小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
◇テ/イ/ル/ズ・オ/ブ・ヴ/ェ/ス/ペ/リ/ア(レイヴン×ユーリ)◇



「まるでそれが当たり前みたいに」



青年は悪くないでしょ。

そんなセリフに何かを感じたわけじゃない。だけど。
魔物を倒すこと。
人を殺すこと。
共に剣を振るい相手を倒すという動作。なにも変わらない。魔物も人も、ただこの手で切るだけで。

だけど、違う。
人を殺めるその重さ。

青年は悪くないよ。青年が自分で背負うって決めたことならそれでいいじゃないのよ。

なあ、なんでそう言った?わかんねえけど、その言葉はオレのどこかに、確かに響いたのかもしれない。



覚悟をしていなかったわけじゃない。
考えた上で俺は選んだ。アイツの言うことは正しくて、如何なる悪人であろうとも私刑は悪で、法によって裁けどいうのは正しいさ。この上なくな。
だけどいつか法が裁くから、それまで待てっていうのかよ。何時になったら裁けるんだ?それまで何人犠牲になる?。
わかってるさ。法で裁けないからこの手で殺す。それが正しい道なんかじゃねえってこと。だけどいつかなんて待ってたら俺の目の前で誰かが犠牲になっていくんだ。それを知りながら放っておくのは悪いことじゃねえのかよ。
悪い奴を捕まえました。けれど法はソイツを裁くことなんかできませんでした。
いつかソイツが報いをうけるその時まで耐えろって?
そんなの冗談じゃねえ。いつかくる裁きの時まで、後何人犠牲が出ると思うんだ?
抱えた矛盾をキレイに解消出来る方法なんてない。それが現実ってもんだ。どうしようもない。だけど見過ごすコトも出来なかった。
オレの取った手段は、暗殺だ。悪人を法で裁けないのなら、オレがこの手でそいつを殺めるなんて、別に正義の味方を気取ったわけなんかじゃねえ。それしか方法がなかっただけだ。悪いなんてことなんてアイツに言われるまでもなく重々承知だ。
何故と問われた。
オレにそんな権利などないと責められた。
オレにだってわかってるそんなこと。
じゃあどうすればいいんだよ。
目の前にある悪を、いつになったら法が裁いてくれる?。
今、やるしかないと思ったんだ。覚悟を決めた。悪い手段だってわかっていた。
だから、オレは。
この手で剣を振るって、そうして殺した。
殺したんだ。
悪い奴とはいえ人間を、オレがこの手で。
覚悟は決めたはずだった。
だけど重くて。
後悔はしない。そんなの欠片も思わない。
もしもまた同じ状況がオレの目の前で起こればオレはまた同じように剣を振るう。
だからこれは後悔でも悔恨でも何でもない。
悔いてはいない。
ただ、奪った命が重い。それだけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
オレがこの手で殺した。それが単なる事実。
オレがこの先ずっと背負わないといけないこと。
アイツはオレがしたことに気がついて、オレを責めた。法で裁くべきだって言いやがった。
それ、待てねえからこんなことしたんだろ。捕まえたワルイヤツをさ、アイツの言うとおりに裁けてんなら、こんなムナクソわりいこと誰が好き好んでするんだよ。だろ?アイツが言ってることは確かに正しいさ。だけど……。目の前で苦しんでんのみて見ぬ振りも出来ねーんだ、残念ながら、な。
だけどただでさえ気鬱になってる時に好きなヤツに責められるのは正直キツイ、な……。だけど背負った覚悟はアイツに言いくるめられてハイソーデスカなんて簡単に翻せられるほど軽いモノじゃない。

だからオレはただ重たいモノを背負い続けて。
そうやっていくしかなくて。
潰れそうになりかけても、自分の道を突き進んで。

そんな時に言われた。

悪くないでしょ、なんてさ。

青年が自分で選んだことにおっさん何にも口出ししないつもりだけど、独りで結論出して独りで完結しちゃったら、そっちのがみんな悲しむでしょうよ、なんて余計なことかねえ……。

アイツとは全然違う冗談めかした口調、しかもへらへら笑いながら。だけど、覗き込んできた瞳の奥は真剣で。
でも何のコトに対してそんな台詞を言ってるのかなんて具体的なコトなんて何も言わずに。いくらでも誤魔化せるみたいな逃げ場も作ってる感じで。答えたくなけりゃ答えなくていいよって言うかなんか独り言の延長みたいな感じだったから。
だからかもしれない。これはオレが独りで背負うべきなんだなんて強がりなんだか弱音なんだかわからない言葉を吐いちまった。
例えば何のことだ、とか。言われてる言葉の意味がわからないフリをすれば、見てみぬフリ、とか聞こえないフリとかいくらでもくらいしてくれただろうな。だけどオレは馬鹿正直に反応しちまった。そんでもってオレのそんな反応に逆に驚かれちまった。

青年がおっさんにそーゆーふうな隙見せるの珍しいわね。

なんて言われて。
あんまりに驚いた顔見せるから、オレも少し苦笑してそうかもな、なんて自嘲した。
ホント気を抜いてたのかもしれないし。そのくらい背負ったものが重かったのかもしれない。
オレにもわからない。
だけど。

……あのね、青年。

なんだよレイヴン、珍しくマジな目して。

いつも正体なんかつかめないみたいな、飄々とした感じなのに。瞳の奥だけじゃなくて声までも真剣になった。

あー。おっさんもいっこ余計なこと言うよ?えーとあれだ、その……な。……重くても辛くても、それでも誰にも言わんで青年が自分一人だけで背負うって決めたならおっさんが口だすってのもヤボですから、だからさ。

なんだよおっさん。言うのか言わないのかハッキリしろよ。

歯切れの悪いレイヴンの口調に苛ついたわけじゃない。ただこんなふうにレイヴンが言いよどむなんて珍しいとか思ってさ。なんかこうオレもレイヴンも二人して普段とちょっとなんか違った。

あー…なんつうかさ。気分転換くらいはおっさん付き合えるけど、どーよってさ?

おっさんの気分転換っーのはどーゆーんだよ。

なんとなく、だったんだ。オレに気を使わせないように気を使ってるレイヴンがなんかちっと可笑しい感じで。だからホント何の気なしにそう聞いた。

そうね、お姉ちゃん達と飲むとかかねぇ。

返ってきた言葉は、ま、らしいっちゃあらしいもので。ホント酒場のオネエチャンとか好きだよなおっさんは。でも、まあオレに気を使うレイヴンなんて珍しいもの見ちまったから、乗ってもいいか、って気になった。

それお姉ちゃん無しならいいぜ?

なんて言ってニヤっと笑ってみたりしてさ。おっさんもそーねー、たまには男二人でサシで飲むのもいいでしょーなんて乗ってきて。

そうして。二人で浴びるように呑みまくった。多分過去最高に飲んだくれた。そんでもって途中から記憶がない。何をどうしてこうなったのか、ぜんぜん全く覚えてねえ。ええと、レイヴンと飲みに行くって言ったらカロル先生とかには二人でずるいとか言われたし、エステルには飲み過ぎないでくださいねとかも注意された。んでもって場末のきったねえ酒屋行って……ええと?そのくらい飲んだ?わっかんねえし覚えてねえ。うーん……。でもなんかすげえ面白かった気は……する。うん、嫌な感じなんか全然なくて。途中からなんとなくふわふわした感じとか?した気がするけどどーもな……覚えてねえっつの。あー……。

だけど。問題は昨夜の乱行じゃねえってか、あー、昨夜の乱行の延長線上ってか今のこの現状だ。

痛む頭。これはいい。いや、良くはないけど二日酔い。原因と結果ははっきりしてる。記憶ねえくらい飲んだんだから二日酔いにならない方がおかしいと思う。
だけど。
見覚えのない汚ぇ宿。
まあ、それもいいか。飲んだくれて近くの適当な宿にでも転がり込んだんだろうなって、まあ、わかる。
わからないのはアレとコレだ。
隣でぐーすか寝こけてるおっさんと……オレの体のあらぬところが痛むことだ。
服なんか床に散らばってるし、辛うじてレイヴンはシャツだけは羽織ってるけどそれだけで。……正直朝から男の下半身は見たかねえ。
あー……、コレはアレだ。どーみても酔った勢いでうっかりヤっちまったんだっつーアヤマチモードだよな。よりにもよっておっさんとかよ。キレイなお姉ちゃんお持ち帰りとかならともかくさ。ってあー……。ついでにオレの所謂片思い相手のアイツは男だけど。別にオレ、男が好きなわけじゃねえし。レイヴンだってそうだろう。
でもどう見てもこれ、オレとおっさんヤっちまってんぞって状況だ。……記憶、ぶっ飛んでるのが幸いか?あー、でもな。腰痛むし下半身マジやばい感じだし。……擦れたみたいにひりひりするし。あー……チクショウ、窓の外が眩しいぜ、なんて暴力的なまでに輝いている朝の光に愚痴をこぼす。もちろん心の中でだけどな。
酒はほどほどにしねえとなってなんとなく背中丸めて呆然としてたら、もそもそとレイヴンが起き出した。

おはよー、青年。

状況、分かってない訳じゃねえのは目の色見たらわかった。だけどいつもとなにも変わらないみたいな口調でへらっと笑った。

あー、朝日が眩しいわ。青年は大丈夫?おっさんは二日酔いよ。

無かったことにするとかそんなんじゃなく。なんか普通で当たり前だった。

そーだな。……頭と腰とかイテェかな……。

そうね。おっさんも腰は痛いねえ。年甲斐もなく頑張ったからねえ……。

そーなのか?オレ全然覚えてねえ……。

んー。あんだけ飲めばねえ……、ま、いーでしょ?たまにはね。

たまには……か?

酔っぱらった挙句に男同士でやっちまったっつーのは「ま、いーでしょ?」で済む話なのか?あー……、もしやおっさんのやつは男もイケルとかそういう人種か?ま、いーけど。やっちまったことは今更どうこう言っても仕方ねえし。ぶっちゃけ全然覚えてねえし。だけど、なんとなく。嫌な記憶はねえんだよな。なんかこう……すっきりした感じがあるんだけど。溜まったもん出しだからか?なんてシャレになんねえなあ。あー……。視線を逸らして外を見る。晴れ渡った青い空。雲一つすら見えなくて。二日酔いの目には凶器だなっつーくらいのさわやかさ。あー、眩しい……。

そーね、青年はなんだかんだ言って真面目に突き進んじまうから。たまにはこーやって肩から力抜くのもいいでしょ。たまにだったら逃避もいいものよ?どうせ逃げたって後ろ向いたってそのうちまた勝手に前向いちゃうんだろうしね。

……なんだよそりゃ。

後ろ向きな後悔の人生なんて選択できない人たちばっかよね、青年の周りにいる人たのもね。ならねえ、たまにはいいんじゃないこーゆーのも。人生にだって息抜きは必要よ?迷って悩んでそれがいいんじゃないの?……なーんておっさんのお説教臭くなるからや―めた。青年、ほら服着たらー?。

そんだけ言ってレイヴンは、ふわあああ、とか実に間抜けな欠伸なんかして、ほいとオレに脱ぎ散らかしてた服を投げてよこして。
浴びるほど飲んで記憶なくして。そんでもって朝っぱらからこんな状況だってーのに。おっさんはいつもの通りで。変わらなくて。なんかな、オレも気が抜けたっつーかなんだこれ。あー……ま、いっか。なんてそんな感じに思っちまう。

とにかく喉が渇いたでしょ。飯は要らないけど飲み物買いに行きましょー。

とかなんとか。腰をとんとんと叩きながらそんなふうに言って。
あんまりに当たり前で。
あんまりに普通で。
なんかこう、さ。気をつかわれてるカンジもしないし、酔ってヤっちまったんだよななんてコトわざわざ昨夜のこと蒸し返しもしないで。かといってなかったことにもしていないし。なんだかなあ。これで当たり前みたいにレイヴンがしてるから。オレも毒気が抜けたっつうか、まあいいかみたいな気になった。

なあ、レイヴン。

ごそごそと服を着ながら声をかけたら、帰ってきたのは気の抜けた返事。ふあ?なによ~青年ー、なんて欠伸交じりのそんな感じで。
だから。
なんだかオレの気はますます抜けて。
まあいっか、なんてオレは肩を竦めてちょっとだけ笑って。
そう言えば笑うのなんてすげえ久しぶりって思ってさ。
覚悟して背負ったものは重いんだけど。
それは全然変わんねえんだけど。
重さに潰されそうにはならねえな、なんて。
笑えるうちは平気だろ、なんてさ。
だけど、感謝の言葉なんて改めて言うのもなんだか変だからその代わりに。

まるでそうするのがあたりまえって感じに。
オレの唇でゆっくりとレイヴンに触れてみた。




‐終‐





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