小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
No.6-7「kiss kiss kiss」その7

ACT・5またもや現在。

「……ちょとだけ、後悔した」
エドワードは包み隠さず、当時の心情を告白した。
「後悔したぜ?ロイを好きになったこと」
広報誌に掲載されるわ、宝石店では注目を浴びるわ。結婚式を挙げることは断固として拒否したけれど、それでもアルフォンスの婚約記念パーティの間、指に光っているお揃いの婚約指輪を大げさにアピールされて。好きにならなきゃよかったとそのたびに思ったのだ。それでも恥ずかしさや後悔なんか消し飛ぶ位、心の中が幸福感じ満たされた。そして自分は馬鹿だとも、惚れちまったんだからしかたねえのかとも思ってしまったのだ。そんなことは絶対に内緒だけれど。
「……今はどうかね?やはり、後悔しているのかな?」
エドワードは薄く笑むと、ロイの唇を軽く吸った。
そうして、あのさ、と小さく言って。
「もう何があっても、例えばもう一回ロイが記憶をなくしてもこの手を離してやらねえって言ったら、ロイは後悔する?」
もうアンタから離れてやんねえからなと、にやりと笑ってエドワードはもう一度キスをした。
それをしながら思い出す。ロイが記憶を失った前日の夜を。
……明日から私は大総統だよ、エドワード。就任演説で話そうと思っていることがたくさんあるんだ。そう、この国を平和な民主国家へと誘うこと。もう二度と戦火にまみれる国などにはしないこと。その為に、上の者が下の者を守っていこうと呼びかけるよ。そうして全てが終わったら。……なあ、エドワード。何処か田舎に、そうリゼンブールのような所で、二人でゆっくり暮らそうではないか。私は君のことだけを、君は私のことだけを考えて朝から晩まで過ごすんだ。誰にも邪魔されずに二人っきりで。どうだろう?
この男にしては珍しく実現しない夢でも語るような遠い目をして告げてきた。エドワードはそのままそれにイエスとは言えずに、以前にホークアイが中尉だったころに彼女から聞いた言葉を告げた。
……『せめて私たちの次の世代には笑って幸せに生きてもらいたい。それは自己犠牲じゃなくて、イシュバールを生き残った者としてのけじめだ』なぁ、ロイ。今でもそう思ってんの?
ロイの顔色がさっと変わった。それを確認してエドワードは、ああやっぱりロイは責任を負うつもりなんだよな、なら、二人きりでなんていうのは実現する未来じゃなくて、単なる形のない甘い夢だな、とロイの瞳を見つめた。
……二人は幸せに暮らしましたって、御伽噺の決まり文句だけど。オレたちはそんな暮らしを幸せだと思わないだろ?いや、ちょっとくらいは二人でいたいって思っても、きっと大儀のために動く。もうそれが当たり前で、それがしたいコトになっちまってる。オレだってみんなの笑顔が見たいって、そう思ってやってきた。今、ロイが言ってくれたのは嘘じゃないってわかってるけど、きっとアンタは死ぬまでこの国を支えるよ。だから、オレは……明日ロイに返す、520センズを。そして、もう一回言ってやる。『また、小銭貸せ。民主制になったら返してやる』ってな。
エドワードの言葉に、ロイは目を細めた。
……そして君はまた『それも返したらまた借りて何か約束取り付ける』と言ってくれるのだな。そうして、私も『かなり長生きせねばならんな』と返事をする。
……そう、それの繰り返しだ。オレたちはそうやって生きるんだ、きっと。これからもな。
……つまり、一生君は私と共にあると。
深刻さを避けるようにロイは笑みを浮かべる。エドワードはそんなことには誤魔化されないとロイに抱きついた。
……死なせはしねえからな。オレはアンタを支えてやる。何があってもこの手を離してやらねえから、後悔すんなよ。
そう決意した時の言葉を、記憶を喪失したロイが知らないその想いを、いつかもう一度ロイに告げようと思う。
今のアンタは約束なんて知らなくて。それでもオレを好きになってくれた。オレはもうアンタを好きなだけじゃないんだ。好きだなんて感情だけじゃ追いつかない。
キスをして、その唇をゆっくりと離し。ただ、エドワードはロイの瞳だけを見つめ続けた。
言いたい言葉はたくさんある。好きだ、だけでは言い切れない全ての感情を伝えたい。
約束なんて知らないのにオレを好きになってくれてありがとう。
失くした記憶を知ろうとしてくれてありがとう。
それは本当に嬉しくて。
それから少しだけ……寂しい。そう、ほんの少しだけ。
エドワードの胸のうちにあるのは喜びだけではなかった。失くしてしまった記憶に対する悲しみも本当は心の奥底に存在している。今まで積み重ねてきた過去を、お互いの軌跡を忘れて、520センズの約束を知らない今のロイに対する悲しみがほんの少しだけ。好きになってくれれば記憶なんてなくていい。それもエドワードの偽りのない本心だけれども。それでも、だからこそ。
こうやって今、二人で向き合っていることを奇跡だと思う。
ああ、好きだな。オレはロイが。以前のアンタも今のアンタも、比べようもないくらい愛してる。どうしたらこの心をロイに伝えられるんだろう。
好きだ。愛している。そんな言葉では足りない位の気持ちを。言葉よりも態度のほうが伝わるのだろうか?
眼の端に滲み出てくる涙を押さえつけるようにエドワードは笑みを浮かべる。そしてロイの唇に自らの舌で触れた。愛情も欲情も全ての気持ちを込めて。ほんの小さな悲しみは胸の奥へとしまいこんで。
声に出さないエドワードの想いを、ロイは感じ取ったのかそうでないのか。けれどロイは一瞬だけ動きを止めて。それからゆっくりと落ち着いてエドワードの唇を貪った。唇が離れたその時に、心の底からの本心を告げる。
「愛しているよ、エドワード。これからも、ずっと一緒に生きていこう」


後はただもうKISS KISS KISS。
全ての想いをそこに込めて。


- 終 -

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