小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

■ 第一章 その7 桐哉徴兵前後編 ■

「ねえ、とーや。お城から徴兵令っていうの、出されたんだって。知ってる?」
「ああ……。一家から一人、軍に男手差し出せっていうやつだろ?」
「うん。海にね、魔物が出て、兵士の人とかすっごい一生懸命戦ってるっていうんだけど……」
「徴兵令なんて出るのは、それだけ兵士の人とか魔物にやられて死んでるってことだよな。そんで人手、足りなくなったからオレらみたいな一般市民さえ投入ってことだろう?」
「そー……だよね。でも、軍人さんとかと違っておれたち戦うのなんで出来ないから。怪我した人の手当てとかそーゆーののお手伝いとかだよね?」
そう言いながらも川村の顔は暗い。多分わかってる。徴兵なんかされたら手助けどころか多分前線送りだ。魔物と、戦って、そんで……。
嫌だなって正直思った。だけど、徴兵令。逃げたら、どうなる?っていうか逃げられるのか?足の悪い兄貴と、このどんくさい川村連れて?
……無理、かも。
それにきっと兄貴は俺が長男なんだから俺が行くとか言いそう。あー……やだな。兄貴にそんなことさせたくねえなあ。
「っていうかさあ、オレ、兄貴にそーゆーのさせたくない。だからオレが行く」
思わずオレは声に出した。
川村が、じっとオレを見てる。
魔物が出て、兵士の人とかどんどん死んで。
国を守るためにはオレらみたいな一般市民が徴兵されて訓練されて、そんでもってきっとその先には魔物と対峙だ。
兄貴にそんな危険なことさせてたまるかよ。
「だからオレが帰ってくるまでの間はオマエが兄貴守ってくれよな川村。あ、でも抜け駆け禁止。兄貴に手出したらぶっ殺すかんな」
半分冗談みたいにでも結構本気で言ったら、川村はなんだか下を向いて眉根寄せてる。川村のペットのトカゲが心配したみたいに「ぴ」と鳴いた。
「……おれが、行くよ。恭也さん、桐哉が行っちゃったら悲しむから」
「オレが行こうとオマエが行こうと兄貴どっちにしろ悲しむだろうけど、仕方ねえだろ一家から一人必ず徴兵っての義務だし。だったらオマエよりオレのがマシ。知ってんだろ?オレそれなりに剣とか使えっし、それなりに強い」
「そりゃあ……、腕っぷしとか体力だったら桐哉のほうがおれより……だけど」
「だけどなんだよ」
「…………恭也さんと桐哉は兄弟だから。おれは、ちがうし」
下向いて唇かみしめる川村の、その青い頭をペシっと叩く。
「兄貴悲しむからそーゆーコト言うなよな。ムカつくけど兄貴にとってはオレもお前も単なる家族」
「とー……や、」
「まあそのうちオレのほうが兄貴に大事にしてもらえるようになるけどなっていうか兄貴はオレのもんだしな。でもまあ、小指の先くらいだったらオレの兄貴お前にも貸してやっからさ」
「なんだよそれっ!恭也さんはおれのっ!」
「あー、はいはい言ってろ。でも残念でした~。兄貴はオレのもんだからなー」
いつもの、ケンカ。
オレと川村は兄貴を取りあってぎゃあぎゃあ騒ぐ。
こんなのもしばらくできなくなるんだなと思ったらちっとまあ、ちっとだけだけど、寂しい気がして。
「……兄貴のこと、頼むな」
なんてさ、だめ押しみたいに言っちまった。
「……うん、わかった。じゃあその代わりに桐哉、ちゃんと無事で帰ってきてね」
「あー、もちろん」

……そんなこと、言ったせいかもしれない。
川村が、魔物のイケニエなんかになっちまったのは。

オレが徴兵されて、そんでもって隊長とか呼ばれるくらいにまでなっちまって。そのころ、知ったこと。

あの川村が魔物のイケニエ。

生贄になんであの馬鹿が選ばれたのか、そのホントの理由なんてオレはもっとずっと後から知ったんだけど。
オレたちの町に住む青の一族の男がイケニエになるなんて川村に再会した後あいつから聞かされたんで、この時オレはしらなかったんだけど。

だけど、だから。

オレのせいも少しはあるかなって思ったんだよ。そうじゃなきゃあいつが自分から進んでイケニエなんてもんになるはずないだろう。
守れって、兄貴を守れって言ったのはオレ。
兄貴のこと頼むなってさ。
言わなくてもあいつも、兄貴のことすげえ好きだから。兄貴を守るためなら自分からイケニエくらいにはなっちまうんだろうケドな。


だけどな。

責任の一端感じるし、それに。あの馬鹿が死んだら兄貴が悲しむ。

だから。


「りっちゃん、それからフジ君」
「んー?なあに、桐哉隊長?」
りっちゃんとフジ君はオレの一応部下っていうカンジになってるけど部下っていうよりは徴兵された後に知り合った友達みたいなもんだ。
「……ちっとさ、オレの個人的な頼み、聞いてくれねえかなって」
「いいよー。ね、彰浩」
「ああ、律がいいならいい」
「……まだ何頼むかとか言ってねえけど?」
「だって隊長がおれたちに頼みなんてめっずらしーから。しっかも個人的な頼みってさー、隊長にとってすっごく大事なことなんでしょ?隊長の顔見てればそのくらいわかるし。おれたちに出来ることなら何でもするよー」

にっこり笑ってくれたりっちゃんのその言葉にオレは息を吐く。
うん、大丈夫だ。
あの馬鹿、絶対に死なせない。

「……助けたいやつがいるんだ」

兄貴を泣かせるようなことは絶対に起こさない。



→その8 第一章そろそろ完結編にワープ!
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