小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
No.3-11「それは記憶と等価な恋で」その11


放ってしまったあとの息をエドワードは何とか整えようとした。聞きたかった。名を呼んだ理由を。期待してしまいがちな心を抑えて、エドワードは荒い息の合間に尋ねる。
「な、んで……」と。
けれど呼吸が整わずに、何故名を呼んだのかとは発することができなかった。
「言っただろう、君が欲しいと。さて、続きといこうか……エドワード?」
名を呼んだのはこういうことをするためのサービスのつもり?それとも好きになってくれたのか?衝動が収まってしまえば勢いで聞くことができなくなった。確認するのが怖くなる。待つと、決めたのは自分。けれど、期待をしてしまう。期待をすればその分怖い。
……なあ、好き?オレのこと。言ってくれよ、ロイの口で。ロイのほうから。
けれど、期待はずれならその反動が大きいことはわかっている。もし違ったら、また待てばいいだけとわかってはいても。だから、怖くて言葉に出来ない。エドワードの瞳は感情に比例して潤みを増した。勝手に期待して、勝手に思い込んだら。もし違ったら。そうだったら、悲しい。涙が溢れてきっと止められない。
聞きたい。オレのこと好きかって。
でも、聞きたくない。
言いたい。オレのコト好きになってくれたのかって。だから名前で呼んだのかって。
でも、言いたくない。
だって違ったら、オレの思い込みだったら、待つと決めたその心すら、揺らいで消えてしまいそうで。
気持ちが溢れて咽喉が詰まった。声を出そうとしても、出はしなかった。ただ、ほろりと一筋だけ、エドワードの潤んだ涙から、涙が零れていった。ロイはそれを唇で吸う。涙を拭う動作というよりは、それは優しく口付けただけかもしれない。
「君が泣いても、とまらんからな。……好きだよ、エドワード」
エドワードが待ちわびていたその言葉を。
涙が自然と流れてしまうほど求めていた言葉を、ロイはあっさりと口にした。


あまりに何気なく告げられたそれにエドワードは耳を疑った。
……好きって、言った、よな?ロイが今。
エドワードは動けなくなる。今聞こえた言葉は本当に現実のものなのか、それとも思いが溢れすぎた自分の幻聴なのか。エドワードが身じろぎ一つ出来ないでいるうちに、ロイはさっさと続きを開始した。エドワードの瞳に寄せた唇はそのままに、下肢では自身をも押し当てて。ロイは躊躇することなく猛った中心を差し入れようとした。が、またもや制止の声が飛んだ。
「ロイ、待って、待てって、今」
「何度も言うが、待てない」
エドワードの体制が整うのを待つことなくロイは腰を押して。性急にエドワードの身体をこじ開けていった。いきなり穿たれて、エドワードの咽喉が仰け反った。背から腰から頭のてっぺんにまで一本の槍で突き刺されたような痛みに目を見開く。けれど、痛みを感じたのは一瞬で。すぐにその痛みは快楽へと変わった。


「んっあ あ  ……ああ あああ…っ!」
静止の言葉などはもう発することが出来なかった。口からあふれ出るのは嬌声だけで。慣れた身体は受け入れやすいようにと勝手に脚を開く。密着した肌に手を伸ばす。ロイの背に手を回して、目を瞑る。好きだという言葉だけを胸の内で反芻しながらエドワードは動きをロイにあわせる。突かれては受け入れ、差し引かれては絡みつく。
なあ、好きだ。
好きだから。
お願いだからもう一度聞かせてほしい。オレの聞き間違いじゃないって。
その言葉を発せないまま、その想いの強さだけを身体で表して。それがますます熱を生んで。エドワードは耐え切れずもっとと、ロイを求めた。

ロイも、何度も何度も腰を寄せては突いて突いて。金色の髪が、その身体が振動に揺れた。ソファのスプリングも耐え切れず悲鳴を上げ続けて。それに構わずロイは腰を叩きつけ、反らされたエドワードの白い咽喉に噛み付いた。噛み付かれた痛みよりも、内側で繰り返される律動に内腿が震える。全身がロイに制されていくのを感じていた。もう、止まらなかった。お互い止める気などもなかった。きつく抱きしめられて、これ以上ないほどに掻き回されても。いくらでも体の奥から膨れ上がった熱情が湧いてくる。熱が絡み合って息が苦しい。
「ロ、……好、き……っ」
荒い息の合間からエドワードも想いを告げれば、心震わせるほどの甘い声で自身の名を呼ばれる。
「私も、だ。……エドワード」
言葉の意味に、全身の震えが増す。熱の奔流をと止めることが出来なくなって、エドワードもロイも、それを解放した。
「あ、あああああ……あっ、あ……」
「……っ」
内から迸る熱をエドワードは放って、荒い息を整えようとする。ロイも同じく。
――フリ、とかじゃねえよな?ホントに好き、って言ってくれたよな?
エドワードはそれこそが言いたくて。荒い息を無理に押し留めて、「ロイ、もう、いっかい……」と小さく口にした。次の行為を求めるためにしたのではない。けれど勘違いした男は「いいよ、君の求めるまま何度でも……」と熱の籠った声で答え、律動を再開した。

エドワードは「あっ」と小さく声にした。もう一回好きだと言った言葉が、もう一回して欲しいと取られたとわかった。それでも何度でもと、ロイは言った。
何度でもしてくれる?なら、何度でも言ってくれよ。オレのコト好きだって。言葉でも、身体ででもいいから。
その思いだけでエドワードの身体は熱を増した。蕾も入れられたままの質量をやわやわと食み、締め付けを再開する。歓喜に震える身体はそのままロイをも悦ばし、快感を共有しようとする。ロイは放ったばかりで硬度のやや足りないそれで、ゆっくりと奥をかき混ぜる。さすがその動きはさすがに緩慢だ。けれど、自身が放ち、エドワードの中から滴り零れるほどまでに送り込んだその白濁した液体を手助けに、かき混ぜるようにゆらゆらと差し入れては引き抜いて。ゆっくりゆっくりとさざ波を立てていった。緩慢な動作でも、波は次第に大きくなる。小さな波浪は大きな波濤へと変化する。そしてそれはあっという間に狂濤と化した。内だけを弄るのではなく、宥めるように太股を摩れば、震えがエドワードの表皮を走る。
「……っ、くぅ ん」
甘えた声が鼻先から零れる。それをロイは嬉しげに受け止めて、その嬉しさが伝わるようにと、あえてゆっくりとしたまま腰を揺すれば、その緩やかな快楽にエドワードの素直な声が次ぎ次にあがった。ロイは次第に高まり快楽に溺れつつあるエドワードを楽しげに見やるとエドワードの足を自身の肩に乗せ、更に深く繋がるようにとその体勢のまま、エドワードを抱きしめた。その無理な体勢のままロイはエドワードに口付ければ、飲みきれずに流れた唾液が、口角から顎を伝っていく。それをロイは舌で追うように掬い取り、エドワードの咽喉元に吸い付いた。
「あ、ああ……んっ」
言葉で愛を囁くのは簡単だ。好きだ、愛している。いくらでも言えそうだった。けれど、それを言葉にする暇があればその分早く貪りたい。もとより言葉で好きだと告げてもそう簡単に納得はしないだろうという思いもあった。記憶があった頃の真似だと受け取られてしまうかもしれないと。だからロイは言葉より身体で、二人の間を埋めようと思った。もう二度とエドワードが不安にならないように。強く強く求め続ける。
「泣かせても、もう止まらん……我慢したまえよ」


その声すら今のエドワードには媚薬のようで、こくこくと首を立てにふった。それを承諾の合図とロイは取って、緩やかだった行為を急激に、その速度を増してやった。がつがつとぶつかる音さえ聞こえてきて。いや、音はその肉のぶつかり合うものだけではない。だらりとの伸ばされたエドワードの右手の爪が絨毯に引っかかって、ぎっという耳障りな音を時折生じさせている。それらに混じってすすり泣くようなエドワードの声がリビングに響く。ロイはそのさまざまな音も楽しみながら、エドワードの腰を抱え直した。脚を更に開かせ、中心を穿ち、同時にエドワードの蜜で溢れた欲望に手を伸ばした。前からも後ろからもエドワードを炙り続けた。エドワードはただ悶えるしかなかった。突き上げられる強さと勢いとは異なり、前を探るロイの指はやわやわと、ゆったりと、じれったいほどに優しく動く。
「や、ああああああ」
強く強く叩かれる程に腰は痺れる。熱くなった身体の内で、小さな衝撃が起る。その衝撃は次第に間隔を短くして、ついには出口を求めて体中を駆け巡った。
「い……っ、あ、 もっ、もうっ!」
エドワードは半泣きで懇願した。首を横に振り、頼むから、と。その振動のためか、はたまた姿勢のためか、受け入れるエドワードの中はロイを飲み込み、爛れるように溶けてもいて。同時に吸い付くようにロイ自身を締め上げていった。まだ、駄目だ、とロイは思った。このくらいで勘弁などしてやるものかと。欲しいと思う気持ちは止まることを知らなかった。けれど、吐き出してしまいたいという自らの身体の要求もそろそろ限界だった。吐き出して、そうしてもう一度突き上げてしまったほうがいいと、求められるまま、強く律動を開始した。もう耐える必要はないと穿つ速度も、手の動きも早めた。エドワードも腰を高々とロイに差し出して、解放の瞬間を待ち望んだ。
「……い、い、んっ……んぁあ あ あっ!」
喉元から溢れ出した声はもう止まらなかった。


駆け抜けて、駆け抜けて。
エドワードの身体は限界だった。でももう一度言葉で聞きたかった。瞼が重い。だけどぼんやりと拡散していきたがる思考を無理やりにとどめて。
「ロ、イ……」
軋む身体もどうにか押さえつけて、ロイへと顔を上げた。そこには荒い息を整えているロイがいて、エドワードの視線に気がつくと、絨毯の上に転げ落ちながらも、その身体を引っ張り寄せて。寝転ぶと当時にエドワードを腕の中に抱き込んだ。どくどくと煩いほどに奏でているロイの心臓の音。そこにエドワードは耳を寄せながら、先ほどのロイの言葉を思い返していた。
――言ってくれたよな、好きだって。フリなんかじゃねえよな?
その言葉をもう一度聞きたかった。熱に浮かされた身体が聞いた幻聴と思いたくなかった。身体をつなげるための優しい嘘とも。それに何度でも聞きたい言葉だった。だけど、何度も追い上げられた身体は既に疲れ果ててしまって。もう身体を起こすことも言葉を発することも出来ずにいた。荒い息を吐くのみだ。瞼も重く、閉じるに任せた。だだ、押し当てられている胸から、ロイの心臓の鼓動が伝わってくる。自身が錬成したその心臓。その力強く討ち続けてくる音に安心して、エドワードは意識を手放した。
「好きだよ、エドワード……泣かせても離さないから覚悟してくれ」
エドワードの額に落とした接吻も、聞きたかったその言葉も。
それを知らないままで、エドワードはぐっすりとまどろみの中に身を浸した。


エドワードが果ててぐっすりと寝入ってしまったので、仕方なくロイはエドワードをベッドまで運んだ。
……まあ、いい。目が覚めたら覚悟したまえ。
が、このまま自分も眠ってしまうのは何となく癪に障った。エドワードの寝顔を見つめるだけでは無理やり起こしてでもこの身体を貪ってしまうかもしれない。ふとベッドサイドに目を落として、そうしてそこにしまわれたままの指輪を思い出した。ロイは引き出しに仕舞われていたエンゲージ・リングを取り出して、それを掌に載せてみた。
「私が君に贈ったものなのだったな、コレは」
いっそもう一つ贈ってみようかとも思う。しかし記憶にないからといってこれはエドワードに自分自身が贈ったもの。かといって過去の自分が贈ったものを後生大事にされるのもそれはそれで不機嫌になりそうだ。これを大事にされても放っておかれてもどちらにしても不満ならば。
「……ふむ。こういうのはどうかな?」
ロイは紙とペンを取り出すとそこに錬成陣を描き始めた。書き上げたそれの中央に指輪を置き、錬成を発動した。再びその指輪を手に取ると、その出来を確認する。それに満足して、ロイは指輪を掌で転がした。
――これを、君はどう思うかな?
悪戯を思いつた子どものようにロイはくすくすと笑う。これに気が付いた時、君はどんな顔で私を見るだろう、ああ楽しみだ。それまで、ゆっくり眠りたまえ。ロイは笑いを零し続ける。
なあ、エドワード。好きだと言葉にするよりもよほど私の気持ちが明瞭に伝わるだろう?もしも伝わったのなら。その証に君の心からの微笑みを私に向けてくれないかな?
ロイは指輪を手に取るとエドの左手の薬指にはめる。そうして、エドワードを抱え、額にキスをして。ロイも瞼を落として眠りに付いた。


ぼんやりと、エドワードは意識を覚醒させた。目をあければ自分を引き寄せて眠っているロイの横顔が見えた。
そうだ、オレ。あのまま寝ちまったのか……。
シーツの上に手を付いて、ゆっくりとエドワードは身を起こす。窓の外はもう太陽が顔を出していて。時計を確認してみなくても朝だということがわかった。そうして自分の左の指の指輪が、その朝の光を受けて輝いたのを目の端で捕らえた。
……何でオレ指輪してんだ?
エドワードは首を捻るとそれを指から外した。が、しまう前になにやら違和感を感じて、じっと指輪を見つめる。
……ん?なんかチガウ?
掌に乗せて確認してみれば、内側に刻印されているのは『R to E』の文字だったはず。なのに『Everlasting』と読み取れた。
――永遠に、果てしなく。その意味を理解してエドワードは動きをとめた。
「おはよう、エドワード」
ロイが寝起きの低い声をだした。エドワードは瞬間、雷に打たれたようにその身体を震わせた。
「ロ、イ。これ、は……」
「昨夜錬成しておいた」
そうして、ロイは差し出された指輪を昨夜と同様にエドワードの薬指にはめる。よし。と後はそれだけを言い、ロイはそのままエドワードの左の手の甲にキスを贈った。
「な、な、なにっ」
「君、真っ赤だぞ」
ロイは口元を上げた。これに気が付いた時、君はどんな顔で私をみるだろうと考えたが正解は林檎のように赤く染まった頬で、これ以上もないくらい目を見開いて。ああ、そうだった。笑いたまえよ、エドワード。あの花が綻ぶような笑顔をもう一度私に向けてくれ。
「だって、これって……っ」
呆然としたままで、エドワードはロイを見つめる。口は、言いたいことがたくさんあるのだろう。それでも上手く言い出せないようでパクパクと開いては閉じ、開いてはまた閉じて。ロイはこれだけで不足なら言葉でもと、駄目押しのようにエドワードに告げる。
「これからはずっとつけていてくれないかな?」
エドワードの笑顔を見るためでもあるが。そう、ハボックに指摘されたように、以前の自分への嫉妬もあるとすでに自覚している。だからこそ、錬成までしてそこに文字を刻みなおして。それからエドワードがこれをしまったままで居たのなら。今の私はこれをつけたままでいさせてやる。と、胸の内で過去のロイ自身へと挑戦状を叩きつける。
……誰も私のエドワードに手を出すな。これは今の私のものだ。
そう、牽制だ。
「ロイ……」
「夕べも告げたが君は寝てしまったから、もう一度告げようか。……泣かせても離さないから覚悟してくれ」
以前の自分が泣かせないと誓ったと言うのなら。泣かせても離れないと誓わせてみせよう。


エドワードは震える指をロイに伸ばした。瞳からは涙が滲んで、ロイの姿が歪んで見えた。だから、触れたくて手を伸ばす。気持ちが溢れて、咽喉が塞がれたようで声が出ない。息が詰まった。鼓動も速くて。歯と歯ががちがちと震えそうになって。それでも呼吸を整えて。願い続けた言葉を吐き出した。
「好きだって言って。……何度でも、オレの気が済むまで」
潤んだ声にロイは満足して。その伸ばされた手を取って引き寄せた。瞳を見つめながら、エドワードのその銀色にそっと唇で触れた。その手を優しく包み込む。
「好きだよ、エドワード。何度記憶を失くしても、これからもずっとね。……愛しているよ」


窓の外はくっきりとした青空が広がっていて。雲がふわりと浮かんでいる。太陽も樹木を地面を照らしていって。エドワードの薬指の銀色にもその日の光が反射してきらきらと輝く。気持ちよく澄み渡った空を鳥がひらりと飛んでいく。心の中に降り続けた雨はもう止んだ。再び降ることがあっても、きっと必ず晴れ渡る。夜明けは必ずやってくる。
今日のこの空はきっと二人の未来、そのままで。
エドワードはその幸福を予感して、恋人の胸にしがみ付いた。涙を溢れさせながら何度も何度も胸の内でロイの言葉を響かせ続けて。そんなエドワードの頬を零れ落ちる涙をロイは指先でそっと拭ってやる。けれどそれは溢れ続けて、拭っても拭っても次から次へとあふれ出て。ロイの指を伝って服まで沁みた。追いつかないなと、流されるに任せようとも思ったが、それよりもと、舌でそっと絡めとる。右も左も、柔らかく唇を当ててやって。最後に一つ、嗚咽の洩れる唇も慰めるようにそっと舐めてから、ロイはコホンと一つ咳払いを落とした。
「ああ、泣かせても離さないが。……できることなら笑ってくれないかな?君には笑顔のほうが似合うだろう?」
ロイはエドワードの頬を両手で包んで、促すように琥珀の瞳をじっと見つめる。エドワードも目を見開いて、ロイの漆黒の瞳に映る自分を見つめて。ぎこちなく笑顔を向けようとしたが、やはり耐え切れず。嗚咽が溢れるのに任せていった。


ホントはずっと思ってた。
もう一度オレのコト、好きになって。記憶なんてなくてもいいから。……その答えが怖くて聞けなくて、ずっと言えないままだったけど。
でもこれからは、何度だって繰り返せる。
好きだって言って、オレの気が済むまで。そう、永遠に、果てしなく。

そうして。もう一度自分に愛を伝えてくれた恋人に、エドワードは思いの強さのままに抱きついた。
「オレもずっと……愛してる」
溢れる涙を止めないままに、エドワードはそっと小さな花を咲かせ続ける。
……これからも。いつまでも。




- 終-


No.4「ホークアイの復讐」に続く
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