小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

■ 第一章 そろそろ完結編 ■


「テメ―っ!この馬鹿ユウっ!泣いてるくらいなら大人しくイケニエなんかになってんじゃねえよっ!」
閃光が、空を切り裂くのかと思った。
真っ二つになった魔物の身体が、崩れるように海に沈む。津波みたいな高い波が押し寄せる。あー、一般兵士のみなさんとかにも高台まで逃げとけって指示出しててよかったなー。じゃなかったらみんな波にのまれて死んでたよ。でも波はともかく瘴気がすごい。海岸の辺りからこんだけ離れてるってーのに、息が出来ないくらいキモチワルイ。りっちゃんが一生懸命瘴気を中和するための呪文唱え続けてるけど追いつかない。
オレは口と鼻を覆った。
開けている片目が酷く痛む。
だけど、その片目で確かに勇者サンと川村の馬鹿の姿を捉えた。
茜色の空を悠々と飛ぶブルードラゴン。
その背の上に立つ勇者サンと、その勇者サンに抱きかかえられている川村を。
「助けてくれって言えばいいじゃねえかっ!あんな魔物くらいすぐにぶった切ってやるっつーんだよっ!」
なんて叫びが空のほうから降ってきて。……あーのー、ですね。勇者サン。
こんなにあっさりと、倒すとは思いませんでしたよオレも。

サクッと一閃。
なぎはらって終わり。

……さ、さすが勇者様と言うべきなんでしょうかねー?
ああ、しかして。あれだ。
ドラゴン従えて、イケニエ救った勇者様の果敢なるお姿ってカンジで実に勇ましいって言うか神々しいって言うかなんてーか。
一般兵士の皆さまが口々に「おお、勇者様……っ!」だのなんだの言って、感謝の祈りをささげたり地面にひれ伏していらっしゃいますけど。
ううううう、実情は、違う。全くもって大違い。
ブルードラゴンはホントは川村ので。
勇者サンは孤高でも果敢でもなんでもなくて、ご病気とかいうのも国の役人の嘘っていうか方便っていうか苦肉の策っていうかなんつーかで。
……ホントは自分の身に降りかかる粉払うだけで、それ以外はメンドくせ-って言葉しか吐かないヒトだなんて言わない言わない言いたくない。

ま、川村無事で、魔物も滅んで。それじゃあこれで結果オーライ。

アイツ連れて兄貴の元に帰ればいっか。
そんでまた元通りの生活に戻る。オレはアイツと兄貴とり合ってぎゃあぎゃあ騒いで。
あー、なんかこー、そんなに昔のことじゃないんだけど無性に懐かしい。つうかぶちゃけ兄貴抱きしめて兄貴の匂いかぎたいなーなんてちっとヘンタイチックかオレは。まあいーじゃん。兄貴すげえ良い匂いするんだもんなー。あー兄貴が恋しい。抱きしめたい。
その兄貴はええと、勇者サンの言によれば勇者様んとこに置き去りらしい……。えっと、迎えに行ったほうがいいかなあ。なんてのんびり考えてたけど。考えてたからかな?兄貴の幻覚が、見える。
「桐、哉……っ!」
幻覚なんかじゃなくて本物の兄貴がそこに。すっげえずたぼろになって、ただでさえ悪い足、いつもに増してもっと引きずって。
「あ、兄貴っ!勇者サンのトコロに置き去りになってたんじゃ!」
ねえのかよっていいかけたんだけどオレは。
「川村君は……っ」
兄貴が泣き出す一歩前の顔するから。オレは慌てて兄貴に向かって全力疾走。崩れ落ちかけた兄貴の身体、抱きしめて。
「大丈夫。勇者サンが助けてくれたし」
ホラあそこって、空を指さす。ブルードラゴンがゆっくり旋回しながら地上のほうへ降りてくる。
多分ここに。
オレと兄貴が居るところに来てくれるだろう。
「そ、っか……、よかった……」
「兄貴、勇者サンの所まで行って頼んだんだって?無茶すんなぁ……」
「だって俺が出来ることって言ったらそれしかないって思ったし。俺は川村君も桐哉も死なせたくないから」
「うん……」
あー、もう。ホントに兄貴ってばさー。面倒見いいって言うかなんて言うか。見捨てたり、しないんだよね絶対に。オレのこともあの馬鹿ことも。すっげえ大事に想ってる。何も力なんてないのにさ。寧ろ、足引きずって歩くくらいでハンデ負ってるのに。
――俺の足は不便になっちまったけど、それが何?不幸とか憐れまれる種類のモンとは違う。
可哀想って誰かに思われるたびにそんなこと言って。
――そんなのどうでもいいだろ?俺には桐哉っていう弟が居て川村君て可愛い子も家族で。三人で一緒に居てすっごい幸せだろ?
そういう兄貴だから、オレは兄貴が大好きで。
川村も、きっと助けてもらって育ててもらった恩とかいうより単純にこういう兄貴が好きなんだよな。
あー、またこれで。元のぎゃあぎゃあ煩い生活に戻れる。
兄貴とり合って騒いでってさ。
いーじゃねえか、それで。十分楽しくて幸せだと思う。まあ、兄貴がオレのモンだってことは譲らねえがな。

……とか思っていたってのに。

ゆっくりと、ドラゴンが舞い降りて、川村は兄貴に向かって「恭也さああああああんっ!」とか叫びながら走ってくる。
兄貴も川村の馬鹿の所まで必死になって走って行って。
そんで。
「川村君の馬鹿っ!」
思いっきり、川村の頬叩いた。
「きょーや、さん……?」
兄貴はすげえ顔で川村を睨みつけて。そんでいきなり滝のように泣きだした。
「え、え、え、恭也さん泣かないでっ!」
焦っておろおろしている川村の頬をもう一回兄貴は叩いた。
「誰が俺のコト泣かせてるんだよっ!川村君のせいなんだからなっ!」
怒鳴って、そんで思いっきり川村抱き寄せた。
「イケニエなんて、死ぬなんて冗談じゃないっ!」
「きょーや、さん……」
「川村君死んだら俺は泣くよっ!めちゃくちゃに泣いてこの世儚んで、後追ってやる……っ!」
「え、え、え、だって……」
「だってじゃないっ!うるさい馬鹿っ!」
ぎゅうぎゅうに抱きしめて、ボロボロに泣いて。あーあ、しっかたねえなぁ。
「川村。兄貴な、死ぬほどオマエのコト心配したんだよ」
「だって……、おれだって恭也さん死なせたくないし、それに桐哉が死ぬよりおれのほうが……」
「まーだそんなこと言ってやがんのかよオマエほんと馬鹿だよなー。こんなにオレの兄貴泣かせてそれでもそーゆーこと言える?」
敵に塩、贈ってるようなもんだけどま、いっか仕方がねえしな。
「か、川村君も桐哉もっ!俺の大事な家族なんだからなっ」
兄貴はもう喋ることなんか出来ないみたいに泣きまくって。
川村は川村で、そんな兄貴を驚いたようにしばらく見つめて。
「ご、ごめんなさ……、でも、おれね、おれ……」
川村の馬鹿も兄貴と一緒に号泣。

二人が落ち着くの待って、それでオレは「じゃー三人でオレらの家に帰ろっか」とか言うつもりだった。
つもりだった。
その、予定だったのに。

泣きやんだ兄貴はまず、勇者サンに跪いた。
「川村君を助けてくださってありがとうございます」
……ここで、無言で立ち去ってくれたりしたらホントの『勇者』ってカンジでかっこいーとか思うのに、な。
勇者サンは低い声で兄貴にこう仰いました。
「『何でもするから助けてくれ』オマエそうオレに言ったよな」
「はい。俺に出来ることならなんでも」
あのさ、勇者サン。あんた川村の馬鹿助けてくれたのって……兄貴が頼んだからなんだろうけど、なんだろうけど……、ちょっと待てよ。兄貴が、何でも、する?なんでもってなんでもって……、あ、兄貴に惚れたから川村助けたとか言わねえよな。言わねえよなぁあああああっ!
オレは無言で剣を構える。
兄貴になんかする気なら、相手が勇者だろうがなんだろうがぶっ殺すっ!
だけど、勇者サンは川村の阿呆の腕を取って。
「こいつ、オレに寄こせ」
短く、それだけを告げた。
は、い……?
コイツって、川村?オレに寄こせって、勇者サンに寄こすってええと……?
ちょっと混乱。
「は……?」
兄貴もちょっと思考停止状態混乱中ってカンジで、ぽかんと口開けて。
「だから、ユウの馬鹿をオレの嫁に寄こせって言ってる」
オレと兄貴はそのまま全停止。
「えーーーーーーーーーーーーっ!ヨメってなにしょーごサン!おれ、おとこのこーっ!」
「知ってる。まあ、嫁は比喩だ」
「ひゆ?」
「オマエの命救ったのオレだろ?」
「あ、うん。ホントにありがと省吾サン」
「だからオマエはオレのモンだろ?」
「へ、そーなるの?」
「そーなんだよ。一生守ってやるからオレの傍に居ろな」
「えーっと……?」
そうなのかなあ?って首かしげてオレと兄貴を川村は見るけど。
すまん、予想外の展開に、オレと兄貴は混乱中で。二人で口あんぐり開けたまま、だ。
「じゃーそういうことで。コイツは連れて帰るから。そのうち里帰りくらいはさせてやるから安心しろ、じゃあなっ!」
勇者サンは川村抱きあげて、すげえご機嫌な顔で、そのまま消えた。
「あー……、てんい、まほー、だ……」
ぼけっと、オレは空眺めて。手にしてた剣の行き場がなくてぷらぷら振って。
未だにクラーケンの死体が発する瘴気で恐ろしいほど濁った空。だけど、空のてっぺん辺りには少しだけ青い色が見えて。
「ぶーちゃん、どーしよっか……?」
青いドラゴンにぼへーっと話しかけてみたら、ぐぉおおおおおおおおってカンジの咆哮が。
「あ、そ。ぶーちゃんは川村追っかける?川村が笑顔なら別にいいけど泣き顔だったらあの男喰っちまう?」
ぐわああああああああああって咆哮が、ちゃんと意味のある言葉に聞こえる。オレが、ドラゴンの声聞けるようになったんじゃなくて、これきっとぶーちゃんが親切にちゃんとオレに向かって告げてくれてるんだろうなあ。
「あー、そう。じゃーそういうことでよろしくー」
ばっさばっさと翼広げて。ぶーちゃんは飛んで行かれました……。
ええと、きっとそのうち。勇者様がドラゴンに乗って現れて、クラーケンなんつー海の魔物ぶった切って倒して、それでまたドラゴンに乗って去って行ったとかいう伝説が国内外に流布するんだろうなあ……。
あー……、ええと、事実と噂とか伝説とかってホントは何なんだろうなあ。国の偉い人がテキトウに都合のいいように捏造するのかねぇ……。ま、いっか。
遠くを見る。もうぶーちゃんの姿も見えなくなった。


残されたのはオレと兄貴。
ええと、そんじゃ兄弟二人水入らずの、ラブつき生活に入りますかね。
なのに。
「じょ、冗談じゃ、ねえっ!い、いきなり川村君の意思無視して嫁?」
ふつふつと怒りの感情が湧いてるみたいですがあーにーき?
「そりゃあ俺は何でもするって言ったけどっ!川村君を勝手に嫁に持って行くなんて冗談じゃないお父さんは許しませんっ!」
お父さんて誰よ?あー、兄貴落ちつけ落ちつけどうどうどう。
「兄貴ー、それ川村の阿呆が自分から『いーよ、おれ勇者様のお嫁さんになるー』とか言ったらどーなの?」
「川村君の意思で嫁に行く……って言うより勇者様に惚れたとか言うのなら反対はしない。だけど、そうじゃないなら連れ戻す」
「ああ、そーなのね」
「勝手に連れていきやがってあの勇者……。俺の可愛い子を勝手に……」
可愛い子、ね。完全に親の気分になってんだろーなー、兄貴は。……ってことはオレがあの馬鹿のおかーさん?
……なんか、違う。逆じゃねえ?オレがおとーさんで兄貴がおかーさん。で、アイツがオレ達の子供っつーんならまあ良いけど。
ちょっと妄想入りそうになって、オレは慌ててぶんぶんと首を振る。
「ええっと……、じゃあ兄貴、川村の意思確認しに行く?それともぶーちゃん待つ?」
まあ、あのドラゴンがわざわざ報告に来てくれるとは思ってはないけど。
川村の意思に反することなら、あれだ。ぶーちゃんが勇者サン喰っちまうだろ。
あー、でも腐っても勇者様だから、えーと、おっそろしいほどの戦闘とか起こるかなー?そんなんの傍に兄貴連れて行ったら命落としかねないなあー……、仕方がない。
「りっちゃん、フジ君。悪いけどオレと兄貴、勇者サン追っかけるからあとのフォローよろしく」
一応オレまだ軍属だし。
勝手にどっか行ったら脱走兵で銃殺コース。それは嫌だ。オレは兄貴と幸せな一生送る予定だ。
「それはいいけど、でも桐哉隊長。あれ、あっちみてよ。国王様ご一行こっちに向かってきてるんだけど……」
「え……」
「とりあえず、ほら。隊長は剣さっさと仕舞って。それから跪かないと……不敬罪」
そんなことしている間に川村君が手籠めにされるーって叫んだ兄貴をちっとばかり押さえつけて、一応オレ達は地に頭つけて平伏した。

ご苦労であった感謝するとかなんとか。国王だの国の偉い人だのがなんかのたまって下さってますけどオレはいらいらしている兄貴抑えるので必死だった。
この功績を持って、隊長からなんかオレは二階級特進扱いで出世するとかなんとかかんとか。
川村の今後も保証するとかどーのこーの言われたたけど、まるっと全然聞いてなかった。
なんとか話の隙を狙って、勇者サンとイケニエだった川村を追いかけないといけないって言うことだけ話して。
そんでもって、どの道国王ご一行も勇者サンに話があるとかなんとかで。
国王直属の魔導師のヒトに転移魔法掛けてもらって皆さまとご一緒に勇者サンの住処に辿り着いた時には。
辿り着いた時、に、は。

……思いっきり、川村が、勇者サンに手籠めにされてる最中で。
半裸で。
首周りとか胸辺りに赤い痕とかべっとり付けられてるけどまだ途中っていうか現在進行形なんだろうなあコレはってトコロで。

あーうー……。

どうしろっていうんだよこの状況。
兄貴は「ぎゃあああああ」って叫んで川村を勇者サンから引き剥がすし。
川村は川村で「えっとえっと、あのねー、省吾サンちゅーとかすごい上手でおれ気持ち良くなっちゃってびっくりなんだよー」とか空気読んでねぇ発言しやがるし。
ぶーちゃんは我関せずですぴすぴ寝ていやがるし。
オレは必死になって国王ご一行様にこの状況悟られないように、コッチに入ってこないでくださいねっ!って怒鳴りまくって。

そうしているうちにいつのまにか、寸止め喰らって超不機嫌な勇者サンと兄貴のバトルが繰り広げられちまってますし。

あーうー……。も、どうにでもしてくれ。



三十路伝説・第一章 完結!




→ 第一章 りっちゃんのお願いもしくは受難の隊長編へワープ!

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