小説・2

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■ 第一章 その4 イケニエ前夜編 ■


とりあえず追っかければいいんじゃないのかとフジ君に言われたとおりに、オレ達はその美形の男の後をつけて行く。
男はオレ達なんか全然気にしないでがつがつがつがつ石段上がって行かれますが。えーと、気がついてない、ワケはないと思うので、歯牙にも掛けられてないっつーカンジなのかなまあいいけど。ドラゴンの焔もなんとも思わない、電撃魔法も効かないんだからそりゃ周囲なんて警戒するわけないか。
一応オレ達は警戒しつつ上へと急ぐ。
城のてっぺん付近まで来たなって思ったら「ぴいっ!」ってトカゲ……じゃなくてドラゴンのぶーちゃんが鳴いた。
「あれえ?ぶーちゃん?」
のほほんというか呑気というか、そんな声が向こうの部屋のほうから聞こえてきた。あー、居た。このムカツク声は川村だ。
「なんでこんなところにいるのかなあ?だめだよーぶーちゃん。ちゃんとみんなの所に帰んなよー」
「ぴいぴいぴいっ!」
「いっからユウっ!さっさと来い。こんなところから出てくぞっ!」
「あー、しょーごサンだあ。どーしたの?」
「どーしたじゃ、ねえっ!お前こんなところでのんびりしてねえでっ!」
「だってのんびりする以外にすることないもん。おれ、明日になったらイケニエさんになるからさー。さっさと寝てもいーんだけど最期の夜に寝ちゃうのもったいなくて」
……相変わらず馬鹿みたいな声。明日になったらイケニエ。最期の夜。明日になったら死にことわかって居やがるのに危機感なんか欠片もない。やっぱ、この声聞くとムカつく。だけど。
「ねー、桐哉隊長」
つんつんつんと、りっちゃんが俺の肩を突いて小声で言う。
「あの子、今さ。……あの美形サンのコト『しょーごサン』って呼んだけど……、『省吾』って名前におれ聞き覚えが……」
「へ、りっちゃん知り合い?」
「じゃなくて。ねえ彰浩。『省吾』なんて言う名前であんなすごい防御魔法って……」
「ああ、多分あの男、あの勇者様だと思う」
「へ?」
ゆーしゃってあの『勇者』?ってことはアレか?この国今まで何度も救ってきた勇者様があの美形?
「そんなわけ……、だってあの馬鹿と勇者様が」
知り合いってわけは……。
「でもあの子、ドラゴンと仲良しみたいだし。勇者様とも知り合いでもおかしくないっていうか……」
「えーーーーーーーっ!だってりっちゃんっ!オレとあの馬鹿とオレの兄貴、ずっと一緒に暮らしてきたのにあんな美形しらねって言うか今まで一度も見たことないっ!」
思わず大きい声で叫んだ。
「しーっ!桐哉隊長声がおっきいっ」
そうりっちゃんに諫められて慌てて口塞いだけど遅かった。
「あれえ?とーやの声がするー」
仕方がなしに、「よお、川村……」とか返事して、俺は川村のほうへと向かって言った。
「なんで桐哉までいるのー?」
「なんでって……、一応オマエ助けに来たんだけど」
「助けるって?なんで?」
「そりゃあ……、お前死んだら兄貴が悲しむじゃん」
川村は少しだけ嬉しそうに「おれのこと、恭也さん悲しんでくれるかなあ……」なんてぼそっと言って。
「でも、恭也さん泣いてくれたら桐哉が慰めてあげてよ。くやしーけどおれはもうイケニエさんになるし。そういうの、桐哉に譲るね」
「譲るも何も兄貴は元からオレのモン。……じゃなくて、オマエが死ぬコトねえだろ?ホレさっさと逃げるぞ」
「……行かないよ。ううん、行けない。おれはね、ここに居て、ちゃんと明日イケニエになる」
川村は、表情を改めて、オレ達を見回した。
「来てくれて、ありがとう。最期に会えてよかった。ぶーちゃんも省吾サンも……桐哉もさ。嬉しかった。えっと、後ろの二人のヒト、知らないけどありがとね」
月の光に照らされた川村の顔は青白くて。まるでもうこの世の人間じゃないかのように静かだった。
オレと兄貴を取り合って喧嘩してる時の顔じゃない。
全てを諦めて、いや、覚悟決めてる顔。
でも、目の縁が赤かった。きっとオレ達が来るまで泣いてたんだろう。涙の痕がある。
怖いんだろオマエ?なのになんでイケニエなんてモン引き受けたんだよ。
コイツがイケニエになるってこと、オレは全然知らなかった。オレはもうとっくに徴兵されちまってたから。そこで、もうすぐイケニエになるヤツが現れるからそれまで戦って生き残ればいいんだって、そういうカンジで前線に送られる兵士の雰囲気がなんか少しずつ明るくなるにつれて、その生贄の噂、色々聞けるようになって。
だけど、だから、知らなかったんだよついこの間まで。
コイツが、川村が、その生贄だってことなんて。
知ってたら、兄貴とコイツ連れてどこまでも逃げたのにさ最初から。
「……なんで、ユウがイケニエなんかになるんだよっ!」
オレが言う前に、勇者様、なのかなコイツ、ええと、省吾とかいう美形が川村の腕つかんで怒鳴ってた。
「オマエが死ぬことねえじゃねえかっ!イケニエなんてオマエが逃げてもどっかの知らない誰かにならせりゃいいだろっ!」
知らない誰かが生贄として犠牲になってくれるのなら。
それなら兄貴は泣いたりしない。
少しは心が痛むかもしれない。だけど、知らない誰かが犠牲になるのなら、その相手に感謝をささげてそれで終わり。
だけど、イケニエになるのは知らない誰が、じゃなくて。この川村だ。
コイツは小さい時に兄貴が拾ってきたんだ。それでオレが嫉妬に駆られるくらい今まですげえ可愛がって育ててきた。オレだって、コイツのコトは正直ムカつくけど、死ねとまでは言いたくない。
「恭也ってヤツ、オレの所まで来たぜ。オマエを助けてくれって。すげえボロボロになりながら。なんの力もない普通の人間がオレの住処までなんて来れないっつうのに、すげえ必死になって」
「……恭也さん、が?」
「あああ、もうごちゃごちゃ言わねえでさっさと来いっ!このオレがオマエくらい守ってやっからっ!」
だけど、川村は首を横に振った。
「……じゃあ、余計に逃げられないや」
あはは、と小さく笑う。悲しそうに、涙が一筋だけ零れて落ちた。

「預言者様がおれの住む町に来て言った言葉はね『この町に住む青の一族の血を引く男を魔物に捧げれば、魔物の脅威から助かることが出来る』なんだ」
「何を、言って……」
省吾とかいう男は川村が何を言い出したのかわからなくて戸惑ってるみたいだけど、オレにはわかった。
……だから、か。川村がイケニエなんて引き受けたのは。
ため息を吐き出しそうになって、でもそれをぐっと飲み込んだ。
そうか、川村は、兄貴を……。
「おれはね、この髪の色見ればわかると思うけど、青の一族だよ。別におれも直系とかいうわけじゃないけどきっとこの髪とか目の色とかは先祖がえり的なものだと思うけどね。ついでに言えばおれたちの住む町に青い髪の人間自体はおれ一人しかいない。だけど……」
青の一族の血を引く人間なんてもうそもそもほとんどこの世界に居ないはず。文献にちこっと残っているか、その一族の人間がそう記憶しているくらい。だけど、そういう人間だって自分が青の一族だって認識なんてないだろう。血なんてもうとっくの昔に薄まっている。直系の人間なんてもういない。昔々の大昔に滅ぼされちまった一族だしな。
「だけど、青い髪じゃなくても、青の一族のヒトは居るんだよ。おれが逃げたら、次にイケニエになるのはその人、だよね」
「いいじゃねえかそんなもんオマエじゃ無けりゃっ!」
「ううん、省吾サン。おれの住んでいた町にはね。その数少ない青の一族の人間がおれ含めて3人いるんだけどね。……どっかの知らない人じゃなくて、後の二人の内の一人はおれの一番大事な人。だから、おれがイケニエになるんだ」
「……3人の内一人がお前でもう一人がオマエの大事なヤツ……っつーんならあと一人残ってるじゃねえかっ!」
オレらの町に住んでいる青の一族の、生き残り。
川村と、オレと、兄貴。
同じ一族だから、きっと兄貴は川村を拾ってきた。
血は薄くても、それでもどっか繋がってる親戚かもしれないじゃないか。それにこの子可愛いだろ?弟、なんてさ、桐哉がいればいーけどさ。でももう一人くらい居てもいいだろ?なんて兄貴は笑った。
「……その一人はオレ、なんですよ。勇者様」
「はあ?」
いきなり話に割り込んだオレに、美形サンは訝しげに睨みつけてきた。
「うん、そーなんだよ省吾サン。おれとね、恭也さんとね、そこに居る桐哉は青の一族。おれが逃げたら次にイケニエになるのは恭也さんか桐哉なんだよね。恭也さんがイケニエになるなんて冗談じゃないし。桐哉が死んだら恭介さんすごい悲しむからね」
「……川村が死んでも兄貴悲しむぞ」
「うん……。でも、三人のうち誰かっていうのならおれかなあって。桐哉死ぬのとおれが死ぬの、どっちがマシかなあって思ったらおれだよね」
「お、おまえなあ……っ!」
「あのね桐哉。桐哉が徴兵されてから恭也さん、ご飯とかもあんまり食べなくなったんだよ。おれの前では無理して笑ったりしてたけど、桐哉のコト心配していつも遠く見てる。夜とかもね、たまに飛び起きてる。大丈夫大丈夫桐哉は死なないちゃんと無事に帰ってくるって呟いて毛布かぶり直すけど、ね。徴兵されただけでこうだよ。心配でホントにすっごい痩せちゃったんだ。……見てられないくらい。……桐哉死んだら悲しむどころじゃないよ。恭也さん、後追いかけて死んじゃうよ。……おれ、そんなの嫌だ。恭也さんにはちゃんと笑っていてほしーんだよ。泣いたり悲しかったり苦しかったりして欲しくない。恭也さんが幸せになるためだったらおれ何でもする。桐哉が死んだりして恭也さんが後追っかけちゃったらおれも死ぬ。……だったらさ、最初からおれがイケニエになれば、死ぬのおれ一人だけですむ話なんだよね。桐哉ももう徴兵とかされないで済むし、ずっと恭也さん守ってよ」
自分の命よりも、コイツは兄貴が悲しむの嫌で。
オレはもう何にも言えなかった。
「……勇者様、行きましょう」
「テメエ何言っていやがるっ!オレはこの馬鹿連れて帰る」
「えー、行かないよーおれ」
頑固で頑固で頑固なんだよ川村の馬鹿は。無理矢理さらっても無駄だっつーのは一緒に育ったオレが一番よく知ってる。
「りっちゃん、」
オレはりっちゃんの手をとった。
「はいはいはいはい、よっと。いーよ隊長」
ホントは魔道、何種類か使えるんだよねりっちゃんは。普段は知られないように防御魔法しか使えませんみたいなフリしてるけど。
≪あのですね、勇者様。川村の馬鹿は頑固でこうなったら何しても動きません。だから、次善の策ってヤツに移行します。オレに手、貸してくれませんか?コイツがイケニエになる必要性、それ自体を無くしますから≫
りっちゃんにオレの声を、勇者様にだけ聞こえるようにしてもらった。
川村に聞こえないように。
オレの声が聞こえたのだろう、省吾とかいう勇者様は掴んでいた川村の手を離した。
ホントは川村連れて逃げられりゃそれで話は簡単だったんだけど。
クラーケンなんてぶっ倒すの、正直無理かなあとか思うけど。
目の前に居らっしゃる伝説の勇者様のお力借りられればまあ何とかなるんじゃないかな?
誰も死ななくていいように。
兄貴もオレももちろんこの馬鹿も。
「ユウ、」
「んー、なーに省吾サン」
「逃がすのは止めるが、他の手考えるからな。絶対死なせねえから」
「え……?」
「じゃあまた後でな」

いきなりふっと視界がおかしくなった。「ぴい」ってドラゴンの鳴く声と「てめーはユウの側に残っとけ」っていう声がすごく奇妙に響いてあれ?とか思って。

そうして気がつけば、川村が居た城の一室じゃなくて、既に外。空は明るくなり始めている。朝が、近い。
ええと、これ転移魔法ってヤツか?
「で、オマエ。クラーケンだとかなんだとか、ユウがイケニエなんつーモンにならなくていいようになんか策あるんだろうな?」
めちゃめちゃ睨まれてますけどええと。
「すみません、何にもないです」
「ああ?」
「とりあえず、クラーケンなんてもん倒せば生贄の必要無くなりますから、倒せばいいやって思ってるだけで具体的な策とか浮かんでませんすみませんけど」
「あー、そっかよ。そんじゃ、テキトウに倒せばいーんだな?」
ええと、倒せるのかな?コノヒトご病気とかじゃなったっけ?
「メンドクセエ上にオレとは無関係な海側の魔物だから放置しておいたのがな。……まあいっか、サクッと倒してユウ連れて帰れば問題ねえな」
サクッと?倒せるですかあれを。……だったら最初から倒しておいてれよ勇者だろうアンタっ!
なんか八つ当たり的な怒りが湧いてくるんですが?
というわけで、一応その八つ当たり、比較的抑えて叩きつける。
「勇者様。だったら初めからあんな魔物倒しておいてくれませんかね」
そうすればオレが徴兵されることもなくて、あの馬鹿がイケニエなんてもんにならなくてすんで。
つまりは兄貴が悲しむなんて事態、引き起こりはしなかったっつーんだよっ!
「あ?」
なのに勇者様はこうほざいてくださいました。
「なんでオレがわざわざそんなもん最初から倒さないといけねーんだよ」
「だ、だってアンタあの伝説級の勇者様だろうっ!今まで3回もこの国救ってんだから4回でも5回でも救ってくれてもいいじゃねえかよっ!」
いや、身勝手な意見だってのはオレにもわかる。わかるけど、兄貴悲しませる現状からすると3割くらいは八つ当たってもいい気がするっ!
「あー、それな。その『勇者様』っつーのがそもそもおかしいんだよ」
「へ?だってアンタ隣の国に軍隊一網打尽にしたり魔物征伐したりこの国救ってんじゃんっ!」
「結果としてそうなったってだけで、オレはオレの寝床に侵入してきた邪魔なヤツらを排除しただけだ」
「は、い?」
「勇者だなんだのと祭り上げてきやがったのは国王共だ。アイツら勝手にオレをそんなもんに仕立てやがってめんどくせーっての」
「へほ?」
「だから今回はなあ……。アイツらの思惑通りにまた勇者やらねえといけねえのかよって思うとすげえムカついたのもあってな」
「は、はあ……」
「海側なら別にオレの住処に無関係。国なんていくらでも滅べっつーんだよどーでもいい」
「そー……、ですか」
あの、この国の人間なら赤ん坊でも知って崇め奉っている伝説の勇者様の真実がこれか。
あー……、朝焼けってキレーだなー。あー兄貴と一緒にこういう朝焼け一緒に見たいな~なんて逃避していいかオレ?
はあ、と思いっきりため息をつく。
「ま、でもユウがイケニエになって死ぬなんて冗談じゃねえから。クラーケンはぶっ潰す」
「………………………………ヨロシクオネガイイタシマス……」
いつどこでどうやって川村と勇者様が知り合いになったのかなんて聞く気力も失せて、オレはその場にしゃがみこんだ。


→その5 兄貴編に続く
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