小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
サブタイトル「オレ様の辞書に『情緒』という文字はない(あっても左足で踏みつける)」



理想と現実は違う。
愛の告白にロマンを求めた私が悪かったのだろうか?
いや、そんなことは……ない、はず、だ……。

そんなことを想いながらもロイ・マスタングは撃沈した。

話は数刻前に戻る。
こんなシチュエーションをロイは考えていたのだ。……身勝手な妄想ではあるのだが。

「返事を。……鋼の?」
いつもは胡散臭い笑顔しか浮かべないようなヤツが真剣な眼差しでオレの気持ちを求めている。オレは狼狽の余り口をパクパクと開け閉めするのが精いっぱいで。だってこんな目で見つめられて。こんな声に名前を呼ばれて。
言葉が出ない。身じろぎもできない。大佐から目を反らせない。
「君は……私を、どう思う?」
吐息がかかるほど近くで、囁かれる大佐の声。乞われるように甘く、低く。じんわりとオレの中に浸透する。
「鋼の?……返事を」
動揺で、まともに思考が働かない。だから言葉なんて出やしない。真っ直ぐな視線を向けられて、それに捕らわれたみたいになって。だけど、このままではどうしようもなくてオレは気力を振り絞って目を逸らす。そうしてぎゅっとなんとか目を瞑る。
どうしよう、どうしよう。大佐がオレを好きだなんてオレはどうすればいいんだろう。
心臓が恐ろしいくらいに高鳴って。かあぁっと頬が熱くなる。
目を瞑っていても、さっきの大佐の顔が浮かんでくる。
「……ぁ…」
ようやく出た声は意味など全く為さないもので。だけど、なんといっていいのかわからない。
好きだよ、なんて。
大佐がオレに言うなんて。
あんなに痛いくらいの眼差しで。
どうしよう。どうしたらいいのだろう。
目を瞑ったまま思考停止。だってどうしていいのかわからない。嫌じゃない。うん、嫌じゃなかった。ドキドキしてバクバクして、足元ふわふわしてわけがわからないんだけど。
嫌、ではないんだ。
だけど、返事をと言われても、何を言っていいのかわからない。
そんなオレに大佐はくすりと小さく笑って、そうして仕方ないねと言った後、オレの眼尻にそっと唇と落としてきた。
掠めるくらいの接触なのに、身体がびくっと飛び上る。触れられたところから発した強い電流が指の先まで流れていって。ギュッと強く瞑っていたはずのオレの目は衝撃でパカッと開いてしまって。そしたら大佐の顔がものすごく近くてそれにまた驚いているうちに次々と、今度は反対側の眼元にも大佐の唇が降ってきた。最初は遠慮がちに触れるだけだった。次第に堂々と、深みを増して。目元に、額に、頬にと落とされる。甘ったるくてくすぐったい感触に文句の一つでもつけてやろうとしたんだけれど。それは叶わなかった。
だって、口に。
オレの唇にふわっと触れる感触があって。
あんまりのことに驚いて「えっ」と小さく叫んだら。その隙に唇の隙間から温かな舌先がするりと忍び込んできた。
「……っ」
瞬間、ぞくりとした震えが背筋を走った。でもそれは嫌な感じではなくて甘い痺れ。
唇の粘膜まで探られるようなくちづけとその痺れに気を取られているうちに、歯列を割られ舌まで絡め取られてしまった。
「ん……、は…ぁ……っ」
強く吸い上げられた舌先が痺れて。身体の力までが抜けてしまう。ずるずると沈み込みそうになったところを大佐の腕で支えられる。
「……好きだよ、鋼の。君は……?」
唇は離された。だけど身体の痺れなんてぜんぜんまったく取れはしなくて。見つめられる視線だけでもう、絡め取られたみたいにオレは動くことなんかできなくて。なのにその上、更にとばかりに大佐の手がオレのシャツ越しに触れて来て。そうしてその布地ごと胸の尖りを摘み上げる。
「あ……っ!」
びくんと身体が反応する。神経がむき出しになったみたいに鋭敏になる。抵抗なんかできないオレに大佐は更に器用に指先を動かす。
「や……、やめ……」
押しつぶされたかと思えば指先でそっと円を描くように撫ぜられて。ふっと耳元にも息を吹きかけられて。身体が熱くて、熱が籠る。
「やめて欲しいのならば、返事を。……鋼の。私は君の気持ちを知りたいのだよ」
沈黙は肯定とみなしてこのまましてしまうけれどいいのかい?そんなふうに告げてくるなんて意地が悪い。だってどうしたらいいのかなんてわからない。大佐のことなんて、好きかなんてわからねえ。
せめてそれくらいは言おうとしたんだけど、口を開けば大佐の舌がオレの中に侵入する。返事をなんて言われても、これじゃ言葉を発することもできなくて。オレはただ、翻弄される。舌の感触、唇の温度。細やかな指の動き。そして身体の奥から湧き上がってくるむず痒いくらいの熱に。
「ふ、ぅ……ん、んっ」
擦れ合う舌が気持ちがいい。吸い上げられれば陶酔感で目眩がする。何で、こんなことになってるんだっけ?もう何もわからない。容赦のないくちづけにろくに息も継げずにいれば、酸欠で頭がぼうっとなる。酸素を求めて喘いでいれば、更にと深く口腔をかき回されるという悪循環。
背中を撫ぜられ、腰を引き寄せられて。気がつけば素肌に大佐の大きな手が押し当てられて、それがオレの身体をまさぐって。いつの間にか大佐の身体の下に組み敷かれて、あられもない姿をさらしている。
なんでこんなことになったんだっけ?わからない。気持ちがいい。頭に霞がかかって何もできない。大佐の手が気持ちいい。もっと、触って欲しくなる。
「抵抗しないのならこのまま進めてしまうがいいのかい?」
くすりと、意地の悪い笑みをこぼして。オレの耳元に囁いては来るけれど、その意味すら今のオレにはわからない。進めるってなに?抵抗?それってなんだったっけ……?
思考が麻痺していくのに比例して甘く疼いていく身体の欲望は深くなる。
もぞもぞと身じろぎをしていれば熱を持ち始めていた下肢に大佐の手が伸ばされた。
「……ずいぶんと辛そうにしているな」
身体の変化を指摘され、下着の中に手を差し込まれる。
「あ……っ」
直に触れられた指の感触に、四肢を強張らせたのも束の間、高ぶりを巧みに擦り上げられる。
「うっ、あ……ぁ、……んっ」
ゆっくりと、形をなぞるように指が滑る。ひくりと腰が跳ねれば今度はやわやわと揉みしだいて。
「やぁ…っ、あ、あっ、あ……」
疼きは増し、鼓動も脈も速くなる。息が浅く早くなり、肌にはじんわりと汗が浮かぶ。
どうしようとか、わからないとか。それすらももう考えられない。ただ、大佐の指に翻弄されるだけ。嵐の中にいきなり放り込まれて右も左もわからない。わかるのはもう身体が限界だというそのことだけ。
「やっ、あ、ああ、たい、さ、大佐ぁ……っ!」
すがるように名を呼べば、大佐は口元に満足げな笑みを浮かべて。そうしてオレを追いあげる。柔らかくゆっくりだった指の動きは次第にスピードを増して。戯れのように動いていたそれは高みへとオレの身体を押し上げる。
「可愛いね、鋼の……」
身体の奥まで響くような甘い声で呼ばれた瞬間に、オレは欲望を大佐の手の中へと放っていた。
「あ……っ」
何度か腰をびくびくと震わせた後、強張った身体が緩んでいく。四肢を弛緩させ、上がりきった呼吸を何とか整えようと肩を上下させていると、悪魔のような美しい笑みを湛えた大佐がオレをじっと見つめていた。
「気持ちはよかったかね?」
快楽の余韻に浸っている場合ではない。何をされたのか、オレの思考はようやくクリアになってきて。慌てて大佐を突き飛ばしてとび起きようとしたけれど、気だるいままの身体は思うように動かせず、そのまま床へ抑え込まれてしまい。
「うー……」
羞恥と困惑と気持ちよさに、何を言っていいのかわからない。だけど、文句の一つくらいはと口を開きかけれままたもやそれを封じ込めようとするのか偶然なのか、ズボンを下着ごと剥ぎ取られてしまった。
「ちょ、何しやがるっ!や、やだって……大佐、待てよ……っ!!」
剥き出しにされた足を必死に閉じて、大佐の手を拒もうとはするんだけど、オレの身体は裏切り者。さっきの快楽の余韻で力なんかは入らねえ。その上鋭敏になっている肌は些細な刺激に反応する。
オレの吐き出したモノで濡れた指がゆるゆると後ろの窪みに差し入れられて。吐き出してうな垂れていたはずのオレの中心も再び芯を持って勃ち上がる。
だめだ、まずい。このままじゃまた……。
必死になって抵抗する。だけど大佐は容赦なくオレの身体を快楽へと導いていく。だから力が入らない。
「先ほどから言っているだろう?……返事を。君は私のことをどう思うかい?」
言わなければ止めないよ、なんて。すげえズルくないかそれ。
だってこんなんじゃ言いたくても言えやしねえ。
強引に開かされて足の間の、そこで動く大佐の指を止めることができなくて。前触れもなく、その指がオレの中に押し込まれ、喉からは上ずった声しか上げられない。
「あ……っ、ん…く、ぅ……」
ゆっくりと、抜き差しされ内壁を擦られる。視界はもうスパークして、何もかもが白濁する。
「好きだよ、鋼の……返事を告げてはくれないか……」


あくまでも、ロイの妄想だった。
告白後の展開がこんな己に都合のいいものであろうはずはない。
だが、大同小異の未来を夢見ていたのだ。そう、夢だ。そして夢は儚いモノであり、破られるためにある。

現実を述べてみよう。


ロイがエドワードに告白をして、そして。
「返事を。……鋼の?」
そっと腕の中にエドワードを抱きしめて、雰囲気たっぷりにそう告げた後のエドワードの返事と言えば。
「おうっ!了解したっ!大佐の気持ちは男らしくドーンとこのオレ様は受け止めて見せるぜっ!」
胸を張り堂々と。
情緒もへったくれもなく。
エドワードは太陽よりも明るい笑顔でにっかりと笑顔さえ浮かべていたのだ。

困惑したのはロイのほうだった。
「……鋼の。私の言っている好きだという意味はだね……その、『恋人』としての好きというもので」
「んなことくらいわかってる。大佐はオレのこと好きなんだろ?ちゅーとかえっちとかしたいとかそーゆーやつだろ?」
「……違わなくはないがね、その君……」
「タラシで名高い大佐殿だからな!告白オッケーすかさずベッドっつーんだろ?オレも男だ覚悟はできてるっつうかぶっちゃけアンタかどれくらい上手いんかキョーミシンシン。今すぐGOでいいんだな?オッケーオッケー。最初はベッドでって方がオレ的にはいいな何せオレ様は初心者だ。トイレとか裏路地とかそーゆー上級コースはオレがえっちに慣れてからな!つーわけで仮眠室で決定。さ、さっさと行こうぜ大佐」
すたすたすたと、仮眠室のベッドにまで足を進め、そして潔く赤のコートを脱いだエドワードに何をどう言ったらいいものやらと、ロイは深く深くため息をついた。
「君ね……もう少し情緒というものをだね……」
ロマンを求めるロイに対してエドワードは簡潔だった。
「情緒だぁ?どーせ大佐のことなんだから結果は同じだろ?すーぐにアレとかコレとかソレとかアンタに一から十まで仕込まれて、きっぱりすっぱり身も心も大人になったオレ様の出来上がりだろー?だったら恥じらおうがなんだろうがいっしょじゃねーか。あ、重ねていうけどマジでオレ様初体験だからな。今日はベッドに寝転がってマグロだマグロ。何も出来ねえから全部アンタに任すぞ?」
「だが……ねえ」
「あー、ぶつくさぶつくさうっせえなあ!ヤるのかヤらねえのかはっきりしやがれっ!」


現実と理想は違う。
男らしくすっぱりと一糸纏わぬ姿になってシーツの上にて足を開いたエドワードと、それを嘆きながらも結局は致すことは致したロイ・マスタング。

情緒など皆無であろうとも。
理想とは真逆であろうとも。
既成事実は事実である。

思い通りではないが、肉体関係を伴う恋人同士と晴れて成ったわけではあるが。
どうにもこうにもやりきれない。いや、両想いであったというコトだけでも僥倖というべきなのか。
理想と現実の多大なるギャップ。
頭を抱えるしかないロイであった。



終わり
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