小説・2

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■ 第一章 その5 兄貴編 ■

ついこの間まで。この狭い家の中で桐哉と川村君がぎゃあぎゃあ騒いで。俺はそれ苦笑しながら諫めたりして。
声が、いつでもしてた。
笑い声も怒鳴り声もいつも。

なのに今は俺一人。

静まり返った部屋の中は自分の家じゃないみたいだ。
桐哉は、徴兵されて、多分今頃魔物と戦っている。
桐哉からの手紙には後方支援で物資の運搬みたいな仕事してるよだから安心して兄貴、なんて書いてあったけど。
噂ぐらい流れてくるんだっての馬鹿桐哉。
何その隊長とかっていう名称。桐哉隊長?似合わない。
手柄立ててどんどん危ないところに回されて、そのうち魔物と対峙して死んじまったらどうすんだよ。
徴兵なんて、俺が行けばよかったのに。
俺が行くって言ったのに「兄貴は足、うまく動かないだろ?オレが行くしだいじょーぶ」なんてカッコつけやがって。
そう、俺の右の足はあまりうまく動かない。
前の戦乱の時に隣国の兵士に切られたから。
その時俺が死ななかったのは川村君が居たからだ。
ブルードラゴンを使役している……、というのはちょっと違うか。ドラゴンが、なんか川村君の面倒見ているっていうカンジなんだけど。青の一族だからかな。
青い髪と青い瞳の俺達の一族は、ドラゴン族と近しいんだってさ。だから、かなりの昔に滅ぼされた。脅威だってカンジでさ。
まあ、そんなのも大昔の昔話で今じゃほとんどの人間が知らないことだろう。文献くらいには残ってんのかな?まあでも滅ぼされた一族の、生き残りって言ってもなあ……、血なんて薄まっている。青い髪なんていないだろっていうくらい。俺だって、普段はそんなこと全然気にしてない。髪の色だって目の色だって俺のも桐哉のも青なんかじゃないし。ただ俺達のじーさんが昔話みたいにいろんな事話してくれたから。多少は知ってる。そんな感じ。だって綺麗だよね。青い髪に青い目なんてさ。めったにそんな人間見たことないし。ドラゴンと近しい一族なんてかっこいいなあとかまあそんなカンジでホント面白がってじーさんの話聞いてただけだし。川村君は青い髪に青い目だけ運良く生き残ってた直系なんだろうか?だからドラゴンが懐いてる?
……そんなわけないか。外見の特徴は単なる先祖がえりって感じだろうなぁ。でも、何故だがドラゴンが川村君に懐いてる。
おかげで俺は助かったけど。ドラゴン見て、俺に剣振るってきた隣国の兵士のヒト、慌てて逃げたから。
俺も死ぬかと思ったけどね、ドラゴンに食われるとかでさ。
なのに「ぶーちゃんお腹すいたよおれー」なんてのんきな声がしたから俺は川村君に持ってた食料と水あげて。
「わー、ごはんだー」
なんてにぱっと笑った顔が可愛くて。
「君、どーしたの?一人?親御さんは?」
うっかり髪なんか撫でてみちゃったんだよね。俺の足、結構切られて血がだらだら流れてたけど、そんなのもいったん保留にしてさ。
「んー、父さんと母さんは居なくなっちゃった。おれ、ずっとひとりで木の洞の中に居てね」
この子、洞に隠してご両親は兵士に殺されたとかかな?わかんないけど多分。
「それでね、おれ、山で迷子になっちゃったらねぇ、ぶーちゃん達の居る所まで迷いこんじゃって」
……ドラゴンの生息地に迷い込んで……、無事、だったんかこの子。うわあ……。
「それからねえ、ぶーちゃんがおれの面倒見てくれてんのー」
あー……、そですか。
「でもねー、冬になってきたら食べるモノとか少なくなるし寒いしどーしよっかなーって。山の中って寒いんだねぇ」
「……じゃあ、俺の所においで」
「え?」
「君、青の一族だろ?俺もだし。家にはもう一人オレの弟が居てさ、同じく青の一族の血引いてるよ。だから親戚みたいなもんだろ君と俺と俺の弟は」
「えー、いいの?」
「うん、おいで。一緒に暮らそう」
「あ、でもぶーちゃん……」
……さすがにこのでっかいドラゴン一緒に連れて町に帰ったらパニックだよな。
「えーと、君さ、このドラゴンと仲いいんだよね。だったら小さくなるように命じてくれる?」
「ちっさくって……、ぶーちゃんちっさくなれるの?」
「ドラゴンは伸縮自在のハズ……だし」
確か昔、俺のじーさんとかがそんな話をしていた気がする。あれ?どーだったかな?記憶違いじゃないと良いんだけど。
「ぶーちゃん出来る?」
ドラゴンはものすごい咆哮上げた。うわっ!俺の肌、鳥肌立ってる。こ、怖いかもっ!っていうか腰ぬけそうですがうわあっ!
なのに。
「ぴ」
ぴって何その可愛い声は。別の意味で腰が砕けそう。
「わー、ぶーちゃんかわいー」
「びい」
照れたみたいにぴいぴい鳴いているドラゴンミニサイズ。あー、これならだいじょーぶ。
それで川村君とぶーちゃんとかいうブルードラゴン連れて俺は町に戻った。怪我した俺の足はテキトウに服裂いて包帯代わりにして、川村君に肩借りてなんとか戻れたってカンジだったんだけど。……結局その時の後遺症で、今も俺は足を引きずって歩いている。
ドラゴンのぶーちゃんは川村君の傍にいたり、ドラゴンの生息地に帰ったりと、気の向くままに行ったり来たりしてた。
だから、イケニエに、川村君が選ばれた時。ドラゴンは居なかった。
……居たら、逃がしたのに。逃がすことが出来たのに。
俺の足じゃ、国に役人に連れていかれる川村君、引きとめられなかった。逃がすことなんて出来なかった。
俺がイケニエになるって言ったのに。
川村君は自分から進んで役人の前に行った。
俺も青の一族だって俺は叫んだ。
だけど。
とっくに血が薄れて青の一族の外見的特徴なんか欠片もない俺よりも、青い髪に青い瞳の川村君のほうを役人に人たちは連れて行った。


そうして俺はこの家で、一人。

川村君はイケニエになって。
桐哉は徴兵されて前線で戦って。

おかしいだろ。そんなの。なんで川村君も桐哉も俺の傍に居ないんだよ。
ついこの間まで二人が喧嘩してって言うかじゃれ合うみたいなカンジだよな。うん。兄弟じゃないけど兄弟げんかみたいなカンジじゃねえか。俺はそれ、苦笑しながら見てるの結構好きだった。
笑うのも喧嘩するのも諫めるのも。
三人そろって暮らすのが、楽しかった。
なのに、なんで俺はこんなところで一人でいるんだよ。

魔物なんてものが出たからいけない。
だけど俺にはそんな魔物を倒す力なんてない。
魔道も魔法も剣も、特殊な力なんて何にもない。
……出来ることなんてない普通の人間。

だけど。
引きずる足でも歩くことが出来る。
身体も、足以外はそれなりに丈夫だと思う。病気だってめったにしないしな俺は。

出来ないことのほうが多いけど、出来ることだってある。

この家で、一人きりで。
悲しんだり泣いたりする前に出来ることを、する。

桐哉を、死なせない。
川村君を、死なせない。

その為に俺が出来ること。

さすがに青の一族の血を試すのは危険極まりない。ドラゴンの生息地行ってぶーちゃん以外のなんかのドラゴン手なずけるのは無理無謀。行ったところで食われて終わりの確率が高い。
ぶーちゃんに川村君連れて逃げてって頼むのもな。だって、ぶーちゃん今どこに居るのかわからない。まあ多分、ぶーちゃんは居なくなった川村君探しに行ってるんだろうけど。見つけたら絶対に守ってくれると思うんだけど。イケニエに捧げられる前にぶーちゃんが川村君発見できるかどうかなんてわからない。

だったら俺が出来る残された手段はあと何があるだろう。
俺は必死になって考えた。
時間は、あまりない。
連れていかれた川村君はすぐには生贄として捧げられたりはしないけど、禊とかいうのやらされて。預言者だか星見だとかなんかが生贄として川村君捧げるのに一番適している日付を占って。それからだ。
残された時間は少ないけど、だけど、まだいくらかは、ある。

その間に俺が出来ること。
考えた。

この国には、勇者と呼ばれる人が居る。

どこに住んでいるのかなんて詳しくは知らないけど、国境付近の切り立った山の奥で静養しているっていうもっぱらの噂。
色々な伝説が実際に起こった場所。前に隣国が俺達の国を滅ぼそうと進行してきた時、その時、勇者様はその進軍ルートの付近に住んでいらっしゃった。……多分、俺の右足切られたところからもっと山の奥に入って行ったあたりだと思うんだけどな。住んでる場所、あれから移動してなければだけど。
だけど、ある程度、居住地は推測できると思う。町とか人里とかには住まないってことだし。
魔道とか使う占い師に、居住地探してもらうのはきっと不可能。
勇者様はあまり普通の人間とは交わらないらしい。あんまり崇め立てられるの好きじゃないのかな?フツーに暮らしたいのかな?わかんないけど。勇者様の力のほうが強すぎて、結界張ってるのか魔道とかはじくのか、そのお姿を確認することも出来ないんだって。だから占い師にも居場所とかわからないらしいんだけど。
……でもさ、ソレ逆手に取ればいいんじゃないかな?前に俺が右足切られたあたりで、魔道が通じない、結界が張られているような場所っていうの探せばそこに勇者様いらっしゃる可能性高いんじゃないのか?俺はそう思うんだけど。勇者様の居所教えてください、っていうのは無理でも、結界とか張ってある場所探すのだったらそれなりの占い師でも可能だろ。
その場所に行けばいい。勇者様に会える可能性は高いと思う。
行こう。
俺は家を出て歩きだした。
上手く動かない俺の足だけど、充分だ。
引きずっても、遅くても。一人で歩くことくらいはできるんだ。

俺には魔物なんて倒せないけど、倒せるはずの勇者様がいらっしゃる。歩けばいつかはたどり着く。少なくとも国内なんだから、きっと間に合うはずだ。いや絶対に間に合わせる。

勇者様はもう身体がボロボロで、魔法も魔道も使えない瀕死状態って話だけどでも。
ごめんなさい。助けてください。
勇者様が死んでも何でも俺は川村君と桐哉が生きてくれたほうがいい。
身勝手な願いを聞いてくれるはずなんかないだろうけど、俺に出来ることなら何でもするから。命だって捧げるから。

どうか、勇者様。
二人を助けてください。



→その6 優太編に続く

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