小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
No.3-10「それは記憶と等価な恋で」その10


もう一度、とロイは再び接吻を仕掛けた。舌でエドワードの甘い唇を何度もなぞる。エドワードは抵抗などみせず、ほんの少しだけ口を開く。受け入れるというその意思表示に気を良くして、ロイは一段と強く唇を押し付けた。エドワードが小さなうめきを漏らす。それから、腕をロイの首に回してしがみ付き、ロイの舌と唇を堪能していく。身体に覆いかぶさっているロイの体重が気持ちいい。押しつぶされる重みで息が苦しいはずなのに、温かく息づく身体に、上下する胸に誘われて止まない。ロイの匂いにも包まれて、エドワードはぞくりと震えた。ロイの唇はそっと動き続ける。その動きに誘われている気分だ。触感も視覚も臭覚もすべてがロイに満たされた。体の奥から甘い疼きが競りあがってくるのを止められない。疼きが鋭さを増して、渦となる。腰から背中から、火照りだすのを止められないとエドワードが思ったとき、ロイはゆっくりと唇を離した。
「……ばーか、タラシ。……んとに、アンタはこーゆーところ変わんねえんだからタチ悪ぃよな。オレが抵抗しないのをいいことにすぐやらしーことするし」
照れと、身体の奥底の疼きを隠すためにエドワードは憎まれ口をきいてしまう。そうしていれば記憶喪失なんて何かの間違いのようだった。ロイが自分に仕掛けてきて、自分も本当は嬉しいくせに抵抗を見せて。そんな幾度も繰り返した日常の、それそのままのようで、エドワードは言葉とは逆に、くすくすと満足そうな笑みを零し続けた。
「変わらないのは当然だろう。私は私だ。……が、気にはなるな。そんなに私は君に?」
ロイは否定のつもりで聞いたのではなかった。むしろ具体的な行動を参考にしてやるつもりで。が、下心は隠したまま、真面目くさって聞いていった。
「そりゃもう。朝も昼の夜も。隙あらば、だな?……ああ、オレが途方に暮れたまま茫然自失していたら、知らんうちにオレの服剥ぎ取って圧し掛かってたことなんてのも、ある」
「鋼のが茫然自失?それはどんな状況かね、上手く想像できんな」
もう少し具体的に、と根掘り葉掘り聞くよりも誘導したほうが鋼のはきちんと答えるだろう。そのつもりでロイは言葉を重ねた。が、返ってきた返事は予想を遥かに超えるものだった。
「……オレが別れ話したのに、アンタがさっさとプロポーズに切り替えたとかだよ」
「……話して、くれないか?具体的に正確に。それでは何がなんだかわけがわからん」
ロイは降参した。何がどうやったら、朝も昼も夜も口説いて、それが別れ話になってプロポーズになるのか。見当も付かなかった。
――いったい私たちはどんな五年間を過ごしたんだ?
ロイの眉間にしわが寄せられた。


今日これからエドワードに仕掛けるに当たって。過去を参考に悪戯してやろうという不埒な心をロイは隠して。真剣なふりをして尋ねたつもりだった。けれどエドワードから発せられた言葉の意味が判らない。エドワードは眼を見開いて、それから小さく頷いた。ロイはあまり態度には出さないのだが、やはり失くした記憶を知りたいと思っているのだ、とエドワードは考えた。普通に考えればそう思うのは当然だ。誰だってそうなれば喪失した記憶と取り戻したいと焦燥に駆られるのだろう。今までロイが自分の過去を聞いてこなかったのはオレが変に煮詰まっていたから、それを口に出せなかっただけなんじゃないのだろうか?そうだ病室で「気になることはたくさんあるのだが、それは追々確かめさせてもらう」とロイがエドワードに告げてきた。それに「ここ数年のアンタのことならオレが一番よく知ってるし」と答えた。なのに聞きだそうともしないで。オレのことより記憶を失くしたロイのほうが不安だったろうに。いや、聞いてもちゃんとした返事などオレは返せなかっただろう。オレが大丈夫になってきた今だから、ロイはわざとこんな冗談めかして聞き出そうとしたんじゃないのか?だったらその言葉一つだけではなく、ちゃんと前後も含めてわかるように説明しなければ、とエドワードは息を吸い込んで、大きく吐き出した。
何せ、「プロポーズの言葉」に至るまでは一言では説明がつかない長い前フリと、勢いと……それから嘘だと思いたいほどの経緯があったからで。だから、圧し掛かっているロイの身体を押しのけて。きちんとソファに座りなおした。エドワードは背筋を伸ばして浅く腰掛けてからロイのほうへと身体を向けた。ロイもそれに倣って背筋を伸ばしてみせた。


「別れ話、したんだよ、オレが」
エドワードは再度その単語を口にだした。ここから説明するのが一番わかるような気がした。ロイは口を挟まずに、エドワードの説明を待った。
「将軍職の男に男の恋人なんかいたら、アンタの足引っ張るからって」
「それで、どうしたのかね?」
「そしたらロイが……『私たちの関係はもう軍の広報誌に載せてある』とか言い出して……」
「……広報誌?」
広報誌に載せたとは何のことだとロイは首を捻った。私たちの関係を……ということは、ロイ・マスタングとエドワード・エルリックが恋人関係あると、軍の機関紙に掲載したということか?この国には同性同士の婚姻など認められていないはずだ。それを、公表したというのだろうか。軍、だろう。我々が属しているのは。芸能業界ではないのだぞ。何をトチ狂えばそんなものが堂々と掲載されるのだろうか。軍の広報部は何を考えているのだ。
「だから、別れても意味無いって、拒否権なんか認めないって、ん、あれ?」
見ればロイの顔色は先ほどとくらべて白さを増しているようだった。エドワードは本当のことを告げても大丈夫かな、と首を傾けつつ、それでも説明していった。が、エドワードがその『広報誌まで使って男の恋人と将来を誓い合っていますなんて、触れ回っていた大馬鹿者の恋人』を説明すればするほどロイの口元は引きつったようになり……。
「そ、それは口先だけで言ったのではなく……」
もしや、それは冗談なのではないかと、ロイは一縷の望みを繋いだ。
「アンタの写真入りで。インタビュー形式の……多分まだ執務室にあるんじゃねえか?少なくとも資料の保管庫にバックナンバーはあるな。仮にも軍の広報誌だから」
信じられない話を聞いて、ロイは硬直した。正直、記憶に無い自分自身の行動に、ロイは眩暈を覚えた。

エドワードは息を吐く。ため息のように吐き出してからゆっくりと手を伸ばし、慰めるようにロイの黒髪を撫ぜてやった。
そりゃ、そうだろうな。あれを聞いた時のショックはオレもすごかった。
今のロイでは更にその衝撃も大きいだろうと思われた。これ以上詳しく説明しても傷を深めるだけかもしれない。エドワードは最後にこれだけは告げてこの話を切り上げようとした。
「……そういう経緯があって、アンタからのプロポーズの言葉は……『結婚くらい簡単なことだ』ってのと『拒否権は認めん、さっさと覚悟を決めろ』ってのとか、『あきらめてさっさと私と一緒の未来を歩みたまえ』とか高圧的でな。ああ、宝石店に連行されて『さあ、好きなものを選びたまえ。それとも全部買い占めようか』ってなんかそーゆーの、たくさん言われたな。……って、おーい、ロイ。聞いてる?ショック受けた?」
見れば、ロイの肩が小刻みに振動している。掌を額に当てているのでその表情はうかがい知れないがこれは『頭を抱え』ているのではないか。ああ、やっぱり。オレが恋人ですって受け止めるのも記憶の無いロイには重いんだろうな。好きになるのを待てって言ってくれたけど、今はまだ……だから、本当の『プロポーズの言葉』は言えないな。
『一生かけて、幸せにするから。もう何があっても別れるなんて言わないでくれたまえ』
うん、これは言わない。今のロイには言うことはない。好きになってくれるのを本当は待っているけれど。それでもこれからのロイの人生を、こんな言葉で縛るわけにはいかないから。自身の過去に沈み込みそうになるエドワードよそに、突然、はははははとロイは大声をあげた。それは実に楽しそうな笑みだった。ロイは身を丸め、腹を抱えている。その動きのためか、ソファすらも上下に揺れて。
――衝撃大きすぎて気でも狂ったか?
エドワードは馬鹿みたいに笑い続けるロイに、掛ける言葉も見当たらず、どうしようと頭を抱えた。


「……そうか。ならば、軍部内で知らない者などいないというわけだな」
何とか、こみ上げる笑いを抑えながら、ロイはそれだけを口にした。
「広報誌、ってほら一般の人も閲覧可能だから……知ってる人けっこういるよな、きっと」
更に傷に塩を塗ったかもと思いながらも、エドワードはそれでも事実は事実だと言い放った。ごめんと、言う謝罪は表情だけにとどめて。ロイはエドワードのその顔を確かめるようにじっと見つめた。
――私はそれほどまでに君が好きだったのだな。
いや、傑作だ。ロイ・マスタング。記憶に無い過去の自分。
広報誌に掲載だと、そんな馬鹿なまねをしてまでもエドワードを愛していると周りに知らしめたっただろうか。
……周りに知らしめる?
その単語から、ロイはふと最初にエドワードの身体を見た時を思い出した。くっきりとエドワードの身体中に残されたあの鮮やかな赤い痕。あれほどにたくさんの所有の印を残すとはずいぶん情熱的な情愛を交わすものだと、それともよっぽど嫉妬深いのかとそう思ったのは私だ。他者に対するあからさまな牽制だと。きっとなりふり構わないほど、過去の自分はエドワードを求めていたのだろう。あんな痕を付け続け、広報誌に掲載する。その意図は明白だ。
……鋼のは私のものだ。誰にも渡さん。
奇しくも今のロイ自身、自らがアルフォンスに告げたその台詞は過去の自分の行動そのもので。それは心の底からの、過去の私の本心で。
過去の自分?いやそうではない。
……何度泣かせても、鋼のは私のものだ。誰にも渡さん。それがアルフォンス、君だとしてもな。
そうエドワードの最愛の弟に告げたのは今の自分自身。あの時ハボックはなんと言った?
――過去の自分に嫉妬しないで下さいよ。
ロイは、ぴたりと笑いと収めた。何かのピースがカチリと嵌まった気がした。じわじわと胸の奥底から溢れ出てくる感情があった。いや、今まで、そこにずっと在ったそれに、ようやく気がついたのかもしれなかった。

笑い出し、急にその笑いを収めて動きを止めたロイに、エドワードは慌てて言葉を重ねた。
「う、うん。オレがゴメンって言うのも変だけど、アンタが乗っけたんだし、オレも、それ聞いた時ショックでショックで……。隠しておいたほうがいいってオレが思ってたのに、ロイはさっさと公表してて……でも、なんか、すまねえな……知らないほうが良かっただろ?」
「いいや、鋼の。……聞いてよかった。それが私の知りたかったこと、なのだからな」
ロイは真剣な顔つきでエドワードに向かい合った。
「へっ?」
「どれほど、私が君を好きだったのか。誰に知られてもいいくらいに君を愛していたのだろう?だから、それを逆手にとって君を私の側に留めた。皆に知られてしまえばもう君は私の側から離れはしないと、そして、君は私のものだから誰も手を出すことは許さんと、そういうふうにきっと牽制したのだな。別れるなんて足掻こうしないでさっさと私と一緒の未来を歩みたまえと、そう、それを繰り返し、君に告げたのだろう」
ロイは、一言一言を考えながら口に出した。口に出すことで自身の考えを再認識したのだ。話しながらも実は考えていたのはたった一つで。
……鋼のは私のものだ。誰にも渡さん。
全てを言い終えた後、先ほどの笑いとは異なる種類の満足げな笑みを浮かべて、ロイはエドワードを抱きしめた。


今、この瞬間に。
ロイは心の底から自分の過去を、その感情を納得した。実感と言ってもいいかもしれない強さでわかったのだ。記憶などは無くとも、それでも『大佐』の自分と『大総統』の自分が一本の線で結びついた気がした。
もう、喪失してしまった記憶を埋めようと思うことなどないだろう。なぜなら記憶など無くともその間に流れている感情の繋がりを実感したのだから。そもそも記憶など自然に薄れていくものだ。無理に取り戻してもいずれ思い出しもしなくなる。そんなものよりも欲しいのは感覚だ。自分が自分たる実感。失くした記憶のその時間の中の自分も、今のこの自分となんら変わりのない同じ、同一の存在だというその確証だ。
『大佐』の自分はエドワードに対する情だけがあって。
失った記憶の中の自分はエドワードを誰にも取られたくないほど愛していて。
記憶を喪失した後の自分は保護欲と肉欲が分かれたまま両立していて。
――ああ、繋がった。自分の過去と現在と失くした記憶が。
いや繋がったのは記憶ではなく、自分の感情だ。
……鋼のは私のものだ。
そう、いつだって、私はきっと。それだけを思っていたに違いないのだ。思いの強さに差があったとて、大事にしていたのは彼の存在で。
その感情のままにロイはエドワードを抱きしめた。フリなどではなく、過去を真似ているわけでもなく。今のロイ・マスタング自身の心の底からそうしたかった。失くした過去でも今の自分も大切なものはたった一つ。金色に輝くただ一人の大切な存在。抱きしめたい。キスを贈って、そうして一晩中この腕の中に留めたい。守りたい。泣かせたくない。そうしてずっと笑っていてほしい。……この私の腕の中で。

ロイは抱いた想いを即座に実行に移した。起き上がっていたエドワードの身体をもう一度ソファに押し倒すと、口づけを再開した。羽のように触れて。蜜のように甘く。まるで確かめるようにと何度も何度も繰り返し、そこに触れる。頬に手をあて、そこを撫ぜて。飽くことなく角度を変えて何度も何度も唇を味わった。そして、唇を離すと、ロイはエドワードの瞳をじっと見つめて。小さく彼の名を口にした。「鋼の」と言う二つ名ではなく、恋人の本当の名を。

「エドワード」と。

呼ばれた二つ名ではない自身の名に、エドワードは眼を見開いた。記憶をなくしてからのロイはずっと鋼のと自分を呼んでいた。なのに、あれから初めてエドワードと。驚いて、言葉を発することの出来なくなったエドワードにロイはにっこりと微笑みかけて。そのあまりに満ち足りたロイの笑顔にもエドワード気がつくことはなかった。ただ、呼ばれた名前で思考はいっぱいになって。
……オレの、名前。ロイが「エドワード」って。
唇にキスをされた、そのロイの感触も今はどこか遠くにあるようだ。何より心を震わすほどの衝撃は自身の名を呼ばれたこと。
記憶を失って以来、ロイはずっと鋼のと自分を呼んでいた。なのに今。
まさか、と思う。
でも、もしそうならと期待をする。

その期待にエドワードの全身が震えた。


エドワードはロイに手を伸ばす。ロイの頬を両手で包み、じっとその瞳を見つめる。
なあ、名前呼んだだけ?それとも……それとも、少しはオレのこと、好き?呼んで欲しい、自分の名前を。そうして、言って欲しい。好きだって。
が、ロイの口から零れたのは別の言葉だった。
「このまま、ここでいいか……?」
期待とは別の、全く想定してないその問に、エドワードはとっさに返事が出来なかった。
「え、なに、ロイ……?」
名前を呼んでくれたのは深い意味があったわけじゃないのだろうか。自分が期待していたから、勝手に衝撃を受けただけ?そう落胆しかけたエドワードをロイは覗き込む。
「このままここで、君が欲しい。……すまないね、もうとまらん」
ロイは自分の内から沸きあがる衝動のままに、エドワードの服を剥いでいった。
「待っ……」
「待てない」
ロイは抗議の言葉など聞かずに、シャツのボタンを外し、胸を肌蹴させて。ロイがエドワードのベルトに手をかけたところで、その手をエドワードが止めた。
「ちょっと待てって、オレ聞きた……」
聞きたいことがある。その言葉は唇で塞がれた。


舐めつくような接吻をしながら、エドワードの腕をロイの片手が拘束する。あらわになっている上半身にもう片方の手を滑らせていく。胸の突起に触れてやればエドワードから甘い喘ぎが発せられた。それが急かしているようにも聞こえて、ロイはファスナーを下ろすとエドワードの下肢に手を添えた。下着の上からそれを扱けば、あっという間に硬さを増して、そそり立つ。エドワードは身をよじる。けれどもロイの手が、エドワードの左足を持ち上げるほうが早かった。
「待てないと今告げたはずだが?」
膝を持ち上げ、ソファの背もたれに押し載せる。そこを手で押さえつけ、ロイはすばやく自身の顔を近づけた。そこには薄紅色をした口が待ち受けていて。窮屈そうなその孔にロイはそっと舌を伸ばした。指も、蕾から溝を伝って袋を撫ぜる。それから苛めるようにゆっくりと、震えている欲望を辿ってやって。
「やっ 待てって……」
ロイはエドワードの抗議などは聞いていられなかった。待つことなど出来なかった。

今すぐ欲しい。エドワードを。全てを。

エドワードの躊躇など気にかけてもいられなかった。ロイは心の奥底から湧き出てくる愛しいという感情に振り回される。情という言葉で、父性と言う単語で誤魔化していたわけではなく、それも本音のうちだったが。そんな生易しさは一気に吹っ飛んだ。欲しいという欲望が湧き出て止まらない。押さえつけていたわけではないが、その反動のような強さにロイ自身も飲み込まれて。
欲しくて欲しくてエドワードが欲しくなって。愛しさがこみ上げてきて。
その気持ちが強すぎて、エドワードに好きだと告げることすら忘れるほどだったと気が付いたのは、少し後になってからだった。エドワードの「待て」という言葉は行為を留めるための言葉ではなく、ロイの気持ちを確認したいというものだったと。が、このときはそんなことにロイは気が付かなかった。押し隠してはいたが確実に心の奥底に横たわっていた記憶の喪失感、それから足元がぐらつくような不安定感が消し飛んでしまって。記憶などなくしても自分が自分であると言い聞かせているのではなく、大総統としての自分を演じているのではなく。それが自分だと感覚的に理解した開放感と。安心感のようなものに振り回されてしまって。そうして消えたそれらの感覚の代わりのように大きくなったのがエドワードの存在で。
そうしてそれを言葉にするよりも先に、ロイの唇は震えているエドワードの中心を食んでいた。


ねっとりとした感覚がエドワードを包んだ。指で上下されるよりはよほど穏やかで優しいくせに至極強烈なそれ。もう何度もされているのに、それでもそのたびに腰は砕ける。見てしまえば視覚と感覚の両方からの刺激が倍増されるようで、エドワードは視線をそらした。視線の先にはソファの背もたれに掲げられた自身の脚が見える。それが、ロイの動きにあわせてゆらゆらと揺れている。それがいやらしげに映ってしまい、エドワードは目を瞑った。視覚を遮断すれば、その分感覚のみが鋭敏になる。わかっていても目が開けられなかった。触覚が、身体の感覚の全てが、自身の中心へと向かう。ロイが貪るようにして含んでいるそこに。
……なあ、何でオレの名前呼んだの?
エドワードは聞きたかった。けれど、執拗に高められてその言葉を発することが出来ない。だた、喘ぐのみだ。もう、中心はこれ以上ないほど硬い。あとはきっかけさえあれば簡単にそこは破裂する。
……ああ、聞きたいのに。言って欲しいのに。
けれどエドワードの口から零れるのは吐息だけで。言葉など発せやしない。


「……いいよ、いきなさい」
ロイの口が離れたその一瞬に質問の言葉を上げるべきだった。けれど、ロイの口は再び付け根まで飲み込んだ。口腔でそこを一気に吸い上げる。咽喉が動いた。口も上下して。吸い上げられて、エドワードの腹筋に力が込められた。力を入れたためなのか、エドワードの中心がぴくんっと小さくロイの口の中で跳ねた。同時に先走りの蜜が、零れていく。ロイにもう限界が近いと若草を搾ったような味と香りが如実に伝えた。ロイは充分なほど硬くなったそれを口に含んだまま舌で撫ぜた。形を辿れば細い腰は逃げるように腰を浮かせた。逃げようとするエドワードの身体を押さえつけて、ロイは中心を吸い続ける。指を指し入れて、中の弱い部分を押してやる。エドワードの先端の花開いた部分を吸って、舌で摩る。先から溢れ出てくる液を絡め取ると同時に差し入れていた指を二本に増やした。そのまま充血する場所を刺激してやった。強い強い刺激にもう吐き出していてもおかしくはなかった。エドワードが快楽の渦に飲み込まれなかったのは単に名を呼ばれたという、そのことが気にかかっているからで。
……オレの名前、呼んだの、なんで?
けれど疑問は肉体からの欲求に押し流されつつあった。思考を、肉体の要求が上回った。エドワードが口に出来たのは疑問の言葉ではなくて。
「やっ も、 で……るっ 」
膝を開いた。腰を浮かして自分から求めた。差し出せば、吸い上げられて。吸い上げられれば、もっとと動いて。嚥下されて、絡められて、強く強く強く扱かれて。言葉に出来ない感覚が、腰から額までに駆け抜け、エドワードは息を詰めて、身体を震わせた。身体から、熱い飛沫が急流となって飛び出した刹那、エドワードは自身の身体から力が抜けるのを知った。



続く
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