小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
No.5-1「晴れやかな未来」その1


朝が来て、昼が過ぎて、まもなく太陽が沈もうとしているというのに。エドワードはベッドから這い出ることすら叶わなかった。寝転がったままで指一本動かすことでも出きずに、ただ自身の身体に覆いかぶさって律動を繰り返す男をぼんやりと眺めていた。
……もう、動けねぇ……。
エドワードは身を苛む快楽よりも、正直瞼が重くてしかたがなかった。確かに身体に熱は籠っていて、触れられる指が気持ちがいいことこの上ない。
が、眠い。
今日も朝から自身の身体を貪られ、果てて意識を失って。それでもロイの腕から離れることは許されなかった。何度か意識を失ったことは覚えている。気を失っても貫かれ、その刺激と快楽にぼんやりと目を覚まして、また吐き出して。吐き出してはまた貫かれて、意識を飛ばして。その繰り返し。
――もう、無理。もう、何にも出ねぇよ!
そう叫んだのは昼だったかもっと後なのか、それすらも覚えていない。今はもはや嬌声すらあげる力がないのである。力の入らない身体をベッドに横たえているだけで、上で動く男をぼんやり見てはいるけれども、もう瞼を開けていることすら困難だ。
そう、エドワードが記憶を失ったロイ・マスタングに「これからはずっとつけていてくれないかな?」と錬成され、新たなる文字を刻まれた指輪を渡された後に、そのまま身体を重ね合わせたのが発端だった。
何度も愛されて、嬉しさに浸って。これ以上の幸福はないと思った。嬉しくて涙まで自然に溢れた。抱かれれば抱かれるだけ、喜びが増すような気もした。自らロイに覆いかぶさった日さえあった。
けれど休みのたびにこうでは、さすがに身が持たない。
いや、休みの日だけならまだいいのだ。
あれから毎日毎日毎日毎日。ロイに身体を貫かれない日などなかった。
……なんで、ロイはこんなにやり続けられるんだろう……。
エドワードは自分身体を穿ち続ける黒髪の恋人を信じられない思いで眺めて、貫かれたままの身体を、睡魔に預けていった。


「いい加減に、しろー!!」
今日も今日とて。寝起きのまだ覚醒しきっていない頭脳を無理やり回転させて、エドワードは自分の寝巻きを剥ぎ取りかけているロイに向かって、前フリもなくいきなり怒鳴りつけた。「おや、おはようエド。今日もいい朝だよ」
にこにこと。ロイは極上の笑みを浮かべた。が、している事はといえば、眠っていたエドワードの寝巻きのボタンを外していって、その身体を触るという行為だ。いい朝もクソもない。
「……朝から、何してやがる」
「愛情を確認しようかと。ほら、君がもう泣かないようにね」
ロイはエドワードの胸に手を伸ばした。突起をつまみ、親指の腹で撫ぜる。慣らされた身体はすぐに反応を見せた。触れているトコロは硬さを増し、ぷっくりと持ち上がり始めている。それでも。エドワードは自分の胸を弄っている恋人の手をがっしりと掴んで、睨みつけた。
「オレのせいにするんじゃねえっ。朝から晩まで毎日毎日がつがつがつがつがつがつとっ!今日こそしねえぞ、身体がもたねぇ」
「まだ若いのにそんなことではいかんな」
ロイは手を掴まれてしまえば仕方がないというポーズで、エドワードの胸に唇を寄せた。
「……アンタ、自分の年わかってんのかよ。三十八だ、三十八!そろそろ三十路どころか四十路だろ!」
「……二十九の誕生日までしか記憶にないな」
嘗め回していたトコロから顔すら上げずに不貞腐れたようにロイは答えた。唇は言葉の不機嫌さとは裏腹に、ねっとりと胸を食む。
「祝ってやったってのに。毎年毎年、このオレが!」
誕生日祝いにと、記憶を失くす前のロイにリクエストされたあれやこれやといった恥ずかしい出来事がエドワードの脳裏を過ぎった。アンナコトを忘れてもらったことは幸運だったのか。それともアンナコトまでしたのに忘れられたなんて、オレの苦労を返せとでも言うべきか。
「記憶喪失なのだから、仕方がないだろう!」
ロイも声をあげ、顔も上げた。
以前の自分。それは当然記憶にない。
ただ、唯一目にした『軍の広報誌』。そこに書かれていた過去のロイ・マスタングの惚気としか言えない様なあのインタビュー記事。
ああ、面白くない。過去の自分だとわかってはいるが、それでもエドワードの過去の恋人から、いかに愛し合っていたか、と惚気を聞かされたようで全く持ってロイは不機嫌であった。
「記憶がなくても肉体年齢は三十八!これは歴然とした事実なんだよ」
もはや、言葉は不要だ。身体にこの私を刻み込んでやるとばかりにロイは無言で行為を再開した。

エドワードの胸に再度唇を寄せて、そこを舌で舐め上げる。
「……んっ」
耐え切れずエドワードが甘い声を漏らせば、ロイは口角をあげ、その行為に没頭していた。エドワードは拳に力を込める。このままでは今日も一日中ベッドから離れることは出来ないかも知れない。寝起きからロイに貫かれまくって気がついたら次の日だったなんて、もういい加減カンベンしてもらいたい。心を鬼にして、エドワードはロイの身体を押しのけると、そのまま予備動作もしないまま、握った拳をロイのみぞおちに向けて繰り出した。
つまり、容赦なく殴った。
どん、と鈍い音がして、さすがのロイもベッドの上に崩れ落ちた。腹を押さえたまま、身じろぎもできないらしい。
エドワードはそんな男の姿を無視して、寝巻きの上からコートを羽織った。きれいに決まったとはいえそこは軍人だ。受身くらいはとっさに取っただろう。のんびり着替えなどしている時間はない。エドワードは、さっさとクローゼットから着替えを取り出すと、それを手に持ったまま寝室から逃げ出した。
「オレはしばらく実家に帰らせてもらいます!したくねぇわけじゃねぇケド、これ以上身体が持つか!少しは休ませろっ」
そうして、エドワードは。
寝室の扉を乱暴に開け、ばたばたばたと音を立てながら一目散に駆け出していった。


一人残されたロイはそのまま追いかけることも叶わず。ようやく立ち上がれるようになったその身を引きずるようにして窓辺までやって来た。走り去るエドワードの後ろ姿がその窓の下に映っていた。
……駅とは逆方向。ならば「実家」はリゼンブールではなく、弟のところか。
行く先がわかれば何も慌てて追いかけなくとも大丈夫だろうとロイは腹を摩りながらゆっくりと着替えを取りだし、浴室へと向かった。シャワーを浴びて身支度を整えて。そうして優雅にコーヒーを飲みながら、受話器を取り上げる。
「私だ。すまないが車を一台回してくれ。市場によってからアルフォンスの家を訪ねたい」
……さて、迎えにいくか。
ロイは花でも持っていこうかな、と暢気に構えていた。腹部の痛みなどもうどこかへ消えていた。


アルフォンスの家は市場のはずれにある機械鎧の店だ。通りに沿った入り口には大きく開かれたドアがあり、そこから覗けば幾人もの常連客が楽しそうに女店主と談笑している姿が伺えた。ロイは運転手と護衛を車に残して一人で店へと入っていった。
「いらっしゃいま……せ?」
女店主であるウィンリィは入ってきた人物を凝視した。いや、人物といってもその顔は両腕に抱え込まれた大きな花束によって確認することができなかった。その人物が店に入ってきた途端に大きく白い花が放つ甘い芳香に店中が包まれる。その視覚と臭覚のインパクトに、店に居た全ての人物たちが入ってきた男を凝視した。
機械鎧の店に両手に抱えきれないほどの花束。むせ返るような甘い花の香り。
入ってくる所を間違えたんじゃないかとも思う者もいたが、あまりにこの店にそぐわない状況に声を出すこともできなかった。あんぐりと口を開けたまま皆、固まっている。この店にそんなものを持って入ってくる人物など今までお目にかかったことは、当然ない。
その花束から艶やかな声が発せられた。
「すまない。こちらにエドワードが来ていると思うのだが……」
顔は見えないままだったが、花の香りよりも甘く、そして艶やかな声がはっきりと聞こえてきた。 ウィンリィはああ、そうか、この人ならこんなものも持ってくるわね。と納得して返事をした。
「お久しぶりです、マスタングさん」
ロイは花を抱えていた腕をおろすと返事をしてくれた金髪の女性に向き合った。
彼女は誰だったか、親しげに私の名を呼んだということは……。そうだ、アルフォンスは彼らの幼馴染の女性と結婚していたはずだ。リゼンブールで一度出会ったこともある。確か名前は……、とロイは記憶を検索した。
何せ今のロイには数年分の記憶がない。出会ったことがあるはずの人物でもとっさに誰だかわからないこともあった。それでも女性とあらば間違うはずもなかった。
「久しぶりだね、ウィンリィ嬢。アルフォンスと結婚してからますます美しくなったようだな。……ところで私の妻は?」
エドワードが聞いていれば、誰が妻だ!と暴れるところではあるが、ここにいるのは彼ではない。
「妻、妻だってっ、似合わないーっ」と、ウィンリー爆笑し、腹を抱えたまま上の方向に指を差した。
「二階かい?ありがとう。お邪魔するよ」
笑い転げているウィンリィに、それでも微笑みかけながら丁寧に礼を述べ、ロイは二階への階段を勝手に上がっていった。

芳香が店に漂う中、未だ笑い続けるウィンリーに常連客の一人がようやくのことで声を発した。
「な、なあ、今の黒髪の男って……」
もしやうちの国の大総統ではないのかと、目を見開いている皆に対し、ようやく息を整えたウィンリィが答える。
「あのね。ウチのダンナの、兄の、ダンナなの」
そうして、自分の発言にまたもや笑い出す彼女であった。


その笑い声を打ち消すような大音響が降り注いできた。
「何しに来やがったんだあああああああああっっっっっ!!」
店までに響いてくるその声に驚いた常連客たちは何事かと二階を凝視する。そうしてウィンリィと共に常連客たちは皆、二階へと向かった。そんな外部の動向は気にもとめないのかロイはいつものペースでゆったりと佇んでいた。
「……エドワード、声が大きい。当然むかえにだが」
ロイは花束をエドワードに差し出して、にっこりと微笑む。エドワードはそれを乱暴に受け取ると、そのままアルフォンスに突き出して。
……花には罪はねぇ。叩きつけてやりたいけど、そのくらいでめげるような男じゃねぇし!
そう言い訳のように思う。けれど、恋人から花を贈られて嬉しくないわけがない。しかも、この恋人は自分が紆余曲折の上にようやく手にした男なのだ。けれど、このまま大人しく受け取るわけにもいかなかった。
「オ・レ・はっ!しばらく帰らなねえからな。ここから司令部通ってここに帰るっ!」
またもや辺りに響かせるような大声を出した。
すると二人の男から同時に声がかかった。
「兄さん煩いよ。お店のほうまで声、響くじゃないのさ。別にウチにいるのはいいけどさ」
「そんなにこちらにお邪魔してはご迷惑だろう?もう大人なのだからわがままを言わずにきちんと官邸に帰ってこないかね?」
諭すようにかけられた二種類の声に、エドワードの怒りは増したようだ。肩がふるふると震えており、拳も握っている。
「悪いのはアンタだろっ。朝から晩まで!毎日毎日やり続けやがって、官邸なんかに帰ってみろ、オレは死ぬ!やり殺される!」
「夫婦で新婚とあらば、それも仕方あるまい?」
「だ・れ・が新婚だ!オレはアンタともう三年も一緒に住んでんのっ!新、どころの話じゃ
ねぇ」
……夫婦、というところには突っ込まないんだね、兄さん。
と、アルフォンスは明後日の方向を向いた。

夫婦喧嘩ならボクの家じゃなくよそでやって欲しいなあ、と思いつつも、なんだか兄が以前のように元気になれたことに対する喜びも感じてしまう。
記憶を失くしたロイから引き離そうとも思った。けれどこうして見れば、以前と何も変わらない二人が目の前にいる。
……まあ、結局もとのサヤですか。兄さんが幸せなら別にいいんだけどね。
アルフォンスはとりあえず、兄から受け取った花束を花瓶に移し変えて、それからゆっくりとお茶を啜るようにして飲み干した。のんびりとアルフォンスが達観している間にもぎゃあぎゃあと痴話喧嘩は続いていた。
「そんな三年間など私は知らん。君がこの私から指輪を受け取ってからまだ一ヶ月も経っておらんのだよ。まさしく新婚ではないか!!」
エドワードの左の薬指にはきらきらと輝くリングがある。そうあれ以来、しまわれることなく常にリングはつけられている。当然のようにロイの指にもそれはある。
「アンタになくてもオレはきっちり覚えてるんだよっ!ああ、わかってるぜ!ちくしょー、あれもこれもそんなことまでしてやったってのに全部忘れやがって!!」
ピクリとロイは眉を上げた。
「……エドワード。『してやった』、というのは具体的にはどんな行為なのかね?」
あっという間に間合いを詰め、ロイはエドワードの腰に手を回しその耳元に囁きかけた。いつの間にかがっしりと身体を捕らえられ、エドワードはそこから逃れようとじたばたと暴れだした。
「にーさーん……ホコリ立つから暴れないでねー」
アルフォンスは目の前で繰り広げられる夫婦喧嘩などにはもはや興味はないと新聞を広げ、入れなおしたお茶を啜っている。
「アルっ、助けろ。兄ちゃんの貞操の危機だっ」
「そんなもの。とっくの昔にないでしょ」
さてと、何かおかしなニュースはないかな。情報はできるだけ多角的に集めたいからね。と新聞を捲り、気になる項目は熟読しては頭に入れていく。
「……アルフォンス、後生だ、助けてくれ」
「そんな人攫いにあったみたいな声を出すものではないよ?……エドワード」
耳元で囁きかけられた自身の名に、エドワードは頬を染め、暴れていた動きをぴたりと止めた。下を向いて小さな消え入るような声で
「………………そーゆー声で、喋るんじゃねぇ」
と漏らせば、ロイはエドワードを抱きとめたまま口角を上げた。
「ああ。……感じてしまったのかな?」
そしてそのままエドワードの耳朶に歯を当てた。軽く食んで、舌で耳の形を探る。
その行為にうっ、と硬直したのはエドワード。アルフォンスは読んでいた新聞をバンっとテーブルに叩きつけると兄に勝るとも劣らない大声を出した。
「はいはいはいはいっ!弟の目の前でラブ・シーンなんか繰り広げない!ウィンリーのお客さん達だってさっきから興味深げに覗いているんだよ。恥ずかしいからさっさと帰れ!」
振り返って開け放たれたドアの向こうを確認すると、言葉どおりウィンリーと常連客たちがこの部屋を、いや、ロイとエドワードをじっと見つめていた。
ギャラリーに向かってロイはそつなく、お騒がせしてすまないねと声を掛けて手を振った。対するエドワードは蒼白だ。
見られた見られた見られていたのか、名も知らないお客さんたちに!
がっくりと身体の力を抜けば、腰に回されたままのロイの手がエドワードの身体を更に引き寄せ、その腕の中に抱きとめる。
「……では帰ろうか、エドワード」
艶めかしい声がエドワードの全身に響いていって。腰から力が向けそうになったところをロイによって抱き上げられた。
「このまま抱きかかえて官邸に帰ってもいいかね?」
冗談じゃねぇ、自分で歩く。と主張したいところではあったが、力が入らないエドワードであった。ロイが記憶を喪失してからエドワードと二つ名ではない自身の名を、耳元で囁かれると、最初に呼ばれたときの感動が蘇るようでロイに対する抵抗は出来なくなる。
もっと名前を読んで欲しい、好きだって言ってくれと、心の中がそれだけで一杯になってしまう。しかも今のように甘い声で、耳元で囁かれてしまえば。身体の奥の疼きが全身に駆け巡る。
……ああ、もうだめだ。観念するしかねぇのか……。
正直、視線が痛い。恥ずかしさに耐えられない。このままこのアルフォンスの家にいても恥ずかしさが増すのみだ。逃げ場を失くしたエドワードはロイに抱きかかえられたまま、その胸に顔を埋めた。


家に連れ帰られてりビングへと運ばれた。ぽいと投げるようにソファの上に置かれて、ロイに圧し掛かられた。
「も、やだ」
首筋を吸われれば疼きが走った。それでも。もう駄目だと、エドワードは必死になってロイの身体を押しのける。
「あれもこれも、そんなことまでしてもらおうかな……?」
そんなエドワードの抵抗などはものとはせずにロイはエドワードに圧し掛かっていった。
「…………やだ」
「過去にしたのなら、今だって出来るだろう」
ふいと横を向くエドワードにロイは機嫌を害した。目を細めてじっと睨みつける。
「…………恥ずかしいからヤダ」
頬を染めて口を尖らせるエドワードに、ロイはますます不機嫌になった。恥ずかしいと感じるようなことを過去の自分とはしていたのかと。
「過去の私とは出来て、今の私とは出来ないと……?」
「できねえ……」
そう、あれやそれやこれは素面の上に昼間からできるような行為ではない。そう、誕生日プレゼントに、とか特別な日だからとか、酔った勢いでなどの言い訳でもないととてもじゃないとできはしないのだ。それら恥ずかしい過去を思い出してエドワードの顔は更に赤さを増していった。
その表情を見て、眉を寄せたのはロイである。
「過去の私とはできたのだろう?……いったい君はどちらの私のほうが好きなのかね」
その言葉にエドワードはきょとんと、首を傾げた。その言葉は紛れもなくロイの本音のようで。
「どっちもロイだろ?」
「記憶にない。だから君の、……前の恋人としか思えんよ」
エドワードはじっとロイの顔を見つめた。その顔には悔しそうな表情が浮かんでいる。
なんだ、とエドワードは思った。
なんだコイツ、単にヤリたいだけじゃなかったのか……。
毎日毎日毎日毎日。それこそ休日は朝から晩まで自分を離そうとしなかったのはもしかすると……。エドワードはその疑問をストレートに声にしてみた。
「……ロイ、もしかして、過去の自分に嫉妬とか、してる?」
「悪いかね?」
気分を害したようにロイは横を向いた。
エドワードは穴があくのではないかというくらいにロイを凝視して、それから大声をあげた。
「どっちもアンタじゃねえか!」
エドワードはそれで毎日毎日そういうことをしていたのかと笑った。ああ、オレ愛されてるなあ……などとも思ってみたりして。
「悪いが記憶にないな。……で、君は過去の私と現在の私とどちらがいいのかね?」
笑い続けるエドワードに対してロイは苦虫を潰したような顔になっていた。
「んんー?……そうだなぁ……」
なあ、オレのコト好き?そう聞きたいのはオレだけじゃなくて、ロイもなのか?エドワードは悪戯を思いついた子どものような顔でにっこりと笑った。それから表情を改め真剣な眼でそっとロイの頬を掌で包むと、じっとその黒曜石のような瞳を見つめる。
「……どちらだね?」
答えを保留しているかのようなエドワードに、待つこともできずにロイは再度同じ問いを口にした。
「……今、オレ、すっげー幸せ」
どちらとも言わずに、ただエドワードは恋人にキスを落とした。
「エドワード……」
「今のロイがオレのこと、こんなに幸せにしてくれてんだぜ?」
エドワードは微笑んで見せた。花がほころぶように鮮やかだった。ロイも「今の」と告げられたエドワードの言葉に満足し、同じように微笑んで見せた。
「……好きだよ、エドワード」
「うん。オレも」
「愛している」
「……ん、オレもだよ。もう一回オレのコト好きになってくれてありがとな」
小さくエドワードが呟けば、ロイはその赤らめた頬に接吻を落とす。エドワードもお返しとばかりにロイの唇に触れた。そのまま口づけは深くなり、そうしてエドワードの両手はロイの背に回された。

続く
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