小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
No.1「アルフォンスの婚約記念~それでも主役は黒髪の男~」


「えーっと、本日は皆様お越しいただきましてありがとうございます。……本日はワタクシたち、アルフォンス・エルリックとウィンリー・ロックベルの、婚約記念パーティ……なんですけどね、わかってます?みなさん!ねえ、聞いてよっ、そこ!今日の主役はボクとウィンリー!兄さんとロイさんじゃないんだからねえぇぇぇっっ!!!」
マイクのボリュームを最大にして、アルフォンスは会場入り口で受付をしている軍服姿の男を睨みつけながら怒鳴った。その軍服に寄り添う、いや訂正しよう、寄り添うように強制されているであろうエドワードも一緒に睨みつける。
エドワードはそんな弟の絶叫に、ゴメン、ゴメンと目線で告げる。謝罪に行きたいのだが、自分のいるその会場入り口からと弟のいる壇上まで移動するのは叶わなかった。ついでに言い訳すると本日のエドワードはこのパーティの受付を最愛の弟から仰せつかっているのだ。……場所を移動するわけにはいかない。それがもはや言い訳となっていようとも。言い訳というのは、軍の正装をしている黒髪の男、ロイ・マスタングによって拘束されているからだ。腰に手をまわされ、左手を取られ、あまつさえその左手の甲にキスまでされている。いつもであればそんなロイなど蹴倒すエドワードではあったが、今日だけはそれも不可能だった。エドワードの左手の薬指に輝くプラチナリング。それはロイのよって送られたもの。それをエドワードはしっかりと付けている。その上黒髪の男にも送ったのだ。エドワードが自分の意志で。半ば強制された……といっても過言ではないが、それでも今日のこの浮かれようは予測されていた。それでも、つけたのは。……自分だって喜ぶロイの顔が見たかったから、なんて一生言えない。
今日はアルの婚約記念なのに……不甲斐ないにーちゃんを許せ、弟よ……。
エドワードは衆目にさらされている羞恥に全身を真っ赤に染めながらも黒髪の恋人に抵抗することも出来ず、大人しく会場入り口の受付のテーブル前にて立ちすくんでいた。今日だけだから、こんなもん指に嵌めるのは今日だけだから……!エドワードは必死になって、弟に目配せをする。本当にすまねぇ、アルフォンス。全部ロイのせいだから……。そのエドワードの言葉は。むなしいほどに空回りして、弟にまでは届くことはなかった。


アルフォンスが絶叫するのも無理はない。知人友人を集めてセッティングしたはずの今日の婚約記念パーティ。壁に掲げた垂れ幕にも、ケーキの上の書いてある文字も「婚約おめでとう、アルフォンス&ウィンリー」なのに。
正装したアルフォンス自身も、カクテルドレスに身を包んだウィンリーもこれ以上もないって程着飾って、壇上に立っているというのに、全く目立つという感じはしない。それというのも全部兄さんとロイさんのせいだ……。アルフォンスは涙目になりそうな自分を抑えながら、自分の傍らに立つ将来の伴侶であるウィンリーに疲れきった声で告げた。
「ウィンリー。スパナ、持ってない?あの辺に投げつけちゃってよ……」
かたや、本日の主役のはずのウィンリーは、あはははははと大口を開けて笑っている。
「しょーがないじゃないの。あいつらの左手の指輪見れば。よおやくエドも年貢の納め時、って思ったんでしょ。それともアタシ達が結婚するって決めちゃったから、マスタングさんに押し切られたのかしら~」
押し切られた、ってほうが可能性は高いわねーとウィンリーは高らかに笑う。

そう、お揃いのプラチナリング。
それがエドワードとロイの左の薬指で輝いていれば。
そんなちっぽけなものでも見逃すような面子は此処にはそろっていない。
「受付係、兄さんに任せたのが悪かったんだね。ボクのミス、だなあ、なんて納得できないんだけど、できないんだけどさあああああ」
そう。
親しい知人しか呼ばない婚約披露の会場。兄に受付を、ロイに乾杯の音頭をお願いしたのだ。それが敗因だった。招待客たちはアルフォンスとウィンリーにおめでとうと言うために、この会場に集まったというのに。受付をしているエドワードとロイを見れば、
「あ、れ?今日はアル君たちの婚約披露って、案内状に。えっ?その指輪、って?」
「今日はエドとマスタング中将の、に変更ですか?それならそうと早めに言ってもらえればちゃんとお祝いお二人用に用意したのに」
という声が、招待客のほとんどから聞こえてきて。
その上いくらエドワードが「違う、今日はオレの弟の!!」と声を大にしてその度に否定しても、世の中の全ての幸せを独り占めしたかのような輝きを見せるロイ・マスタングが「ああ、ようやくエドワードがプロポーズを受けてくれて……」などと滔々と語りだすものだから。
気が付けば、誰が今日の主役で誰が裏方なのかさっぱりわからなくなってしまった。
何とか今日の婚約記念パーティはボクとウィンリーのと、きちんと軌道修正したいというアルフォンスの当然といえば当然の心情をよそに、にこやかな軍服姿のロイは未だ、自分が主役だといわんばかりの顔つきで雑談に精を出している。
――さすが、注目を集めるのに慣れているよね、中将は。
アルフォンスは気を取り直そう取り直そうとしながらも、つい自分すらロイに視線が集中してしまうことに危機感を持った。ため息を一つ漏らすと、大きな声が耳に飛び込んできた。その声はこれからアルフォンスと共同経営者として情報屋を営む予定のハボックだった。
「よお、大将。マスタング中将とようやく結婚式か?後悔しねえようになあ」
だーかーら。ハボックさんてば、違うってわかっているのにもうやめといてってばと、アルフォンスは壇上から今度は咥えタバコの男を睨む。
「あら、エドワード君。おめでとう……と言っていいのかしらね?何かあったら遠慮なく相談してね。万が一の場合は愛用のコレでちゃんと中将の頭、打ち抜いてあげるから」
あああ、ホークアイ中佐まで。もういい加減にしてくれと、アルフォンスの堪忍袋の緒は切れそうだった。ウィンリーは、全く気にもせずに、気さくに「あのーもうすぐ乾杯しますんで、会場の客さんたちにグラス行き渡ってるか、確認してくださいねー」とドレスの裾を翻し、店員に声をかけている。
「ウィンリー、今日は君が主役なんだからね。結婚式とかって花嫁さんが主役だろう?そんな段取りに気を回さなくても……」
「あはは、やだ、アル。大丈夫よ。本番の結婚式では嫌でもアタシが主役。今日くらいはあいつらにも浮かれさせてやってもいいじゃない。結婚式のつもりでさ。アタシ、わざわざ婚約記念なんてするの、ちょっとはエドたちにもって、そういうつもりで気分でいたしさ」
へへへ、とウィンリーは笑いながら舌を出してみせた。
アルフォンスは目を見開いて、自分の伴侶になる予定の女性を見つめた。
ああ、やっぱりウィンリーはすごいなあ。と、心から感動して、それ、ちょっとはわかってんのかなあ、兄さんも、ロイさんも。と二人をじっと睨みつけた。
視線の先のロイは右手でエドワードを抱きしめたまま、もう片方の手だけをあげて、ホールドアップの意志を示している。そのあげている指に光が反射して、これ見よがしにその存在を主張する。が、ロイも自慢のために指輪を掲げているのではなかった。
そうさせているのはホークアイの銃口なのである。エドワードは疲れたように肩を落としている。もはや抵抗する気力もなくなったのかもしれない。
「……私は、とてもよい部下を持って幸せだとも。ああ、そう皆やっかまなくてもよろしい。エドワードはちゃんと幸せにするとも。だからホークアイ中佐、銃はしまいなさい……」
「いえ、万が一ということもありますし。銃は常に携帯しております」
「君ね……。確かに私の背中は君に預けてあるがね。今は必要ないだろう。今日はめでたい私たちの結婚披露宴なのだし」
「ちょっとまて。誰と誰の、だ。わざと間違えるんじゃねえ。今日はオレの弟とウィンリーの、だ」
私たちの結婚披露宴、との言葉にさすがのエドワードも精神の疲労を押しやって、ロイの腕の中から抗議の声をあげた。
「ああ。そうだったかな?いや、はっはっは」
「わざとらしく、笑うんじゃねえよ。んとにこのアホ中将が。ほら、アルフォンスが睨んでるだろ?」
そこでロイはようやく抱きとめたままのエドワードを解放して、颯爽と壇上のアルフォンスのところへと足を進めた。

その揺ぎ無い背中に、エドワードも招待客達もつい視線を奪われる。ほお、とため息を吐く音さえも聞こえてくる。抗議をしようと待ち構えていたアルフォンスでさえも、そのロイに視線を奪われた。
「ああ、アルフォンス。待たせてすまない。……マイクを私にくれないか?」ロイにかけられたその言葉に、ようやくアルフォンスもはっと気を取り戻して、それから、目を奪われた悔しさも相まって、乱暴にマイクを突き出した。せめて、これくらいは言ってやる、とばかりに将来自分の義理の兄になるだろう男を睨みつけた。
「いいですけど。今日はボク達の婚約披露だということをお忘れなく。……何かあったら容赦なくウチの兄さんと引き離しますからね。覚えておいてくださいよ。」
睨みつけられたロイは、しっかりとアルフォンスの手を握り、誓うように告げた。
「私はエドワードを幸せにするとも。泣かせるような真似は決してしないと誓う。……が、今日は君達の婚約披露記念だ。仕事はきちんとさせてもらうよ」
ロイは顔を引き締め、一語一語を正確に発音すると、アルフォンスからマイクを受け取り、会場の招待客へ向けて、さわやかな笑みを向けた。
「本日はお忙しい中、お越しいただきまして御礼申し上げます。それではアルフォンス・エルリックとウィンリー・ロックベルの、婚約記念パーティを開催させていただきます。まず、私、ロイ・マスタングよりお二人の輝かしい未来へ向けての乾杯の音頭を取らせていただきましょう。……」
乾杯の声に沸き起こる会場と本日主役のカップルに微笑みかけた後、ロイは満足そうに手にしていたシャンパンを飲み干し、自分の将来の伴侶たるエドワードに向けて歩を進めていく。
その後姿を確認しながらアルフォンスは、あーあ、してやられたなあ、とため息をついた。




No.2「別れ話は婚姻の確認」に続く
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