小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
差し出された手を魔女は見つめた。差し出された手の意味が理解できないのではなく、そこに手が差し出されたこと自体がわからないようだった。
いや、手を手として認識していないのかもしれない。今まで見たことも聞いたこともない何か不思議なものが唐突に何もない空間から出現したのを訝しむようでもある。警戒をしているのかもしれない。魔女はしばらくの間ただじっとロイの手を見ているだけだった。何も、言葉を発しない。他に何も見ない。陶器で出来た人形のように、身じろぎ一つしなかった。
しばらくの後、不思議そうに、細め首を傾げた。
「どうして、なの……?」
ぽつりと繰り返す。
それしか言葉を知らないかのように。
ロイは差し出した手はそのままに、魔女に問いかける。
「何が『どうして』なのか、私に教えてくれませんか?貴女は私に何か聞きたいことがあるのでしょう?何を聞きたいのでしょうか?」
ロイは丁寧にゆっくりと尋ねていく。顔も声も穏やかさを保ったままに。
「私には貴女が何を聞きたいのかがわかりません。ですが、貴女は本当に何かがわからずにいるのはないのですか?貴女は私に何を聞きたいのか。それをはっきりと告げてください。そうすれば、きっと私にも答えることができますから」
この場にいる誰もが魔女が何を聞いているのかわからない。
しかし、魔女が本当に何かがわからずにいるのだ。
それだけは、ロイにもエドワードにも理解は出来ていた。
何が聞きたいのか、それがわかれば。そうすれば、何か道が開けるのかもしれない。
ロイはにこやかに、紳士的な態度を崩さない。エドワードは混乱を抱えたままそれでも魔女に対応しなければと気を取り直しかけた。
アルフォンスやホークアイ達は冷静に、ガードを固めたまま魔女やロイ達を取り囲む。
「答えてくれるの……?」
魔女が初めて「どうして」以外の言葉を発した。
「ええ、私が答えられるものであれば」
ロイは慎重に言葉を繋ぐ。
もう、時間は少ない。
ここで魔女を取り逃がすわけにはいかない。
内心の緊張感は微塵も表には出さずにロイはゆっくりと笑みを作る。
「……答えて、欲しかったの。ずっと答えてはくれなかった。貴方が答えてくれさえすればわたしは……」
魔女は目を歪めた。辛そうに。悲しそうに。
「何をお聞きになりたいのでしょうか?」
魔女はロイの手は取らずに、自分の右手で自身の左手首を掴んだ。掴んだ手が震えている。かたかたと、小刻みに。聞きたいことがある。けれど、それを聞くのが怖いのだとロイは直感的に理解した。
「全て、正直にお答えしますよ」
優しく、答える。
正直、魔女が何を聞きたくて、どんな答えを望んでいるのかなどはわからない。
けれど、魔女にかけられた呪いを解くことに繋がるのであれば、そのためにいくらでも対話を続けてみせよう。
チャンスを逃す気など欠片もない。
エドワードを死なすつもりもない。
魔女がどんなことを聞いてこようとも対処できる。
そう、ロイは確信していた。
けれど。
「どうして貴方は私を捨てたの?私の何が悪かったというの?再来月には結婚式も挙げる予定だったでしょう……?私の一番好きなライラックの花の季節に。なのに、何故……、どうして、私じゃなくてその人達を選んだの……?」
ロイは咄嗟には何も答えることは出来なかった。
魔女は、ロイをひたすらに見つめ続ける。
そしてエドワードは。
すぐには魔女の言葉の意味がわからなかった。
けれど、じわじわと、言葉の意味が沁みてくる。
――再来月に結婚式……って、えっと誰と誰が結婚するんだ?
――魔女はコイツに尋ねてる。ってことは……コイツと……魔女が、か?
心の中でエドワードは自身に問いかける。
――えっと、ちょっと待てよ。コイツはオレに、出会いがしらにプロポーズとかかましてきたよな。なのに、魔女にも結婚式挙げるとかそういうことを言ってたってわけか?冗談だろ……。
茫然と、エドワードは魔女とロイとを見比べる。
魔女は必至の表情だ。嘘はついているようには思えない。
結婚の約束を交わしたロイが、魔女を捨て、そしてエドワードを選んだ。その理由をどうしても知りたいのだと必死になっているようにしかエドワードには見えなかった。
一方ロイは。さすがににこやかな顔のままとは言えないが、真っ直ぐに魔女を見ていた。目も逸らさない。
「君は、私がエドワードを選んだ理由を知りたいというのかね?」
口調も先ほどの優しげなものから硬いものへと変わった。
「……ええ、知りたいの。どうしてわたしじゃ駄目なの。答えて欲しいの」
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