小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
今更告白などされなくても花村の気持ちなんかにはとっくに気が付いていた。
なぜならこいつは非常にわかりやすい。
小西という先輩に、花村が恋をしていた頃は、そりゃあもう尻に尻尾がくっついてそれをぶんぶんぶんぶん振りまくっていた大型犬の如しで一目瞭然という体たらく。
そんな花村の尻尾はいつからか俺に対して振られるようになっていた。ついでに喜色満面きらきらの瞳で相対された。あからさまなこの態度で相棒という立場で常に接していればわからないほうがおかしいというものだ。
だから、花村が俺を好きだということなどとっくのとうに気が付いていた。
分かっていて、さりげなく告白などされるのを回避していたわけなのだが。俺は努めて無表情に花村を睨む。本当にどうしてこの期に及んでわざわざ愛の告白などしてくるのだ花村の馬鹿め。
俺の機嫌は外気温なんかよりも寒くなっている。
冬の突き刺さるような寒さ。
吐く息は白い。
けれど時折、風は春の温かさも運んでくる。
今はまだ冬だけど、もうすぐ、春、なのだ。
「好きなんだけど。あのその……相棒とか親友とかそういう意味じゃなくて。えっともちろん相棒で大好きだっつーのも気持ちでもあるんだけどそれだじゃなくてそれ以上というかなんというかその……」
しどろもどろぼそぼそと告げられる。俺は返事など一言もしないでただ花村を睨み続ける。
睨めば睨むほど花村はますます小さくなっていく。
「お前の返事はわかってるっていうかその……いきなり俺からこんなこと言われても驚くだろうけど、その、どうしても今のうちに言っておきたくなって……」
言い訳ではなくて本心なんだろうけど。今まで言わなかったのならこれからも言わなくてもいいじゃないかと俺は盛大に文句を言いたい。
ホントコイツはがっかり王子だ。
今のイマサラで告白などしてきやがって。
明日には入院していた叔父が無事に退院する。菜々子もおそらくもう少しで退院するだろう。
もうすぐ。
春になって。
そして俺はここから出て行く。
叔父の家に世話になるのは一年限り。
もうすぐ。
間もなく。
花村とも物理的に離れて暮らすというこの時期に。
告白などしてくるんじゃないっ!
そういうわけで俺は最高に機嫌が悪かった。
主に花村のタイミングの悪さについて。
好きだという感情については文句など欠片も無い。
だって俺だって花村が好きで好きでどうしようもなかった。
相棒とか親友とかそういう意味ではなくて、もちろん相棒で大好きだという気持ちも当然のごとく確固としてあるが、それだけではなくそれ以上でつまりは即物的に言ってしまえば肉体的なアレやコレな関係をむすんでしまっても構わないくらいには好きだ。不純同性交友的な意味での好きである。
だけど、そんな感情は本気かもしれないが青春の一時の過ちかもしれないだろう?男が男を好きになる。別に俺はホモの人ではないのだ。
テレビの中に入ってシャドウを倒して。そんな非日常を共に過ごしている普通ではない状態でつり橋効果的に友情を恋愛感情と取り違えていることだって考えられるだろう?まあ俺はそうじゃないけれど。
仮にそんなことは関係なく本当に好きで好きでどうしようもないとして。
俺は、もうすぐこの町を出て行く。
両親のもとで暮らして、そして花村とは道が離れて行く。
遠距離恋愛なんて続けられる人も世の中には居るんだろうけど。
俺は、そんなふうに花村の恋愛が続くとはこれぽっち思わない。
あれだけ好きだった小西先輩への想いをしっかり昇華して、そして次に好きになったのがこの俺。
いなくなった人を想い続けるのは難しいだろう?
好きだった気持ちがなくなるわけじゃないだろうけど、花村はきっと今でも小西先輩を好きだったことを忘れてはいないだろうけど。
きっともう心のどこかにその感情はきっちりとしまわれてしまっている。
それと同じことが起こらないとは言えないだろう?
今、俺のことを好きだと思っていても。
離れて暮らしてその感情をいつまで持ち続けていられるんだ?
離れていても友情ならば続くと思う。毎日毎日メールだの電話だのしなくても。一年や二年の間音信不通でも。久しぶりにでも会えたらすぐに昔に戻ってあたりまえの友達顔で話をする。
友達ならそれも可能だけれど。
一年や二年会えない恋人に対しての感情はそうじゃないだろう。
ましてや俺達は来年高校三年生だ。
受験時期に恋人などいたところで恋人中心の生活など出来ようもない。
気になるのは志望大学に受かるかどうかその一点のみ。近くに恋人がいたところで心の距離は遠くなる。
ましてや男同士で、遠距離で、受験期で。
しかもそのまま大学も同じところになど行くはずもない。
だったらこのまま告白などしないままで、相棒のまま春を迎えて離れよう。
そう思っていたというのに。
「ええと、その、ごめん。でも……一応鳴上の返事とか欲しいかなって……」
告白をガン無視されてれば身の置き所がないのだろう。俺はため息を一つ吐いて口を開く。
「花村の好きという気持ちは友情ではなくて恋愛感情だということは理解できたが、その上で俺に何を望む?」
「へ?」
「1、告白してそれで気が済んだ。2、OKの返事が欲しい。3、手とか繋いだりデートとかしてみたい。4、キスとかそれ以上もしてみたい」
「え、えええええええっ!?」
顔赤くなってる花村にとどめの一撃を加えてやる。
「5、俺を押し倒すとか俺に押し倒されるとか、とにかく肉体関係を結びたい。さあ、花村の気持ちはどれだ?」
「う、あ……、あのその……」
意地悪く五択にして問いかけてから俺は勝手に結論を出してやる。
「答えは6番、全部です。……そーゆーことだろうなあ花村?」
「う……あ、その、な……」
どもるな馬鹿め。どうせ頭の中ではあれやそれやの不純同性交友がラインダンスでも踊っているんだろうに。
まあ、花村ばかりを責められない。俺だってそうだ。
花村への恋心を自覚して、花村とそう言うことをする妄想など何度抱いたことか。そしてその後何度頭を抱えたことか。
青少年どころか性少年だなどとオヤジギャグで自分を誤魔化そうといて更に落ち込んだことだって俺の記憶に新しい。
仕方がないだろう。
好きだイコール触りたい。
思ってしまうのだから仕方がない。
とりあえず、煩悩を断ち切ろうかと座禅など組んでしまったこともあるが、無意味だった。
座禅くらいで悟りは開けない。
本能の欲求のほうが強い。
なんとかその下半身直撃の本能やら妄想やらと抑え込んで、友情で相棒という顔を作って春を迎えられれば。
そうすれば、物理的に花村と離れることができる。
離れれば、こんな感情など薄まると信じてこれでも俺なりに努力に努力を重ねてきたというのに。
春目前のこの時期に。
何故、どうして。
告白などするのかこの馬鹿村め。
ホントお前は空気を読まないがっかり王子だ。
黙っていれば美形なのに。口を開くなコノヤロウなどと言いたくなる。
……言わないけど。
無言のまま、俺はひたすら「う……」とか「あ……」とか喘いでいる花村を睨む。
「で?答えは?俺の予想通り6番てことで正解?」
「そ……、そう、です」
ごめんなさいとぼぞぼそと告げる花村に、盛大なため息をお見舞いしてやる。
「……じゃあ、来い」
最高潮に不機嫌だという声音で告げて、俺は花村に背を向けてさっさと歩きだす。
「来いって……、ちょっと相棒どこに行く」
焦って俺を追いかけてくる花村を背中で感じながら、それでもすたすたすたひたすら歩く。
行く先は決まっている。
世話になっている叔父の家。
今は俺一人しか住んでいない家。
「したいんだろう?」
「う、うん……」
「なら、今日しか時間は無いから」
「へ?」
俺は唐突に足を止める。お約束のように俺の背中にぶつかる花村が混乱しているうちに一気に言う。
「友情的な意味で好きだとか恋愛感情的に好きなのか思春期の暴走なのかはそんなことは俺にはわからないがとりあえず俺にとっては花村は結構特別で、そのお前が俺のことを抱きたいというのならば身体くらい差し出して足くらい開いても構わないし逆にお前が俺に押し倒されたいというのならば突っ込んでも構わないけどどういう意味で好きなのかと問われても俺はわからないと答えるしかない」
ノンブレスの句読点なしで言った。演劇部とかに入って発声練習をしていた甲斐があったというものだ。
息を吸って続けて言う。
「そこで、だ。まあ花村と一線を越えてもいいんだが、俺達には時間が無い。明日には叔父が退院する。つまり俺は叔父の面倒を少々見るというかお前よりも叔父の方が優先で、そうしているうちに菜々子も退院してくるだろう。すると俺は春までの残り少ない時間を『家族』と過ごすことになる。というか、花村には悪いが俺的にも菜々子優先であの子が望むことを何でも叶えてやりたいとか思っているうちに花村のことなど考える余地は無くなる」
息を吸う。そして吐く。
背中を向けているので花村がどんな顔をしているのかわからないけど。
「だから、今日を含めて俺が両親のもとに帰るまでの短い時間、俺がお前だけに避ける時間は今日限り」
「え……」
「恋人には成れないが、今日一日くらい俺をお前にやってもいい。好きなこと、しろよ」
そして再び勝手に歩きだす俺。
花村は茫然と突っ立ったままだった。
かなりすたすた歩いた後に、全力疾走のダッシュで花村は俺に追いついて、それでもって俺の肩をぐいっと引っ張った。
「な、るかみそれ、おれのすきに、し、て、いいって、おまえおれに、なに、されるか、わかって、いって、るのか、よ」
ぜいぜいはあはあと荒い息を吐きながら花村が俺を睨む。掴まれて肩が痛い。
俺も負けずに、睨みかえす。
「……ああ」
花村はチッと、舌打ちをした。
「考えて、もの喋れよ。好きなことしろって……。俺がお前のこと抱きたいとか言ったらいいって答えるのかよ」
苦々しい視線が肌に突き刺さる。
「もちろん。今さっき俺はそう言ったが?」
「……恋人には成れないって言ったクセに、身体とか差し出しちゃうわけ?」
俺も好きだとか、したいとか、そう言うことは一切言わないし顔にも出さない。
「俺は別にどっちでもいい。だけどお前がしたいんならさせてもいい」
「……誰にでも、そう言うこと言って受け入れちゃいそう何だけどお前ってば」
そう言うの嫌だと花村の顔が言う。
「誰にでもってことは無い。花村は特別」
「あ……」
「好きか嫌いかだったら好きだ。どのくらい好きなのかと言われればすごく好きと言える。ただ、その好きだという感情の分類が行き過ぎた友情なのか恋愛なのかわからないだけだ」
表情は動かさない。目も逸らさない。
「お前が、本当に俺のことが欲しいというんなら、その望みくらい叶えてやりたい。俺が出来ることなら何でもしてやりたい。その程度には好きだ」
「う…、あ……」
耳まで赤いぞ花村。大丈夫か、などとは言わずに畳み込む。
「今日だけ。限定でよければ、俺はお前のものになってやってもいいよ」
一回だけ、それでそれを思い出に。
いつか、花村が俺のことを忘れて、別の誰かと恋に落ちて結婚とかしてとしても。
俺はちゃんと相棒という顔つきで、お前のことを笑って祝福してやれるから。
一度だけ、お前の熱を俺にもらってもいいだろう?
言わないけど、俺はお前が好きだから。
ちゃんと恋をしているから。
だけど、お前が俺のことをこの先もずっと好きでいてくれるなんて信じることは出来ないから。
だから、今だけ。
本当のことは言わないけど、今だけ俺をお前の恋人に、しろよ。


②へ続く
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