小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

その言葉通りに、花村は俺を口説き続けた。……もう15年も、だ。
根性あるやつだ、と見直すというよりむしろ呆れる。
よくもまあ、気持ちが続くものだ。……すぐに、忘れると思ったのに。思春期の、特殊な状態の、錯覚。そう思っていたのに。
とりあえず、ため息をつくしかない。
花村にだけでなく自分にもだ。
さすがに、もういいんじゃないかなと思うこともある。
自分の気持ちを花村に伝えても。
本当はずっと好きだった……など今更言えるか。
もう加速度がついて止まらないようなものだ。
言わないと決めたから言わない。
相当頑固なのだと思う俺自身も。
だけど。
「なーなー、悠。夕飯まだ?」
「……ちょっと待て、献立考えなおしていたところだ」
どうやら俺はキッチンで包丁を握りしめたままぼうっとしていたらしい。とりあえず、ササミの筋を取り観音開きにする。叩いた梅干しと大葉をそれに乗せてくるくると巻いてつまようじで止める。
「んー、飲めればなんでもいーけど俺は」
「……肉ばっかりで野菜が足りない気がして」
言い訳だ。俺は夕飯の献立を考えてたわけではなく、花村の事を考えていたわけで。しかしこういう時あまり表情に出ない自分の感情に感謝する。無表情に薄力粉と溶き卵とパン粉を用意する。
「じゃ、サラダくらい作るか?レタスとかちぎるくらいなら俺だって手伝えるけど?」
「いや……、とりあえずお前は着替えて来い。揚げ物するからスーツが汚れる」
どん、と揚げ物専用の鍋を出して油を注ぐ。揚げてしまえばとりあえずササミの梅しそ巻きフライの出来上がり、だ。
「へーい。じゃあ、任せるな」
「ああ……。着替えたらビールとグラス用意しておいてくれ。あと大吟醸もあるがそっちも飲むか?」
「んー、とりあえず飲む方向で。今週は仕事キツかったから、ちょっとぱーっと飲みたいし」
「了解。じゃあそっちの用意も頼む」
「はいよ、相棒」
くるりと軽い足取りで、花村は自分の部屋へと向かった。
自分の、部屋。
そう、お互いに社会人となりそれから。
俺は花村と同居生活を送っているのである……。
同棲ではない、あくまで同居だ。
だが、自分を口説きまくっている男と一緒に住むというのは暴挙ではないかとか思うのだがそこは花村の勢いに押された。
という体裁を取っただけ、とわかっている。
花村の気持ちに答える気などないくせに、一緒に暮らして花村の時間を占拠している。
「……何やってんだろうな、俺は」
ぼそりと口に出す。
このまま、絶対に気持ちは伝えない。
そのつもりだった決意が少しばかり揺らいでくる。
本当に、気持ちを伝える気なんか無いのなら、一緒に住んだりしないで、花村から遠ざかってやるべきだとわかっているのに。
それも、出来ない。
俺の目の前で、いや、目の前じゃなくても。花村が俺以外の誰かを選ぶのが苦痛になってきている。
好きだと言って恋人になってそれでそのうち別れるくらいならこのままの方がいい。
ずっとそう思っていた。今もそうだ。
このままで俺は十分満足だ。
手なんかつながない。キスもしない。それ以上も、花村は絶対にしてこない。
いつか両想いになったら。
そう言い続けて。
……馬鹿だ、花村は。さっさと俺など見限って、誰かお前を幸せにしてくれる相手を選べばいいのに。
けれど、花村がそうしたら俺は傷つくんだろうな。
ホント往生際が悪い。
うだうだ言っているのなら俺から花村を切るとか、俺が花村を受け入れるとかすればいのにな。
どっちも出来ないままの現状維持。
単なる友人同士の気軽な同居生活。
……嘘くさいどころか完全な嘘だ。
ホント、どうしようか。
だけど、ずっとこのまますごしてきてしまったので、どっちの道も取れないのだ。
身動きできずに15年か……。
うだうだとループしそうな思考に陥りそうになった時に、俺のケイタイが鳴った。
が、今は揚げ物真っ最中だ。ちょっと待て。
「あれー?今悠のケイタイ鳴ってなかった?」
「……梅しそあげの最中だ。あと2分……」
揚げ物は、真剣勝負だ。
「んー、でも菜々子ちゃんから、ってお前のケイタイに表示が……」
「花村、代われ」
「お、俺に揚げ物作れってかっ!」
む、無理無理無理無理、と花村はぶんぶんと頭を横に振るが、菜々子からの電話とあれば即座に出るのが当然だろう。
「あと2分くらいしたら適当に取り出しておいてくれれば構わない」
「お、おう……」
菜箸を花村に押し付けて、俺は自分のケイタイを取った。

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