小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
No3-3「それは記憶と等価な恋で」その3


その二階を物色してみれば、寝室は一つしか見当たらなかった。他の部屋は書物が詰め込まれた明らかに錬金術の研究仕様の部屋か、使われている形跡の見えない空き部屋や、まだ荷物が未整理なのであろう、ダンボールが詰め込まれただけのところしかなくて。
……だから、寝室と呼べるのはここだけなのだが。
ロイはその寝室に踏み込んだまま、自身の動きを停止してしまった。
なにせこの「寝室」は。
確かにエドワードの言ったとおり、服がしまわれているだろうクローゼットがある。ドアの右側の壁が一面収納になっていて。そこを開けてみれば、確かに自分のものらしき服もあった。が、緋色にフラメルのマークのついたコートや自分のとしてはサイズの小さい衣類も収められていて。
……非常に見覚えのあるこのコートは鋼ののものだ。何故、私のと思われる服と鋼のものが一緒にしまわれているのか?それに……。
それに、と思う。
左側には確かにベッドがある。
エドワードの言ったとおり寝室は二階、クローゼットもここ。寝室ならベッドはあって当然だが。
「何故にこれほど大きなものが……」
キングサイズというのかクイーンサイズというのか、そんなことはどうでもいいのだがつい言葉に出してしまうほどの、大人二人で使用しても余裕があるほどの大きなサイズのそれがこの部屋でその存在を主張している。そのベッドの上に脱ぎ散らかしたまま置かれているのは寝巻きだ。それもどう見ても二人分。オフホワイトのやや小さめのものと、薄いブルーに縦ストライプのものがそれぞれ一着ずつ。ロイは腕を組む。眉も自然とひそめてしまう。単純に考えれば、この部屋は二人で使っているということなのではないか?それは私と……もう一人は誰なのだ?まさか鋼のと言うわけなのか?
着替えることも忘れ、ロイは考察を重ねる。
が、複雑に考えても結論は出なかった。いや、出したくはないのかもしれなかった。そうしているうちにシャワーを浴び終わったのかエドワードがこの部屋にやって来た。
「アンタまだ着替えてなかったのか。なら、食事は後にしてこのままシャワー浴びるか?」
エドワードは肩にタオルをかけ、後は下着一枚という姿で尋ねた。
「鋼の。いくらなんでもその姿は……」
警護担当の者としてはどうなんだ?あまりにも無作法な姿、というよりも職務を全うする気があるのかと問いたいロイではあったが、その言葉を最後まで発する前にエドワードが開口した。
「着替え、忘れたんだよ。いーじゃねえか今更」
ぽたぽたと、水滴を床に撒き散らしエドワードはベッドに置かれたままのホワイトの寝巻きに手を伸ばす。そして、ああこれもう二日も着てたし、と顔を顰め、クローゼットから別のパジャマを取り出した。エドワードの金の髪は濡れたまま、ぽたぽたと水滴を落としている。シャワーは浴びたようだがちゃんと髪を拭かなかったのだろう。せめて濡れた髪くらい拭いてから寝巻きを着ないかと、ついロイは手をエドワードに伸ばした。
「君、まず先に髪を拭いてから着替えたまえよ。寝具や床が濡れるだろう」
エドワードの肩に掛かっていたタオルととりあげ、その髪を拭く。
「ああ、悪い」
エドワードはロイが髪を拭くのに任せたままだ。
……自分で拭かないで、私にやらせるとは実に尊大な部下だな。
確かに自分がタオルに手を伸ばしたのではあるがな、まあいいと、ロイは丁寧に水分を拭っていった。そうしているうちにエドワードの身体に残されている紅い痕に気がついた。首筋にもいくつか花びらのように残っている鬱血。よく見てみればそれは首筋だけに残されているわけではなかった。背にもいくつか残されており、何となくロイは数を確認するようにそれらを指でなぞっていった。ピクリとエドワードの身体が震える。
「な、なんだよっ」
はっと我に返ってロイは言い訳のように告げた。
「いや、ここにもこちらにも痕が残されているなとね。……君もずいぶん大人になったものだと感心していたのだよ」
無意識のうちに男とはいえ半裸の身体に触っていたのだ。何とか上手い言い訳をしたのだとロイは内心ほくそえんだ。からかい気味に告げれば触られたことよりも、この痕のほうに気をむけるとロイは思ったのだ。けれどエドワードは可愛らしく首をかしげただけだった。
「痕?」
「キスマークだろうこれは。……君の恋人は情熱的なのだな」
こんなにたくさんの痕を残すとはずいぶん情熱的な情愛を交わすのか。それともその恋人がよっぽど嫉妬深いのか。
そう、こんなものは恋人が自分のものだという所有の証のようにつけるものだ。そうでなければこれは自分のものだから誰も手を出すなという他人に対する牽制だ。
ロイはどんな女性と一夜を過ごしてもこんなものを残すという失策など犯したことはない。付ければ相手は助長する。自分が痕を付けるほど執着した相手などはいない。エドワードの身体にはその痕が首にも胸にも背中にまでも、いくつもいくつも残されていた。
きょろきょろとエドワードは身体を確認して、小さく「あっ」と叫んだ。叫ぶと同時に顔が紅く染まる。ロイの言った言葉の意味がようやくわかったのだろう。にやにやとロイは厭らしげな顔をわざと作り、エドワードに向けてやった。
「いやいや、照れなくとも。そうか、君がねえ……。そんなことには全く興味のないような顔をしているのになあ」
「うっせーっ、見んじゃねえよっ!」
揶揄してやればやるほどエドワードの全身は茹で上がっていく。そういう姿を見ると、ロイは、やはり、これは鋼のの成長した姿なのだと妙に安心した。先ほどの病室で冷静に演説を行う姿やホークアイに支えられて涙を流す顔、自分に向けられた不安そうな心配気な表情。それから疲れきったような顔。思わず引き付けられてしまった笑顔も。一つとしてロイが知っているエドワードの顔はなかった。だからエドワード本人だということを納得してはいても、どこか違和感は拭えなかった。今のこの茹で上がって激昂している姿は明らかに鋼のだ。豆粒ドチビとからかってやった後の怒り方とそっくりではないか。
ロイはそのエドワードの姿に安堵して、そうしてもっとからかってやれと言葉を重ねた。
「いや、君もそんなことをするくらいに成長したのかと、なにやら感慨深くてだね……。君
の恋人はどんな人なのかい?あの幼馴染の彼女かな、それとも別の?」
くすくすと笑いながらロイは楽しげに聞いていった。エドワードはぎりっと歯を噛み締める。
「……ウィンリィはアルと結婚してんだよ、恐ろしいこというんじゃねえっ!これは、これはっ!!」
「まあまあそう慌てるな。痕をつけられるとは男の勲章とだとでも思いたまえよ。で、どんな相手なのかな?年上なのかい?」
「ちがっ……くねえけど、年は上だけどっ!」
「ほほう。……で、君は教え込まれているのだな?ずいぶんと美味しい思いをしているようだなあ、鋼の」
にやにやと哂ってやればそのロイの表情が気に入らなかったのか、それともその玩弄されたようなものの言い方が癪に障ったのか、エドワードは大声を張り上げた。
「アンタがつけたんじゃねえかっ!!」
「はっ?私?」
ロイは投げかけられたその言葉の意味がとっさに理解できなかった。いや、言葉の意味、それ自体や文脈は理解できている。けれどエドワードの身体に残されたその痕とロイがつけたという文がどうやっても結びつかなかったのだ。首を傾げ、エドワードを見る。激昂しているエドワードがいる。じっと観察して見てもそこに読み取れるのは怒りや憤りという表情だけで、嘘や偽りなどは微塵も感じられない。それでもロイは言われた言葉の意味が本当の意味でわからなかった。わかりたくないだけなのかもしれなかった。そんなロイにエドワードの理性はさっさと切れていってしまったらしい。もはや、憚ることはないとばかりに感情を、口にした。
「つけんなって言ってんのにいつもいつもいつもいつもいつもっ!痕つけまくるのはロイだろうがっ。記憶ないのはわかってるけど、けど…………だけど。……そんなふうにいうこと、ねえ、だろ……」
怒鳴りたてていたエドワードのその声が次第に力を失い、仕舞いには聞き取れないほどの小さな音声へと変化していった。紅く染まっていた顔も、すでに青白く。唇が細かく震えて歪んでいった。エドワードはそれを隠すようにロイから視線を逸らした。
「オレ、もう寝る……」
エドワードはベッドにもぐりこむと身体を丸めた。その身体が小刻みに震えているのをロイは呆然と見ていた。

「その……すまない。その、それは本当に私が?」
エドワードは返事もしない。ただベッドの中で丸まっている。
「そうなら、謝らせて欲しいのだが……鋼の?」
そっと触れるようにエドワードの肩に手を置いた。エドワードはその手に触れられた瞬間、さらにその身を守るようにぎゅっと手足を縮めた。しばらくの後硬い声がシーツの内側から、ようやくのことで聞こえてきた。
「……寝るって、言っただろ」
「しかしだね」
「いいんだよ、アンタには記憶がない。だからわかんない。……。アンタが気にすることなんて、ない」
「……すまない、本当に覚えていないんだ」
気にするなと言われても、ロイはどうして良いかわからなかった。とにかく自分がエドワードを傷つけてしまったことだけ、それだけを謝った。すまないと。それ以外に告げる言葉は見つからなかった。
「……わかってる」
「だが教えて欲しい。本当に私と君がそんな関係に?」
それが本当に事実なら……ロイはその思考のまま、言を発した。が、発した直後に聞き方を間違えた、とも思った。確かにエドワードの言葉は信じられない。けれど、鋼の錬金術師がそんな嘘を言う性格でないことなど重々承知していた。彼の言っていることは真実で、ロイ自身がそれを信じられないというだけなのだ。けれど、そこまでを考えるより先に、困惑したままの自分はエドワードに問いかけた。本当に自分が君の身体に痕を残すような行為をしたのかと。エドワードはシーツに潜り込んだまま、出て来ようとはしなかった。シーツの中から、声を絞り出す。泣くのを押さえているのだろうか、身体だけではなくその声も震えていた。
「……この部屋には、オレとアンタの服がしまってある。このベッドだってオレとアンタで使ってるんだ。その上オレの身体にはアンタが付けた痕がある。……そんで察しろ」
「我々が、この部屋を共有していると?」
恋人関係にあるとか恋愛感情があるとか。それとも単に肉体関係を結んだだけなのか。ロイはその類の単語を口にすることは戸惑われた。口にしてしまえば、事実として確定する。ロイ自身が口に出してしまえばそれを自ら認めたことになる気がして。だから、あえてそれを避けて部屋という婉曲な表現で問いかけた。
「……オレは寝る。今はほっといてくれないか。アンタも記憶無くて混乱してんだろうけど、オレだって心の準備が要るんだ。明日にはちゃんと部下の顔してやるから、今日だけはほっといてくれよ」
「それはつまり……」
それはなにやら恐ろしく感じられた。そう、今まで恋愛などはいくらでもしてきた。それこそ相手は掃いて捨てるほどもいた。が、自宅にあげるようなことは決してしてはいなかったのだ。常にホテルか相手の部屋だ。それなのに男で、十四も年下のこの部下でしかないエドワードと関係を持っただけでなく、こともあろうに一緒に住んでいるというその事実はロイにとっては到底受け入れがたいものだった。
「今のロイはオレのことなんとも思ってないんだろう?『大佐』だもんな」
「つまり、それは私と君が……?」
「いいから今はほっといてくれ。明日には普通にしてやるから……」
ロイはシーツに包まったまま背を向けるエドワードに掛ける言葉が見当たらなかった。
シーツに潜り込み、黙ってしまったエドワードにいたたまれなくなり。とりあえず、口実として「私もシャワーを浴びてくるから」とだけロイは告げ、逃げるように寝室から浴室へと向かった。

シャワーを浴びはしても、気分はさっぱりとはしなかった。告げられた事実が恐ろしく、食欲なども全くと言うほど感じなかった。ただ、咽喉の奥が粘ついた。水か、そうでなければアルコールが欲しいところだった。何かはあるだろうと見当をつけて、ロイは台所へ足を入れ冷蔵庫を開ける。水を取ろうと手を伸ばした時に、その冷蔵庫の中にあった作り置きの料理がいくつかが目に入った。シチューの残りと思わしき皿の上にはメモ書きが残されていた。それを手に取ってみれば「ロイへ。2日に作った残り。腹減ったら食べていいぞ。エド」とある。チョコレートのパッケージに書かれているのは「これはオレの。食べたら怒る」の文字だ。
――本当に一緒に暮らしているのだな……。
察しろと、エドワードは言っていた。ロイは水を飲むことも忘れ、冷蔵庫の隣に置かれていた食器棚を開く。きちんと揃えられているカップ。食器もナイフも全て二人分だ。

家捜しをするように、ロイはリビングへと入っていく。リビングの作りはどこも似たようなものだ。暖炉から程近いところに置かれているソファ。床はリノリウムの素材のようだが、そのソファの周辺だけ、絨毯が敷かれている。模様は円形のメダリオンに十六の花弁が四重に配置されている幾何学的なものだ。なぜだかその図柄が錬成陣に酷似していて、ロイはふとこれは自分か鋼のかのどちらかが選んだものなのかもしれないとも思った。いや、二人で選んだという可能性も……。その考えにも及び、ぶるっと一つ頭を振った。誤魔化すようにロイは視線を絨毯からテーブルへと移動させた。絨毯と接しているそのテーブルの脚は猫の足のように優雅な曲線を描き、彫刻も施されている立派なものだというのに、書きかけの錬成陣がメモかいたずら書きのように残されている。それからそのテーブルの上に錬金術に関するものと思われる書物があった。その本に挟まれているメモを取り上げれば自分の筆跡で「エドワードへ。89ページからが興味深い。ロイ」とある。
他にも何かないのかと部屋を見渡せば、カレンダーにも走り書きを見つけた。赤で大きく丸をつけられた自分の誕生日。「この日は何が何でも休み取れ!」との走り書きは間違いなく自分のものではない。さらにカレンダーを捲って見れば今後の予定だろう「記念日。欲しい物があればいいたまえ」などロイの筆跡のものもある。
……一緒に暮らし、こんなふうにメモを残す。ああ、そうかきっとお互い忙しく軍務をこなして、同じ家に暮らしていてもきっとすれ違うことが多いのだろう。だから、ちょっとしたメモを残しておくという習慣ができたのか。ロイは記憶には無いそんなやり取りを想像した。この部屋にあるものはメモだけではなく家具も、その一つ一つが共に過ごした時間の証明のようだった。単に何らかの流れで偶然同居するようになったというだけではない。何かの弾みで身体を結んだわけではないのだ。きっと自分とエドワードは長い時間を過ごしてきたのだろう。時間をかけて、心を交わし、お互いを気遣って。
――だから、『ロイ』なのか。
ファーストネームでエドワードは自分を呼んだ。親しいものとして、親愛の感情を込めて。無防備な笑顔すら向けて。記憶などは無い。だが、自分の記憶に無いだけでお互いの間には確かな交流があるのだ。ロイはようやく納得した。言葉ではなく自身の感覚として。病室で泣いていたエドワードが不意にロイの脳裏を過ぎった。母親が亡くなった後、人体錬成をしてまでも取り戻したかった幼少のエドワード。アルフォンスに対するあからさまな愛情。エドワードは家族に対する情愛が強い。責任感も同様に。それを同じくらいの感情をもしも、自分にも向けていたのなら。そう仮定するのなら、きっとロイ自身が撃たれ倒れたのは相当な衝撃だったはずだ。何も顧ず、心臓を錬成し、再生させる。そんな荒業を可能にしたエドワードの心中はどれほどのものだったか。アルフォンスの魂を鎧に定着させた時。その代償として鋼のは腕を失った。錬成に対するその代価。それを思いつかなかったはずはないだろう。それも顧ず、私の心臓を錬成したというのか。
ロイは、衝撃の大きさに動くことも出来なくなっていった。
私は、鋼のを傷つけたのかもしれない。いや、そんな簡単な言葉では表せないほどの打撃を与えてしまったに違いない。
しかし、どうすればいいのかもわからないままだった。
今の自分は『大佐』のままなのである。『大総統』と呼ばれても実感はない。数年間を察しようとしても、その間の自身の感情の変遷などわかりはしない。何よりも自分はエドワードに対しては、国家錬金術師に引っ張りあげた責任感と、後見人としてその行く末を見守ろうとしていた、そういう感情しかもっていない。情は情でも、恋情などではない。
……本当に、どうしてこのような事態になったのか。
ロイは困却を極めたこの事態と記憶にない自分への焦燥に、ただ、立ちすくむことしか出来ずにいた。


エドワードは眠らなかった。いや、眠れなかった。
記憶喪失。
その単語が単なる言葉の羅列としてだけではなく、実感を持って重く圧し掛かってきた。記憶が無いのは『大佐』と名のったことでわかったはずだった。けれど、これほどまでの衝撃を受けるとは思わなかった『大佐』であろうと『大総統』であろうとロイはロイで。だから、生きているだけでかまわなかった。心臓が動いている。鼓動が聞こえる。それだけで何も問題などないと思い込んでいて。
けれど、大きな違いがある。
今のロイはオレを愛してくれている昨日までのロイじゃない。
ロイが寝室から出て行ってもシーツに包まり、身を丸めて。エドワードはただ考えた。昨夜はここで、何度も抱き合った。明日から大総統だ、就任演説でこんなこと話すつもりなんだよと、笑いながら。最高の気分だったのだ。
なのに。
今のロイはオレのこと好きじゃない。『大佐』の時の記憶のまま。じゃあいつからロイは自分のことを好きになったのだろうか?
思い出すのは自分が十八の頃だ。
オレ達が身体を取り戻すための錬成をしにリゼンブールに一旦戻るってロイに挨拶に行ったあの時のこと。「私と共に歩く未来を考えてみてはくれないか」って口づけられた。きっとあの時点では既にオレのことロイは好きでいてくれてたんだ。
だけど、その前は?
いつからなんて、オレは知らない。ただ、記憶をなくした今のロイにそんな感情はないことはわかった。ロイが東方司令部に勤務していたのはオレが十六になる前。なら、きっと今のロイにはオレに対する気持ちはない。手のかかる子ども、ってくらいにしか思ってないだろう。
……じゃあどうしたらいい?
十八の頃から今までのこと、全部説明するのか?いや、説明して、それで好きになってもらえるなんて、そんなわけはない。きっとそんなコト言われたって、記憶になければ他人の話のように思われるだろう。
……なら、どうすればいい?
オレはアンタが好きだから、アンタもオレのこと好きになれって迫る?それとも早く記憶取り戻せって、急かすか?
……いや、そもそも何でロイは記憶喪失なんかになったんだ?
記憶の混乱?
撃たれたのは心臓であって頭ではない。記憶をなくすほどの衝撃を脳は受けてはいない。
なのに何故?
錬成したのは心臓で、脳ではない。
錬成、そうだ錬成なのだ。錬金術は等価交換だ。ならばロイの心臓と等価交換されたのは何か。心臓と記憶が等価か?でも、大事なものと大事なものの等価交換だとするのならば。ロイの生命と、ロイが心から大事にしていてくれたはずのオレ、その記憶。それが等価だと?
ありえない話ではないと思った。であるとするなら、ロイの記憶は戻らない。
まさか、本当にこれが代償?
いや、考えろ、エドワード。他に可能性は?
身体に受けた衝撃のための、記憶喪失。等価交換で持っていかれたロイの記憶。
それとも。
考えろ、エドワード。考えるんだ。
可能性があるのはもう一つ……自身の錬成の失敗。
計算して行った錬成ではないのだ。とっさに、両手を合わせたのだ。その過程で何かのミスがあったとも考えられはしないか?


続く
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