔っぱらい共の反撃を喰らって完二はあっという間に床に沈む。
「あ、あははははは、本当にはしない、よね……」
里中、悪い。王様の命令は絶対だ。
ふっと、ため息をついて「いや、する」と断る。
里中に向けてではないが、その言葉を誤解した里中が脱兎のごとく逃げだしそうになり、そこに天城がしがみ付く。
「ちーえー、逃げちゃだめー」
「そーですよお!さ、せーんぱい、千枝先輩は抑えてますからどーぞちっすー」
りせも天城も実に楽しそうだ。
本気で場酔いをしているな……。
「それじゃあ、遠慮なく」
笑みを浮かべて一歩前へ。
「や、みんなの前じゃ里中だって可哀想だろっ!」
陽介が半ば焦りながら立ち上がる。俺はその陽介の胸倉を掴み上げる。
「へ?」と呆けている間に里中ではなく陽介の唇を奪う。
先ずは軽く触れるだけ。
「……ちょ、ちょっと待て相棒っ!俺は五番……」
文句を言えば唇が開く。その隙間を狙ってもう一度キスをする。今度は触れるだけではなくて、陽介の口腔内にするりと舌を滑りこませる。
敢えてわざと、くちゅくちゅと音を立てて舌を絡めさせる。本気と書いてマジと読むっていうカンジに気合いを入れて一秒二秒……一分か二分かカップラーメンが出来るくらいの時間かそこらくらいで、陽介の膝から力が抜けた。
崩れ落ちないように、陽介の腰を支えて。
そうしてそのまま容赦なく陽介の唇を貪り続ける。
俺の気が済むまで行為を継続。唇を離した後では半腐乱死体状態で魂が抜けている陽介の出来上がり。
……あれ?もしかして陽介も初めてか?
「まあ、こういうのを里中にするのはさすがに可哀想だから、陽介が代理ということで」
にこやかに笑えば、陽介以外のみんなも、マハブフダインかニブルヘイムでも喰らったかのように氷結されていた。
さすがのクマも、目を見開いて固まっている。
最初に回復したのは陽介だった。
「お、まえ……俺のファーストキスを……」
やっぱりそうかと俺は笑う。
「まあ、陽介ならいいかなと」
「俺ならいいってどゆこと相棒っ!」
泣きだしそうな目で見つめられると気分がいい。
「こういうの里中にしたらトラウマになるだろ?」
「……お、俺ならいいってのかよっ!」
「陽介は打たれ強いから大丈夫」
きっぱりと、断言。ほら、今だってみんなはまだ凍結継続中なのに。ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあと叫んでくるし。
ひでぇだのなんだのとウルサイから。脅すように顔を寄せる。
「陽介?」
「ナンデスカ相棒。……あんまり近寄らないでお願い」
「あまり騒ぐようなら今以上のコトも仕掛けるが。まあもちろんそれは二人きりで……な」
低い声で、耳元に囁いてやったら、陽介はこれ以上も無いくらい顔が真っ赤になった。
本当にしてみるのも一興だと、本気で攻略を練ってみる気になった。
「三番に五番が容赦なくイタズラ。逆でもいいがどうする?」満面の笑みを浮かべた王様は俺。




終わり
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