小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
関白宣言


差し出されたのその皿に乗せられていたのは熱々のフォンダンショコラ。フォークを突き刺してみればとろりと熱いチョコレートが溶け出る。ストロベリーの酸味が程良く残されたソースと一緒に口に含めばもうそれは至福の一時。飾りのように添えられているのは一口サイズにカットされた焼きリンゴ。ほのかな蜂蜜の甘さとリンゴの酸味がマッチしてこれまた別の世界へと連れて行かれそうだった。
「今回のはかなり力作なのだがどうだろうか鋼の」
真剣に、発音で表現するのなら「しんっけんっにっっっ!」とばかりにそのフォンダンショコラを貪り食っているエドワードをロイは期待を込めて凝視した。
エドワードといえばロイの問いかけなどは欠片も聞いていない。ただひたすらそのフォンダンショコラを一身に貪っていた。まさに一心不乱にそのひと皿に立ち向かうという鬼気迫る感さえあった。
そして戦いに決着はついた。瞬殺にて完食であった。
「ううううう美味かったああああああああああっ!」
雄叫びである。凛々しくも立ち上がり、拳を天に掲げている。
「大佐っ!これ、これもう一つ食いたいっ!!」
きらきらと輝く金の瞳に、ロイはふっと満足げな笑みを浮かべながら、徐に二つの皿を差し出した。
「同じものをまた作ってもかまわんのだが、先にこちらを味わってくれたまえ。こちらはだね、苺に洋ナシ、ゴールデンピーチにキウイといったフルーツを生クリームに包んで作ったフルーツロールケーキ。そしてもう片方はクレームブリュレ。ただし単なるブリュレではないよ。生チョコレートをキャラメルムースで包み、更に底にビスキュイとゴーフレット敷き詰めたものなんだ。口の中でとろけるムースにサクサクのビスキュイの食感の違いがアクセントになる自信作だがどうだろう?鋼の、君のお気に召すといいのだが……」
ぱああああああっとエドワードの顔が輝きを増した。
「もちっ!ろんっ!だぜ大佐っ!うっほー、こっちもうまそうだっ!!」
いただきまーっす☆と言ったか言わないかのうちに、エドワードはフルーツケーキもクレームブリュレも胃に収めた。
「どーれーもっ!うっまいぜ大佐。アンタ本当にケーキ作らせたら天才なっ!いっそ国軍大佐から転職しろってくらいだぜっ!」
「はっはっは。喜んでもらえて何よりだ」
作るのに要するのは数時間。だが食べるのは一瞬だ。それでもロイの顔に浮かんでいるのは力作を本気で心から満足して食べてもらったという至極ご満悦な笑みだった。


ロイ・マスタング大佐の趣味はケーキ作りである。
ただし、作るのが趣味であってロイは甘党ではない。むしろ辛党なのである。味覚的にはアルコールとそのつまみ、つまり塩っけのある食べ物がロイの志向なのである。だが、ある時グレイシアにちょっと手伝ってと言われ、女性の頼みとあらばと気軽に手をさしたケーキ作りにはまってしまったのだ。
もともと素材をきっちり計って混ぜて作成するなどという過程は錬金術にも相通じるものがあり、面倒でも何でもないむしろ慣れているというところに始まって。単なる粉をこねていればこんなふうに完成するのかとか色々なケーキ作りの過程に感動を覚え、尚且つ作っている間は無心に作業に没頭してしまったなどなどなど。作業自体が面白く、そして気がつけば自分で色々と工夫をして、失敗作と成功したものの差を比較検討したりと街のケーキ店のパティシエ並みに作成しまくり、レシピ通りに作るのは面白くないと創意工夫を加え、またそれが成功するとさらに輪をかけて満足感を得られると、ロイはケーキを作って作っって作りまくった。はっきり言ってその作業過程がとても楽しい。仕事のストレスなどはケーキ作りで一発解消なのであった。が、問題が一つ。
作ったケーキをロイが全て食べるわけではない。
先に述べた通り彼は甘党ではないのだ。ホールのケーキを作ったところでロイが食べるのは一口分か二口分。それで味を確認して、上手く出来ていればそれでいい。したがって残されたケーキはといえば、司令部へと持ち込んで己の部下に半ば強制的に振る舞うのみだったのである。だが、ホークアイもヒュリーもハボックもファルマンもそしてブレダさえも、たまに甘いものを食すならともかく連日のように山盛りのケーキを振る舞われてしまえば。もう甘いもんなんて見たくもありません。大佐がご自分で作ったケーキならご自分で処理してくださいと言うようになってしまい。結果、作っても食べてくれる人のいない辛さを噛みしめるようになってしまったのだ。
そうして悶々としているうちに現れたのが、ロイの取っての救世主、エドワードであった。
「ん?甘いもの?ケーキとかドーナツとかアップルパイとか?んー、結構オレ食えるぜ?ナニ大佐、奢ってくれんの?」
というわけで彼が司令部に来るたびにロイはケーキ作りの腕を披露しているというわけであった。そして、エドワードも。最初は訝しげにしていたというのに一度食してみればその味にとりこになり、今までは必要最低限以上には立ち寄らなかった司令部に、「大佐のケーキが食いたくなって……」と照れ笑いを浮かべながこまめにやってくるようになったのだ。
そうして、今日も今日とてエドワードに新作のケーキを振る舞うロイである。
「ううううううううまああああああいいいいいいっ!」
じたばたじたばたとエドワードはフォークを握りしめたまま足を鳴らした。
「これっ!これが今回の一番んんんんんっ!や、最初のチョコが溶けて出てくるヤツも天に昇るくらいうまいぜもちろんっ!だけどこれは……ああああもう大佐サイコー、天才っ!!いくらでも食えるぜこのケーキっ!!ああもうオレ大佐大好きだー」

タイサ、ダイスキダ。
すっこーんと、その単語はロイの脳裏に突き刺さった。

い、いや、まてまてまてまてロイ・マスタング!!今の発言に他意はない。鋼のは単に甘いものが好きでケーキには目がなくて、だからそれを作った私にその、好きだと言ってくれたわけではなくて、そうだこれは愛の告白ではなくて。単なる食の嗜好だとも。ああ落ち着け、うっかり私も好きだなどと言ってもう二度と彼とこうやって過ごす時間がなくなるのは御免ではないか。
「あーもう、大佐天才!もーこれサイコー!ホントオレ大佐嫁に欲しい!!」
きらきらと輝く金色の瞳に見つめられれば。即座に同意したいところではあるのだが。焦ってはいけない。そのうえ気になる点が一つ。

鋼の。君が私の嫁になるのならともかく私が君の嫁か?

そこは突っ込みを入れたいところであったのだが。まずはと、にこやかにロイは対応した。
「そうだね。君が目的を果たした折には一緒に暮らそうか鋼の」
「うんうんうんうん一緒に暮らそうな大佐。オレのために毎日ケーキを作ってくれっ!」
食べ物に胃袋をわし掴みにされたエドワードはロイの心など知ってか知らぬか今食べたケーキが如何に美味しいのかを、そして未来にて二人が同居したら毎日のようにケーキ三昧の生活を送れる幸福を語り続ける。それをロイは笑顔で頷いていた。
ロイに取ってみれば己の力作をこんなにも熱く語ってくれるだけでも嬉しいというのにひそかに恋するエドワードが自分と一緒に暮らすということまで承諾をしてくれたのだ。恋人になってからプロポーズをして、そして一緒に暮らすという流れを一足飛びにして、初めに暮らす、それから口説き落とすになりそうだがまあそこは目をつぶる。エドワードとの結婚生活。それを甘く夢見ながらロイはエドワードの熱い語りににこやかに頷き続けていくのだった。

そして意思の疎通がないままに月日は流れた。

いつものようにロイの執務室にやってきたエドワードは、報告書ではなく何やらパッケージに包まれた小さな四角い箱をロイへと差し出したのだ。
「あのさ、大佐これ一応形かもしれないけど受け取ってな」
はにかんだような笑顔のエドワードから何やらわからないがプレゼントをもらってしまった。中身が何であれそれは嬉しい驚きだった。
「ありがとう鋼の。……開けてみてもいいかね?」
そしてその中には。シルバーのリングがキラリとした輝きを放っていたのであった。
これは……?と目を見開いたところに更にエドワードはもう一つ別のものもロイへと渡したのであった。
「それな、一応結婚指輪的に。サイズ合ってると思うけど、持っててくれると嬉しいかな。もちろん指にはめてくれたらいいけどさ。うん。そんでもってコッチが新居の鍵。えっとな、オレ達の住む家買ったからさ。というわけで大佐。いつでもオレの嫁に来いな!」
高らかにエドワードは宣言したのだった。
「は……?家……?」
「うん。やっぱさ家とか建てるとかさそーゆーのは男の務めだろ?オレ甲斐性なしじゃねーからちゃんと大佐くらい養えるぜ?余裕でな。稼ぎ良いしさ。なにせ国家錬金術師様だしなオレ。というわけで生活面に何の不安もねえからさ」
「……いや……そんなことは知っているか……」
私などは国家錬金術師の上に国軍大佐なのだがなどと当然知っているはずの事実を口にすれば何やら話がズレてしまいそうで、ロイはやや言葉を濁す。
「あー、だから例えばアンタが軍辞めてもダイジョーブって話」
「……私には目的があるから辞める気などさらさらないが……」
「あー、それそれ。それなんだけど。オレがさ、大佐の代わりに軍に入って民主化とか進ませるから。うん、最終的にはオレ様大総統になってみせっからさ。だから大佐はオレのために毎日ケーキを作ってくれっ!」
キラキラと輝く瞳でうっとりと見上げられればロイは言葉にうっと詰まった。

違う、何かが違う。

エドワードと結婚生活を行うというのは望むところだ。だが、違う。これは違う。
私が……嫁なのか?

キラキラとした瞳でロイを見上げるエドワードと意思の疎通の無いままに、ロイはとりあえず、詳細はあとで検討するとして、という前置きを心の中で飲み唱えに唱えて。
「結婚しようエドワード!」と結論だけを述べたのであった。


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