小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

15

結局的場は、それ以上は夏目に何も尋ねないまま『鬼塚』まで私たちを案内してくれることとなった。
実にあっさりと。
逆にそれが訝しい。
『鬼塚』にやってくるまでの道中、私はずっと的場を不審に思っていた。
素直に、親切に、案内役だけを務めるはずはない。
きっと、いや絶対に何か企んでいるはずだ。
私の腕の時のように。
じっと、的場を見つめ続ける。その視線を感じているはずなのに、的場は涼しい顔で歩く。
その足がすっと止まる。そしてゆっくりと目の前の杉並木を指さした。
「ほら。着きました。あちらに杉並木が見えるでしょう。ここから数えて12本の杉を見てくださいね。洞杉です。わかりますか?あれが『鬼塚』の入り口ですよ」
「洞杉……?」
「天然生のスギの古木、巨木のことをそう呼ぶんですよ。 幹の内部が空洞になっているものが多いことからそう呼ばれるようになったと言われています。あの洞杉の横、わかりますか?少しだけ空気が歪んで見えるでしょう」
なるほど、と思ったが。いやまて。洞杉の解説は横に置いておいて。まだ入り口とはいえ、いやにあっさりと『鬼塚』にたどり着いたことをおかしいと思わないといけないのではないのだろうか。
的場のことだから、実はここは『鬼塚』ではなく、的場が何か画策している別の場所……であるとか。
訝しげな視線を変えない私に的場もさすがに「なんですか?」と尋ねてきた。
「いや……、実にあっさり『鬼塚』に着くものだなと」
的場がくすりと笑う。
「もっとおどろおどろしい場所でも想像していましたか?」
それはそうだろう。命を落とすかもしれない場所のはずなのに。杉の古木の参道を通って行ったらあっという間にたどり着きました。ということになりそうだ。実際、洞杉の脇を通り過ぎていく時に少しだけ空気のゆがみを感じたが、ただそれだけで単なる杉林散策という感じに歩いているだけだ。
てくてくと。
私と夏目と的場の足音だけが聞こえてくる。
そのほかには何もない。
鬼にでも襲われるのかと思っていたのに。
けれど、的場が嗤う。
「これほど恐ろしい場所もないんですよ。ほら、気が付かないうちに夏目君は鬼に襲われていますよ」
「えっ?」
夏目がすでに鬼に襲われているというのはどういうことだ。
夏目は私の横を歩いている。確かな足取りで。一歩一歩。
ただそれだけで、鬼など影も形もどこにも見えやしない。
「ほら、だんだんと自我を失いつつありますよ。このままだと間違いなく、自分が何者か忘れますね」
「夏目?」
私が夏目を呼んでも答えない。
足取りは確かな歩みを保っている。
けれど。
ぼんやりと。そうだ、あまりにもぼんやりと歩いている。私は的場を警戒してばかりいたので夏目の様子がおかしいことに気が付きもしなかった。
的場は夏目の目の前に立つと、夏目の頬を打った。、ぱんっ!と乾いた音が立つ。
はっとしたように、夏目が目を見開いた。
「あ……?」
「あなたは誰ですか?」
夏目に向かって的場が問う。
「お、れ、は……」
「あなたの名前はなんですか?」
「なまえ……」
「ここに、『鬼塚』に何をしにあなたは来たのですか?」
矢継ぎ早に聞いていく。
「おに、つか、に……」
「さあ、思い出しなさい。あなたは誰ですか。ここに何をしに来たのですか?思い出せなければ鬼に食われますよ」
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