小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
■ 第一章 その1 勇者三十路(篠田省吾)とイケニエ(川村優太)の出会い編 ■


不覚。コイツと出会ったことでオレの人生はきっと変わった。……まあ、いっか。

オレが水汲み場に使ってる川のところ、と言ってもオレが自分で水汲みなんざしたことねえが、そんなもんオレの使い魔にやらせてるんだがまあそれはどーでもいい。その川ん所に見なれねえガキが一匹。すげえ薄着っていうか布一枚だけ羽織ってる。珍しい青い髪の、多分16か17歳くらいの男のガキが、さっきからずっと「うひゃあ、冷たいいいい」とか「ううううううう、無理かもー」とか言いながら川の水に手を伸ばしては引っ込めるを繰り返している。ま、どうでもいいんだがそんなもの。だが、な。そいつはさっきがらずっと、飽きもせずにそんな馬鹿げた動作を繰り返している。気になりはしねえが鬱陶しい。
「うー、無理、かなあ。水冷たすぎー」
同じような言葉ばっかり繰り返していやがるその声がオレの寝床の洞窟ん所に響いてきやがる。……いつまでも繰り返して居やがるくらいならいっそオレが蹴り倒してやったほうが親切だろう。そんなコト思って呪文を唱える。ま、いわゆる転移魔法ってヤツだ。オレは一瞬で、寝床からソイツの背後に移動する。
「おい、オマエ」
とりあえず蹴倒す前の礼儀として、声くらいはかけてやったら「うひゃ?」とか変な叫び声あげながら飛びあがって。
……で、ソイツは勝手に川めがけてコケやがった。
「つ、つめたあああああああいいいいいいいいいっ!」
盛大に水しぶきがあがる。そーだろうなあ、ソレ雪解け水が流れて来てんだぜ冷てえよな?ま、それもどーでもいい。勝手にこけやがったんだから自業自得だろう。
「……何やってんだオマエ」
助けてやる気はないが一応声はかけてやる。
「ええっとおれねえ、王様の命令で、ここの川の所の水で禊しなさいーって言われててー」
「……禊?」
「うん、そー。おれねえ、イケニエっていうのに選ばれたんだー」
「はあ?」
「ほら、今ねえ、海のほうになんか知らないけどすごい気持ち悪い魔物とか出てるでしょ?」
「あー」
そういえばちっと前に国王の使いが来てたな。魔物討伐してくれとか何とか。メンドクセエから断ったが。オレの住んでるこの山奥までソイツがやってくるって言うなら倒すのもやぶさかではねえんだが、海側ならオレの生活圏内とは無関係。どーでもいいって断ったあれか?
「おれがねえイケニエになってー、そんでその魔物の所に行けばねー、その魔物からこの国助かるとか預言者の人が言ったんだってー」
口調はへらへらしてやがるが身体はすげえ震えてる。あー、寒いんだな?川の水に浸かったままなら身体冷えるだろう?すげえ勢いで唇とか紫色に変わって切れるんだけどオマエ。いーのか?へらへら答えてきやがるが。
「だからねー、こうやってねえ、魔物の生贄になる前に禊して身を清めなきゃいけないんだけどねえ。んーんと、寒い、なあ……」
くっしゅんとかくしゃみ盛大にしてっけど?
「寒いんならそっからあがってくればいいだろ?」
髪も服も水浸し。しかも今日は風も結構冷たいんじゃねえの?いつまでもそんなところに居たら禊どころか凍死するぜ?えーと、溺死か?まあ、コイツが死んだところで死体は川の流れに沿って下流に流されるかどっかの獣のエサになるか。オレの手を煩わせないんなら何でもいっか。
「んー、えっと、禊ってどのくらいお水につかってればいいのかなあ……」
めちゃめちゃがたがた震えてるっつーのにやっぱ馬鹿みたいにのんびりした口調で。なんなんだコイツ、本気で単なる馬鹿なのか?
「もーいいんじゃねえか?上がれば?」
顔は可愛いカンジなんだけど脳ミソ阿呆か、なんて可哀想なヤツ。
「そー、だねえ。うん、上がりたいんだけどね」
「あ?」
「身体冷えきっちゃって動かないよー、どーしたらいーのかなあ……?」
冗談抜きで、ホントの馬鹿だ。
メンドクセエけど仕方がねえ。
オレは人差し指をソイツに向ける。ひょいと、ソイツの身体を持ち上げて、岸辺に降ろしてやる。
「うわあ、魔法……?」
驚いたような顔してるけど。魔法なんてもん見たの初めてか?そんなに珍しいもんじゃねえと思うけど。
「あ、えーともしかしてオニイサンってあのゆーしゃさま?」
……オレは勇者なんて名で呼ばれてる。だけど、な。そんなもののオレが自分からなった覚えなんざない。オレの生活圏内を勝手に通る奴らを殲滅してやったら、それがたまたま偶然に、この国を滅ぼそうと攻め込んできた隣国の軍隊だったり。爬虫類っぽい魔物だったりしただけだ。別に誰かだの国だの助けるのなんざ義務も義理もねえ。なのに国王のヤロウが「今度も助けてくれ」だのなんだの抜かしやがって。何だよ、コイツも国王の手先かよ。あー、関わんなきゃよかった。
「もうご病気いいんですか?よくなったの?」
「へ?」
病気って何だ?誰が病気だ?
「今まで三回もこの国救ってくれたえーきょーで魔力とか無くなったりお身体とかすごい怪我おったりして、それで今度の海側の魔物は勇者様が助けてくれないから、みんなで力を合わせて倒さないといけないって言って今ねぇ、みんながんばって戦ってるんだよー。おれが世話になってる人の弟、桐哉っていうんだけど、その桐哉もねえ、魔物退治に行っちゃって帰ってこないんだー。生きてるのかなあって、ええと、恭也さんすっごい悲しい顔しててー」
は?なんだコイツ何言ってやがるんだ?
「あ、でもおれがイケニエになったら桐哉の馬鹿も帰ってくるから恭也さん笑えるよーになってくれるかなあ。あ、そーだ。禊しなきゃー」
一人で勝手に喋ってなんか知らねえけど一人で納得してまた、水に手を伸ばして居やがるが。
えーと、なんだコイツ。
オレにその魔物倒せとか言うために来たんじゃねえのか?
イケニエって、生贄なんだろ?
つーことはコイツ一人犠牲になって魔物に捧げるってことだろ?わかってんのかコイツ。
「オマエさあ、イケニエって言葉の意味知ってんのか?」
「えー、そのくらいしってるよー。おれがねえ魔物に食われてー、そんでみんな助かるんだよね」
「……わかってて引き受けたんか?」
「んー?みんな助かるとかそーゆーのどうでもいいけど」
「あ?」
「でもおれがイケニエになればさあ、桐哉ちゃんと無事に帰ってきてそれで恭也さんが安心するからね。おれ、恭也さんが笑ってくれればそれで何でもいーんだ」
へらっと笑って。ソイツは今度はゆっくりと川に入る。
祈るみたいに空を見上げて。
「恭也さんが、哀しい顔してんの、おれ、嫌なんだ……」
ぼそっと呟いて。
泣いてるみたいな笑顔になった。

それがオレとユウとか言う馬鹿との出会いだった。


寒いだの水が冷たいだの言いながら、そのユウは律儀に禊っつうか水浴びなんざしやがった挙句、熱を出しやがった。
「んー、頭がぐるんぐるんするよー」
そういいながらも足の先を川の水につけようとするユウの馬鹿の首根っこひっつかむ。無理矢理首根っこひっつかんで、連行っつうか誘拐っつうか連れ込みか?まあ何でもいいかユウのヤツ、ほっぽっておいたら絶対に次の日には水死体かなんかが出来上がるはずだ。だから、仕方なく、そうだ、仕方無くだっ!オレはユウをオレのねぐらに引っ張り込んだ。……別になんかするつもりはねえぞ?言っておくが、即効ユウのヤツは高熱なんか出しやがった。
うんうん言いながら今まさにオレの目の前でくたばっている。
なんだコイツっていうかなんだこのわけわからん生き物は。
イケニエに、なる。
だから禊をしなきゃいけねえ。
まぁ、それは自由だ。したきゃ水浴びでも何でもしやがれ。
だが、言っておくがっ!
そーゆー覚悟決めてるんなら、あっさり熱出して倒れるんじゃねえよっ!
あー、チクショウ。なんでオレが看病なんかしてるんだ。放り出して蹴飛ばして捨ておけばいいじゃねえか!
あー、チクショウ。なんでオレがメシだの薬湯だのせっせと作ったやってんだ。
「あー、ありがとうございます、ゆーしゃさま……」
熱で、ぜいぜい言いながらそれでもユウは、焦点の合わない目でにぱっと笑う。潤んだ目とかいうのかこれは。
ちょっとまて。今一瞬跳ねやがったオレの心臓が意味不明だ。
ちっと可愛いとか思ってねえからな。
あー……。
「勇者とか呼ぶな、オレには省吾っつう名前がある」
「勇者様、省吾サンっていうんだー」
「ああ……」
何故だかユウは少し嬉しげな顔になった。
「ま、いっからオマエ寝とけよな。オマエが寝たらちっとばかし薬草採りに行ってくっから」
そう言ったらユウは少しだけ悲しげな顔になった。
「あの、さ。省吾、サン……」
「ん?なんだユウ」
「……おれが起きるまで傍に居てくんないかなあ」
「あ?薬草採ってこねえとオマエに飲ませる薬ができねえんだが?」
「うー……。起きた時、ひとりなのなんとなく、サミシイから……」
オレの服の裾を、掴んで。寂しげに、笑う。
「あ、ワガママ言ってごめんなさい」
そうしてぎゅっと掴んできたオレの服の裾も離して、ユウは俺に背を向けた。

結局オレは、薬草採りに出かけることはしなかった。ずっとコイツの寝顔見てた。
薬草は、使い魔飛ばして採りに行かせた。……そんでもってアイツら絶対にどの薬草採ってくるのかを間違いやがるからメンドクセエっ!なんでマンドラゴラなんてひっこ抜いてくんだ。あー……。解熱剤になるような薬草が、皆無だ。毒薬だの媚薬だのの材料しかねえ。……使えるもんは乾燥させて取っておくか。そのうち何かに使えるかわかんねえし。んー、だけど今はなあ。薬になるもん……。あー。何度か使い魔飛ばしてそんでもって日が暮れる頃ようやくまともな薬草を持って帰ってきやがった。……微妙に疲れる。疲れるが、作る。苦しそうなユウの寝息。早いところメシと薬飲ませてやらねえと。
「ん……」
「あ?起きたんか?」
ユウが小さく何か言ったから起きたのかと思ったら身体丸めて震えてるだけで起きはしなかった。……きっとこれは寒いんだな。火に薪をくべてみたけど震えは止まらねえ。起きたらメシ食わせて薬飲ませて……と思っていたんだがヤバいかもしれない。
とりあえずオレは速攻薬作ってそれを寝ているユウの口に含む。まあ、あれだ。……いわゆる口うつしで。
……他意はねえぞ他意は。寝てるんだからこれしか方法なんか無いだろう。……って何言い訳してんだオレは。
あー……。



→ 第一章その2 ドラゴンぶーちゃん登場編へワープ!
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。