小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
最初に「それ」に気が付いたのはアルフォンスだった。
「に、兄さん……」
震える指で、アルフォンスはエドワードの背後を指さした。
「へ?」
エドワードは自信の背後を振り返った。
『おや……?』
エドワードの背後の「それ」は、まさに今気が付きましたとばかりにエドワードとアルフォンスを見下ろした。そして、
『やあ、鋼の、アルフォンス。実に久しぶりだな』
などと、まるで自身の執務室に二人を迎えた時のようにのんびりと告げる。
「な、な、な、な、なんだあああああああこりゃあああああああああああっ!」
叫んだのはエドワードだった。
「に、ににににいいさああああんっ!兄さんにもコレ、見えるってことは……幻覚でも幻でもないってことだよねっ!そうだよねっ!ってことはどういうことなのコレっ!」
驚愕のあまり、あたふたとアルフォンスの両腕が動く。
エドワードは思わずというか咄嗟に、自身の鋼の腕をナイフに錬成して、「それ」に向かって切りつけた。
すか……っ、と。
音などはしなかったが、ただ単に、空を切る音だけが空しく響いた。
『いきなり切りつけてくるとはひどいな鋼の』
悠然と、「それ」は答える。エドワードは愕然とした。
「き、切れねえ……?」
「ていうか……ソレ、なに……」
それが何かと問われれば。
「……何って……、どう見てもこれ、大佐……」と、反射的にエドワードは答えた。が、自分の見ているものがまったくもって信じられなかった。
エドワードの背後に浮かんでいる「それ」は。
見慣れた軍服。見慣れた笑顔。見慣れた黒髪。
どこからどう見ても、ロイ・マスタング以外にはありえないのであった。
「大佐なのはわかるけど、どう見ても大佐だけど、なんでどうして兄さんの背後っていうか空中に浮いてて、しかも半透明で、切りつけても切れないのさっ!」
そんなのオレのほうが知りたいくらいだわかるかそんなもんっ!とエドワードは心の中で叫んだが、それは音声にはならなかった。
なぜなら。
『おや?これはもしや……?』
などとロイが言葉を発したのだ。
もしや大佐本人なら何か知っているのか……と、固唾を呑んでエドワードのアルフォンスもロイの次の言葉を待った。
『ふむ……待て鋼の、少々検討しよう。浮いている……のか、私は。切りつけられても切れはしない……と、すると……』
顎に手を当てて、ロイは長考する。
「と、するとなんだよ大佐っ!なんでアンタ、ユーレイみたいにオレの背後に浮いてるんだよっ!」
さっさと言えとばかりに怒鳴るエドワード。
そして、納得したかのようにロイは一つ頷いた。
『それだ鋼の』
「それってどれだよっ!」
『今君が言ったではないか。私は幽霊ということなのかもしれん。とすると、この私は死んだのか……?』
どこか他人事のように首をかしげるロイ・マスタングを、二人はただただ愕然として見上げるしかできなかった。

「し、ししししししんだって大佐……」
何を冗談ぬかしやがる、と突っ込みを入れたくとも入れられなかった。
半透明で、空中に浮いて、触れることもできない。
ユーレイ以外の何物にも見えない。
いやいやいやいや、錬金術師たる者そう簡単に超常現象に逃げていいものか。
これには何らかの法則があり、その法則のもとに成り立っている通常の現象だ……、と言いたかったが、それも無理で。
だがとりあえず、何やら「そうか私は幽霊とやらになって鋼のもとに化けて出てしまったのか」などと妙に納得しているロイ・マスタングに何でもいいから一言ってやりたかった。
何を告げていいのやら、エドワードにはわからなかったのだが。
したがって、エドワードは「あー」だの「うー」だの言いながら、無意味に掌に書いた汗をこすっていた。
一方、アルフォンスと言えばエドワードよりも冷静になるのは早かった。
「ええと……」と一言だけを告げ、呼吸などはもちろんしない鎧の体ではあるが、落ち着くには深呼吸とばかりに、息を吸い、そして吐く仕草をする。
「そ、それで、大佐。ユーレイになっていると仮定しますけど、またなんでそんな姿になってしまったんですか?兄さんのところに化けて出るということは、お亡くなりになる間際に兄さんに恨みつらみを告げて清らかな魂で天の国に向かいたいとか、ええと、兄さんにかたき討ちしてほしいとかなんとかそういうことなんでしょうか?」
「ちょっと待てアルフォンスっ!大佐がオレに恨みつらみってそんなんあるわけねえだろうがああああああっ!」
「……兄さん、大佐の生前に多大なる迷惑、掛けて掛けて掛けまくっていたでしょう?それで恨まれていないなんてどの口が言うの」
「そ、そんなんお互い様じゃねえかよなあ大佐っ!」
思わずロイを振り返ってみれば、ロイはロイで、
『いや……。そうだな。鋼のにはこれとかあれとかそれとか色々と便宜を図ったものだが……、まあ借りを返してもら多分もあるが、まだ貸しのほうが多いような……」などと半分笑いながらほざく。
どうやらエドワードをからかっているようである。そのからかいの気配を敏感に察したのか、エドワードの口調はますます荒くなった。
「貸し借り程度で恨むなっ!つかオレのところなんかに化けて出ないで、中尉のところにでも行けよっ!」
『女性にこんな姿を見せるなんてみっともないではないか』
器用に肩をすくめて見せるロイである。
「それだよ、兄さんっ!」
アルフォンスが大きな声を上げる。
「へ?アルぅ?それってどれ?」
「中尉だよ、ホークアイ中尉。本当に大佐が亡くなったのならそれ、中尉が知らないわけないよね。死んでないならなんかのトラブルとか錬金術のトラップとかに間抜けにも引っかかって病院で仮死状態とかさ、そーゆーことだってあるかもしれないじゃない。中尉なら大佐の現状、はっきりわかるんじゃないのかな?」
おおおおお、と感心しかけてエドワードはロイを見上げた。
「なあ、大佐。中尉が把握する前に、アンタ、自分自身のことなんだから、ほんとに死んだのか仮死状態なのかとか、なんかのトラップに間抜けにも引っかかってこんな状態になったのかとかさ。自分でわかるんじゃねえの?」
兄弟二人して間抜けとはひどくないかね、と告げつつも、ロイは重々しく、告げた。
『いや、それがだね。……軍務でとある場所に潜入捜査したところまでは記憶にあるのだが……』
「あるのだが、なんだよ?」
いやな予感が、した。
『頭でも撃たれたのか殴られたのか分からんが、こうなった前後の記憶がさっぱりないのだ』
誤魔化すように、はっはっは、と笑うロイに、エドワードもアルフォンスも顔を見合させて「大佐間抜け決定」と溜息を吐いた。


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