小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
オレの名はエドワード・エルリック。赤のコートを翻し、国中を駆け回っている最年少国家錬金術師だ。右の腕と左の足には幼馴染み特製の機械鎧。それから金の髪に琥珀の瞳。かっこいいだろ。何、かわいいだ?それ、オレの……背についてじゃねえだろうな。身長の話は却下だぜ?ブチ切れても知らねえぞ、って余計な話はこれ位にしなきゃなあ。何せ恋人の危機が迫ってるんだ。拘束されて喉元にナイフなんかが突きつけられてるんだよ、あーあ。
え?緊迫感がない?危機らしくない?そりゃそうだろ。オレの恋人がこのくらいでくたばるわけはないからな。あ、そーだ。恋人だ、恋人。オレには弟公認でもう二年もお付き合いというものをしている恋人がいたりする。
名はロイ・マスタング。軍人兼国家錬金術師で、イシュヴァールの英雄。
現在の階級は少将だ。端正なマスクと甘い声、それに加えてこの軍事国家で将来の大総統に一番近いってくらいの出世頭だ。恋人にしたい男ベスト10でも作ってしまえばランクインは確実だ。もしかするとナンバーワンの座に君臨してしまうかもしれない。当然モテない筈はない。実際二年より前はロイの周りには女性の噂が絶えなかった。毎夜毎夜の花を摘んで、ちぎっては投げていたのはまあ事実だ。
……今やったら殺すけど。それこそ完膚なきまでメッタ切りだ。って、青筋を立てちまうけどな。まあ、アイツの顔がいいというのは動かしようもない事実であり、その顔にも惚れているのだから致し方ない。あ、いいのは顔だけじゃねえぞ。何拍子もそろったいい男だ。オレの恋人なんだからそんくらいは当然っちゃー当然だ。
そんでな、今の目の前の状況の通り、熱視線を浴びせられるのはなにも女の人からに限ったことじゃねえんだよ。一部の男性からも非常によくご指名を頂いている。と言っても愛だの恋だじゃねえぞ?や、もしかしたらそーゆーのもあるのかもだけど、とりあえず今は違う。ガラの悪い集団つうかまあ後ろ暗い犯罪歴てんこ盛りのテロ集団の皆様だ。そういった面々にもモテているのだ。モテる恋人はまあ自慢だが、こんなにモテまくらなくてもいいんじゃないかな?ライフルだのナイフだのを手にしている厳つい御面相の方々に取り囲まれてるよりもオレ様に見つめられてるほうが数百倍いいだろーに。
むさい男に拘束されて、喉元にナイフを突き付けられているというのに、まあ、アイツもふてぶてしいもんだよな。ロイは口元から笑みを消そうともしてねえな。
……あー、もう余裕じゃねえかロイの馬鹿。ついでに無能、いや不能くらい言ってやる。心の中でありとあらゆる悪口を並べる。
あ?拘束されてる上にナイフやライフルを向けられてること、心配しろって?んー?アイツがこんな程度でくたばるタマかよ。そんな心配、無駄無駄無駄。緊迫感?これぽっちもない。あ、オレが薄情なんじゃねえぞ?ほら、ホークアイ中尉だってハボック少尉だってブレダ少尉もファルマン准尉もヒュリー曹長も、顔色一つ変えてねえじゃん。ま、憲兵の皆様くらいかな?緊張してんのは。いや、多少緊迫っつーべき?でもあいつらどう見ても二流、三流どころのちゃちな犯罪者だ。ロイが何かされるとはこれっぽっちも思えない。だた、こうやって、拘束されている間にも刻一刻と時間が過ぎ去るのを悔しく思うだけだ。
……ちぇ、せっかくロマンチック(かもしれない)な夕暮れだってのに、抱き合うんじゃなくってこんな遠くから見つめるしか出来ねえんだろうなあ。ロイだってそんなむっさいオッサンに拘束されてるよりも可愛い可愛いオレ様を抱くほうがふさわしい時間帯だって思っているに違いない。もう、なんつうか、こう、ふうううううっと大げさに、わざとらしくため息をつくしかないだろう。こんな三流テロ集団と遊んでねえで、早く二人っきりになりたいんだけどな。
あ、今ロイがテロ集団の男たちに拘束されているこの場所は、セントラルの駅からほんの少しだけ離れた貨物列車の発着場なんだ。列車のレールが駅から伸ばされて、そのレールと平行に、平べったい木材を打ち立てた塀が続いているのが見えるだろ。その塀の前には流通の便利なようにと大きな倉庫が建ち並んでるし、鉄製や木製のコンテナは、貨物列車には積まれたままのもあるし、倉庫の前にきちんと並べられて置かれているものもたくさんあるし。んでもってそのいくつかのコンテナの上には銃を構えた男が……一だろ、二に、三人……、あっちにもいるな。えーと七、八、九人か。抜け目なく周囲の軍人を警戒しているんだろうけど。あ、コンテナの影にもまだいるな。結構大人数なのかもしれねえな。倉庫やらコンテナやらで視界が良くないんだよ。だから、あいつらだって高い位置にて警戒しているんだろう。煙と馬鹿は高いところが好きって言う言葉からすると警戒じゃなくて馬鹿集団なのかもしれねえな。ま、どっちでもいいや。さらに少し離れた線路の上にも幾人かの男がいる。あー、多いな、人数だけは。銃やらナイフやら手榴弾やらを手にしてるけど、ま、雑魚だろう。それより注視しなきゃいけねえのがロイにナイフを突き付けて、拘束している大男。その男が手にしているのは……あれはハンティングタイプのナイフだな。獣皮を切り裂く鋭い切れ味と、骨に当たっても関節に差し込んで筋を切っても欠けない丈夫さだ。し、師匠が北の山で一カ月ほど過ごしたときはあーゆーの持ってたのかな?……いや、師匠はたしか素手で熊、倒したって……お、恐ろしいから考えるの止めよう。
その鋭い切っ先が喉元に当られていればさすがのロイもすぐには動けねえか。思い切りよくスパっと切れて首と胴体別々になったらシャレにならないもんな。ま、アイツに限ってそんな心配するだけ無駄だって気もするけどな。あーあ。おっと、気を抜くとついため息が漏れちまう。でもため息くらいつかせてほしいってのがオレの偽らざる心境だ。なんで今日という日に狙ったように捕まるんだよロイは。さっきまではオレとデートしてたってのに……ほんとモテまくるんだからなあ、無能のくせに。
「はい、エドワード君。これ持ってて」
思い悩んでたらヒュリー曹長に拡声機を手渡された。
「ん?ナニコレ?」
それを受け取って、じっと眺めてみる。持っててってコレ何すんだ?首を傾げてみても曹長は顔を上げないまま、コードとソケットを繋げている。
「もうちょっとしたら、包囲完成すると思うんだけど、こう薄暗いと僕の作業が手間取ってね……時間引き伸ばしお願いしたいんだ」
あー確かに手元の細かい作業には不向きだよなー。夕焼けが美しかった空には月も白く浮かんで星も瞬きだしていた。もう間もなく夜の帳が落ちてしまい辺りは暗闇に包まれるだろう。あー、こーゆー綺麗な夜景はロイと二人で見たかったなー。ロマンチックな雰囲気盛り上がる……ってか、ロイが勝手に盛り上げてくれるんだけど。オレは顔真っ赤にして聞いてるだけになるんだけど。ああ、囁かれたいなー今、すぐここで。でも無理っつーのはさすがのオレでもよくわかる。あっちではホークアイ中尉が精密射撃任務用にカスタマイズしたライフルを一分の隙もなく構えた姿勢を崩そうともしない。ブレダ少尉は後方の憲兵たちに指示を出し、テロリスト達を包囲させている。ハボック少尉は突撃までまだ間があると、火をつけないままの煙草を咥えている。ヒュリー曹長は夕闇が落ちて視界の悪くなりつつあるこの現場をたくさんのライトで照らそうと、コードにライトを手際よく接続してるし。
だけど、またあーあ、と何十回目かのため息を止められない。
今日はオレの誕生日で、ほんとーなら今頃ロイと夜景のきれいなレストランとかだったのになー。夕焼け沈むロマンチックなセントラルの街を見下ろしながらワインとか飲んで……って、飲むのはロイだけなんだけど。どーせオレは未成年だからってジュースなんだけど。でも、いいじゃん。お付き合いして二年目のラブラブ誕生日デートだぜ?嫌でも何でも盛り上がるだろ?なのにロイとだけじゃなくて三流テロリストとの合同宴会かよ。
「エドワード君。ため息ついてないで。そろそろ、犯人グループに威嚇、お願いできないかな?もう少しライトの設置にかかりそうなんだ」
ヒュリー曹長がまたもや顔もあげずにせっせとコードとコードを繋いでる。はいよ、ため息ばっかでごめんな!
「おっけー、曹長。じゃ一発かましてやるか」
「うん、頼むね」

オレは拡声器を構えてみた。意識をきちんとロイの方へと向ける。オレが威嚇の声を上げる前にロイを拘束している中年の、その上むさくるしい男のほうから怒鳴り声が耳に飛び込んできた。
「いいか、要求に従わないというのなら、このニヤケきったツラ、搔っ捌いてやるぜ、口が二つになったらさぞ面白い顔になるだろうよ」
がっはっはっはと高笑いする耳に麗しくないダミ声に、ムカついた。オレはそーんな喧しいだけの声なんて聞きたくねえ。ロイの美声だけ聞きてーんだよ。ただでさえ、デート邪魔されて不機嫌だっつーのに、いい度胸してるじゃねえかよ。オレ様の逆鱗に触れたらどーなっても知らねえぜ?大人しくしてりゃつけあがりやがって、このド三流!それからそのニヤケきったツラはオレのお気に入りだってーの。いや顔だけではなく声も髪も好きだけど。ていうか嫌いな個所なんかない、けどさ。まあそれは置いておいて。あ、置くの止め。語ってやる。つか、語りたい。
オレはロイの髪に触るのも、好き。顔、漆黒の瞳を見つめるのも大好きで。キスされて、その口から愛の言葉が囁かれればもう天にも昇る気持ちだといつもいつもいつもいつもいつも思う。思い出すだけでもぐああああっと転げ回りたい。なのに、なあ、どう思う?オレらの関係はプラトニックなんだよな。冗談でも何でもねえぜ。単なる事実だったりするんだよ、これが。もう二年も付き合ってんだぜオレたちはとっくにあれやこれやそれやそーゆーコト……その、してもいいんじゃねえのかって思うんだよ、オレは。でもキス以上の関係になったことは一度としてないんだ。あの、女ったらしでとっかえひっかえの、と称されてた(過去形だ!!今はオレ一筋だ!!!)ロイだっつーのに、オレたちは真面目に、真剣にお付き合いをしているっていうのに!!全くもってなーんにもない。綺麗さっぱりプラトニック一直線!!なあ、どういうことだこれ?って思わねえか?でも、ロイはキス以上のことはオレにしねえんだ。
嘘じゃねえぜ、ほんとーに、無い。
これっぽっちも全くない。
世間さまに顔向けできないことなんて何一つない。
デートの内容など一から十まで包み隠さずアルフォンスにだって報告してる。
そう。意外にもロイは頭が固いのだ。
一例をあげてみるのなら、オレが初めてロイの家に泊まった夜のことだろうか。雰囲気たっぷりのレストランで食事を済ませ、ロイはアルコールも嗜んで。そうしてやってきたロイのアパート。オレはドキドキしながら「……おじゃまします」なんて小声で呟いて。心臓はバクバク鳴るし、顔どころか全身火照って仕方がなかったんだ。
……だって、恋人の家に初めてのお泊りだぜ?期待するなってほうが無理だろう?ちゃんと勝負パンツだってはいてきた。準備はおっけー、当然ロイだってその気でオレを自宅に呼んだとばっかり思ってた。その上あの甘い声で「鋼の。君が先にシャワーを浴びるかい?」なんてパジャマを差し出されてみてしまえば、期待しないほうが嘘だろう今夜はめくるめく快楽のひと時だ……!!と、まあ、山ほどの期待とほんのちょっとの不安を吹き飛ばしてオレ自分がシャワーを浴びた後、ロイのベッドで、ロイがシャワーを浴びてくるのを待っていたんだよ。ロイの残り香が漂うベッドに顔を埋めれば否が応でも期待感は高まって。あ、そうそう。トドメは風呂からあがったロイの姿だった。パジャマの上着着ないでさ、洗った髪をタオルで拭きながら寝室にやってきた。その姿を目にとめた瞬間血圧が急上昇した!んだよ。うおっ!!水も滴るいい男!ホレる、いや違う惚れ直す!!ぐああああ、かっこいいじゃねえか。あーもう、鼻から血が吹き出そう。これが大人の男の色気ってヤツかっ!と、まあ、そんな感じでオレの心臓は、ドキドキドキドキドキどきどきばくばくドキドキドキドキドキどきどきばくばくドキドキドキドキどきどきばくばくどきどきばくばく……と、エンドレス。
なのに、ロイはきちんと髪を拭きパジャマを着こむと、期待感でいっぱいのオレ様を引きよせ、キスをして……そのままシーツに横たわり腕枕をして目を閉じてしまった。
五分たっても十分経ってもそのままの姿勢でいるロイに、痺れを切らして聞いてみた。「……しねえの?」と首を傾げて可愛らしく。けどロイから帰ってきた返事はこうだった。
「君はまだ未成年だからね、身体的に深い付き合いは犯罪だから私はしないよ」
……………………………………そしてそのまま健全に、二人は朝を迎えてしまいまいました。ちゃんちゃん。
って言ったのはアルフォンスだ。兄さん大事にされてるねって、薄い笑みを浮かべた弟に、ちくしょーと叫んだのがオレで。
それからはもう、なりふり構わず露骨に迫った。あの手この手で誘惑しまくりだ。けれどオレがどんなことしても決してロイは最後の一線だけは越えようはしなかった。オレに対してそーゆー欲求がないのかなーと不安になるも仕方ない。が、それでも紳士としての姿勢を崩しはしなかった。


続く




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