小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
何も、わからない。自分の気持ちのことなのに。
違うと叫びたい。
恋ではない。決してロイに対して恋などという感情を持っていない。
すっぱりと、切り捨てるようにそう言ってしまえばいいのに言えない。
恋などではないと思うのに、恋ではないと言い切れない。
わからない。
ぐるぐると、そのわからないという言葉だけが頭の中を巡り、意識しないままにエドワードは奥歯を噛みしめていた。
ぎり……、と、鈍い音がする。
重く、鈍い、その痛みに、顔を歪め俯いた。息が詰まって、思わず喉元に手を伸ばす。
「う……、」
うめき声だけが、した。音として喉から出てくるのはそれだけで。口の中に苦い味が広がるようだ。
本当に、わからない。
どうしていいのかも。
「エドワード」
びくり、と肩を揺らした。そしてエドワードは俯き加減のまま、窺うようにのろのろと顔をあげた。
「無理をしなくていいから落ち着きなさい」
不思議と静かな声だった。子どもをあやすように、エドワードを包む。
エドワードはつめていた息を吐く。すると肩から力が抜けるのがわかった。
喉も、もう詰まってはいない。息を吸って、そしてまた吐きだした。ぐるぐると、わからないという単語だけが回っていた気持ちの中が少しだけ静まった。
「え、えと……」
「君が私に恋に堕ちて、それで君たちの命が助かるという可能性も確かにあるだろう。だが、それは保留でいい。今は私のことは考えなくてもいいんだよ」
肩をすくめるようにして、ロイが笑う。
「えっと、その……。い、いいんか……?」
本当は、好きになってくれたら嬉しいのだが、と。そうロイは心の中では思っているのだろう。ロイの態度からそのことがわかった。言葉にされなくても、ロイの瞳は雄弁に語る。気持ちが伝わってくる。
君が、好きだよと。
だがロイは言わずに、ただ穏やかに頷く。
「ああ。君の気持ちは君だけのものだ。無理を、する必要はない。たとえ己の命がかかっていようとも、無理に心を曲げることなどしてはならない。私はそう思うよ」
好きになれと言われたのならば、きっとエドワードは反発しただろう。
けれど。
「ん……、さんきゅ」
すとん、と気持ちがどこかに収まった気がした。もう落ち着いて息を吐くことができる。
けれどそれは、自分の心がわかったためではない。
ただロイに「保留にしていい」と言われ、それにどこか安心しただけなのだとエドワードは知っていた。
そう、気持ちを保留にしているだけ。
思考停止、だ。
だけど、今ここで、エドワードは自分の心を直視したくはなかった。
それをずるいことだと、心のどこかではわかっていた。わかっていだけれど今ここで自分の気持ちに答えを出すことはしたくはなかった。
まだ、今は。
ロイは一つ頷くと、この話はもうこれでお終いだとばかりに再度ぐるりと一同を見回す。
「話を戻すぞ。とにかく『魔女』に出てきてもらわねば話にならん。だから、餌をまいて魔女を釣る。ここまではいいな?」
顔を引き締め、ロイは続けた。
「何をどうすれば魔女が出てくるのかは正確にはわからん。だが、先ほど私とエドワードが二人きりでいた時に彼女は現れた。だから、しばらく可能な限り私とエドワードを二人きりにして欲しい。……ホークアイ、確認したいのだが」
「はい」
「2・3日で構わないが、私の公務を休みとすることができるか?」
「謁見などは延期とすることは可能です。書類も……そうですね、急ぎのものを今日中にサインをしていただければ、3日ほどなら時間は作れます」
「では頼む」
「はい」
「それからもう一つ。君に頼みがある」
「頼み、ですか?ご命令ではなく」
ホークアイの眉根が寄せられた。
「ああ……。『姿変え』を、してもらいたいのだが……」
「どのように、ですか?」
「私と似たカンジの黒髪の男の姿に。出来るか?」
「わかりました」
ふっと、ホークアイの目が焦点をずらした。小さく何かを口の中で唱え、右腕を大きくゆっくりと振る。すると、ホークアイが青年男性の姿に変容した。髪も、流れるようなストレートの金髪から黒の色へと変わる。
「このようなカンジになりますが、よろしいですか?」
どこからどう見ても、男性にしか見えない。豊かな胸も女性らしいまろやかな身体のラインもそこには無かった。
「ああ、十分だ」
いきなり男へ変わったホークアイにロイもロイの部下たちも驚くことなどなかった。エドワードとアルフォンスだけが驚愕の叫びをあげる。
「え……っ!」
「うわ……、魔法?嘘でしょうっ!」
アルフォンスがホークアイを凝視する。姿を変えるなどどれくらいの魔力を持っているのか。リゼンブールの魔女たちでも、こう易々と姿を変えられるものなどは居なかった。アルフォンスもそれなりにカードを駆使して未来を見ることは出来るがホークアイのように姿など変えることは無理である。
「嘘、ではないの。でも内緒にしておいてくれるかしら。アルフォンス君もエドワード君も」
すっと滑らかに、ホークアイは元の姿に戻った。
「ええ、はい……。それは、いいんですけど。なんで……」
魔法を使えるものはすべてリゼンブールに閉じ込められているはずだった。答えたのはロイだった。
「そんなもの、王族の特権を駆使したに決まっている」
「えっと、つまり……」
「ホークアイの血筋は優れた魔女の家系でな。代々我がイーストエンドの守り手として我々王族に仕えてもらっているのだよ。だからこそ、我が国は魔女に関する書物も魔道に関する蔵書もふんだんに所有しているといったわけだ」
「あー……、つまりアメストリスには内緒で魔女を保護していた、と」
「まあ、イーストエンドにはイーストエンドの流儀があるということだ。全てが全てアメストリスの言いなりでは一国として不甲斐ないだろう?」
「ま、そうですね……。そのへんは国同士の事情でボク達には無関係ですのでまあいいとして。えーと、なんで『姿変え』なんて面倒なこと、するんですか?」
「釣りの保険と言ったところかな?私とエドワードで釣れればよし……なのだが、アルフォンス、君の方に魔女が現れる可能性もあるだろう?」
「まあ、そうですね。ボクと兄さんの運命は重なっているはずなので」
「だが、君の運命の相手は……」
アルフォンスは「はあ……」とため息を吐いて頷いた。
「目下のところ見当たりません。さっきまで王宮内をうろついてみたんですけれど、これが運命だと感じるような人は皆無でした……」
ロイはわかっているとばかりに頷いた。
「そこでホークアイが代理だ。彼女なら万が一君のほうに魔女が現れたとしても魔女に対抗することが可能だし、君の護衛もできる」
「えっと……女の人に守ってもらうのは男としてちょっと不甲斐ないような気がするんですが……って、ああ、そのためにホークアイさんの姿を男に変えるんですか?」
わざわざそんなことをしなくてもいいのに、とアルフォンスは首をかしげつつ眉根を寄せる。
「いや……。単に可能性の問題だ」
「可能性って何?」
聞いたのはエドワードだった。
「君たちが、金の瞳に金の髪。そして私が黒髪だ。ならば、本来のアルフォンスの運命の相手も黒髪ではないかと思っただけなのだよ」
「へ?」
「エドワード、アルフォンス。君たちは本来は女性なのだろう?それなのに、魔女の呪いで男の姿になっている。ならば、そこに意味があるのではないのか……とだね」
ロイはゆっくりと考えを巡らせた。
「多分……、確証はないのだが、魔女にとっては黒髪の男と金の髪の少年の組み合わせに意味があるのではないのか、とだね。まあ、違っているかもしれないのだがね」





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