小説・2

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■ 第二章 その1 律と桐哉、出発前編 ■

「とーや隊長~、任務だってさー」
軍の宿舎に帰ってきたら、いきなりこれだ。
「……退役する退役する退役する。もう三ヶ月も兄貴に会って無い。辞める辞める辞める……」
しゃがみこんで膝を抱えて、壁に向かって桐哉隊長はぶつぶつぶつぶつぶつぶつ暗ーく独り言を言い続けてる。あーあ、また発作が出たか。
「辞めたいの?無理だよー。兵役義務、後三年くらい残ってるでしょー。隊長もおれたちも」
「りっちゃああああああぁん、そ-ゆーこと言うのやーめーてーっ!」
往生際悪いって言うかなんて言うか。桐哉隊長もおれと彰浩も、海にクラーケンなんて魔物が出た時に徴兵されたんだよね。まあ、元々有事には徴兵されるってそういう義務あったしこの国には。一般人で、単に徴兵されただけだったら魔物が消滅した時点でまあ軍なんて辞められたんだろうけどね。
……当時、彰浩が色々手を尽くしちゃったからなぁ。おれと彰浩の快適生活のために桐哉隊長は居たほうがいいってカンジに。そんでもって正式に軍隊に入っちゃったし。軍人は軍人でも下っ端ならよかったのにね。桐哉隊長それなりに有能って言うか、えーと、有能て言うのはなんかちょっと違うか。人間と人間の調整って言うか折衝っていうか、なんていうかコミュニケーション能力高いんだよね桐哉は。だもんで、それまで上手く行っていなかった人間関係円滑にするとか大得意で。しかも魔物退治とかまあそれ以外にも色々色々手柄立てちゃったんだよねうっかりと。それだけでも出世街道驀進出来そうなカンジなんだけどさ。
青の一族の血、引いてたんだって桐哉隊長ってば。
青の一族なんて希少価値なんだよね。レアだよレア。ま、隊長は川村さんのように青い髪でも青い目でもないけれど、それでも充分価値ありなんだよね。
あ、青の一族って言うのはむかーしに滅ぼされた一族の総称で、今は絶滅危惧種ってくらいなカンジなんだけどさ。
ドラゴンを、従えることのできる人たちだって言われてる。伝説とか昔話とか、そういうカンジで尾ひれがついてるのかなあとか思ったんだけどさ。
実際に、桐哉隊長にはルビーみたいに赤い色のドラゴンが、居る。
ドラゴンて基本的には人間大嫌いなんだよね。なのに何故か、青の一族には懐くらしい。どうしてなのかわからないけど、実際そうらしい。
川村さんにはブルーのドラゴンがついているし、桐哉隊長のお兄さんには黄色って言うか金色なのかなあ?ちょっとくすんだ金色だけどってカンジのドラゴンが懐いてる。
ドラゴンついててそれなりに有能な軍人さんになっちゃった桐哉隊長のコト、国が手放すわけないじゃないのさーってそんなこと、おれはわざわざ言いません。隊長のテンションこれ以上ダレるのごめんだし。
ちなみに他のお二人は軍人には向いてないので、国王様在中のお城なんかで保護されている。
保護って言うか、囲っているというかなんていうのかなあ?キープ?一応名目上はお城の下働きってことになっているらしいんだけど。
ドラゴン従えることのできる人たちだからね。
国王様としても在野に放りだしたままには出来なかったんだろう。
とりあえず、魔物が出た二年前に、イケニエにしたお詫びだとかで、環境安全給料優遇住宅保証のお城に住み込みで働きませんかなんてうまいこと言って、川村さんをお城に来させるの成功して。川村さんはこのお城の厨房で、料理なんかしています。もちろん国王様や貴族の皆さまが食べる食事なんてものは作ったりはしないけど、お城で働いている人たちの食堂でね、パン焼いたりおかず作ったりってことを川村さんはしているんだよね。それがすっごい美味しいんだ。素朴なんだけどあったかい味ってカンジで、城で働いてるみなさんから大好評。桐哉のお兄さんも同じようにお城に住み込みで働いているんだ。川村さんが「えーとね。お城で働くのはいーけど恭也さんと離れるの嫌だなあ……」とか言ったので、即座にお兄さんもゲット!……お城の人達ってぬかりないよね。ドラゴン従えることのできる人材あっという間に三人ゲットだよ!これで何があっても大丈夫なんて国王様ほっくほくらしい。ついでにいうと川村さんに会いに勇者様がホントしょっちゅう、というか頻度としては十日に一回くらい城に現れたりもするけどまあそれはまた別の話で。
ええと、こういうカンジだから桐哉隊長はさ、兵役義務終えてもお城の重職の方々が手放してくれるとは思えない。今は隊長だけど、もっと手柄とかたてて出世しちゃうほうにおれは一票なんだけどねー。まあ、それもいいや。おれと彰浩が快適に過ごせるならむしろ桐哉隊長にはどんどん出世してもらっちゃえ!あーっと、その辺は彰浩が考えてくれるだろうからとにかくまずは任務だよー。
「まあとりあえず、お兄さんにはすぐ会えるから機嫌直して、ね、隊長?」
じとーとした目でおれは隊長から睨まれた。
「すぐ会えるって言われてもう三ヶ月っ!いつんなったらホントに会えるんだよっ!」
「……今すぐに。だって任務だから」
「へ?」
「そろそろ師団長に呼び出されると思うよ桐哉隊長。彰浩が先に噂拾ってきたんだけど」
「フジ君が拾ってくる情報ってシンビョウセイあるんだよね……」
「うん、で、ね。川村さんを隣国の魔女の所に送らないといけないんだって。それの護衛に指名されてるのが、桐哉隊長」
桐哉隊長はいじけてしゃがみこんでいた身体を即座にしゃんとさせて、立ち上がった。
「ちょっと待ってりっちゃん。隣国の魔女って……」
「うん、詳しい話はあとで師団長からあると思う。だけど、川村さん、魔女にご指名受けちゃったんだって」
「それは……」
「桐哉のお兄さん、きっと『冗談じゃない行かせるかっ!』っていうふうに怒ると思うんだけど」
「そりゃあ……、ようやくあれから落ち着いて生活してるっていうところにまた川村に危険な目に会わせるなんて、」
「うん、だからきっと川村さんの送迎だけじゃなくて、お兄さんの説得とかも隊長の任務に入っちゃうんじゃないかなあ……?」
「兄貴に会えるのはいいけどいいけどいいけど……」
「……怒り狂って隊長に八つ当たりとかありそうだけど覚悟してね」
うわああああああ、と隊長は叫んで。せっかく立ち上がったっていうのにまたしゃがみ込んでしまったあーあ。


だけど結局。どうにかこうにか隊長はお兄さんを説得できたらしい。説得……なのかな?ええとお……。
「りっちゃん、フジ君。明朝ガルシニアに出発ってことだから準備よろしく。ええと、りっちゃんとフジ君とそれから食料とかその辺一人分追加で……」
「え、増やすの?一人?誰?」
「……川村だけじゃなくてオレの兄貴も同行することに……」
「え、おにーさんもいくの?一緒に?」
「そーなっちまって……」
「うわー……」
何がどうしてそうなったのかおれにはわからないけど、多分桐哉隊長、なんだかんだと隊長のお兄さんに言いくるめられたんだろうなあ。
「えっと、おれと彰浩と隊長三人で川村さん守るならともかく。お兄さんもっていうなら護衛の数とか増やす?」
「……それ、ちょっと考えどころ。数多けりゃいいってもんじゃないだろうしなあ」
「そーだね。でもおにいさん確か足悪かったんでしょう?何かあった時、川村さんとお兄さん守るのに、手が足りなくなるんじゃ……」
「だけど大所帯になれば動きも遅くなる。それに相手が樹海の魔女だろ?何かの時はれーちゃんとかぶーちゃんとかが助けに来てくれれば少人数なら逃げやすいとかさー……」
「ドラゴンの皆様あてに出来るの?」
ぶーちゃんとか、れーちゃんとかいうは川村さんとか隊長とかが仲の良いドラゴンだ。仲の良い……うーん、実に微妙な感じだなあ。ドラゴンは人間にはなつかない、というよりむしろ人間を嫌っている。魔導師なんかはドラゴンを使役しようとか頑張るけど、大抵返り討ちにされて食われてしまってサヨーナラー。だけど、なぜか、隊長たちはドラゴンに好かれているらしい。さすが青の一族の血筋、とか言っていいのだろーか?どーもなんかこう……ドラゴンの皆様の気分が向いたときにだけ勝手に会いに来る感が強いような……。ふらふら現れては、消える。そんな相手あてに出来るのかなー?
「ま、いざという時のお守り程度に……」
まあ、当てにせず、いたほうがいいよね。だけどそーだね。大勢いればいいってもんじゃないしねえ。
「カーランディア国内はともかく国境付近は厳しいなあ。樹海、近くなると魔物増えるしねえ。それの対応だけでも大変」
「あー、だから一応勇者サンの家のあたり通っていくルートで行こうかと思ってる。うまくいったら勇者サン同行してくれっかなとか」
「……川村さんが、樹海の魔女に招待されてとか知ったら怒り狂って魔女倒すかもよ?」
「それならそれでまあ万々歳なんだけどー。とりあえず機嫌あんまし損ねないように少人数のほうがいいかなーって。ほらあの勇者サン、基本的に人嫌いだから。だから、あんま大人数で勇者さんのところ通るわけにもさー」
「そうだねえ……」
ふうとため息をつく。この国の伝説の勇者と称される篠田省吾サンと言う人はまあものすんごい強大な魔力をお持ちでいらっしゃるんだけど、人嫌いで山奥なんかに引きこもっている。めったなことじゃ力なんか貸してくれそうもない。
だけど、川村さんのこととなれば別だ。
川村さんがお城で働き出してから、十日に一回くらいは城にやってくるらしい。それで、川村さん口説いているらしいんだけど……川村さんには通じないですごすご帰るらしい。うわさで、お城もちきりになって城で働く皆様なんてわくわくしながら勇者様の次回御来訪を待っているような感じらしい。……楽しそうでいいね、ホントそんなノーテンキでいいのかなこの国って。
「あ、ならさあ、隊長。勇者様が現れてから出発すれば?」
うんそのほうがいいじゃないのかな?川村さん守ってくれるだろうし、うまくいけば転移魔法で一瞬のうちにガルシニアに辿り着く。
「まあ、川村はともかくオレらをガルシニアに連れてってくれるとは限らねえし、それに勇者サン昨日現れたって話だから次来るのもうちっと先だと思うしなあ」
「あーじゃあ、川村さんの部屋にでも伝言残しておかないとねー」
「あー、その線でよろしくー。準備関係、りっちゃんとフジ君に任していいかな?オレはオレが不在時の采配、してこねえと……」
「そうだね、準備はおれと彰浩で。んー、やっぱ少人数で行ったほうがいいよね。馬、がいっか。隊長のお兄さんとか川村さんて馬に乗れる?」
「……無理だと思う」
「じゃあ馬は三頭だね。なるべく馬力のあるやつか使わせてもらおっと。おれと川村さん用と、おにーさんと彰浩用と、隊長と荷物用でいいよね?」
「どーしてその配分になるんだよりっちゃん?兄貴は俺が載せるー」
「だって隊長、お兄さん乗っけたら注意力散漫になるでしょう?それに魔物に遭遇した時どうすんのさ。彰浩とかおれなら魔道でサポートだから後方支援。だから守備対象者の保護はおれたち管轄。お兄さん馬に乗っけたまま魔物の群れとかに切り込むつもりなの隊長?」
「うっ!」
「そーゆーわけだからこれでよろしく!」
「はあ……、しっかたねえかあ……」
「そうそうラブいちゃは任務が済んでからのお楽しみってことにしておこーよー」
「ヘイヘイ、じゃあその路線で頑張りますかー」
そんなこんなでおれと彰浩は準備に取り掛かる。明日には出発。どうか無事にこの国に帰ってこれますように。



→その2 身体を張って説得編に続く



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