小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
ロイがエドワードを連れて帰った先は、ロイの私室のうちの一つ、サロンだった。
私室と一言で言っても王族のそれであるからして、非常に広い。寝室意外にも私的な謁見の間にサロンに食事の間に喫煙の間……などなどといくつもの部屋があり、実に豪華である。ちなみにサロンにはイーストシティの有名な画家であるフィリップ・フェルナンドの最高傑作と呼ばれる『寓意と神話の物語』が壁を埋め尽くすように描かれている。が、それを見ている人間など誰一人として居なかった。
「待たせたな」
そう言って、ロイが部屋に入った時はホークアイを筆頭に、ハボック、ブレダ、ファルマンなど、ロイの直属の部下はすべて直立不動の体勢でロイを出迎え、唯一部下ではないアルフォンスも、ロイとエドワードの姿を見るとすぐに、それまで沈み込むようにして座っていたソファから身を起こした。
「殿下っ!兄さんっ!……よかった、無事だったんですね」
ほっと、息をつくアルフォンスに「ああ、もちろん」と笑顔で答えるロイである。
「え?」と意味がわからずエドワードはアルフォンスを見る。
「もうっ、兄さんてば。迷子になるにもほどがあるってい言うか……」
咎めるようでいて、安心した声であった。
「迷子って……オ、オレはアルを探しに行ってただけで……」
「そんでもって、王族以外立ち入り禁止エリアに入って行っちゃったって、ここの女官の人が言いに来てくれなかったら兄さんどーなったか……。わざわざ殿下が連れに行ってくれなかったら、ほんと不敬罪とかで処分されても仕方がないんだよ?わかってる?」
「えー……と、誰にも咎められなかったけど。そんなに入ったらマズイ所だったんかあそこ」
「拙いとも」
「拙いですね」
「大変拙いところです」
ロイの部下たちが次々と異口同音に答えた。
「えーと……、ご、ゴメンとか言ったほうがいい……んかなオレ……」
気にするなと言わんばかりに、ロイがエドワードの肩を叩く。
「拙いが今後あそこには立ち寄らなければそれでいい。それよりも、君があそこに行ったことで収穫があった。その功績で差し引きゼロというところだな」
「えっと、収穫って……」
まさかうっかりロイに抱きついてしまったことだろうか、とエドワードは思い顔を赤くした。
ロイは、そんなエドワードには気がついてはいたが、あえてそこには触れずに一同をぐるりと見回した。
「出たぞ」
何が、とは誰も言わなかった。ロイを見つめたまま、言葉を待つ。
ロイはアルフォンスとエドワードに手で座れと指示だけをして、自分もどっかりとソファに沈み込む。それを見て、アルフォンスも「失礼します」と言いながら元々座っていた場所にもどり、エドワードもアルフォンスの横に腰を下ろした。
「黒髪に、黒い瞳の美人に会った。ただし、生きている人間ではなく後ろの風景が透けて見えた。そして一言だけ私とエドワードに向かって呟き、そして霧のように消えた。……単なる幽霊ではなく、高確率であれは『魔女』だと思われる」
ロイはいったん言葉を切った。
「魔女と思われる女性が呟いた言葉は『どうして』だ。その意味というか彼女がその言葉を発した意図はわからんが……。とりあえず、一歩前進というところだな」
「一歩……、前進、なんですか?」
首をかしげながら聞いたのはアルフォンスだった。
「書物だけを見て対策を練っても仕方がないだろう。そろそろ姿を現して欲しかったところだ。実際に会えば、魔女がどのような女性か、彼女が何を願っているのか、何故君たちに呪いなどかけたのか……、まあいろいろ疑問に思うことに対して答えてくれるかもしれないだろう?」
「答えて……くれるんですか?問答無用でボク達が死ぬ羽目にならないとも限らないと思うんですけど」
「まあ、答えてくれることは実はそれほど期待しているわけではない。が……、」
「なんですか?」
「とりあえず、魔女が私とエドワードに『どうして』という言葉を発したことから推測されることはいくつかある」
「それだけで、何がわかるんですか?」
「わかるとも。彼女が何かの答えが欲しいということくらいはね」
「ああ、そっか……。尋ねるという行為は相手からの返答を求めているということになりますね。魔女は何を聞きたいんだろう……?」
「さすがにそこまではわからないがね。だが、彼女の問いかけに答えることが出来れば……。もしかしたら彼女の気がすんで、君たちが死なずに済むかもしれないな……。まあ、そこまでうまくいくかどうかはまだわからんが」
アルフォンスは考えながら告げる。
「そうですね……。まずは出てきてもらわないと、魔女が何をしたいのかなんてわからないですね……」
「ああ、そこで、だ」
ロイはアルフォンスから視線を皆に戻した。
「これから『釣り』をしようと思う」
「釣りぃ?」
「釣り……ですか?」
疑問の声をあげたのはエドワードとアルフォンスの二人のみで、やはりロイの部下達は誰一人として声をあげたりはしなかった。ただ、静かに頷いただけだった。
「そう、『釣り』だ」
「アンタなあ……この切羽詰まった状態でよくもまあそんなのんきなこと言うよな……」
呆れたエドワードにロイはにっこりと笑顔を向ける。
「のんきかね?」
「のんきじゃなかったら馬鹿かアンタ。魚釣りなんてしている間にオレとアルが死んだらどーすんだ」
「死なせないための『釣り』だよエドワード。餌は私と君だ」
「へ?」
「釣りあげたいのは『魔女』だ……と言えばわかるかい?」
「え、っと……?」
「魔女に出てきてもらわねばならんのだよエドワード」
「そりゃそーだろうけど……」
「これまで姿を現さなかった魔女が何故先ほどは我々の前に姿を現したのか……。わかるだろうエドワード?」
何かを企むようなロイの笑顔に、エドワードは気が付かなかった。
「それがわかりゃー苦労はしねえって」
「これまでとの違いはただ一つ。私と君が実に親密に過ごしていた、それだけだと思うんだよ」
まさに爆弾投下。
被弾したエドワードは蛙が潰されたような声をあげた。
「しんみつ……っって、おいアンタいきなり何を言う!」
あたふたと立ちあがろうとしたところで、身体が沈み込むようなソファからはそう易々と身を起こすことが出来なかった。いつものエドワードの機敏さならば、即座に立ちあがり、ロイの口をふさぐこともできたのかもしれないが、しかし。
思いだすのは先ほど自分立ちが抱きしめあっていた時のことだ。
何故だかわからないが、ロイの腕を振りほどくことが出来なかった。
エドワードも自分からロイの背中に手をまわした。
思いだすだけで、かっと、萌えるように頬が熱くなる。エドワードはわたわたと、手を無意味に動かすことしかできずにいた。
「私が君に抱きついて、君もそれを拒否しなかった……と具体的に言ったほうがよかったかね?」
にやり、とわざとらしくロイは口角をあげる。
「うわあ、にーさんてば、いつの間に殿下と仲良く……」
「な、仲良くなんてなってねえっ!」
「でも抱きしめあっちゃったんでしょう?」
からかうようなアルフォンスに、エドワードは顔だけではなく耳も首も、全身赤に染めてしまった。
「ち、ち、ちが……」
何をどう言ったらいいのか。
あの時の自分の感情などわからない。
ロイの部下たちは、アルフォンスのようにエドワードをからかいはしなかったが、皆一様に「さすがロイ・マスタング殿下。……女ったらし……だけではなくて、少年をタラすのも巧かったんですね」とばかりに目を糸のように細める。無言のまま、目だけを細め、溜息を吐く。
「うーん、兄さんと殿下が仲良くなって、恋に堕ちてくれれば、それで魔女の呪いも解けるの……かな?」
恋、に、堕ちる。
エドワードは元から大きい目を更に見開いてしまった。うっかり目玉が零れ落ちるかと思うほどに、アルフォンスを凝視する。
「こ、こここここいになんて、おおおおおおおちてねっつーのっ!」
これは、恋ではない。
断じて違う。
エドワードはそう叫びたかった。が、では何故ロイに自分から抱きついたのかと聞かれても、それに対する明確な返答が出来ずにいた。














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