小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。


などと考えているうちに警察の事情聴取も終わり、まあ何とか本日一日終了。
寝て起きれば朝が来る。
とりあえず明日は夏目と話でもしてみよう。

少しだけ心が浮ついてしまうような気がするが落ちつけ私。
多分これは保護欲だ。
そう、昔の私が的場に辛酸を舐めさせられたために、同様の力を持っているような夏目に、私のような目に会わせたくはないとまあそういう感情だ。
それに、夏目は私の生徒である。教師が生徒を守ろうとするのは当然の感情だ。
それ以上でもそれ以下でもないはずだ。
決して彼の何か訴えているような視線や、力不足であるけれど、持っている力があるのだから何かしたいと前向きに妖などにもかかわっていこうなどという健気な心意気に何やらもやもやと言葉にできない気持ちを抱えているわけではない。ましてや髪の毛が柔らかそうだなとか頬に触れてみたいだとかあの華奢な身体を抱きしめたら折れてしまいそうだななどとは思ってもみてはいないいないいないのだ。

……言い訳の三重奏など自分で自分に突っ込んではみるがいかんせん、教師と生徒の一線を越える気はない断じてないきっとない多分ない。

まあ、この件については一端保留しよう。
直視しなければいずれ……自然とどうにかなるに、ちがい……無い……かな?
とりあえず、夏目を的場の目に触れさせてないように、それだけは心がけよう……と、ちらとでも的場のことなどを考えてしまったのが敗因だったのかもしれない。

途端に、見透かされたようなタイミングでケイタイが鳴った。

まさか、とは思ったが、予想通り「的場」とケイタイには表示されている。
放置しておきたいが……放置すればどのみち後で困るのは私だ。
のろのろと、通話ボタンを押す。
「……はい、名取」
「こんばんわ名取。依頼です」
息をのむ、が、その息を殺し、無理矢理飲み込んで低い声を出す。
「……何を、しろと?」
即座に簡潔な答えが返ってきた。
「金魚すくいを」
………………夏祭りの屋台に行って本当に金魚すくいをしろと言っているのではない。桜の樹の精霊が『夏至の日に金魚が湧く』と言っていた通り、あちらの、妖の、金魚の方だ……。
まさか、何かの術を行使して、先ほど起こった全てを見ていたのではないだろうか。
疑心暗鬼にかられるが、ここで私の方からそう問うのは得策ではない。
「『金魚鉢』や『虫取り網』など一応こちらにある道具は送ったのですけどね。ただ、『金魚蜂』もしくは『猫』は見つからなかったので……そのあたりは名取のがんばりに期待します」
「『蜂』も『猫』も無しで『金魚』を捕まえるということは私の腕を犠牲にしろというのことか的場?」
「これでも手は尽くしてみたんですが。『蜂』は既に絶滅してしまったようですし。『猫』はどこにいるのかわかりません。とすれば、まあ、素手で捕まえるとか、何か道具を考案するとかですね、それは名取に任せますが。とにかく夏至の日に湧くとの情報ですから。私の方で必要なのはたった一匹、ですが。もし複数捕まえていただけるのであれば名取の分の『金魚飴』をお作りしますよ。まあ、報酬はそれで。では、吉報をお待ちしております」
一方的に告げ、的場は勝手に電話を切ってしまった……。

引き受けるとは言っていない。
一言だって言っていない。
が、引き受けないと何をされるかわからない。
それに、『金魚飴』が報酬というのは魅力的だ。
どのみち、桜の樹の精霊に、夏至の日の金魚の話を聞いたところだったから、金魚退治はしないといけないとも思っていたし、それに金魚と捕まえるための道具が完全ではないがいくつか手に入るのはラッキーだと思ってしまえばいいのだけれど……。
「やっぱり釈然としない、な……」
ため息をつく。
猫……か。金魚を捕まえるための蜂は居ないとあらば、後は猫を捕まえるしかない。
だが、当てはない。
もしできなければ……この腕をエサにして、金魚を釣るしかないか……とは思うのだけど。
「私の腕をエサなどにした日には……この腕の肉など一瞬で無くなるが……」
金魚、と呼んでいるが、一般的な金魚ではない。
出目金のようなぷっくりとユーモラスな姿と、地金という種類の金魚の、孔雀が羽を広げたように開いたX字型の尾びれを持つので、『金魚』と呼ばれてはいるだけで。……実際には体調30センチから1メートルもあるかなり大きな異形のモノだ。
いや大きさは特に問題ではない。このサイズであれば寧ろ捕まえやすいと言えなくもない。
問題は……問題は、『金魚』が50~100匹ほどの群れで行動する肉食魚、だということだ。
肉食なのだ。
特に、人肉を好む。
そして生態は多分ピラニアに近い。
つまり、群れで、獲物に襲いかかるのだ。
そんな厄介な妖なのだ。
これを捕まえるには『金魚蜂』と呼ばれるスズメバチに酷似した妖の一種を飛ばし、その尾の針で『金魚』を刺して仮死状態にさせるか……、もしくは『猫』の属性を持つ妖に捕獲させるのが一般的ではあるのだか……。
的場に手配出来なかったものをこの私がどうやって捕まえられるというのだろう。
私の腕をエサにして、私の腕に『金魚』が喰らいついているときに何匹か捕まえて金魚鉢の中に放り込めと、そういうつもりでいるのだろうか的場のやつは……。
……いくらなんでも軽く死ぬだろうそれは。
ピラニアの住む川に腕を無造作に突っ込めばきっと骨しか残らない。
それと、同じだ。
冗談じゃない。
しかしもう『蜂』が居ないとあれば『猫』を捕獲するしかない。
夏至の日までに『猫』の妖を捕まえることができるだろうか……。

「…………………………………………無理だ」

世を儚んでもいいかな?
腕が無くなるならいっそその前に夏目を抱きしめてみようかな……。
「そうだ、夏目だ」
はっと、気がついた。
私と同じ、妖を見る、者。
彼も何やら妖に関わらなければいけいないような事情があるらしい。
もしかしたら、いや、可能性は限りなくゼロだろうけれど、夏目が『猫』か『蜂』のあてがあれば……。
いや、ないとは思うが、どこかで『猫』の妖を見たという情報くらいは貰えるかもしれないし。
「私が、夏目を手助けして、夏目に私を助けてもらえば……」
双方ともにメリットがあるというか……二人で障害を乗り越えれば、仲間意識・親近感・これを機にお近づきに……。
「ダメだ……。夏目を的場に近付けるわけには……」

などと思ってはみたが、結局うっかり夏目に『金魚すくい』と『猫』の必要性をもらしてしまい。
そして、あっさりと「えーと、猫の妖、ですか?ええと、多分、紹介できますけど……」と夏目に言われ。

そして今。既に私の前には。
猫ともタヌキともつかない怪しげなものが鎮座ましましていた……。
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