小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
放課後、なんとかなくだらだらしてたらいつの間にか部活の時間が過ぎていて。
「あ、そう言えば今日は部活いいのか出ないのか」とか鳴上に聞いたら、「いや出る」って返事がして。
遅刻でも部活参加するのかえらいなとかなんとか話していたと思う。
お前が部活終わるの待って、それで一緒になんか食って帰ろうかとか何とか。
いつものように、何でもない会話をしていたと思う。
だから、こんなこと言われるなんて夢にも思わなかった。
こんなこと。
近寄るなって、こと。

「陽介」
「んー、なんですか相棒」
部活終わるの待たなくていいから先に帰れとか、待っている間に宿題でも片付けろよとか言われるかなって。
そんなことくらいしか思ってなかったから。

「しばらくでいいから俺の側に近寄るな。少なくとも半径3メートル以内には」

こんなこと言われるのなんて、青天の霹靂。ヘキレキってこんな画数の多い漢字、書けたりなんてしないけど。
「へ?」
「いいな?」
念を押すだけ押して、俺の返事なんて待たないで、鳴上は部活へと向かってしまった。
すたすたと。
教室のドアを開けて。
理由なんか、言わないまま。
俺も、なんでとか聞けないまま。
鳴上が出ていった教室のドア。開けっぱなしのそれをただ見てる。そこから追いかければいいのにと思っても出来なくて。
ただ、机の上に置かれたままのアイツのカバンをぼんやり見てた。

だって頭が真っ白だ。
ひゅるりら、と落ち葉が一枚二枚落ちていく映像が何故か浮かぶ。
そんでもって動けない。
誰もいくなってしまった教室で俺が一人硬直して立ったままで。
窓の外からは部活に精を出す誰かの声が聞こえてくる。だけどその声はすっごく遠い。異次元空間からひびいてくる声みたいにわあわあ言っているけど意味不明で。ああ、違う。聞こえてきてるんだけど俺が聞いてないだけだ。
聞こえるのは。
意味がわかるのは。
さっきの鳴上の声だけで。

近寄るな。

それだけ。

どうしていいかわからなくて。右にも左にも行けなくて動けない。
脚が動かない。

うわ、どうしてだよ。俺が何したんだよ。

そのままどのくらいじっと立ちつくしていたのかわからないけど。
窓の外がさっきよりもだいぶ暗くなって来たっていうか空が青からオレンジ色に変わってきだしたくらいの時間が経った後に、ようやく脚ががくがく震えてきた。そんでもって腰抜かした時みたいに床にへたり込んむ。

鳴上は、無意味にあんなこと言ったりしない。
俺に近寄って欲しくないくらいの何かを、俺がしてしまったのかもしれない。
せめて理由くらいわかれば謝ったりもできるのに。
考えても考えても思いつかない。
それとも些細なことの積み重ねとか?例えばうざいって、思われて、それでそれがもう我慢しきれなくなって、さっきとうとう爆発して、それで近寄るなって?

……それが一番あり得る気がしてきた。

駄目だ。泣きそう。

へたり込んでいた床に、そのまま倒れ込む。

このままだと泣くわ、俺。
精神的ダメージで死にそう。

床に転がって、もうそのまま起き上がる気力なんて全然ない。

だから、仰向けになって死んだ人みたいに転がってた。




そしたら、誰かに踏まれた。
思いっきり容赦なく。全体重でもかかったんじゃないかってくらい強烈な重さが腹にかかる。

「ぐえ……っ!」

「あ、すまん」

……鳴上だった。


もう咄嗟に。部活終わるくらいの時間が経ってたのかとかそんなことは考えたのは後からで、もうこの時は俺は必死で。
鳴上の、腕を掴む。
起きあがったら踏まれた腹がめちゃめちゃ痛んだけど、そんなの気になんてしていられない。
しがみ付く、くらいの勢いで、腕を強く掴み続ける。


「離せ陽介」
「嫌だ」
なんで近寄ったらいけないんだよ、俺がお前になんかしたかよ。
俺がそう言う前に鳴上が俺を睨みつける。

「近寄るなって言っただろ。半径3メートル以内に入るな。それから触るな」
掴んでいる腕の力が抜けそうになる。震えて、泣きそうどころか目の奥がすげえ熱くなる。喉が詰まって苦しくて。

「……なんで?」

声が震えてる。それ以上喋ったらマジで涙が出ちまいそうで。
それでも俺は掴んだ腕を離さなかった。

鳴上は、黙ったまま。
俺は鳴上の顔なんか見ることが出来ないで、下を向いたまま。
返事は無かった。
俺もそれ以上繰り返して聞くことなんて出来なかった。
出ない声の代わりに涙が出た。それが床に落ちて、黒い染みが出来る。
ポタって一つ涙が落ちて、そんでまたもう一つ落ちた。
涙腺、壊れたのかな。
でもコイツに嫌われたら、床一面真っ黒になるくらいに俺の涙で染みが出来る。
「……陽介。頼むから腕、離してくれ」
そんなに嫌いかよ、ウザかったのかよ俺が。
「…………嫌だ」
嫌われても何でも俺はコイツが好きで。
相棒だと思ってた。頼りにしてた。だけどその思いは一方通行で。
俺だけだったのか。
こんなにコイツの事が好きだったのは。
表面上の友達づきあいしかしてこなかった俺に、初めてできた親友。
俺だって鳴上にちょっとくらいは頼りにされてるとかも思ってたのに。

なのに、ため息が。
鳴上のすっげえ重々しいため息が俺の髪にかかる。

「陽介、」
仕方がないと、小さい子供に言い聞かせるような口調で鳴上が俺の名前を呼ぶ。
コイツに陽介って呼ばれるの好きだったのにな。今は辛い。胸が苦しい。
「離さないとお前が困ることになる」
「困るって何」
今以上に嫌なことなんてきっとない。困る?どうして?今この腕を離したらさっきみたいに俺に背を向けてお前はどっかに行っちまうんだろう?
嫌だ、離さない。
だから俺は掴んでいる腕の力を更に込める。
絶対に嫌だ。
「こういうの、お前は嫌だろう?」
「こーいうのって何?俺がお前に嫌われてたことに気が付きもしねえで相棒ぶって親友ぶって纏わりついてたっつーこと?」
ああこんなふうに鳴上から嫌われるのなんてすっげ嫌。理由がわからないまま背中向けられるのなんてホントごめんだ。せめて理由ぐらい聞かせろよ。わけがわからないなんて冗談じゃない。
下を向いていた顔を無理矢理あげて、鳴上を睨みつけるように見る。
辛そうに歪められた鳴上の顔がすぐ近くに在った。
すぐ近く。
息がかかるくらいに。
「違う。こういうこと」
こういうことがどういうことか、具体的には言わないままに鳴上の唇が俺に触れた。

多分、一瞬。ほんのわずか。
掠めるように触れた、だけ。

「え……?」

だけど、何をされたかなんてわからないはずがない。

目を見開いて鳴上を見る。
いつもはじっと、視線なんか逸らさないで強い瞳で見つめる鳴上が、俺の目を避けるように顔を背けた。

「……こういうこと。困るだろ?」
困るって何困るって。
やっぱり俺の思考回路は凍結したままで動かなくて。
だけど、さっき触れた唇の温度があったかくて。
じわじわと、俺のどっかの何かが付きあげられるようにして、動き出す。

「だから、頼むから陽介が自衛してくれないか?悪いが自分では止められない」

背けられた顔。少しだけ赤い頬。えっと、鳴上ってば照れてたりする……の、か?

「陽介が相棒とか俺を呼んでくれるのは嬉しい。だけど、もうそれだけじゃ止まらなくて。このままだとお前を押し倒す日も近い」

あれ?えっと?これってその……あの、ええと???俺、鳴上に嫌われてたとかじゃなくて、もしかしてその反対?

「わかっただろう?陽介離れろ。金輪際近寄るな」

「嫌だ」
即答、した。
「近寄るし掴むし離さねえっ!」
「陽介っ!」
「お前にっ!背中向けられて離れて行かれるくらいならしがみ付いても離れないっ!」
腕、掴んだまま、その腕のもっと力を込める。
「だからそれだと……陽介に身の危険が」
「別にいいし」
きっぱり言う。つき離されるより辛いことなんてない。
「そういうことを気軽に言うな。この場で俺に押し倒されて強姦でもされても知らないぞ」
「オマエに『近寄るな』なんて言われるくらいならその方がマシ」
「……落ちつけ陽介。お前は俺に恋愛感情なんて持っていないだろう?」
諭されるような声。でもそんな声に絆されたりはしない。
「知らねーし。そんなのわっかんねえ。だけどお前が俺から離れていくっつーなら俺だってお前強姦しちまうくらいに離れるの嫌だ」
「……少しは頭使って返事をしろ」
「どうせ馬鹿ですけど。だけど優先順位間違えるようなことなんてしねえ」
好きか嫌いかなんて二択、考えなんかしないくらいに俺は鳴上が好きだ。それが友情なのか恋愛感情なのかなんて知らない。
分からないし考えたことなんてない。

だけど、俺の居場所は、俺が居たい場所は、鳴上の側。
離れるなんて冗談じゃねえっつうのっ!

ぎゃあぎゃあ騒いだら、鳴上は仕方なさそうにため息をつく。
「……俺にうっかり襲われても後悔しないな?」
睨まれても怯まない。
「だったら俺のほうから鳴上襲うけど、それでもいいか?」
鳴上は実に複雑そうな顔をした。
「……俺が陽介に襲われる……のか?」
「おうっ!」
「それは……、考えたことがなかったな……」
そうかそうですか。
「お前が離れるなって背中向けるっつーなら追いかけてしがみ付いて襲うくらいする」
身動きできなくなって蹲って床にへたり込んで倒れ込んで泣くよりも。
追いかけて押し倒したほうが何百倍も何千倍もずっとマシ。
だから頼むから逃げるなよ。
カテゴリーなんてわかんないけど俺はお前が好きなんだから。
鳴上は、ふっと笑った。
仕方ないなってカンジに、それでもどっか嬉しそうに。
「陽介に追いかけられて襲われるのも楽しそうだ」
「おう、楽しみにしておけよ相棒」
ちょっとだけ、かっこつけるように、ニヤリってカンジで笑って言ってみたら。
「じゃあ早い者勝ちな。隙があったら圧し掛かるからよろしく」って鳴上が笑った。
俺だって負けないですけど。隙あったら鳴上に圧し掛かるけど。……ってあれ?圧し掛かるってことはええと、あれですか?
する、ということですかそうですか。
えーと、とかちょっとだけ躊躇するココロはあったけど、声を上げて笑う鳴上なんて珍しいから。
あー、そんじゃ男同士のやり方でもちっと勉強しとかなきゃな、なんてうっかり思った今日の俺。
友情だろうが恋愛だろうがそんなもんどっちでもいい。
境目なんて、知らない。
境界なんてなくていい。
お前の横には俺が立つ。
なら、それでいいだろう?
押し倒すくらいしてもいいって咄嗟に思っちまったくらいには、俺はお前が好きなんだから。

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