小説・2

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No.6-6「kiss kiss kiss」その6

どうしよう。こんなになって。どうしよう。好きで好きでどうしようもなくなって。
いつか離れるつもりなのに、離れられなくなったらどうしよう。

背中にロイの荒い息を感じながら、エドワードの思考は急速に理性を取り戻していった。
こんなつもりじゃなかったのに。こんなふうに思うなんて予想もしていなかったのに。ロイの熱を少しだけもらえれば、それだけでいいと思っていたというのに。
身体を重ねるという行為が、こんなものとは思わなかった。深く深く受け入れて、もう離れられなくなりそうで
駄目だと理性が囁く。離れてやんなきゃ。オレがロイの汚点を作ってどうするんだよ。離れるんだよ。オレは、それで良いと思ってたんだから。でも、無理だ。どうしよう。
反する想いにエドワードの瞳からぽたぽたと涙が溢れ落ちた。
一生なんて側に入れなくてもこの気持ちは本物だから。ロイが向けてくれた気持ちも本当のことだから。ほんの少しの時間だけ。ロイの時間をオレに分けてもらって、それを大事にすればいい。離れた後も、思うことは許してもらって。うん。それでいい。これが例えば一生にたった一度の恋だとしても、別れた後に後悔なんかしない。オレは決してロイの足枷なんかにはならない。
そんなの嘘だ!
いや、嘘じゃない、オレは確かにそう考えて。
……でもそんなの表面上のものだけだ。ホントは、ホントのオレが……なんで離れなきゃ駄目なんだよって、聞き分けのない子どもみたいに叫ぶんだ。
足を、引っ張ることなんてしたくないのに。でも、傍に居たいんだ。
何でそれが出来ないんだよって。ヤダって。
嗚咽はもらさないようにエドワードは枕に顔を押し付けて、歯を食いしばった。全身に力を入れて。熱を持ったか身体はあっという間に冷えて。ロイはエドワードの背にキスを落とす。そうしてようやく彼の身体の震えに気が付いた。
「エドワード?何を泣いている?」
慌てて抱き起こして、胸の中に収めても、その流れる涙を唇で拭ってやってもエドワードの涙は止まらなかった。
「嫌、だったのか?それとも……辛くさせてしまったかい?」
心配そうに見つめてくるロイに違う違うとエドワードは首を振った。
ほんの短い間でいいから、一生分本気で好きになってもらえれば。母さんみたいに離れていても耐えられるなんて思ってたんだ。オレ。アンタが誰かオレじゃない人と結婚とかしても、それは国のために必要で。オレは耐えられると思ってて。それでいいと、思ってた。
なのに。
もう嫌だ。離れられない。
どうしよう。
離れてやんなきゃ駄目なのに。
エドワードはロイの腕の中で泣き続けた。困惑したロイなど今のエドワードには気がつかなかった。子どものように泣きじゃくったあと、漸くのことで気を抑えることが出来るようになっていった。ほんの少し、感情が収まると、心配そうに自分を見るロイが目に映った。
……そうか、怖かったのはコレか。ロイがオレを見なくなることだ。
ロイから離れることなんて出来ると思ってた。それがロイのためなら簡単にできると勘違いしていた。
離れることが怖かった。こんなに好きになってそれでも離れなきゃいけないのが怖い。持っていかれたんだ、ロイに。身体じゃない。持っていかれたのはオレの心だ。ロイから離れることは、オレの心と身体が二つに分かれてしまうということで。オレはこれが怖かったんだ。心を失くしたまま一人で生きるなんて出来なくて。母さんも、そうだったのかな。親父と離れて。寂しくて、辛くて、死ぬまで一生抱え込んで。好きにならなきゃ一生そばに居れたのにな。単なる部下と上司とかで。
エドワードはロイの腕に優しく抱きとめられて。そうしてなんとか涙を止めて、胸のうちで一つの決意を固める。身体を重ねてしまったことを今更悔やんでも仕方がない。たとえ後悔することなんてわかっていたとしても、オレはロイとこうしたかった。ロイの熱を受け止めたかった。だから後悔なんてもうしない。オレはロイが好きだから。この気持ちは消えはしないから。
エドワードは涙を払うと、さらに強くロイにしがみ付いて。そうしてその決意を言葉に出した。
「なあ、ロイ。……一つだけ、我がまま聞いてくれないか」
告げられたその言葉にロイは目を開く。我がままを聞いて欲しいなど初めて言われたことだった。
「君の願いなら何でも聞くよ。言ってごらん」
「…………ずっとオレのこと、好きで、いて」
「エドワード……」
まさか、そんなことを言われるとは思わなかった。好きだと告げられて、愛していると告げて。それでも「恋人にはならない」といわれ続けてきたロイにとっては、これ以上嬉しい言葉はなかった。
「出来れば、一生。ずっとオレのコト好きでいて欲しいんだ……」
エドワードの睫が震えた。耐えるように唇も強張って。
ロイは今のエドワードの顔が見たいと思った。しかし、きつくしがみ付いてくるエドワードの表情は見えなくて。エドワードの顔を想像するしかなかった。きっと、恥ずかしそうに頬を染めて、私にこの言葉を告げてくれているのだろう。そう考えるとロイの胸は幸福感で溢れた。
「もちろんだともエドワード。……私が愛しているのは君だけだ」
ようやく気を変えてくれたのか、やはり、身体を交わしたのが良かったのだとロイはその喜びのままにエドワードを抱きしめた。

エドワードは歯を食いしばる。これ以上涙が溢れないようにと。
一生ずっと、オレのこと好きでいて。オレがアンタから離れた後も。例えアンタが結婚とかして子どもが出来た後も。奥さんとかには悪いと思う。けれど、心のどこかにオレを置いて。オレは、アンタと離れても、絶対に死ぬまで好きだから。一生会えなくなったとしてもロイを忘れることはないから。だから、お願い。我がままだけど。オレのこと、忘れないで。
オレを好きだというその気持ちだけ、おぼえてて。

エドワードはこの時。本気で心の底からこう決意したのだ。好きだと思っていてくれるだけで良いと。離れた後も一生ずっと好きでいてくれるだけでいいと。けれど、そんなエドワードの胸の内などには気がつかない男はようやく手にした恋人から告げられた言葉に舞い上がって。単純に幸福感だけに浸りきった。
一生好きでいて欲しい。
そんな思いもよらない言葉を恋人から告げられて、その「一生」という単語から、よし、ようやく私と一生を共にする気になってくれたのだな。と勘違いをし……。

そうして目覚めた次の朝。朝食のテーブルを共にしている時に、ロイは無駄に晴れがましい笑顔で機嫌よく告げた。
「エドワード。いつ私の家に越してくるのかな?」
「はあ?何言ってんだよ。アンタの家に引っ越すなんて一言も言ってねえぞ?」
一緒に暮らしてしまえば、それは嬉しいだろうケド、余計離れがたくなる。これ以上側に居たら、離れた後が辛くなる。判っているから一緒に暮らすなんて気は毛頭ない。好きだけど、好きだからこそ。大丈夫になったら離れる。もうちょっとだけ側にいられたら、それでいい。そう例えば請け負った任務がきちんと形になったら。それまでは側にいることを許して欲しい。そのくらいの間なら許されるだろう。たとえ噂になったとしても。いざとなればホークアイの手を借りることも考えればいい。ロイの行く手を遮る醜聞などは彼女なら吹き飛ばしてくれるだろう。
エドワードは痛む胸の内を隠すようにあきれた声を出す。
一方、上機嫌だった男は途端に首を傾げた。
「エド。一生好きでいて欲しいと言ったのは君ではないか」
その言葉にエドワードは頬を染める。
「……ああ、うん。言ったケド……」
その台詞を告げたその前の出来事さえも脳裏に浮かんでは消えて。
「あれは君が私と一生を共にするというプロポーズだと受け取ったのだが?ならば共に暮らすのは当然の流れだろう?」
エドワードは慌てて大声を出す。
「ち、違うっ!好きでいてくれたらオレはそれだけでいいっていう……その、希望、みたいなもんで。ロイがそう思っててくれてればオレはアンタから離れても大丈夫だからって……。アンタの一生縛るつもりで言ったわけじゃねぇ」
離れると告げた途端にこの場の空気が凍った。先ほどまで嬉しそうにうきうきとした男の顔が困惑にと変化し、そうしてエドワードの言葉の意味がわかるとそれまでのにこやかさは霧散した。先ほどからロイはずっとテーブルを挟んでエドワードの正面の椅子に座っているだけだ。其処から立ち上がりもしていない。
だた、コーヒーカップを持ち、それを飲み干して。それをテーブルに置いた。
たったこれだけの動作なのに、ロイが纏う空気は有無を言わせないほどの威圧的な何かに変わった。逆らうことなど出来ないような圧迫感にエドワードは思わず息を呑んだ。
カチャンと食器と食器が触れ合う音がして、その小さな音にエドワードはビクリと身を震わせた。何も取って食われるわけでもないのに何故だが背筋を這うものがある。苦しさに息が詰まりそうだ。そんな空気に耐え切れずエドワードが言葉を発しようとする前にロイの声がかかった。
「…………エドワード」
ぼそりと吐き出された重低音に、鳥肌が立つた。
「は、はい?」
返事と同時に酷薄とも取れるほど冷たい感情を湛えた漆黒の瞳が、エドワードを捕らえた。
「離れるとはどういう意味だ?」
ロイの目が細められた。その瞳に鋭い光が走ったように思われて。エドワードは背筋が凍るということを言葉ではなく自らの身体で知った。目の前の恋人の身体から瘴気が湧き上がってくるのが見えた。いや、見えるように感じられた。エドワードはしどろもどろになりながら言い訳のようにぼぞぼぞと告げる。
「い、いや、その。だから、ロイが後ろ指差されたりすんの嫌だし。その、醜聞とか広まったりすると足を引っ張ることにもなるし。だから、オレは離れて、で、あの、オレのことは気持ちだけでいいっていうか、忘れないでいてくれたらそれで、オレは大丈夫って……」
男から発せられるどす黒いオーラに段々とエドワードの声は小さくなっていく。
……怖えぇ……。
反射的にそう思った。こんな怖さは師匠以外から受けたことはなかった。いや、師匠よりも怖いかもしれない。師匠から怒鳴られればそれは背筋を伸ばして直立不動で謝るしかない。ロイは怒鳴ることなどしていない。ただ、静かに告げてくるだけだ。なのにそれが逃げ出したくなるほど恐ろしい。
「離れることは許さない。それからこれは君のだ。受け取りたまえ」
すっとテーブルの上に差し出されたのは一本の鍵だった。見覚えのあるその鍵はロイの自宅のもので。
「……受け取れ…ないんだけど……」
それでも出来ないと、拒否の言葉をエドワードは搾り出す。ロイは艶やかな笑みを浮かべる。いや表情は笑顔ではあるがエドワードにとってはその端正且つにこやかな男の顔が悪鬼のように見えてしまう。
「受け取らないというのなら……受け取りたくなるような目にあわせるが、いいか?」
怒気はそのままに、表情だけを微笑みに変えたロイの言葉に、エドワードの顔から血の気が引いた。受け取りたくなるような目って、何?
「ど、どんな目にあわされるんでしょーか……」
エドワードが小さく呟けば、ロイは目を細められた。値踏みしているような、追いつめた獲物をいたぶるようなそんな瞳。その上その目の奥には剣呑な光が輝いていて。朝のさわやかな空気など微塵も感じられなかった。こんなにも冷え切った空気を感じさせるのはロイではなくて、アンタの副官の女性だろう、など言った途端に絞め殺されそうで。
「さあ?実地で体験させてやろう。……楽しみだな」
エドワードの頭が真っ白に染まった。もはや拒否すれば死よりも恐ろしい目に合わされる気がした。慌てて鍵を引っ手繰るように手を伸ばし、それを掴んだ。
「う、受けとる、受け取るからっ!喜んで受け取りますっ!!」
エドワードは、合鍵をポケットにねじ込んだ。
「……最初から大人しく受け取ればよかったものを」
ロイはぼそりと告げてため息を吐く。一生好きでいて欲しいなどと言ったくせに同居も拒む。脅しをかけて合鍵を無理やり受け取らせたが、それでも依然として考えを変えていないことにため息を付く。いや、あきれるよりもいっそ怒りを覚えるほどで。まったく「鋼」とは言いえて妙だ。
好きだと君から言わせるのにどのくらいの時間をかけたというのだと思うのだ。一生共にする気がなければ初めから君を口説きなどはしないぞ、エドワード。そのくらい考えていないとでも言うのか。私の恋人が君で、それが醜聞になるとでも?そんなもの、このロイ・マスタングの実力を持ってすればねじ伏せてみせるというのに。けれど、身体をあわせても考えを変えないというのなら。
ならばと、ロイは思考を廻らせていった。


朝食を食べ終えて、エドワードはそそくさと帰っていった。ロイはロイで、迎えに来た車に乗り込み司令室へと向かう。それから、自分の執務室に入るとタイミングよく書類を抱えてやってきたリザ・ホークアイに、プライベートなことで済まないがと前置きをして恋人との今までのやり取りを説明していった。
自分はエドワードを好いていて、エドワードからも色好い返事をもらった。けれど彼はロイの将来を懸念して恋人と言う関係に浸ることをよしとしないと。それに対するホークアイの回答は簡潔だった。
「エドワード君に気が付かれないように軍部内に公表してしまいましょう。その上で、閣下が順調に出世なさればいいだけです。エドワード君と閣下が将来を誓い合った関係である。けれど、今は少将、さっさと中将。軍部内に関係が広まっても大総統まで上り詰めたとあれば、反論の余地はありませんよ」
その発案を採用し、そうしてロイ・マスタングの恋人はエドワード・エルリックであると広めていった。自分と敵対しているかのようにみえるハクロ将軍の子飼いの手下にわざとそういううわさがあると流して。軍部内にうわさが広まったことを見計らって軍の広報誌にも掲載した。その掲載された広報誌の記事の内容について、大総統であるグラマンが面白がったとあれば表だって誹謗・中傷など出来るものもいなかった。
あきれた女将軍は居たけれど、それでもそれとは関係無しにロイは着々と手柄を立てた。軍務を問題なく片付けて、市民に受け入れられているロイに既に文句を付けられる者など縦社会である軍部にはおらず。ロイも、さて、いつエドワードにこのことを話してやろうかな、などという余裕さえ出てきた。準備は万端。後はタイミングと説得だ。ロイはにこやかにその時を待った。


それらその結末だけを先に述べるのなら、ロイの取った賭けのような手段は成功した。
なにしろもうこれ以上は引き伸ばせないからと別れ話を切り出したエドワードに、ロイは広報誌掲載の件を告げ、今更別れたとしても最早私たちの関係を知らない軍部の人間は居ない、全員知っているぞ、ときっぱりと明言したのだから。隠そうとした上に、別れようとしたエドワードの決意や胸の痛みなど全て無駄だというわけで。結果、エドワードが「ああもう決きてやる。覚悟くらいすぐにな!アンタこそ後悔すんじゃねえぞ。後になってやっぱり男のオレと結婚なんて止めたとかいっても離れてなんかやらねえ、何があってもこの手を放してやらないからからなっ!」とそんな台詞までロイに叩きつけたのだった。


そしてそのまま身体を重ね、ロイがずっと長いこと胸に秘めていた「一生かけて、幸せにするから。もう何があっても別れるなんて言わないでくれたまえ」との台詞をようやく告げたその翌日。
その問題の『広報誌』をエドワードは手に取った。
「なんなんだよ、コレはっ!!」
バシンと音を立てて、エドワードは手にした雑誌をロイに叩きつけた。
「何って……夕べ、君に告げただろう?『私と君との関係を掲載した軍部の広報誌』だ。それがどうした?」
「聞いたけど、聞いたけどっ!なんだよコレ、いくらなんでも……っ」
にこやかな男の笑顔。その嘘くさい笑みはどうでもいい。けれど、そこに並んでいる文字は……っ!!
「何か問題あるのかね?いかに私が君に惚れているのか、美しく表現しているだろうとも」
「ふざけんなよっ、こんな、こんな。こんな『惚気』をどーして乗せるっ」
「ふざけてなんかおらんとも。そこに書いてあることは全て私の本心だ」
「あーもー……余計悪いっての……」
エドワードは頭を抱え続けた。もうどうすりゃいいんだか。この国の大総統を目指す男がこんなのでいいのか。
ホント、真面目にアンタとの関係をばれないようにって細心の注意を払って、ずっと露見しないようにって心を痛めて。それでもっていつかは離れてやんなきゃいけないって何度も何度も枕を濡らしたオレは何だったんだ……。
そんなエドワードの心情などはあえて無視してロイはマイペースに告げる。
「さて、エドワード。出かけるぞ」
広報誌の件はもう終わったとばかりにロイはコートを羽織った。
「ん?なんだよ?」
「出かけるんだよ、君と私で。車を用意させているから、すぐ支度をするように」
時計を見ればちょうどお昼時で。食事なのかな?レストランにでも行くのかとエドワードもコートを手にしてロイと共に玄関へと向かった。護衛の運転する車の後部座席に乗り込んで。着いた先は……。
「ロイっ、なんだよ、ココは!!」
先ほどと似たような言葉をエドワードは告げた。そうここは宝飾店だった。店内にはカップルの姿が何組も見えて。店員の美しい女性もニコニコと光り輝く石の付いたアクセサリーを勧めている。
「見た通り宝石店だ。さあ、好きなものを選びたまえ。それとも全部買い占めようか?」
「好きなものってあるわけないだろ。オレにアクセサリーなんて必要ない」
そう言われることなどロイにはわかっていたのか、間髪を入れず「必要だ」とロイは言い切った。
「んなわけねえだろ」
エドワードは眉を寄せる。どう考えればオレに宝石などが必要となるというのだ。
「必要だろう。婚約指輪くらいは」
ロイは何を当たり前なことを、と言わんばかりの顔つきだ。
「こんやくゆびわって、なにっ!」
「一生を私と共にしてくれるんだろう?その証にね。やはりダイヤモンドがいいかな?君の金の髪に映える赤い石などもいいと思うが」
ロイはさっさと店員を呼び止めて、彼の指のサイズを測ってくれ、などと告げている。そんな男の姿にエドワードは頭を抱えるしかなかった。頭を抱えれば、うっとりと聞きいていた台詞が悪魔の呪文のように蘇る。
「一生かけて、幸せにするから。もう何があっても別れるなんて言わないでくれたまえ」
好きだなんて気がつかなければよかった。
それでもオレはこの男が好きで。ああああああああもうっ!
一生そばに居てやるから覚悟しろと確かに昨夜はそう告げた。でもこんな未来が待っていると最初の最初でわかっていたなら。好きだなんて気がつかなければオレの人生は平穏だったかもしれないのに……。
ああ、でも、もう。別れるなんて言えやしねえっ!
店内の人たちからの視線が痛い。晴れがましい笑顔でエンゲージ・リングを物色している男の背中を蹴りつけたい。後悔先に立たずという言葉が浮かんでは消える。けれど、
「エドワード、これなんかどうかな?」
満面の笑みを浮かべ、細いプラチナを示した男に見惚れてしまう自分は、心底馬鹿だとエドワードは思った。


続く
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