小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

「ホントに……後悔とか、しねえ……?」
訝しげな声。探るように見つめてくる瞳。
俺は無表情に「多分」と答える。
「多分てなんだよ多分て」
「多分は多分だろ。考えてもわからないんだ。だったらまあ一度くらいは青春の過ちくらいいいかなと。まあ、そういうことしても別に相手が花村ならいいかとか……何?」
のらりくらりとっていうカンジに返事をしている最中に、花村が息を思いっきり吸って硬直状態になってたりするからどうしたのかなとか俺は思った。なにかコイツを硬直させるようなこと言ったのか俺?
「な、何って……お、おれ、なら、してもいー……とか、いま、いったか……?」
「一度くらいは、とは言ったが?というか似たようなことなら俺は最初から言っているだろう?お前の好きにしていいと言ったし。他の誰かとかならまあここまでは許さないだろうけど、お前だしな。花村は俺にとって結構特別」
「とく……べつ……」
「俺のこと『相棒』呼ばわりするヤツ花村以外にいないし?」
「ううう…………」
何唸ってんだ?と聞く前に、がしっと俺の両頬に花村の手が触れて。あ、あったかいっていうか熱い手だな、とか思う間もなく顔が近付いて。
かすかに震える唇が、まるで壊れ物にでも触れるようにそっと、俺の額に触れて。
まるで誓いのキスみたいにゆっくりゆっくり触れて離れた。
俺の唇に、ではなく額になんて、ホントコイツはヘタレっていうかなんていうか。ヘタレっていうのとはちょっと違うか、がっかりかやっぱり。
口に、してくればいいのに。
俺は抵抗なんてしないのに。
でもそんなこと言うわけにはいかないのでただ黙って目を瞑った。
好きにして構わないっていうことを態度であらわすつもりで。
花村は迷いに迷うカンジで躊躇して。俺に触れている掌が汗ばんできた。
俺は目を瞑ったまま動かない。
そうしたら。
ほんの少し掠めるだけというよりも風が触れたってくらいにさやかに。
花村の唇が俺のそれに重なった。
重なったんだけど、コンマ一秒もしないうちに離れた。
「こっ!ここまでっ!」
俺の頬を包んでいた掌も離れて。
「これ以上は駄目だっ!」
叫んで立ち上がって、脱兎のごとく俺から遠ざかって。
「……花村?」
目を開けてみたら、俺の部屋のドアの所にセミみたいに貼りついている花村がいて。
「や、やっぱこーゆーのは両想いじゃないと意味ねえっていうか、別にいいかなくらいじゃなくて俺のコト俺と同じように好きだとか思ってくれてないと駄目っていうか俺が望んでんのは身体だけじゃないっていうかでもそのこのままだと身体が暴走して止まらなくなるっつうか俺もほら若いから……っ!」
「花村?」
わたわたというカンジにものすごく焦っている。キスくらい構わないのに。別にセックスくらいしてもいいのに。……花村なら、とか思っている俺は盛大に肩透かしを食らわされた気分になっていた。
両想いじゃないとしないというのなら一生俺とお前がセックスなんてすることはないぞ。
言っておくが、俺はお前に俺の気持ちを言うつもりはない。
だってそうだろう?実は両想いですなんて言ったところでそんな言葉に意味はない。すぐに俺達は離れて暮らす。受験もある。大学生になって就職して、その先の未来ではきっとお前は俺の傍にはいない。
離れて、そして気持ちも疎遠になって。
いや……一生『相棒』かもしれないけど、俺の事そんなふうに呼んでくるやつは花村くらいしか居ないだろうけど。
でもきっと、恋愛感情なんて薄れてしまう。
近くにいて、お互い努力して、時間と心を積み重ねていって、そこまでしてようやく続くものだろう?
物理的に離れて、受験だの就職だのなんだのと、目先にたくさんのこなしていかなければいけないイベントがあって。
いつか、薄れる感情なら、俺はこんな気持ちは言いたくはない。
花村には伝えない。
俺も、お前が好きだよなんて。
絶対に。
だけど。
花村はそれまでの動揺を無理矢理抑えて、睨みつけるみたいに俺を見た。
「だから、その……。両想いになったら遠慮しないから、今日はここまでっ!」
怒鳴り声みたいにでっかい声で宣言するみたいに言った。
「……は?」
両想いになる日なんてないぞ?というか本当はもうとっくに両想いなんだろうけど俺はお前に俺の気持ちは言う気はないって……。
「鳴上が俺のこと特別に想ってくれてることはわかったけど、それが友情範囲なのかそれ以上なのかわからないって言って、でも今日限定でもなんでもこーゆーことしても構わないって言ってくれているってことはそれなりに俺は優遇されてると思うから、だから今後俺はお前を口説くことにするっ!」
「…………へ?」
優遇は、していると思うけどええと、花村は今なんて言った?
俺の耳が花村のセリフを拒否しているのかそれとも花村の言葉が意味不明なのかどうなのか、俺のこの優秀な頭脳が花村の言葉を理解できない。
「今じゃなくてもいいからそのうちでいいから。……俺のこと、ちゃんと好きになって欲しい。そしたら……今度は我慢とかしねーで押し倒すから」
本気で意味がわからない。
今じゃなければいつだよ。
俺達は物理的に離れるんだ。
そうしたらお前なんてあっさり別の誰かを好きになるだろう?
だから俺達には今しかないんだ。
だから俺は、今日限定で、今日一度きりって思って。
なのに。
「お前が菜々子ちゃん達に時間割きたいっていうのはよくわかるし、そうしているうち親元に帰るんだろうし。でも、そこで終わらねーだろ?」
終わる、だろ。少なくともここで一緒に過ごしていたこの一年のように親密な時間なんてなくなるだろう。
「俺ら来年受験生だからそりゃあ勉強とかもしないといけないだろうし、物理的に距離が開いちまうからそうそう一緒に遊べないだろうけどさ。せいぜいゴールデンウィークとか夏休みとか冬休みとかとか?来年一年間はそのくらいしか会えないかもだけど、その間はメールとか電話ばっかりになるだろうけど」
「……受験生の長期休暇を遊んで過ごす気だとは余裕だな花村。高校卒業したらそのままジュネスに就職する気か?」
「いや、俺は大学生になる気だし。そんでもってお前と同じ大学に行く」
俺と、同じ大学に、行く?
「はあ?」
どんだけ勉強する気だお前は。俺と同じ大学に行く?どこの学校に進学するのかなんて俺は全然決めていないぞ。それに俺とお前の偏差値、どれくらい開きがあるっていうんだよ。俺はお前のために偏差値低い学校なんて行く気はないぞ。どこにするのか決めてはいないけど、行ける範囲で一番上位の学校に進むだろうし。長期休暇なんて朝から晩まで勉強しても花村の成績は俺に追いつかないだろうし、遊んでいる暇なんて一秒たりともないんじゃないのか?
なんて言うのがありありと俺の顔には表れていたようで、花村も「えーと」と付け足してきた。
「同じ学校は……無理……、ならお前が進学する学校の、近所の大学に進むことにする」
「はあ……」
まあ、それなら可能かな。俺は親元から大学に通うことになるだろうし、あっちには通学可能なエリアにいくつも大学くらいあるだろうし。
「そんでもって何年かかっても俺はお前を口説くことにするからいつか口説かれて」
は?
「お前が好きっていう感情の分類が行き過ぎた友情なのか恋愛なのかわからないんならさ、いつか俺のこと好きになってくれる可能性もあるかもしれねーじゃん。だから、するのはそれから」
分からないっていうのは言い訳に過ぎなくて、好きですが。とか思ったけれど心の中にだけで抑えておくが、ええと……、だ。俺がお前に好きだと告白する未来なんか無いぞ。きっとない多分ない十中八九はない。
「両想いになるまでしつこく口説くから。じゃ、そーゆーことでっ!」
そーゆーことってそーゆーことだ、と俺は説明を求めたい。
求めたいんだが……、花村はさっさと俺に背中を向けてスーパーダッシュでバタバタと階段を下りていく。
俺はあっけにとられたまま、ただその花村の足音を聞いていた。
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