小説・2

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■第二章その3 身体を張って説得編②■

「ごめんな、兄貴」
肩口に額を当てるようにして泣いてる兄貴をそっと抱き締める。ごめんな、泣かせて。
「でもオレも川村も、兄貴さえ無事ならそれでいーって思っちまうんだよ」
危険な目に、合わせたくなくて。兄貴だけは安全なところに居て欲しいって。
「それくらい、オレも川村も兄貴のこと好きなんだ」
好きで好きで仕方がない。
身勝手なエゴかもしれないとわかっていながらもどうしても欲してしまう。
震える身体を強く抱きしめて、それから身体を少しだけ離して兄貴の目元にキスをする。涙の、味。
「なあ、頼むから……、」
待っててくれ、という言葉を言いかけてる時、兄貴にオレは突き飛ばされた。
「ちょ……、兄貴?」
壁に打ち付けられた背中が痛む。けどそんなの気にしてる余裕なんかなかった。身体ごと腕を引っ張られて、そんでもって床に転がされた。
「ここまで言ってもそういうこと言うかオマエはっ!」
仰向けに寝転がったオレの身体の上に兄貴が跨ってきた。
「なんでわかんねえんだよっ!俺だって同じだってっ!桐哉と川村君が危ない目にあうくらいなら俺がそうなったほうがマシなんだよっ!」
涙が、ぼたぼたと降ってくる。
「俺一人だけ安全な場所に置いていかれるなんて冗談じゃねえって何回繰り返せばわかるんだよお前にっ!」
「兄貴……」
「置いて……いくんじゃねえよ。一人で残されるくらいなら……」
手を伸ばして兄貴を抱き寄せる。ごめんな泣かせて。泣き顔なんてさせたくないのにな。
「浮気はやめて。頼むからそれだけは」
どっかの誰かに兄貴取られるなんて冗談じゃない。百歩譲りたくないけど譲って、兄貴がどっかの誰かをホントに好きになってそんでオレが捨てられるのなら嫌だけどマジでいやだけど仕方ないけど、置いて行かれたあてつけに身体どうこうするなんて、こっちこそ冗談じゃない。
そんなことしたら兄貴が傷つくだけだ。そんなことしてオレを忘れる、じゃないだろ?そんなことしたら兄貴のことだからオレの前に姿現すことなんかできないとかそっちだろ?傷がつく。兄貴の身体にも心にも。
「だったら俺も連れてけよ。俺にだって出来ることくらいあるんだから」
足がうまく動かなくても。前の時だって兄貴は勇者サンのところ行って勇者サン引きずり出してきたりして。
そういうこと、するんだよな。あーあ、大人しく待っててなんてくんねえんだよな兄貴は。
「大人しくオレと川村の帰りなんて待っていてくんねーよな兄貴は」
はあ、とため息ついちまうけど。
「そーだよわかってんだろ?置いてかれても勝手に俺一人で追いかけてやる」
「……兄貴一人で危ないところ行かねえでよ」
樹海の魔女のところに行くには樹海通らないといけねえんですよ?魔物、わんさか出るところですよ?足の悪い兄貴、一人でってそんなの死にに行くようなもんじゃんか。
「だったら連れてけ。俺を、一緒に」
床に転がってるオレの襟首を兄貴は両手で掴んで、ぐいとオレを自分のほうに引きあげる。オレの目睨みつけて、でも「置いていくな」って声は震えてる。
泣き顔なんてして欲しくないのにな。
オレはふっと肩の力を抜いた。
兄貴を、泣かさないようにするためにオレが出来ること。
考えた。
考えなくても答えなんてひとつだけど。
兄貴と川村連れて、魔女のところに行って無事に帰ってくる。それだけ。
単純かつ難しい話。りっちゃんとフジ君に助けてもらってそれだけだと多分力足りない。勇者サン、引きずりだせるかなどーかな?引きずり出せたところで勇者サン、魔女に勝てんのかな?何百年か何千年か知らないけど生きてる不老不死の魔女だし。そもそもなんでそんな魔女が川村を呼び付けたのかその目的だってわかってない。行ってみて、あとは出たとこ勝負な感があるってーのにな。
でも兄貴を置いて出発したところでこの分だとホントに本気で足引きずりながらでもオレ達のこと追いかけてくるんだろうなあ。
頑固だし。
川村のコト大事にしてっし。
……あーあ。オレがもっと強くて余裕で兄貴も川村も守れるくらいだったらよかったんだけど、な。兄貴泣かせないで済むくらいの力があったらよかったのに。例えば勇者サンみたいに、あっさりイケニエたっだ川村救っちまったくらいに。
でもオレはフツーでフツーの人間です。りっちゃんみたいな回復魔法もフジ君みたいな攻撃魔法も何一つ。持っていない。
この手、だけが、すべて。
オレの手で、兄貴も川村も守れるくらいの力は無いから。
だから、川村はしかたねえとしても兄貴には安全なところで待っていて欲しかった。
だけど、それじゃ兄貴をこんなふうに泣かせたままになっちまうわけだしな。
泣かせたくないし、守りたいとか思ってんのに。力不足が情けないんだよ。
かといって一夜にしてオレがめっちゃめちゃ強くなれるかって言ったらそんな奇跡は起こらない。だから、しかたがない。ため息をつくけど、それでもそっと兄貴の身体を抱きしめる。
「……いーよ。連れてく」
「ホントか……?」
「しかたねっしょ。兄貴頑固だし。……オレの命に代えても兄貴と川村守るから。だから兄貴は無茶しないで大人しくついてきて」
オレ的に、ものすごい譲歩。
だっつーのに。
そう言ったら思いっきり兄貴に殴られた。痛い。
「馬鹿桐哉っ!」
一発じゃ、収まりきらなかったらしい、兄貴はまた拳を握って振り上げる。
「オマエが無茶して死んだりしたら、川村君連れて後追うからなっ!」
「兄貴、それじゃ意味ねえじゃん」
「意味、なんてないよっ!オレも川村君も桐哉も三人とも無事じゃないと意味ないんだよ馬鹿っ!」
また馬鹿って言われた……。そりゃオレは馬鹿ですけど、そんなにぼかぼか後頭部殴られたらもっと馬鹿になるっしょ?
「あーもう、殴んのやめてよ兄貴。オレがこれ以上馬鹿になるのはともかく兄貴の手が痛い」
諦めたみたいに肩をすくめてそう言ったら、兄貴の手がピタッと止まった。そんで殴る代わりにオレの背中にギュッと抱きつく。だからオレも、安心して兄貴を柔らかく抱きしめ続けた。

「……うん、わかったよ。兄貴と川村連れて魔女さんの所行って、三人とも無事で帰ってくればいいんだよね」
しばらく兄貴の感触を堪能した後、オレは仕方なしにって感じにこう言った。
「そー言ってるんだよ俺は初めからっ!」
「うん……」
すっごく難しいけど、仕方がない。惚れた弱みですから何でも叶えるよ。
「了解。兄貴の言うことならオレなんでも叶えるって言えないかもしれないけど叶えるように頑張るから」
力不足は否めないけどね。兄貴を泣かせたくないから。
「あのな桐哉。オレにだって出来ることあるんだから、一方的に守るだけじゃなくていいから何でも言え。何でもしてやるから」
「なんでもって……」
「自分の身を守るくらい俺でも出来んだよ!」
「そーかも、だけど……」
いやあのその。兄貴はね、魔物に襲われても自分の身くらい自分で守るって言いたいんでしょうけどねあのそのええと、だ。
半裸で、身体密着して。なんでもしてやるとか言われちゃうとですね、ええとー、その。
「かもじゃなくてそーなんだよ」
う、ううううう。いやその。兄貴は足悪いクセに勇者サン引きずり出して貴重くらい根性とか行動力あるの知ってますはい知ってますだけどそういう意味じゃなくてだそのーあのーええと、あああああ。密着してるとですね、あー兄貴ってばいい匂いーとかほっそい腰とか抱きしめてるとこうなんていうのあのそのオレも男ですから。むらむらとですね、してきちまうんですけどあーにーきー。
こ、ここで兄貴にキスとかして押し倒したりしたらどうかな。お、怒られはしないと思うけど、どうかなあーもうちくしょ。我慢きかねえっていうのっ!何せ兄貴をこんなふうに抱きしめるのって三カ月ぶりっ!禁欲生活三カ月っ!う、ううううううううううああああああああ耐えろオレっ!
無言で悶えてたら「桐哉?」って兄貴が訝しげにオレの名前呼んで、そんでもってオレの目とか覗き込んでくるから。
我慢限界。
限界限界もう限界。
おどろかせないように、そっとだけど兄貴の唇に触れる。あー、やーらかい。気持ちいい。……じゃなくてっ!やばいまずい。理性理性理性っ!止まれオレっ!ここでなだれ込んだらなし崩しっ!!
「兄貴からしてくれたら元気出ます」
なんて冗談っぽく誤魔化そうとしてみたんだけど。
「へー、キスだけでいいのかよ?」
……って、兄貴兄貴兄貴兄貴っ!なんですかそれ何のサービスですか兄貴いいいい。オレ床に押し倒して、そのオレの体にまたがるみたいに乗っかって。あ、あのそのええとそのうわあああああ。
も、止まんないですごめんなさいっ!
思い切りもう、三ヶ月間の禁欲生活解消する勢いに加えてこれから魔女さんのところに行かないといけないならその期間分兄貴といちゃつくわけにはいかねえからとか思ってその分プラスアルファ。加えて兄貴が積極的でもう。
理性なんて裸足で逃げ出しましたサヨーナラ。
めくるめく情熱の世界へようこそってああああもう嬉しいけど幸せだけどああもうたまんねえってえのっ!
気がついたら夜が明けてて。
満足げな兄貴がにっこりと。
「じゃ、とーや。そーゆーコトで」
なんて言ってさっさと帰っていったりして。

……えーとあのその。これはアレかな?兄貴捨て身の色仕掛けで、兄貴が無理矢理要求通したって感じ?
兄貴連れて行くことになったし。
三人で無事に帰ってくるって約束させられたし。
兄貴には大人しく留守番して欲しかったってーのにえーと。ま、いーんだけど。
……いい、んだよな?
うん、兄貴守って川村守ってそれで無事に帰って来られればオーケイオーライ。
色っぽい兄貴も堪能できたしで出来るやれる頑張れる守ってみせます二人ともってあれ?
結局なんだかんだで兄貴に押されて承諾させられたんじゃ……?
だけど。
なんか納得って言っていいのかどうかわからないけどなんかめちゃめちゃ役得とか運がいいとか兄貴色っぽかったなあ積極的でもう……とか反芻するだけで悶絶とか……そんなこと思ってるオレはやっぱ馬鹿だなあ。
馬鹿だけど。
ま、いいか。



第二章その4 出発編に続く。



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