小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
No6-3「kiss kiss kiss」その3


「恋する乙女、なんじゃないですか?どーみても」
「恋する乙女って……相手は……」
「ロイ・マスタング大佐……じゃなくて少将になりましたっけ。国家錬金術師で二つ名は『焔』、それから『イシュバールの英雄』。……あ、あと兄さんの後見人でもありますね」
客観的事実だけを淡々とアルフォンスは羅列する。
「……男だろう」
「ええ、師匠。男でしかも十四歳、兄さんより年上です」
「……いいのかお前それで……」
「ボクは兄さんを大事にしてくれる人ならそれでいいです。それにあの人のことはすごいと思ってますし」
「どのあたりが?」
「恋愛ごとに疎い兄さんをあそこまで意識させてるなんてすごいと思います。ボクも見習わなくちゃって。……ところで師匠。ボク、しばらく出かけますね、ラッシュバレーまで。大佐……じゃなかった少将を見習って今日こそ口説いてみせます!」
ウィンリー待っててね~、とアルフォンスはさっさと出かけて行ってしまった。
「まったく、どいつもこいつもウチの馬鹿弟子どもは……」
イズミは苦笑するしかなかった。それでも今は普通に幸せそうな弟子達によかったなと告げたい気分だった。
そうして、アルフォンスがニコニコとした表情でラッシュバレーからダブリスへと戻ってきた次の日。アルフォンスとエドワードはいつもの通りイズミの家の庭で組み手に励んでいた。そして、その庭には二人の様子を微笑みながら眺めている男が居た。当然のようにたたずんでいた男はこの国の将軍で。
「……何故いるっ!」
「やあ、エドワード。会いにきたよ。もし時間があったらお茶でもどうかい?」
少将なのだ、この男は。それが護衛もつけずにこんな所にいる。近所に住んでいるわけでもないんだぞ、ダブリスからセントラルまでどれだけ距離があるというのだろう。なのに、お茶だと?エドワードはロイを睨みつける。
「いきなりやってきて、それかよ。オレが今日忙しいとか言ったらどうすんだよ」
「仕方ないね。このままとんぼ返りだ。……けれど、まあ、収穫はあったよ」
「収穫?」
なんだ、軍務でやってきたとかなのか、とエドワードはやや落胆した。
「ああ、君の元気な姿を見ることが出来たからね。充分だ」
うっと、エドワードは言葉を失くした。
この男はこういう台詞をさらっと言うから心臓に悪いんだ。とエドワードは思う。けれど。負けてたまるか、コイツなんかにと思う心も何処かにある。勝負事ではないのだが、勝ち負けに拘ってしまうわけではないのだが。少しはやり返さないとまた、いきなりやって来て、こんなふうに心臓に悪い思いをさせられる。ならばと、エドワードは重い口を開いた。
「……アンタなぁ、将軍だろ?忙しいんだろ?わざわざダブリスまで来るなよ」
「……迷惑かな?」
ロイの寄せられた眉にエドワードの胸は痛んだ。だから、コレは仕方なく言ってやるんだからな、と心の内でエドワードは前置きをした。
「……オレ、まだ軍属なんだよ」
「そうだな。……銀時計を返還いてしまうかい?」
そうすれば上司と部下であるという繋がりは切れる。が、それでも個人的な繋がりまで切れるとは思うなよという剣呑な言葉は憂いの表情の下に潜り込ませた。そんなことには思いも及ばず、エドワードは顔を赤く染めつつ告げる。
「忙しいアンタがこんなとこまで来なくても。……任務とかって言ってオレを呼び出せばいいだろう。アンタならそのくらいやりそうなもんじゃねえの?」
「エドワード……」
予想もしなかった言葉に胸がいっぱいになり、ロイはエドワードをいきなり抱き寄せる。少なくとも嫌われてはいない。少しは意識されていると思ってもいいかもしれない。ロイは一筋の光明を見つけて舞い上がる。最早、好きになってくれないかな?などという弱気な希望は吹っ飛んだ。好きになってもらう。何が何でも。ロイの目に意志という強い光が灯った。
「う、わわわわわわあっ!抱きつくなっ!」
「嬉しいよ、エドワード。……では早速、来週にでもセントラルにおいで。私もそれまでに溜まった仕事を片付けて、君とのデートの時間を作るから」
「よ、呼び出していいって言ったのは任務でってコトだ!デートじゃねぇっ!!」
「では、来週になったら私と共にセントラルの街に視察に出る……で、いいんだな?」
「……言い方、変えればいいってモンじゃねぇ……」
「楽しみに待っているから」
待て、いや待つな、とエドワードが混乱した言葉を発する前に、いつの間にか庭から姿を消していたアルフォンスが戻ってきた。
「兄さん、大佐……じゃなくて少将だった。お茶が入りましたから、どうぞ。お茶うけはウィンリーに作ってもらったアップルパイがあるんです。すっごく美味しいんですよ」
「ああ、ありがとうアルフォンス。気がきくね。そうそう、エドワードにも告げたが、階級が呼びにくいのなら名前でかまわない。ロイとね、呼んでもらえると私も嬉しい」
「ええ、そうですか?じゃあ……ロイさんってお呼びしてもいいですか?やっぱりなんかすぐ大佐ってお呼びしてしまいそうなんですけどね」
「そう呼んでもらっていた時期が長いからね。まあ、階級はこれからも変わることだろうしね。名前のほうがいいだろう」
にこにこと笑んでいる二人の男をエドワードは蹴りつけたくなった。
アルフォンスが入れたお茶を優雅に飲みながら、ロイはうって変わって真面目な顔でエドワードに告げた。
「もしよかったら、君に引き受けてもらいたい仕事がある。危険なことは何一つないが長期の任務だ」
ロイは手にしていたカップをソーサーに置くと、テーブルの上に手を組んでおいた。本腰を入れて口説く。その為には身近においておくほうが都合がいい。その上任務ならセントラルに呼び出していいとエドワードから言われたばかりだ。ならば、手段は選ばない。
「任務って、何?」
まさか、口説く口実じゃねぇだろうなと警戒していれば、ロイの目は剣呑な光を帯びた。
「国家錬金術師制度についてのことだ」
ロイのその言葉に、以前ホークアイ中尉から聞きだした言葉をエドワードは思い出した。大総統になるというこの男の目的。議会をあるべき形に戻し、民主制に移行する。他国と協議を持ちながら軍備を縮小し、国家錬金術師制度の廃止をも視野に入れる。
「国家錬金術師制度の廃止……か?」
エドワードは余計な感情を一旦置いて、真剣にロイの話を聞こうという姿勢をみせた。背を伸ばし、真っ直ぐにロイを見る。任務の話だからと、アルフォンスは自らリビングを出た。話が終わったらお茶を入れなおしますから声をかけてくださいね、とだけを告げて。二人きりになっても、任務の話をするためかロイとエドワードの間から誘いかけるような甘さも楽しそうな笑みも消えた。
「廃止……を考えていたのだがな。そうは言っても単に命令で禁止すればいいというものではないだろう。無理に制度を変えれば何処かに反故を生む。だから、そう。移行措置のようなものを考えてはいるんだよ。例えば……そうだな。機械鎧の技術のように錬金術もこの国特有の単なる技術の一つにしてしまえるような道を探りたい。それに、賢者の石の製造方法など残しておきたくない錬成もいくつかある。その為の何かの方法で錬金術や錬金術師を管理できる手段がないかともね。逆に自分の研究だけに閉じこもって貧困を極めている錬金術師などもいなくなるようにと。そんな都合のよいことを考えているのだが……」
むちゃくちゃなことを言っている、とエドワードでも思った。そんな都合のよい道などあるのだろうか。けれど、不可能と言っているだけでは何も変わらない。ロイの理想を実現させるために、自分が出来ることがあるのだろうか。それに。
それにと思う。520センズ。大総統になったら返すと言った。返しても、次に約束を取り付けるぞと。そうしてコイツを長生きさせてやると思ったのだ。自分は目的を果たした。もう、縛られるものは何もなく、これからの将来は白紙だ。世話になった分だけでもコイツを手助けするのはいいかもしれない。そしてそれは自分の希望とも合致するかもしれないのだ。将来、何がやりたいのかはまだわからない。けれど、自分達だけではなくてみんなの笑顔が見たいと、そう思ったのだ。そのみんなの中にはロイもきっと入っていて。
「途方もないことかも知れねえケド、何事もやってみなきゃわかんねぇだろ?それにオレは今、将来検討中だからな。ここで修行しつつ頭ん中だけで考えても将来なんて見えてこねぇ。きっと動いたほうがいい。……だから、引き受けてやってもいいぜ」
エドワードの返事にロイは肩の力を抜いた。
「助かる。君に手伝ってもらえれば百人力だ。……では、セントラルに君の住居を手配する。都合がつき次第でかまわないから来てもらえるか?」
ロイは真面目な顔の下でうまく行ったとほくそ笑んだ。長期の任務を与えてしまえば、その期間、エドワードは私の側に居ざるを得ない。それを有効活用して口説き落としてみせる。そうだ、いっそアルフォンスと共に私の家に住まわせれば良いのではないのかな?弟と一緒であればエドワードも承諾しやすいに違いない。朝から晩まで共に生活すれば、チャンスが生まれるだけでなく、きっと色々なエドワードが見られるに違いない。
それは素晴らしい考えのようにロイには思われた。たとえ弟付きであろうとも二人の距離を縮めるためには必須だとすら考えた。ロイの頬が自然に緩む。笑顔が浮かんでしまってそれをとめることが出来ずにいた。もはや未来は確定したと同じだ。この私がエドワードを口説き落とせないわけなどない。
エドワードはそんな男の笑顔を見て、警戒心を湧き起こした。長期任務になるのなら、ホテル暮らしは勿体無いな、うん、住む所か。それは必要だし手配してもらえるのなら、それでいいかと思うけれど。でも、まさか、とは思うけど。こんな真剣な任務の話の最中に言うべき言葉じゃねえケド。それでも確認は必要だとエドワードは重苦しく言葉を発した。
「オレの住居だけど。アンタの家とかは却下だぞ?」
その言葉にロイは顔色を変えた。
「我が家は部屋数も余っているし、君が好きそうな錬金術の本も山ほどある。政治や経済書どころかありとあらゆるジャンルがそろっているぞ。長期の研究に最適な環境ではないか!」
エドワードはやっぱり……と眉間に皺を寄せた。そう、それらの書物には非常に魅力を感じる。が、しかし。
「狼の巣に暮らす羊はいねえよ。……アンタの本はそのうちオレに貸せ。アンタの家とは別な所をホークアイ中尉に手配してもらうことにするよ。オレとアルが住める程度の部屋をな」
一緒に暮らしたら、心臓に悪い。研究どころではなくなるとの言葉をエドワードは隠した。あんな手紙や電話や、こうして今ここに来ているみたいに。毎日毎日口説かれたのでは自分の心臓が持たない。エドワードの言葉にロイは落胆した。
「楽しみにしていたというのに……」
儚い一瞬の夢だったと本気でがっくりと肩を落としたロイにエドワードはついうっかりと仏心を出してしまった。
「あのな、同じセントラルに住むだけでもいいだろ。これからはいつでも……毎日でも、あ、会えるんだしさ……ロ、イ」
かああああああっと頬を染め、横を向いたエドワードにロイは目を見開いた。カタンと音を立てて椅子から立ち上がるとエドワードのほうへと歩き、そうして体を前に傾けると、椅子に座ったままのエドワードの頭を抱え込むように抱き締めた。
名を呼ばれたのだ、ロイと。階級ではなく、自分のファーストネームを。呼んで欲しいと告げたのはロイ自身だ。けれど、こんなふうに頬を染めながら呼んでもらえるなんて思わなかった。それにこれからはいつでも会えるとも。
――なあ、エドワード。これ以上好きにさせてどうするつもりだ。
万感の思いを込めて、ロイは腕の中のエドワードに囁きかけた。
「好きだ……。君を愛している」
ぎゅっと抱え込んでいたエドワードの頭を解放してロイは右手をエドワードの頬に当てた。手が、微かに震えた。その震えは頬からエドワードにも伝わって、エドワードの胸がドキリと一つ跳ねた。ロイから唇が寄せられる。エドワードは近づいてくる唇から目が離せなかった。抵抗しようとすれば出来たはずだ。けれど、エドワードがしたことは静かに目を閉じて、ロイの唇と待つということで。ふわりと触れられた瞬間に、意識が飛びそうになった。触れられただけの羽のような口づけ。エドワードは無意識にロイの背に手を伸ばした。伸ばされたエドワードの腕にロイは一瞬だけ驚いて。それでも唇を貪ることに没頭した。軽く触れただけの唇に舌を伸ばし舐めてみる。エドワードからの抵抗はない。もう少し、もう少しと、ロイは口づけを深くしていった。逃げないのをいいことに角度を変えて貪った。ぐいとエドワードの身体を引き寄せて、身動きが出来ないほど強く抱きしめても背に置かれた指が、ロイの服を掴むだけだった。息継ぎの合間に、はあ……と漏らされた吐息が熱くて。「や……」と戦慄いた濡れた唇が誘っているようで。耐え切れず、ロイはエドワードの口腔内を蹂躙する。突然激しさを増したそれに、エドワードは混乱した。やめろ、と言う意思表示にロイの背を叩く。が、力は入らず、叩くと言うよりは縋り付いているだけのようになっていた。心臓の鼓動が速さを増していく。最初に執務室で口づけられた時と同じ何かが背を駆け上がったのがわかった。あの時には判らなかったこの感覚。それは紛れもなく快楽と呼ばれるものだとエドワードは本能的に悟った。それが判った途端、胸を感情が締め付けた。ロイにキスされて嫌じゃない。嫌じゃないどころかむしろ……。そのむしろ、の先を考えたくなかった。胸の内を全て支配してしまいそうな感情。いや、そんな感情に気がつかずとも、エドワードの身体は既にロイからの刺激を快楽と感じていた。
「……あ……」
息継ぎの合間にもれるのは甘ったるい鼻に抜けるような声だ。ぴちゃりと濡れた唇を舐められ、下唇に歯を当てられれば、ざわざわと駆け上がるものがある。それを嫌悪に感じないのは紛れもないエドワード自身で。普通なら、抱きしめられて好き勝手に口づけされればぶん殴ってお仕舞いにするはずだ。なのに、胸がざわついて、それが甘くて心地よくて。このままで居たい。こんな気持ちなんて知らない。こんな自分も知らない。だけど、抵抗なんて出来なくて。ゆっくりと離れた唇が今度は言葉を囁いた。
「エドワード……私と共に歩く未来を考えてくれないかな?」
声が微かに震えていた。いつも過剰なほど自信に溢れているこの男の声が。吐息がかかるほど間近にある端正な男の顔。それが執務室でも告げられた言葉をもう一度紡いだのだとわかって心臓が止まりそうになった。
「……!」
思わず噛み締めた唇に、ロイは再び優しく触れた。ただ触れられただけのそれが熱くて。まるで烙印でも押されたようだ。
「好きだよ」
小さく呟いてロイは口づけを繰り返す。
「好きだ」
「や……」
先ほどの激しさとは逆の、啄ばむようなキスだけを繰り返して。
「エドワード、君は?」
「……」
また、触れて。
「君は、私を、どう思う……?」
唇が熱かった。鼓動が早くて息が詰まって。返事など考えられなくて。エドワードは怒鳴った。
「聞くなよっ!」
判らない知らないわからない嫌じゃない。
ただ、熱い。鼓動が早くて。背に回した腕を緩める気が起こらない。わからない。いや、本当はもうわかってる。だけど、それを告げるなんてしたら、きっとこの早鐘を打っている心臓はきっともっと早くなって破れてしまう。エドワードは言葉で告げる代わりにと行動で示した。目を閉じて、ぶつけるようにロイの唇にエドワード自身の唇を寄せる。
……これで、いいだろっ!
既に顔は真っ赤だ。いや顔だけでなく、首から全身から熱くて熱くて仕方がない。その熱に思考までも侵食されていく。わからないとか知らないとか。そんなのどうでもいい。ただ、コイツに触れられてオレは熱くなる。それは嫌じゃなくて。むしろ、その熱をもっとと望む。これが好きという気持ちなのかどうなのか。そんなことで悩むよりもただ、このままコレを感じて居たい。アンタを、……ロイを。
エドワードが細目を開けてロイを伺い見れば、そこには信じられないという顔で、それでもエドワードから口づけたその意味を必死になって理解しようとしている男がいて。囁くように告げられた。
「こんなことをされると……期待して、しまうのだが」
そのロイの顔も、エドワードに負けぬほど赤みを帯びていた。いつも顔色一つ変えない男のそんな見たこともない表情にエドワードは気を良くして。
「すれば」
と短く答えた。
「待っているから」
ロイの告げた言葉が、はたしてセントラルにエドワードが来る日を待っているなのか、それともエドワードがロイを好きだと言葉にする日を待っていると言う意味なのか、それともその両方なのか。はっきりとは言わなかったけれど。ただ、幸せそうに満足げに抱きしめてくるロイの背から、エドワードは自身の手を離そうとはぜず、二人は黙ったまま、ただ抱きしめあう腕を緩めずにいた。

……長い、よね。いくら任務の話でも。
もうそろそろかな?と思ってその部屋の前までやって来て、話し声が聞こえてきたから、ああ、まだ任務の話しているなと一旦アルフォンスは部屋の前から離れた。けれど時間を置いて二回目にやってきたときは何の話し声も物音もしないので。
……あれ?もう話し終わって、何処かに行っちゃったのかな?
話が終わったらお茶を入れなおしますって言ったのに。アルフォンスはそおっと二人が話をしているはずのその部屋を覗き込んだ。もしも、万が一話し途中で邪魔をしないようにと。
が、そこにはエドワードを抱きしめているロイがいて。そのロイの腕の中に大人しく納まっている兄もいて。 アルフォンスは音を立てないように扉を閉じた。そおっと閉じたつもりでもやはりアルフォンスも動揺したのか、それはパタンと小さな音を立ててしまった。その途端、閉じた扉の向こうから兄の「うわあああああっ!」という雄叫びが聞こえてきた。
……あ~あ。兄さんとうとう自覚しちゃったかな?
まあ、いいか。人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られるし。アルフォンスは廊下から、「ボク、お茶入れてきますね~」と兄にも聞こえるように大声を出した。
そうして、もう一度三人でテーブルを囲んだ。
先ほどと違うのは幸せそうに微笑むロイと真っ赤な顔で下を向いたままのエドワード。その二人の表情で。アルフォンスは、いえ、ボクは何にも知りません。見てない聞いてない気がついていないというフリでいつもと変わらない声をだした。
「兄さん。任務の話は終わり?」
声をかけられて、エドワードはビクリと身体を揺らした。それでも任務を引き受けた、とアルフォンスに告げる。
「長期、任務になる。オレ、引き受けたから……。アル、セントラルにオレとお前が住める家を捜してもらう。当面そこで暮らすことになるな」
「長いの?任務って、どのくらい?」
エドワードはロイを見た。引き受けることになるその任務がどのくらいの期間かかるかわからないからだ。
「国家錬金術師の在り方を変えるシステム作りになるから、一年かかるか二年かかるか…… 。もしかするとそれ以上になるかもしれんが」
ロイの言葉に、アルフォンスは黙ってじっと何かを考えていた。エドワードはアルフォンスの態度からもしや反対ならばと、声を出す。
「反対ならオレは引き受けないって選択も出来るぜ?アルが何かしたいことがあるのなら、オレはオマエを優先させるつもりだし」
その言葉に、ロイは言葉には出さなかったが、眉を寄せた。一度引き受けた任務を反故にするなと文句を付けるつもりではなく。ただ、やはり私よりも弟のほうが優先か……と既にわかりきっていることを再確認しただけだったのだが。
「違うよ、兄さん反対なんかじゃなくて。ボク、やりたいことあるんだ」
アルフォンスはきっぱりと告げた。
「やりたいこと?」
「鎧の身体でいた頃、何度か思ったんだ。元の身体を取り戻したら、もう一度ここに来たいって思った場所がいくつもあった。もう、そろそろ旅しても大丈夫だと思うんだ。修行したし、身体に不調な所もない。だから、行って確かめたい。この国のいろんな場所を。本当はどんな場所だったのか、今の身体で感じてみたいんだ」
「じゃあ。オレも一緒に行くよ。アルが旅をしたいって言うのなら、オレも……」
でアルフォンスは首を横に振って兄の言葉を遮った。
「ボクはね、やりたいことがあって旅に出るんだ。でも兄さんは違うでしょ?ロイさんに頼まれた仕事もあるよね?引き受けたんでしょう。それにこれから兄さんがどうしたいのか旅してみなくても、もう答えは出てるんじゃないの?それはボクの道と違うよね?だから別々の行動しようよ。それでもボクと兄さんが兄弟であることには変わりはないんだからそれを実行しなよ」
しっかりとした目で見つめられて、エドワードは不思議に思った。
いつの間にオレの弟はこんなにも成長したのだろうかと。
アルフォンスのやりたいことは旅にでることで。オレのやりたいこと……これから、どうするのか、国家錬金術師を続けるのかとつい先日までは考えていたはずなのだ。これからの将来をオレはどうしようかと。
これから兄さんがどうしたいのか旅してみなくても、もう答えは出てるんじゃないの?
そう真っ直ぐに告げられた弟からの言葉。エドワードの胸に、側に居たいとの言葉が浮かんだ。
側に居たい、ロイの、側に。
はっきりと自覚したのは今、この時だ。なのに何故弟のほうがオレの心を判っているんだろうとやはり、強く自分を見つめてくる弟のその瞳からエドワードは目が離せなかった。
「アルフォンス……」
告げるべき言葉も告げたいはずの言葉もたくさんあるはずなのに何一つそれは言葉にならなかった。だから、弟の名だけを呼んだ。
「兄さんは意外と鈍いからね。優秀な頭脳を持ってるくせに、動物的本能で動くから。でも、そろそろ判ったんじゃないの?」
にっこりと満面の笑みを浮かべるアルフォンスにエドワードは顔を赤らめることしか出来なかった。


続く
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