小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
ロイはその場で凍結していた。
むろん、周囲の雄叫びなどは耳に入って来ない。
硬直。
その一言に尽きた。
ただし、ロイの脳内だけは恐ろしいほどに回転していた。
このままではいけない。このままではエドワードとのウエディングベルが高らかに鳴ってしまう。
それは避けたい。
ではどうするべきか……。
これ以上もないほどの高速回転だった。
ここまで必死になって対応策を考えたことなどかつてない。
だが、淫行罪と未成年いう文言がラインダンスを踊っているところに、真っ当な解決策など思いつくはずもなく。

そうして、スーパーダッシュでエントランスホールからオフィスのある階へと逃げるように去るしか出来はしなかったのだ……。


「あの後が災難だったのだよアルフォンス……。あの日一日は全く仕事にならなかった。他の階のほかの企業の人間からも、ビルの清掃の人間からも、取引先の相手からも色々色々色々とだね、詰め寄られたんだ」
「そ、それは……」
なんと返事をしていいのかわからないアルフォンスはとりあえず、お茶を飲む。
「右を見れば、ロリコンだの犯罪者だと私を罵る者がいて、しかしエドワードは男だからロリコンというのは該当しないなど言ったところでそれではショタではなどと言われた日には世を儚みたくなるが、まあそれだけではなく、左を見れば『お幸せに』と涙で濡らしたハンカチを手にした女性職員が遠巻きに何人もいて……。ハボックは調子に乗って『リア充爆発しろっすねー』などとおもしろがり、そのハボックを抹殺しようとしたところにいきなり芸能事務所の社長だとか言う輩がやってきてエドワードを芸能界デビューさせたいから連絡先を教えろとか、エドワードが着ていたメイド服に感銘を受けてあれをサイトに載せたいので写真のサイトアップの許可をとか詰め寄るコスプレ少女がやってきたりと、もういっそ全員に『出て行け』と叫ぼうかと意を決した瞬間に、運よくか運悪くかホークアイが帰ってきてだな、『これでは業務が進みません……』と不機嫌になる…というか背後から私を呪うような目つきで見てきてだね……。まあ結局有象無象の団体様はホークアイが何とかしてくれたのだが……。……もうどうしろというのか……」
「それは、災難でしたね……」
「私が……私が何をしたというのだ……。あれは男で未成年だっ!婚約者などではないっ!私は……私は……子どもになど手は出さんっ!後ろ指を指されることなど何一つする気もないっ!」
立ち上がり、叫ぶロイにかける言葉もなく。
アルフォンスはやはりずずずずずずとお茶を飲むしか無かったのだが、既にお茶などは飲みつくした後だった。
ため息でもつきたいところであったが、ふと思った。
ロイは、ロイにつめよって来た有象無象の輩に文句は言っても、いきなりメイド服を着てロイのオフィスビルにやって来たエドワードをあまり責めはしていない。

――根本的な原因はウチの馬鹿兄にあるって言うのに、ロイ兄さんてば無意識にでもウチの兄さんを責めたりはしない辺りがもう終わってるよねえ……。
一言、ロイが本気で言えばいいのだ。
「エドワードの気持ちは迷惑だ」と。
それも口先だけで言うのではなく、心の底から本気で、付け入る隙などないほどに拒絶すれば、いくらなんでもさすがのエドワードでもロイのことをあきらめるに違いないのだ。
半端にエドワードを可愛がるからこういう目にあうのだ。
弁当を勝手に作ってオフィスまで持ってきた。そして、そのせいで騒がれた。
それが迷惑なら、持ってきた弁当など受け取らなければいいのだ。
二度と来るなと拒絶すればいい。
――なのにしないんだよね、ロイ兄さんってば……。
これまでずっと、エドワードの猛攻にため息をつき、アルフォンスに愚痴を言ってもそれでもロイはエドワードを可愛がっていた。
「アルフォンスもエドワードも私の弟のようなものではないか」
そう繰り返すのみだ。
出張で海外に行けば、何を忘れてもエドワードとアルフォンスへのお土産は欠かさない。
三日も会わずにいれば、エドワードの方からだけではなく、ロイの方からも電話だのメールだのが来る。
料理学校にエドワードが通い、そして今回の弁当を届けにオフィスまで行った以前にも何度も何度もロイはエドワードの手料理を食している。そんな時にエドワードは「頑張って作ったんだぜ?これとかこれとか……な、ロイ兄、こーゆーの好きだろ?」とか上目遣いで見上げる。すると、ロイは相好を崩して実においしそうにきちんと完食をする。そして、「おいしかったよエドワード」と言う。そしてそれだけではなくわざわざ自分から、「この美味しい手料理のお返しは何がいいかな?」などと付け加えるのだ。エドワードもエドワードで「じゃ、じゃあ、ロイ兄と……遊園地とか行きたいかも」と照れるように微笑むのだ。
そのときのエドワードはまさに天使だ。
アルフォンスも「うっ」と目を逸らしたくなるほどの破壊力である。食事のお礼に遊園地ってそれってまんまデートですよねなどとツッコミも入れられはしない。
可愛いと言わない者はいないだろう、破壊力すらあるエドワードのほほ笑み。
ロイが、愛おしいと思うのも当然だ。
だが、その愛はロイにとっては「親愛」であり、また、「友愛」であって決して「恋愛」ではないのだ。
エドワードは可愛い弟分だ。
小さな頃からロイの後をくっついて来たエドワードを切り離すことなどできはしない。
ロイは、思っていたのだ。
きっといつかエドワードも、本当の恋に目覚め、似合いの女性と結婚式を挙げるのだろう。
その時にはきっと、まるで父親のような気分で、エドワードの式に参列するのだろう。
そして、その結婚式の後、ホーエンハイムやトリシャといっしょに酒を酌み交わし、息子が大人になった気分を味わうのだろうと。
そういう意味で、ロイはエドワードが可愛くて仕方がないのだ。
そういう意味で、非常に気にかけて、大事にしているだけなのだ。
アルフォンスにもそれはわかる。ロイの感情を理解は出来るがだがしかし。
……こんな、なあなあな状態ではエドワードの方だって諦めるに諦めきれないだろうとも思うのだ。
意を決して、アルフォンスはきりっと前を向いた。
「ロイ兄さん。とりあえず、あと4年も経てば半分は解消です。少なくとも未成年に手を出す犯罪者ではなくなります」
「まあ、そうなのだが……」
冷静なアルフォンスの声に、ロイもやや自分を取り戻したようだ。
ドスン、と椅子に座り直し、腕を組む。
「そうだな……。エドワードもあと4年もすれば二十歳か……、そうすれば少しは大人になってくれるだろうから……。大人としての節度くらいは身につけてくれるかもしれん……」
夢を見るような目つきのロイに、アルフォンスはフルフルと首を横に振った。
「現実逃避しないでくださいロイ兄さん。ウチの思い込んだら命がけ、猪突猛進の馬鹿兄が、成人したくらいでロイ兄さんへの恋心を抑えるわけはありません。未成年というカテゴリが無くなればもはや犯罪ではない。つまり、うちの兄だって本腰入れて、ロイ兄さんのベッドにもぐりこんで一夜を共にして、既成事実をもってして、婚姻関係を結ぶに違いありません。どんな力技だって使いますよ」
断言したアルフォンスに、ロイは撃沈した。
「そ、それは……」
「寧ろそれがチャンスになりますロイ兄さん。覚悟はできていますか?」
「あ、アルフォンス……?」
チャンスとは何か。
撃沈し、テーブルに突っ伏したまま、ロイは目線だけをあげた。
「想像したくなくてもしてください。そうですね……例えば、ある日ある夜、成人式を越えて大人という身分を手に入れたウチの兄さんが、ロイ兄さんの部屋に入り込み、そして、一糸纏わぬ生まれたままの姿でベッドの上でロイ兄さんの帰宅を待っている、という場面ですが、」
「ちょ、ちょっと待てアルフォンスっ!」
「待ちません、考えてください。で、ウチの兄のことですから、そこで逃げようとするロイ兄さんを無理矢理ベッドへ押し倒してロイ兄さんの上に乗っかって、長年の思いを遂げようとします」
「私を犯罪者にする気がアルフォンスっ!」
「いいえ、ロイ兄さん。ウチの兄さんも成人式を越えた大人になっている設定です。未成年に対する淫行罪は成立しません。合意の上の行為と判断されるべきです」
「し、しかし……」
「あえて問題をあげるとすれば、同性同士の行為であるという点ですが、まあこれについては各個人の趣味の問題、となります。異性愛が一般的であり、同性のカップルは法制上の婚姻は不可能ですが、事実婚もしくは恋人関係というのであれば、同性同士の恋愛などもはや珍しくもありません。したがって、ロイ兄さんとウチの兄さんが既成事実を作ったところで合意であれば何ら問題はないということになります」
「う、うううううう……。し、しかし……、」
「まだ前提しか話していないんですからそうめげないでください。ウチの兄の性格は知っているでしょう?今までロイ兄さんと既成事実を結ぼうとしなかったのは『未成年に手を出したら犯罪だ』とロイ兄さんがそこだけは声を高くして叫んでいたからです。恋しい相手を犯罪者にするようなことはさすがのウチの兄もしませんから。……ただし、ウチの兄は思っているはずです。『じゃあ、未成年じゃなければ問題ないんだな』と」
「……我々は、男同士なのだが……そこは問題ではないのか……」
「言ったでしょう、それは個人の嗜好の問題だと。ロイ兄さんが同性同士の行為を拒否しても、うちの兄さんにはそんな禁忌はありません。というか寧ろこう言われるはずです。『オレは男が好きなんじゃなくて、好きになったロイ兄がたまたま男だっただけ』だと」
「う、ううううううううう」
突っ伏して唸っているロイに、アルフォンスは容赦なく、言葉を続けた。
「四年後には、今言ったことは確実に現実になります。ベッドに押し倒され、既成事実を作ろうとするウチの兄。……いいですか、さっきも言いましたけど、それがロイ兄さんの最大のチャンスなんです」
「……最大の、チャンス……ではなく、最大のピンチだろうアルフォンス……」
「いいえ、チャンスです。それも最大のチャンスです。いいですかロイ兄さん、覚悟を決めてください」
ロイはすがるような目でアルフォンスを見た。
「もしやアルフォンス……。何か起死回生の一手でも思いついたのか……」
希望に、ロイの虚ろだった瞳に力が戻る。
溺れるものは藁をもつかむ。
ましてやアルフォンスは藁ではない。
ナイロンザイルの命綱。
ひっし、とロイはその命綱に手を伸ばしたのだった。
「教えてくれアルフォンス……。エドワードと健全で正常な人間関係を構築し、いつかエドワードが真っ当にどこかのすばらしいお嬢さんとの人生を進めるような、そんな夢のような道を掴めるのならば私は何でもするつもりだ」
「ええ、がんばりましょうロイ兄さん。そして、そのロイ兄さんの夢を実現するためには、心を鬼にしてでもこれからボクが言うことを実現してください」
重々しく、ロイは頷いた。
何が何でもアルフォンスの起死回生の一手を実行してみせる。
その意気に、ロイは満ち溢れていた。
しかし……。
「兄さんの策略に乗ったふりで、とりあえず、大人しくベッドにウチの兄さん押し倒して」
「無理だ」
速攻での返事だった。
「そこはがんばって押し倒すんです。それで、服を来ているのであれば、それはえーと陳腐な表現ですが、雰囲気たっぷりに優しく服を剥いでやってですね……」
「ますます無理というものだ……」
「ここまではがんばってください。で、裸になってから、ウチの兄の股間に手を伸ばしてですね……」
ロイは蒼白になった。
アルフォンスは命綱ではなかったのか。
既にエドワードの買収でもされていたのか。
いや、エドワードもアルフォンスもそんなことはしない。しないだろう、しないと思いたいだがしかし……、と、先ほどまでの決意などもろくも崩れおちていたロイだった。
「エ、エドワードとはいえ自分以外の、そんなとこのモノなど触りたくはない……」
アルフォンスは「そこが大事なポイントです」とはっきりと言った。
「あまり具体的に言いたくはないんですけど、兄さんの……を触ってとか、ベッドに押し倒して足を開かせて、ロイ兄さんもですね、ええとその……臨戦態勢でウチの兄さんに、いざ挿入……という所まではしてもらわないとボクの作戦は無理なんですが、」
「そ、そ、そ、そ、そ、そんな行為を私がエドワードにするのかアルフォンスっ!」
びりびりと、窓が振動するほどの声で叫ぶ。
アルフォンスも、負けず劣らず叫び返した。
「ええですから寸止めしてください。実際に、致さなくていいんですっ!」
ぜいぜいとお互いに肩で息をした後、声のトーンを下げてアルフォンスが続けた。
「やってみないとわからないというのがうちの兄なんです。何事も全力でぶつかります。回避、は不可能なんです。ですからロイ兄さん、うちの兄との既成事実一歩手前まではいたすことが必要なんです」
「一歩、手前……なのか?」
「ええそうです。前向きに受け入れようとした、やってみた。けれど、気持ちはどうであれ、肉体的に受け付けられない。というか肉体的に発情しないから無理だ……と悲壮感たっぷりに告げてください。言葉と気持ちの上で愛があるとしても、肉体が反応しなければ……つまりはですね、ロイ兄さんがウチの兄の身体を見て勃たなければ事なきを得ます。そして言ってやってください。『結婚はする意志はあるのだが、この私の身体が反応しない。何度試しても同じことだろう。だから、今後の付き合いはプラトニック一直線となる』と……まあこんな感じで、やってみてダメなら兄さんも諦める……んじゃないかなっと」
ロイはじっと自分の掌を見た。
これで、エドワードの、ソレやアレを触る……。
押し倒して、挿入直前まで行きそして、抱けなかったという事実を作る。
たしかに、エドワードに迫られようが押し倒されようが何をされようが、肉体が拒絶するとあればエドワードだって別の人間と新たなる道を選ぶかもしれない。
そうは、思った。
だがしかし……。
「アルフォンス……」
ロイがアルフォンスを呼んだ声は低かった。地獄から這い出てくる幽鬼のようにおどろおどろしく響いた。
「はい、なんですかロイ兄さん」
ロイは、口を開け、そしてその口を閉じ。
喉が詰まったように息を詰め、そして深呼吸をしてまた呼吸困難になるというのを繰り返してからおもむろに告げた。
「うっかりその気になって、最後までいたしてしまったら私はどうなるんだ……」
絶望とか失望とか。
どんと暗い、ロイの顔と声だった。

「……は?」
寸止めをすればいいと言ったのに、最後までいたす……?
アルフォンスはロイの言葉の意味がわからず目をしばたたかせた。

「エドワードは可愛い。可愛いんだ本当に。あれが女性であったら……そうしたらきっと今頃私はエドワードを嫁にもらっていたに違いないんだ。未成年で、男だという点が問題で、そうでなければと何度思ったか……」
「は、はあ……」
「だが男だ。いくら可愛くて好みのタイプとはいえ未成年で男なんだ。だから、爛れた肉体関係などは……大人として理性を持って断固拒否せねばと思うのだが……」
「ええまあそーですねぇ、」
「だが、アルフォンス。実際に一糸まとわぬ姿でベッドを共にしたとしたら……。肉体的云々の話をするのならば勃たないなんてことはあり得ないと思う。むしろ、そのまま朝まで、いや、時間が許すならば何度でも何回でも擦って舐めて突っ込んで中を抉ってという感じでもう二度と離さなくなってしまうと思うのだが……、そうなったら私は……私はどうすればいいのか……」

自分以外のモノなど触りたくもないと言ったのはどの口か。
男同士は問題だと言ったのはどこの誰だ。

真剣になって、既成事実を作ってしまったらどうするのだと頭を抱えるロイに、アルフォンスは匙を投げた。

勝手にやってろ。
もはやどうでもよかった。

未成年だの同性だとのいうことを盾に逃げているだけじゃないのか。
馬鹿馬鹿しい。



そうして背後に気配を感じた。

ドアの向こうには満面の笑顔のエドワードがいて、親指を立てていた。

「アルフォンス、グッジョブv」



完敗。





終わり




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