小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

軍病院で顔の傷を縫ってもらい、オレたちがロイのアパートにたどり着いたのはレストランの予約時間なんかとっくに過ぎてる時間で。キャンセルするしかなくて。オマール海老のなんとかとかラム肉の香味野菜なんとかかんとかとかにはあっけなくサヨナラだった。
ま、今のオレはにはそれより重要なものがある。そう、ロイを何とかして口説くのだ。医者へ向かい道の途中も、ロイの家にたどり着くまでも、ずううううううっとうるうるした瞳で見つめ続けたたから、ロイの意思だってそうとうグラついているはず、よし、がんばれオレ!
けれどロイはすまなそうにしているばかりだ。ああ、もうそんな顔させたいワケじゃねえってのにな。オレ、ロイが好きなだけなんだけどな。ああ、弱気になるな、エドワード。初志貫徹だ初志貫徹!何が何でも今日こそは!
オレが気合を入れなおしていたんだけど、ロイは別のことを気にしていたらしい。
「せっかくの君の誕生日だというのにこんなことになってしまうとは……」
あー、そっか。オレがロイに迫りまくるのを気にしてんじゃなくて、オレの誕生日だってーのにテロリストに捕まるし、レストランの予約もダメになったし、ってそっち、気にしてたのかあ……。あー、ちょっとほっとした。うん、オレ、そんなの気にしてないって言うか、眼中にないって言うか……。
「べつに、いい。ロイが無事だったし。その……指輪うれしいし……」
正直言ってオレはレストランなんかもうどうでもよかった。それよりも、今夜のあれこれに心は駆けて行ってしまってる。
「エドワード……」
「オレ、ロイと一緒に居られるだけでいいし……それで許してやるし……」
ロイは目を細めてふうと、ほっとしたように息を吐いた。ケド、ああ、どうしよう。どうやったらそこまでさっさと持って行けるんだろう。
オレはそんなことばっかり考えてた。
「レストランもとっくに閉まっている時間だし。我が家にはケーキもないし、簡単なものしかできないが……それでもいいのかな?」
せっかくの誕生日なのに大したものはできなくてすまないと告げてくるロイに、オレはこくりと首を縦に振った。
「うん……別に腹減ってるわけじゃねえし」
それよりも胸が一杯で。食事なんかきっと喉、通らないし。
「ケーキとか、いらねえし、その……食うっつーかオレは……あの……」
ああ、ほら、それだ。言っちまえオレ!勇気を出して誘うんだエドワード!
「ああ、軽いものでいいのかな?そうだね、私が作れるものといったら……サラダとかスープとか朝食のメニューのようなものだけなのだが……」
誕生日にふさわしいメニューではないのだが、と言いながら、キッチンに足を向けるロイを咄嗟にオレの手が引きとめた。
「や、そうじゃなくて……オレが食いたいのはロイで……あ、この場合食うのはロイか。オレは食われるほうで……」
「エド?」
ロイの足がぴたりと止まってオレに目線を向けてきた。オレはなんか、恥ずかしくって。ギュッとロイの袖をつかんだまま下を向いてしまう。
「さっきも言ったじゃねえか……オレ、もう待てねえんだけど……」
あああ、もう。恥ずかしいって言うかなんつーか。別にオレも男だから、オレから誘うのもやぶさかでは無いんだけど、でも、その、あのさ。オレはつまり……初めてなわけで。や、ほら本とか知識とかならあるんだ。ロイを誘おうと思って錬金術書と並行して山ほど読んだ。けど……経験なんてねえからな。どーやってそこまで持ってけばいいのかなんかわからなかかった。ああ、こんなことならアルフォンスの大好きな恋愛小説でも読んでおけばよかった。具体的な行為はめちゃめちゃ細かく記述されてたんだけど、そこに至るまでの道筋はオレが参考にしたハウツー本には載ってなかったんだよ。だから、ロイもちょっとは協力的になってほしい。どうしていいか分からなくて、目が潤むどころか本気で泣きそうになる。
ダメだとか言われたらもうオレ、本気で泣いちまうかもしれない。
ぎゅっと、唇をかみしめてるオレの顔はきっととっても情けない。けどもうどうやって誘ったらいいのかなんてわからなくて。ただ、立ち尽くすしかなくて。ダメか?とオレは首を傾げる。ロイはそんなオレをじっとしばらくの間みつめてくれた。それから、ようやく優しい笑みをその顔に浮かべて。ゆっくりとロイの唇が降りてくる。オレは瞳を閉じて、待ってみる。触れられた柔らかさにうっとりとしていれば、口腔内をねっとりとしたロイの舌が蠢いてきた。ああ、承諾のサインだと思ってオレは嬉しくて。ロイがオレの金の髪に指を絡めてくる。撫でるような、戯れるようなその指がオレの三つ編みを解いていく。留められていた髪がふわっと広がって。それがオレたちの気持ちみたいだなって思ったりして。
唇が離された後は、オレはどうしていいのかわからなくて。じっとロイを見つめるしかできなかった。そんなオレをロイはそっと優しく抱きあげてくれた。
ドキドキが止まらない。オレはギュッと小さく縮こまって、ロイの胸に頬を寄せた。寝室のドアが開かれて、ぱたんと閉められた音にちょっとだけ身震いしちまって。ドアからベッドまではわずかに数歩。大きな窓からは差し込んでくる月の光がきれいで。オレは今日のこの夜空を忘れないようにしたいなと。そんなことを考えていた。


ロイはオレを下ろすとベッドに腰かけさせた。感覚が冴えてきちまって、足の裏の絨毯の感触までリアルに感じた。ベッドに置いた手はぎゅっとシーツを握って。心臓は期待ではち切れそうで。ロイは床に膝を立てて座ると、オレの左手に恭しく触れてきて、そうして手の甲にそっとキスを落としてくれた。触れられたところから熱が生じてあっという間に全身を支配する。いや、違う。もうとっくにオレの身体は熱かった。なのに、もうこれ以上熱くなんてなれないって思うのに、それでも痺れみたいに走ってきたんだ。電流?しびれ?それとも熱?わかんねえけど、ロイが欲しい。そう、言葉じゃなくて身体が言ってる。もうこのまま押し倒されるのかなと思っていたのにロイはその姿勢のまま動かなかった。じっと見つめてくるだけで。目線がいつもと反対で、オレがほんの少しだけロイを見下ろす感じが不思議だった。ロイがゆっくりと口を開いて。
「……誓わせて、ほしい」
その低く抑えたような甘い声に、真剣な眼差しにオレの心臓はまたもや高鳴る。
「ここには神の祭壇もない。祝福してくれる招待客もおらんが。それでも『病める時も健やかなる時も』君だけを愛することを、誓う」
漆黒の瞳の中にはオレしか写されてはいなかった。ロイはずっとオレとこうなることを待っていてくれて。きっとオレみたいにさっさと繋がりたいとかそういうだけじゃなくて。オレが未成年だからってそれは言い訳じゃなくて、きっと、軽い覚悟とかじゃなくて。一生ずっとオレのこと好きだって全部背負う覚悟決めてくれたんだ。オレ、こんなロイの傍でちゃんと立てる人間になりたい。オレの全部でロイの傍に居たい。今はまだ、アルフォンスの身体も取り戻していなくて、オレの手足も機械鎧で。でも、ちゃんと取り戻して。それで、ロイを一緒の人生歩む。そう、今決めた。好きだから、指輪なんかもらっちまったから、もうしてもいいだろうとかじゃなくて。ちゃんとオレはロイの傍に在り続ける覚悟をする。
「ロイ……」
オレの瞳に込めた決意をロイは受け止めてくれるだろう。まっすぐにオレを見上げてくる。
「愛しているよ、エドワード……」
ギシリとベッドが軋む音がする。月の光に照らされたロイの漆黒が怖いくらい綺麗で。シーツに広がったオレの髪もこんなふうにキレイだと思ってくれたらいいなって。
そうしてロイはゆっくりとオレの額にキスをした。これはきっとロイの決意。触れられた場所が熱くなる。鼓動も、抑えることができなくて、オレはロイへと手を伸ばす。
欲しい、んじゃない。触れたい。ただ単に。誰かに、誇示したいんじゃなくて、二人でいい。誓うから、ロイに。オレも。ロイだけに。一生、どんなときだって『病める時も健やかなる時も』爺さんとかになってよぼよぼになっても愛してる。
「うん……。オレも。どんなときだってロイが好き」
もう後はなんにも考えることができなくて。オレはただ、ロイの名を呼んだ。何度も何度も、繰り返し。甘くて熱い吐息とともに。
好きだ、もう好きで。止まんない。もっと、たくさん。今までで一番傍に居るロイが愛おしくて、大切で。さらけ出すのに怖いなんても思わなかった。今、こうやってロイを受け入れることはとても自然で。
「オレも、誓う。神様になんかじゃなくて、ロイに。ロイだけに」
熱に浮かされながらだけど、オレはそうロイに言うことができて。幸せそうに目を細めたロイの顔を一生忘れないってそう、思った。


今、オレの素肌に触れてるのはさらさらとしたシーツと、それからロイの身体で。あ、こんなところにも傷がある。あ、あっちにも。腹の火傷の痕もすごいけどな、そんなの知ってたけど。だけどあらためてこうやってじっくり見てると知らなかった傷も多いなあ。やっぱ軍人なんだよなあ、コイツ。腹だって割れてるし。何かつい視線は動く。ロイの顔、真っ直ぐに見れなくて。でも、見たくて。だから、瞳じゃなくて身体の方、見ちまうんだ。あー、ヤラシイ気分で眺めてんじゃねえぞ?そこんとこ勘違いすんなよ。あ、ちびっとはそういう気もあるけどってオレはだれに言い訳してんだろ?まあ、いいや。オレに圧し掛かってきているロイの身体が熱い。弄る掌が汗ばんで。もちろんオレもジワリと汗を掻いてきている。ああ、ロイの視線を感じる。きっとオレとおんなじようにロイもオレのこと、見てる。触れてくる手が熱いんだ。その熱から伝わってくる。欲しいって。それからオレのこと好きだって。ロイの唇がオレの首筋に這わされて、柔らかい部分を吸い上げて。あー、もう何か歌いだしたい気分。や、歌わねえけど、そんくらいオレは今浮かれている。抑えても、抑えられない。歌う代わりにくすくす笑う。
「……何を笑っているんだい?」
オレの首筋に沿わされてた唇が、今度は呟くような囁きをオレの耳元に落とす。
「ん……何か歌いたいって言うか……?」
「うん?」
ロイの誘うような吐息のような低い返事にオレはますます雲の上にいる気分。ふわふわふわふわ身体が浮く。歌う。手が足が身体が心も。
「嬉しいってか……」
「ああ……」
「幸せって言うか……」
「そうだね」
今の気分を表す言葉なんて、思いつかない。嬉しいもそうだし、幸せなのもモチロンなんだけど、そんな短い単語じゃすまないくらいのこの気持ち。いっそ踊りだしちまおうか、喜びのダンスをステップ踏んで。でもそんなことより、言葉にしちまえ。好きだっていつもいっつも言ってるけど、なんか気恥しくていえなかったアレを。
「ロイ」
オレを見つめてくるロイに瞳の優しさに、背中押されて。オレは言うぜ。
言っちゃうからな。
「エドワード?」
勇気を出して、せーのっ、言え、オレ!
「あ、あのさ、オレ、オレさ……あ……愛、して…る……」
呟くような小さな声だったけど、オレはぎゅーっと目をつぶってなんとか言って。言った途端に唇を性急に吸い上げられた。ロイの指がオレの胸からもっと下の方に伸ばされて。
「……エド」
ロイの声が低く掠れて。いつもの、今さっきまでの優しい柔らかな甘い声じゃない。もっとなんて言うか切羽詰った、追い詰められた声でオレの名前、呼んだ。こんな声、初めて聞いた。手も唇も忙しなく動いて。あ、あ、あ、、、。
うん、いい。気持いいかも。こんな荒々しいロイなんか初めてだけど。いつもの優しい恋人然とした姿なんかじゃないけれど。ああ、もう、こんなロイもオレは好き。なあ、もっと、オレに触ってな。意識、ふっ飛びそうになるくらい。あ、すげぇ、くらくらする、ロイの熱にやられて。天国ってこんな感じ?や、天国よりもきっともっと幸せ。ロイの腕の中はきっと世界でいちばんの、オレだけのパラダイス。万人向けのみんなのための場所なんかじゃない。これはオレの。オレだけのロイ。へへへ、と一つオレはまた笑って、汗流れてくるのを舐めてみた。しょっぱいかも、塩の味。甘くないけど、塩分だから。だけどロイの汗だからかな?甘く感じる。オレ、変?へんかな?でも、あ、う、う、そこ、ロイ、触ったらヤダ。ああ、ん……。ホントは嫌じゃない、もっと触ってほしい。擦るなんて、自分でやったこともあるんだけど実は。でも、今触れてるのはオレの指じゃなくて、ロイの手に包まれてる。包まれてるだけ、じゃなくて、オレの中にもロイの指、差し入れられて。でも、あ、ん。耐えられなくなる、んなところ、あ、駄目だ、ロイ、指、動かさないでくれ。そんなトコロ、触るのはともかく舐めんな、ダメ……じゃないけど、あの、そんなふうに吸われちまったり擦られたりすれば、出るから。あ、だから駄目、出るってば、手、離してくれ、よ。駄目だって。
「我慢しなくていいから、出しなさい」
オレのソレはマイクじゃねえんだから、ソレに向かってしゃべりかけんなよ。ああもう、うっかり気持ちいいってば。あのな、そこは男なら擦られたり舐められたりしちまえばそれだけで気持ちいんだよ。その上後ろの方もロイの指、二本に増やされて、抜き差しなんかされると、あ、やっ、、駄目駄目駄目ダメだって、うわっ、ナニソコ、嘘だろ、あ……や、ダメ……っ!!
頭が真っ白になって。目の奥がスパークして光が飛んで。なんにも考えられなくて力なんか入んなくて、脱力しているオレの足がロイの肩にかけられたのにも気がつかないくらい。
「……力を抜いてくれ」
そう言われても、言われなくても入んない。力なんか、どうやって?
うぁ、あ、あああ、あ、あロイだ。来た、オレん中、ロイのが動いてる。ん、ちょっと痛い。けど、痛いのすら今はイイ。もっと、もっと欲しい。内側、擦り上げられる痛みが嬉しい。熱、アツイ。視界が赤く染まるみたい。だけど大丈夫だから動いて。オレ、へーき。指で触れてくれたところ、今度はロイので触って、もっと奥の方まで来ていいから。オレは嬉しい。好き。ロイ。なあ、ロイってば。だから、もっと、狂っちまうくらい。強く、激しくもっと来い。
オレの一番奥まで、ロイだけが来れる場所に。オレはロイにしがみついて、揺さぶられるまま受け止めるから。なあ、だから、なあ、もっと。壊れやしねえから。オレは大丈夫、結構頑丈。うん、好き。ロイ好き愛してる。愛してるって、何度叫んでもきっと足りない。叫んだつもりで声なんかにはなってないのかもしれない。ああ、とか、ん、とかそんな意味無さない音だけしか出てねえんだ、きっと。だけど、ロイには伝わってる。それがわかる。繋がってるところから、声じゃなくて気持ちが電波みたいに流れてる。流れる?ちがう、溢れてく。きっと夜空の向こうまで、そんな気持ちは広がって、オレとロイに戻ってくる。なあ、ロイもこんな気分かな?オレとおんなじように気持ちいい?
もっともっともっと欲しい。ロイが欲しい、なあ、ロイも欲しがってオレを。もっとずっと深いところまで。揺らされて、波が立って岩に当って砕け散る。揺さぶられて熱が溜まって、もう爆発は近い。オレの身体は流れ出す前の溶岩みたい。もう、後はきっかけ待つだけだ。叩きつけられ続けるロイの嵐。オレはもう飲みこまれちまって、後はなんにも考えられない。真っ白。熱いけど、一面の銀世界。たぶん、そんな感じ。ダイヤモンドダストの中、オレたちだけがスポットライトに照らされる。眩しくて、何も見えない。わかるのはロイの荒い息と熱い身体。それからオレを呼ぶ声だけ。ロイの焔がオレを包む。燃え上がった紅蓮の焔。ロイの赤。白い視界が赤に染まる。ドンって、大きな衝撃が身体の奥を貫いた。赤と白の色だけじゃない。オレの視界は七色に爆ぜて、
「……ぁ………ぁあっ、っ、あっ、あ……っ!」
「エド、……ド……っ!」
オレの中、いきなり溢れて。オレの中で爆発したロイと同時にオレも吐き出して。息が荒くて、心臓も血管も壊れそうなくらいドクドクしてる。それでもそんな息のままロイがオレの額にキスしてくれて。だからやっぱりオレは笑って。そんで後はおぼえてない。ただ、ロイに包まれて、そのまま瞳を閉じて。好きだよって眠る前に言えたかな?それだけちょっと気になったけど、言葉にしなくてもロイには絶対伝わってる。だから、オレは安心して、意識を手放した。


5に続く



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