小説・2

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■ その2 身体を張って説得編① ■

「……どういうことか、一から十まできっちり説明してくれるか桐哉?」
実ににこやかに、兄貴は笑う。けど、目の奥が笑ってない。っていうかぶっちゃけ怖い。なんで待ちに待った逢瀬、じゃなかった三カ月以上ぶりに会う兄貴の顔がなんでこんなに怖いんだっつーの。まあ、仕方ねっていえば仕方ねえんだけどそのあのですねえ兄貴。もうちっとそのー、優しい顔してくんねかな?怖いっつうの、マジで。
「ええとー兄貴それはですね、」
ぼそぼそと、オレは兄貴に隣国・ガルシニアの魔女からカーランディア王国国王宛てに親書が届けられた経緯を話した。そんでもってその親書には先の魔物騒動で、イケニエにされた青の髪の男、つまりそれは川村を速やかにガルシニアにまで連れてきて欲しい旨が記載されていたのだ。
魔女の要請を断ればどうなるか、想像するだに恐ろしい。だから川村と親しいっていうかまあそういうカンジのオレに、川村を樹海の魔女のところまで送っていけという命令が下されたってわけで……。
「川村君を樹海の魔女のところに送り届けるってふーん、桐哉そんな任務引き受けたんだ?」
……言葉の端々から伝わってくる怒りっていうか不満ていうか不機嫌っていうかあああああ。兄貴怒ってる。マジ怒ってるっていうか怒り狂うそのエネルギーため込んでるつう感じで。
「……仕方ねえじゃん。どの道川村魔女ん所に連れて行かれるんならオレが同行したほうがイザなんか起こった時にあいつ連れて逃げることだって」
「……魔女のところなんか行かないで最初から逃げるっていう選択肢は?」
「……………この国出るくらいならするけど、それで逃げられるとか思わないし。魔力強大しかも不老不死っていう噂の大魔女様でいらっしゃいますんですよ?」
「で、連れていくんか?」
「しっかたねえだろおおおおおおっ!」
「へー。俺の可愛い子、連れて危険なところに行くっつうわけね。へーそう、そーゆーこと、俺に黙ってするつもりだったんだ。へー」
「……黙ってって……、今俺兄貴に説明しに来てんじゃん!」
「川村君が魔女のところに送り届けられるなんて話、もうとっくの昔に城の中で噂になってる。なー桐哉。その命令下されたの一体いつだよ。一番最初に俺のところに言いに来てしかるべきじゃねえの?」
……川村送り届けろって命令受けたのもついさっきだよなんて嘘、兄貴には通用しないよなあうーうーうー。まあ、命令受けてすぐに兄貴に説明しに来なかったのは事実だけどそうなんだけど……。オレ、ぎりぎりまでこのコト兄貴に言いたくなかったんだよなあ。
「……だからちゃんと今!兄貴に事情説明しに来たじゃんかよ。その顔やめてよ兄貴めっちゃ怖い」
「俺は元々こーゆー顔だけど?」
「目つきが怖いんだってーの。怒ってんだろ兄貴、なあ、そーだろ?」
「わかってんなら俺の言いたいこともわかるよな、桐哉?」
……わかるから、ぎりぎりのギリまで説明しにこなかったんですともさ。
「わかるけど駄目」
「なんで」
「連れてかないよ兄貴は」
そう、これが問題。国王命令に逆らえるなんて兄貴だって思っちゃいない。逃げるなんてさっき言ったけど、樹海の魔女から逃げられるなんてのも本気では思ってもないだろう。ただでさえ、兄貴は足が悪い。怪我してからもう何年も経ってるっていうのに未だに足を引きずって歩く。そんな兄貴が川村連れて逃げるなんて不可能だ。だけど兄貴は川村のことを目に入れても痛くないっつうくらいには可愛がっている。
魔女なんて相手におとなしく会わせないといけないなんて業腹だろう。
だけど。
オレも兄貴も普通の人間。
国家権力にも魔女にも逆らえる力はない。……オレはそうだなあ、多少なりとも剣は使えるけどそれだけ。魔物とか倒すくらいの腕はあるけどホントそれだけしか出来ない。何故か隊長なんて地位得ちまっているのは部下の皆様が優秀だからだとオレは思ってる。つうか早く軍辞めたいんだけど、兵役あとまだまだ残ってるし、脱走兵とかになったら兄貴にも迷惑かかるだろ?でもって、軍に居続けるなら上官命令には従わねえとなあってさあ。これは建前。
川村を、任務で魔女のところに連れていくのはいい。何があっても、兄貴を泣かさないようにってちゃんと川村を守ることくらいできる。
だけど。
「どーして」
「魔女んところ行くには樹海通っていくんだよ魔物わんさか出てくるし」
オレは、兄貴だけは危険な目に合わせたくねえの!ただでさえ、前にシーディアスって国がオレらの国に攻め込んできたときに足怪悪くしちまったんだよ?一筋の傷だってつけさせたくない。兄貴には安全なところに居て欲しいんだよ。
「そんなところに川村君連れて行くくせに俺はだめなんだ?」
「危険なんだよ兄貴にだってわかってんだろ?なんかあったらどーすんだよ」
「桐哉が守ればいーじゃねえか。俺も、川村君も」
「あーのーねえ兄貴っ!」
「なんか文句あるのか桐哉?」
「そりゃあ守るよ守りますけど俺はねえ、自分と後もう一人くらいしか守る力量ないんだよ。だから、川村はちゃんと守るから兄貴はおとなしくお留守番してて!!」
「本気出してオレと川村君二人とも守ればいいだろ?一応お前隊長だって言うんだから使える部下の一人や二人くらいいるだろ?桐哉一人で俺と川村君の二人とも守れなんて理不尽なことは言わないけど、さ。えーと、あの女の子みたいに可愛い子とか影の薄い青年とかいたじゃねえかオマエの部下に」
「……りっちゃんとフジ君?もちろん同行してもらうけどね二人には」
「じゃあ問題ねえだろ?俺も行く」
「駄目ったらだめっ!」
「へー……」
兄貴の目が思いっきり剣呑な光を帯びだ。な、なんだ?
「じゃあ、俺も言うけど。川村君になんかあったり俺連れて行かねえっつうんなら一生ゼッコウしてやる」
「絶交って兄貴。子供の喧嘩じゃないんだからさー」
あーびっくりした。目がすげえ切れ味の鋭いナイフみたいに光ったから何言われるかと思ったけど。俺はちょっと気を抜いてあははははとか笑った。
絶交ってさ、そんな言葉使うの子供じゃんか。そんなの言われてもべっつに平気。すぐに仲直りするだろーってカンジじゃねえ?ガキの頃のオレと川村、口喧嘩とかした時によくその言葉使ったよなあ。川村が「恭也さんに抱きついたらだめっ!そんなことしたら桐哉とは絶交するからね!」とかさー、よく言いまくってたもんなー。でも結局兄貴におやつもらって二人しておいしーとか言って機嫌直してんの。ガキってホント単純だよなー。あー、なんかなっつかしー。
だけど。
肩の力抜いて笑うオレを、兄貴は嘲るように「ふふん」と嗤った。
「子供じゃないし、大人ですから。……今後いっさい死ぬまで一生桐哉に指一本触れさせねえから覚えとけ」
指一本触れさせないのその内容を俺は実によく理解出来てぐっと詰まった。
「あーにーきいいいいいいいっ!」
抱きつこうとしたら、さっと避けられた。
「触るな」
「ちょ、マジで?」
「本気。俺を置き去りにして川村君だけ魔女のところに連れて行ってみやがれ。帰ってきたときにはどっかの誰かを嫁にもらってごろごろごろごろ子供作ってやる」
「う、うわきはやめてーーーーーーーーーーっ!」
じょうだんじゃ、ねえっ!そりゃ兄貴の子どもとかだったらすんげえ可愛いのが出来るだろうけど。兄貴がどっかの女に子供産ませる行為するのは論外だってえのっ!あああ兄貴はオレのだあああああああああああっ!
兄貴がどっかの女抱いてる光景想像しちまってオレは蒼白になった。うわあ、吐きそうなくらいマジで嫌!気が狂うぞマジでええええっ!
「浮気?冗談じゃねえ、本気だ。本気で桐哉なんか捨ててやる」
兄貴は表情一つ動かさないで、断言を、した。
しかも、兄貴はいきなり上着脱いで。シャツも肌蹴たりなんかして。え、えっとな、なに?
「女の人だと悪いかー、じゃあテキトウな男でいいかなー?この俺の身体、桐哉以外の誰かに相手てしてもらおっかな。丁度ここん所禁欲生活三ヶ月くらいしてるし俺だってちょっとばかし溜まってるし」
そのシャツも、ハラリ、と音を立て床に落ちて。
「なー、桐哉?オマエ、それで構わねえよなあああああ?」
じょうっだんじゃ、ねえええええええええええええええええっ!
「構うにきまってんだろっ!なんだよその脅しっ!」
「脅し?本気だって言ってんだろ?」
するりと、兄貴は両手をオレの頬にあてて、それで俺をぐいと、引き寄せた。
「俺を、置いて行ってみろ。即座にどっかの誰かとするからな」
唇が、触れるくらいの近さから、恐ろしい程の静かさで、告げられた。
「兄貴……」
「置いてかれるくらいなら、お前のこと忘れたほうがマシ」
オレの頬に触れてる兄貴の指が、震えていた。アレっと思ってオレは兄貴の目を覗きこむ。怒ってる、と思ってたし、実際に兄貴は怒りまくってるんだろうけどだけど。
泣きそうな、瞳。
「……なんでそんな辛そうっつうか悲しげな顔してんの?」
そうだ、これ、兄貴の泣く直前の、顔。
この顔、オレは見たことがある。
子供の時、オレが剣の修行とかし始めた時、大怪我して高熱出したとか。
オレ達の両親が死んじまった時とか。
……二年前、魔物が出てそんでオレが徴兵された時とか。
「兄貴?……泣きそうになってっけど、」
なんでこんな顔してるんだろう。わからなくて、オレは兄貴をただただ見つめて。
そしたら、ほろりと。兄貴の目から涙がこぼれた。
「あ、兄貴……?」
涙を流した顔をオレに見せたくないのか、兄貴はオレの頬から手を離して。顔も、逸らしちまった。
「……桐哉が、徴兵されて。オレと川村君が二人で残されて」
呟く声も震えてる。
「川村君がイケニエにされて連れていかれて。俺だけが一人で家に取り残されて」
二年前くらいの話。勇者サンのおかげで川村は助かったけど。下手したら川村は魔物に喰われたり、オレだって死んじまってたのかもしれない。むしろ助かって今こうして生きているほうが奇跡だろって思う時もある。まあ、無事で、兄貴も川村も城で働き出して、安全保障されてっからまあいっか、とか俺は思うんだけど。結果オーライってやつで。
「一人で、何も出来なくて。無事を祈るしかなくて。でも祈っても川村君が無事で生きて帰る可能性なんてなくて」
何せ生贄だもんな。魔物に喰われる。そのために、差し出される。祈っても無駄だよな、本来なら。
「出来ること、なくてただひたすら待ってるだけしか出来ない。それ、どのくらい辛いのかオマエにわかるか?」
ぱたぱたと、落ちる涙。
「……だから兄貴、あの時勇者サン探しに行ったんか?」
「何にも出来ねえって泣いてるだけじゃ意味ねえだろっ!」
叫び声。泣きながら兄貴が俺に向かって叫んでる。
「足が、動かない?何も出来ることがない?それなんだよっ!俺一人安全な場所に居て、桐哉と川村君危険な場所に向かわせて、それでいいとか思えるわけねえだろっ!」
「兄貴……」
こういう兄貴だから、きっと。オレも川村も兄貴のことが好きなんだ。
オレは手を伸ばして兄貴の震える肩を抱き寄せた。




→その3 身体を張って説得編②に続く


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