小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

ライトの光は最大出力。薄ぼんやりと暮れていった周辺が瞬時に眩い光に支配された。軍事作戦用強力な照明だ。突然照らされた犯人たちは眩しさで反射的に目を顰める。男の手が、一瞬緩んだ。ロイの身体からほんの数センチだけ、ナイフは離されて。その隙を、ロイは見逃さなかった。右の肘で男の腹に強烈なあて身を見舞う。けれどとっさに男も腹筋に力を入れたようで崩れ落ちはしない。ただ、ほんの僅かに息を呑んで、上体がぐらりと揺れ、一歩だけ、足を引き、無意識に体制を整えようとする。まあ相当に訓練されてんのか実戦経験あるのかなんだろうけど、オレにはそれ充分だった。再びロイへとナイフの切っ先が向かうより先に、オレは地面に両手をバンっとぶつけた。青い光が縦横に走る。
「オレの恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてくたばっちまえええええっ!」
オレが足元の土から錬成したのは、無数の馬の脚だ。蹄の形も、脚のラインも、本物そっくり……よりはも少し派手めにかっこよく!錬成してやったけど。まあ、オレ様の芸術作品に蹴倒されるなんて嬉しいだろう?顎の下からクリーンヒット!馬の脚に顎を下から蹴り上げられ、宙に舞うテロリストたちも群れ。おお、壮観だなあ。当然宙に舞えば、その次には地面にまで落っこちて。ひゅーっと上がってドンって落ちる。あ、ドンと言えば、あそこで転がってるのが最大に運悪かった奴かな?手榴弾持ったまま蹴りあげられたから、空中でドンと大きな火花を上げた。打撲打ち身に加えて裂傷や火傷かあ……。ま、全治何週間ってほどでもないだろう。大丈夫、大丈夫。ま、うーうー唸りながら転がってるけどな、屍、もといテロリストの面々は。
オレの恋路を邪魔するからだぜ、ちゃんと肝に銘じておけよ?
ロイを捕まえてた男も、コンテナの上に乗っかってた奴もほとんどのテロリストたちが地面から湧き出た足に蹴倒され、地面とお友達状態で。衝撃とか痛みで動けないのか転がったままだ。運よく足から逃れられた奴もいたみたいだけど、そーゆーのはホークアイ中尉に仕留められるかブレダ少尉の指揮下の憲兵さんたちに拘束されつつあった。さすがロイの部下の皆様仕事が早い。倒れこんでいたと思ったファルマン准尉もハボック少尉もいつの間にか倒れてるテロリストたち拘束してるし。おお、さっすが!
ようやくこれでロイの腕の中へ駆けつけられるというもんだ。オレは足元に転がる邪魔な物体、つまりテロリストたちを踏みつけながらも真っ直ぐにロイのところへ全力疾走。
「ローーーーーーーーーイーーーーーーーっ」
一歩踏み出すごとに足元からは、グエっだの、うっだのという声がする。
そんな屍の山などどーでもいい。オレの進行するルートに転がってる方が悪いんだぜ。そんなもの視界に入れるつもりはない。飛び込んでくるのは魅了されるほどのロイの笑顔。ああ、白い歯がきらりっと光るぜ。駆け寄るオレを受け止めようと、両手を広げて待っててくれる。よーっし、あと数歩で手が届く。もー、ロイの腕へとダイブしてやる!
「エドワード!」
ロイはどーんと飛び込んできたオレを受け止めてくれた。ひしと抱き合うオレたちを照りつける強力な光。まるでスポットライトのようだな、ってオレはちょっと感動する。足元で蠢く邪魔なエキストラは無視だ無視。あ、なんだ、これ丁度いい高さになるじゃねえか。「それ」に気がついたオレは遠慮なく、転がるテロリストの顔を踏みつけた。うん、高さが丁度いい。
「……心配、したんだからなっ」
台の上に乗ればロイの顔が一層近寄って。オレはうるうると瞳を潤ませてロイを見上げた。目元には涙までを滲ませてみた。あ、べっつに演技とかじゃねえからな。ほんとーに、ほんとーだからな!
そんなオレ様の可愛らしい様子を遠目とはいえ見てんのに、ハボック少尉たちは、ホントは心配なんかしてねーだろと心の中で思ってたらしい。
この辺は後から聞いたんだけど。だけど、この時は口に出して突っ込みを入れようなどという気はなかったらしい。少尉たちはこの時は黙々とお互いの仕事に精を出し、倒れているテロ集団を次々に拘束していってたみたいなんだ。オレはロイしか見てなかったからこの時は聞いてなかったんだけど、後日っていうか後から思い出したようにボソボソと喋っていた少尉たちの会話を耳にしたことがあって。そん時言ってたんだよ、少尉がこんなふうに。
……確かに感動的なシーンかもしれねえけどな、でも大将が足元で台にしてるの、転がったおっさんテロリストその1だったんだぜ?と。それからこうも言ってた。確かにあの時の大将はすっげー可愛かったケドな。目なんかこう、潤みきってさ。でも、足元見ちまえば可愛いもくそもねえだろ。足蹴にしてたのはテロリストの顔!顔なんだぜ?よりにもよってかわいそうになあ……。その上少将だってナイフを突きつけられた傷を付けた礼だとばかりにそいつの腹の上に右足を置いてさ、体重をかけてげしげし踏みつけたるし。と、さも恐ろしそうに。と。
やられたことには三倍返しが身上のオレたちを見て少尉たちは、相手が悪かったなーと、拘束した犯人たちの肩をぽんぽんと叩いたらしい。そうして、あと拘束するべき最後の一人つまり、オレらの足もとでオレの台になってくれてるおっさんに目をやったようだった。

けれど、そのときのオレは、もうロイしか見てなかった。足もとなんかどーでもいい。少尉たちの様子なんてこれぽっちも気にしてなかった。ただ、「私が君を残して死ぬわけはないだろう?」と告げてきたロイの甘い声にうっとりしてた。当然、足元の、ぐえええええええっという潰された蛙のようなうめき声なんか聞こえてこない。
見てるものはロイだけで、オレが気にしてたのもロイの顔の傷だけだった。
「……でも、傷、ついた。ロイの顔……」
ロイもオレの瞳だけを見つめてきた。ただ、世界に二人だけしかいないとばかりに熱い視を交わしあったんだ。
「君が舐めて治してくれるのだろう……?」
ロイの艶やかな声に、オレはうっとりしつつ、こくりと頭を縦に振った。
ロイはにっこりとほほ笑むと、どうぞとオレに頬を差し出してきた。
オレは恐る恐るという風情で、それでもぺろりと舌で血の流れたロイの頬を舐めてみた。鉄のような味。キスしてもらうときと違う味だななんて思っちまって、ついでにロイの唇にも舌を伸ばした。
「……痛くねえか?」
「君に治してもらったのだから、痛むはずはないよ」
見つめ合うお互いの瞳が濃度を増す。ねっとりと、醸し出す雰囲気も何やらピンクの色を帯びてきた。ようやく、ロイを取り戻したんだという実感がわいてオレはただ、ロイを見つめ続けた。
その時後方ではぐったりとした精神を奮い起こしながら、こんな会話がなされていたらしい。
「あー、最後の一人は後でいいから、ハボックの隊は拘束した犯人たちを取りあえず先に運んでくれ。フュリー曹長。ライト、とっとと片付けてれないか。あれ、視界に入れたくねえし……」
ブレダ少尉が、抱き合っているオレたちを指さしたらしい。
「あー……了解……」
ハボック少尉はくわえたままだった煙草に火をつけて、ふーっと煙を吐き出したとのことだった。そんな男たちに目もくれず、ホークアイ中尉は構えていたライフルをケースにしまう。それから、すたすたとオレ達の方へと歩いてきた。中尉が近寄ってきたのはオレにもわかった。けど、それに気を留めていられなかったんだ。だって……ロイがオレの左手にキスをして、それから銀色に輝くリングを左手の薬指にそっとつけてくれたところだったんだから。
「ロイ……」
オレは期待を込めて、ロイを見つめた。
「遅くなってすまないね。誕生日のプレゼントだ。受け取ってくれるだろう?」
そうして眩暈がするほどの甘い声で「君が二十歳になったら結婚しよう、エドワード」って続けてくれた。
うわわわわわわ、これってアレだよな、プロポーズ!
オレは天にも昇る気持だった。もー、我慢なんかするもんか。何が何でも初志貫徹!!
「オレ……今日の誕生日にもう一つ欲しいものがある」
ああ、言っちまった。言うぜ、やるぜ、叶えるぜ!!
「何だろう?ああ、君が望むのならどんな願いでもかなえよう」
そのロイの男らしい眼差しに、もうノックアウトくらくらだった。あ、いや、もうとっくの昔に悩殺されてっけどな!
「ロイが欲しい。今日、今すぐ。……だめっていうならこの指輪返すからな!」
はっきり言えば、抱け!!っつー意味だと宣言したオレにロイは動揺したらしい。珍しくその眼が泳いだ。
「エド……」
「も、待てない。……二十歳までなんてめちゃめちゃ先じゃねえかよ。そんなん無理」
ロイの顔からは笑みが消えた。困惑したような戸惑ったような表情がそこには浮かんで。
「しかしだね。やはり君は未成年なのだし……その、私を受け入れるにも身体に負担が大きいと思われるし。そんな可愛らしいことを言ってもらえると、もうこれ以上我慢が出来なくなってしまうというのも本音なのだが、焦る必要はないと思っているのだよ。私は君しか考えられないし、君だって私のことを好いていてくれているだろう。だから、エドワード」
ロイのその言葉にオレはぷっくりとむくれた。これ以上待てないのだ。大事に大事に、それこそ真綿でくるまれるように愛されているのはそれはそれで気分がいい。けれど、もう子供じゃない。十八歳なら立派に大人だと思う。プロポーズしてくれたのならもう婚約者じゃねえか、なら、当然、いいだろう?
「やっ、オレは待てない。今日みたいに人質になったり顔に傷つけらたり……これからも何かあるんじゃねえかって思うと気が気じゃねえんだよ。な、頼むから……ロイ……」
真っ赤になって、潤んだ瞳でロイを見上げる儚げな風情のオレ。これで落ちなきゃ不能って言ってやる!全身全霊かけて抱いてほしいって示してんだぜ?ロイは「エドワード……」と掠れた声をだしてきた。腕の中のオレをぎゅっと強く抱きしめる。

ロイの葛藤がオレには手に取るようにわかった。心臓の鼓動が恐ろしく速くて、オレよりも体温が高くて。オレとすることが嫌なんじゃなくて、オレがまだ、未成年だからって我慢に我慢を重ねてることなど知っている。だけど、今ロイはオレに指輪を贈ってくれて、プロポーズまでしたんだぜ。なら、今日が初夜でもいいじゃねえか。ってオレは思うけどロイはやっぱり頭が固くて。掠れた声でしどろもどろになりながら、言葉を綴ってきた。
私は君にちゃんとバージンロードをその名の通り、守り切ったまま歩かせたいんだとか、ちゃんと手順を踏んで、指輪を贈って君が承諾してくれたのなら最初にアルフォンスに許可もとって。それからリゼンブールの母君の墓前に手を合わせて、ダブリスにいる君の師匠に挨拶してから、って言ってくれてんだけど。だけど、それよりオレはもう今すぐロイが欲しかった。もっと強いつながりが欲しかったんだ。
「そんなの、後でいい。な、ロイ。オレもう子供じゃねえんだぜ。自分のことは自分で決められる」
「エドワード……私は……」
潤みきったオレの瞳に見つめられ続けられれば。さすがのロイの意思もぐらついたようだ。よし、もう一息とオレはロイにしがみつき、緩みだしてきたロイの理性に追い打ちをかける。
「さっき、言ったじゃねえかよ『どんな願いでもかなえよう』って。ロイ……オレは今日、ロイが欲しい。な、オレの願い叶えてくれるんだろ?」
ロイはオレから目をそらし、額に眉を寄せて。思い悩んでたけれど。ようやく心を決めてくれたのか、きっぱりとして声で断言した。
「ああ、私は嘘は言わないよ……もちろん可愛い君の願いは……」
オレの脳内は一気に期待で高まった。願いは、の続きは勿論叶えるだよな?
よし!ここが大事な詰めだ、絶対にイエスっていう返事に持ち込んでやる!!
……そーだというのに、一転。オレの脳内を刺激するかのような、衝撃が側頭部に打ちつけられた。ゴンって、痛いってば。何だよ?
「部下の士気にかかわります。お帰りください。後の処理は我々で」
ホークアイ中尉だった。右手にしていた銃はロイの頭に突きつけられている。左手に持っていた救急箱でオレの頭も同時に小突いたらしかった。
「中尉……」
今いいところなんだから邪魔をしないでほしいなーというオレの控え目な視線は一刀両断されちまった。はい、すみません!!と小さくなってしまう。ロイもホークアイ中尉を睨みつける。が、その程度で怯むようなら中尉じゃねえんだよ。
「閣下。このまま司令部に行かれまして、このテロリストたちの処分決定までお仕事されますか?それともとっととお帰りになって後はプライベートな時間を存分に楽しまれますか?私はどちらを選んでいただいてもかまいません。本来貴方は本日休暇でもありますし」
その眼は氷よりも冷たかった。答え方如何ではトリガーを引くぞと言わんばかりのその瞳だ。ロイは仕方なしに「わかった。後は頼む」とそれだけを簡潔に告げた。するとホークアイ中尉はオレに向かってにっこりと微笑んだんだ。
「エドワード君。少将の顔の傷、貴方が手当てをしてもいいし、医者に連れて行ってもらってもいいわ。でもね、ナイフの傷なんだから、舐めたくらいじゃ血も止まらないわよ」
にっこりとした頬笑みだけど、やっぱり瞳の奥は冷たくて。逆らう気など起きなかった。
「……い、医者連れてくから!顔に傷残ったら困るし……」
「そう?じゃあお願いね?」
それだけを言い残すとホークアイはくるりとオレ達に背を向けた。その背中が雄弁に語る。

あなた方にかまっている暇などない、と。

オレは中尉から受け取った救急箱の中から消毒液とガーゼを取り出して、簡単に応急処置だけをする。と、オレの左手の指には輝く指輪があって。オレはえへへ、とロイに笑いかけた。するとにっこりとロイも笑みを返してくれて。うしっ!ちょっと中断されたけど、仕切り直し。もう一度迫って口説いてなんとかベッドに持ち込もう!

オレとロイは手なんか繋ぎながら医者へと向かった。


4へ続く








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