小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

けっ、と。やさぐれているハボックを置いておいて、エドワードとアルフォンスはホークアイに更にと聞き込む。
「で、その『ヤナガッコー』とやらに大佐が潜入までしているっていうことは、その学校に幽霊騒動の犯人とかがいるっていう確信があるんですか?」
「犯人逮捕間近なんか?」
ホークアイはさらに困ったような顔をする。そうして何枚かの書類をファイルから取り出した。
「なんて言ったらいいのかしら……。犯人は実は不名なのよ。ただこの女学園の関係者が被害者っていうことだけが共通点として挙げられるの。……そうね、ちょっと資料を見てもらえるかしら?」
エドワードは手渡された捜査資料を素早く読み、そうしてそれをアルフォンスに渡した。
「……えーっと、一人目の被害者が、アーロン・オルコット、32歳。イースト女学園高等部2年Aクラス担任、で恋人が花屋の女性の恋人……。二人目がブライアン・アッカーソン。21歳。リゾート施設でスキーインストラクターのアルバイト。イースト女学院高等部のスキー教室にてインストラクターと務めたこともある。へ―……。三人目が25歳のセドリック・ドーキンス。女学園の近くのパン屋勤務。四人目は33歳、ダリル・キーラー。ピアノの先生なんですねえ……。直接学園には関係ないけれど、学園の生徒さんが何人かこの先生に教わってる……ふーん。五人目がジェラルド・ルーカン……あ、この人も若くてかっこいい男の人ですねえ。……うん、被害者の共通点、女の子の好きそうな若い男のひとって感じかなあ?えっと六人目も、あ、美形ですね。グレン・ヘイワード29歳。学園の司書さんですか。そう言えば大佐も男前ですもんねえ……。潜入捜査して学園と接点着いちゃったというか、間抜けにも犯人になんかされたんだあそーかー」
アルフォンスは添付されていた写真のまじまじと見つめては、感心したようにしみじみと頷いた。
「まあ……被害者と言っても、死体も何もないわけだからちょっと違う感じもするけれど……。幽霊だと騒がれている人たちってところかしら?」
「死体とか生きているその人とか仮死状態とか、そういうの全く発見できてないんですか?」
「そうなのよ……。エドワード君やアルフォンス君に大佐の幽霊(?)がとりついていると仮定しましょうか。その幽霊はエドワード君とアルフォンス君にしか見えない。私たちには見えないのよ。それで、いくら捜索しても大佐の遺体もしくは生体は見つからない。ただ、幽霊(?)に憑りつかれた人たちが、軍部に次々と訴えてきて合計六人目。エドワード君とアルフォンス君が同じように軍部に訴え出ればそれで七人目ということになるわね」
はあ、とため息をつきながらホークアイは続けた。
「大佐が捜査に失敗して、被害者になってしまったというなら……、今後の捜査はどうしようかしら……。大佐がホントに殉職されたというのなら、どこかの部署に引き継いでもらって、ということになるのかもしれないのだけれど。そうでない限り私たちで何とかするしかないかしら?」
先までやさぐれていただけのハボックが「そうはいっても中尉。俺たちマスタング組はもう潜入不可ですよ。あのガッコ―の不採用突きつけられてしまいましたし。……中尉が潜入って、ちょっと無理でしょう?」とため息をつく。
「そうね……。大佐が司令部にいて、私が捜査に向かうというのならともかく。大佐も私も不在とあれば……」
「大佐のコト、敵視してるお偉いさんたちになーんか突っ込まれそうですよねぇ……。俺らが今抱えている軍務ってあのヤナガッコの件だけじゃないですし。……ちっと身動き取れないっすね」
「エドワード君たちのことを疑うわけではないのだけれド。この状況ではちょっと……ね。三日後に大佐からの連絡が本当に来なければ、何かしらのリアクションは起こさないといけなくなるんだけれど、それまでちょっとこの件は保留にして、今抱えている他の軍務をこの三日ですべてある程度のところまで片づけておく、というのが現状取れる最良の手段かしら」
「そっすねー。じゃ、ブレダとかみんなにはその方向で動けって伝えときます」
「よろしく頼むわね」
話がまとまりかけたが、「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」とアルフォンスがホークアイとハボックの間に割り込んだ。
「三日後って、それまでボク達、こんな大佐のユーレイ抱えたままで、いなきゃいけないんですかっ!そんなのボク、いやですよっ!」
本気で嫌だとわたわた告げるアルフォンスに、『ひどいな、アルフォンス』と、それまで傍観を気取っていた大佐のユーレイが苦笑した。
「ひどいなじゃねえぞ、ひどいなじゃっ!そもそもアンタがそんなわけのわからねえユーレイになってオレたちのところに化けてでてくっからいけねーんだろっ!さっさと自力で生還するか。さもなけりゃオレ達に憑りついてないで、別の誰かんとこ行けよっ!」
『鋼ものひどいではないか……』
「うっせーぞ!大佐!!迷惑こうむってんのはこっちだっつーのっ!」
アルフォンスもエドワードに迎合する。
「そうですよっ!大佐がどっかに行ってくれればボク達、これまで通り、心置きなく旅を続けられるんですよ!大佐のユーレイ背負ったまま、旅なんてできないでしょうっ!」
大迷惑です、とアルフォンスが言い放つ。
もちろんハボックやホークアイにはロイの発言は全く聞こえなかった。けれど、ホークアイはハボックにチラリと目くばせをした。
三日、待つつもりだった。
けれど、三日待っても状況は進展しない。ほかの軍務を片づけたところで、この幽霊騒動の件については三日をロスするだけだと。
とすれば、動ける人材に動いてもらうしかない。
ただし、ロイが失策を犯して被害者の一人になったなどと外部に漏らすわけにはいかない。
ハボックは黙ったまま、声に出さずに「了解しました」とホークアイに頷き、そうしてくるりとエドワードたちに向き直った。
「……なあ、大将。アルフォンス。大佐のユーレイ抱えて旅するの、そんなに嫌なんだよな?」
当然だ、とアルフォンスもエドワードも何度も頷いた。
「ふつーの、どっかのユーレイっていうか、地縛霊とか抱えて旅とかも嫌ですけど、よりにもよって大佐のユーレイですよっ!迷惑以外の何物でもないですよっ!」
「そうだよっ!あたりまえだろ少尉っ!大佐のユーレイにトイレも風呂にもついてこられる状況、自分の身になって考えてみろよっ!すんげえ邪魔っ!迷惑っ!さっさとどっか行きやがれえええええええっ!って断度叫んだかしれねーっつーのっ!」
うんうん、そうだよなあ、そうだよなあ。とハボックは同意するように頷く。
「だけど、俺らはあと三日は身動きとれねえんだよ。もしかしたら、三日たってもダメで、幽霊騒動の件はほかの部署に依頼するかもしれねえなあ……。そうなったらその部署の誰かが解決してくれるっていう保証はできないしな。ほら、大佐ですら失敗したかもしれねえんだろ?この東方司令部で、大佐以上に優秀な軍人ていないだろーしなあ……」
だらだらと告げるハボックに、エドワードがキレかかる。
「冗っ談じゃねえぞ少尉!そんじゃなにかよっ!オレたち、このままずううううううううううううっと大佐のユーレイ抱えていかなきゃいけねえのかよっ!」
ぎゃんぎゃんと吠えるエドワードに、ホークアイがにっこりと美しい笑みを向ける。
「だからね、エドワード君、」
ホークアイは微笑んではいるが、何故だかエドワードの背筋にはヒヤリとしたものが流れ落ちた。
「な、なに、中尉……」
「大佐の代わりに、あの学校に潜入して、捜査をしてくれると嬉しいわ」




スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。