小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

「多分、もうすぐ。今のところ相手の情報が無いからね、はっきりとはわからない。だけど、兄さんは、ここで、出会う。その人に。出会うことで未来に変化が訪れる」
アルフォンスは手札を繰り続ける。
「なあ、アル。その相手に会わなかったらさ。……やっぱりオレは死ぬんか?」
エドワードはアルフォンスやトリシャの占いを疑ったことはない。けれど、自身が死ぬ可能性を示唆されてもあっさりと了承できるはずもない。
「うん……。何度占ってみても出てくるのは兄さんの未来を表す札は『混迷の闇』と『崩れ落ちた塔』と『死神』だからね。死ぬってカンジが濃厚。でもこの未来を打開するためにはこの『恋人』と『運命の輪』の札がある。……場所はここ、を示しているし」
「アルの占いは、信じられるケドさ。……女装したオレと出会う『運命の相手』だろ?……男のオレじゃいけねえのかよ……」
そこが、どうしても納得がいかない。
何故男のエドワードが女装などしないといけないのか。
「うーん、わっかんないんだよねそれ。でも『運命の相手』に出会うためには、『花』と『乙女』のカードが必要だって出てる。この学校の女の子に手助けしてもらうのかな、とかも思ったけど、それも違うって出たからね。兄さんが乙女になってみたら会えるのかなあって、まさかと思いながらカードに聞いてみたら答えは『イエス』だし。……だから多分、兄さんが女装するのがいいと思うんだよ……」
「……女装したオレと出会う運命の相手って……、あんま、会いたくない気がする……」
「うーん、そう言われるとねぇ。でもここは嫌でも会ってもらえないと兄さんの未来は無いっポイし……、霧に閉ざされちゃうの嫌でしょう?」
「死ぬのも霧ん中迷走するっつーのもごめんだな。まあ、いっか。運命の相手とやらに出会えばオレの未来も変わるんだろ?会った後でなら、運命の相手とやらがどんな相手でもまあ何とかなるか。……気に入らねえヤツとか女装した男が好きな相手とかならぶん殴るとか蹴り飛ばすとかまあなんとでも……」
「……殺人だけはやめてよね。それに運命の相手がどういう人なのかわからないんだからさ。例えば娘さんとか妹さんとかが居て、その人が死んじゃってて、で、女装した兄さんがその娘さんとか妹さんと瓜二つで……なんて言うほのぼのバージョンかもしれないじゃない」
「そーいうのならいいけどな。女装だぞ女装。……オレが女と間違われて襲われるとかだったらどーすんだよ。そんなヘンタイだったらぶん殴ってでも貞操を守るぜオレは」
「ま、相手の情報皆無だから。さすがの母さんも兄さんの運命の相手がどういう人だか占えなかったしね。だけど出会えば分かる。それにそれはそう遠くない未来だ」
「ふーん……。ま、後は会ってからの勝負ってことか?」
「そうなるね……」
「それまでこの格好続けるのかよ……」
制服のスカートをひらっとめくってみる。もちろん下には黒のスパッツを穿いてはいるが、それでも足やら股間やらがスースーしていて戴けない。
「会えるまでの辛抱ってことで!」
「あー。会えるまでか……。会わなきゃいけねえってのはわかるけど、会いたくねえなぁ……」
はあ、とため息をつくエドワードの気持ちはわかるものの、それでもアルフォンスはエドワードに死んでほしくなどは無い。
「死ぬよりは、マシってことで。我慢してよね兄さん」
「あー……」
やりきれずに遠くを見る。教室の窓から見える空にはもうオレンジ色が混じってた。
「やべ、今何時……」
慌てて黒板の上の時計を見れば、もうかなりの時間が経っていたことがわかる。
「あれ、もうこんな時間?早く帰らないとグレイシアさん心配するよね……」
アルフォンスは手早くカードを取りまとめ、それをカバンにしまった。
「飯の時間、今日は六時半っつってたよな。早く帰らねえと……」
「うん、エリシアちゃんもお腹すかせて待ってるだろうしね。駅まで走る?」
グレイシアはトリシャの親戚だ。この学校に通うに当たってエドワードとアルフォンスを快く下宿させてくれたのだ。そしてエリシアはグレイシアの娘である。親戚といっても初めて会ったエドワードとアルフォンスにすぐに懐いて「おにいちゃん」と笑顔を見せてくる可愛らしい幼稚園児だ。待たせるわけにはいかない。それにエドワードもかなりお腹が減っていた。
「うっし、走るぜ!」
「あ、でも兄さん。全力疾走は駄目だよ」
「なんでだよ。急ぐんだろ?」
「兄さん。今の自分の格好考えて。スカートで全力疾走したらパンツ見えるでしょ」
「見えねっつうのっ!これ穿いてるだろっ!」
「まあね、ちら見せ防止のスパッツはね、穿いてるけどね。……それでも兄さんのナイス太ももとかねぇ、好きそうな男の人って多そうだし……」
「何だぁそりゃっ!」
「兄さんは今、どっからどう見ても美人。ああ、顔だけじゃなくてね、筋肉の付き方とかすごい綺麗だし男には見えないんだよ?胸は当然ながらないけど、スレンダーなモデル体型って言えると思うし。今日だって兄さんってボクが言わなきゃクラスメイトの皆さま、全員が全員兄さんのコト『うわぁ、すごい美少女っ!』って思ってたと思うよ?その美少女がスカートひらひらさせて走ったら……男の人簡単にひっかけちゃうでしょう。有象無象の男の人に迫られて兄さん嬉しい?」
「冗談じゃねえっ!嬉しくねえっつうのっ!」
「ま、だから、スカートに気をつけながら走ってね」
「……おう」
納得は出来ないがそれでも夕暮の空を見上げれば、走って帰らねばならないだろう。エドワードの腹も可愛らしく「ぐう」と鳴いて、空腹だと主張し始めた。
エドワードは一応気をつけながらもそれでもグレイシアとエリシアの待つ家に向かって走り出した。

そうして。
いくら気をつけて走ったところで、かなりの速さで学校から駅までを走り抜ける美少女と美少年が目立たないはずは無い。
すれ違った人々は皆、エドワードとアルフォンスに目が釘付けになった。
目立つ。はっきり言わなくても、ものすごく目立ったのだ。
何かの撮影かと思ってテレビのカメラや撮影スタッフを探し、周囲をきょろきょろと見回したものもいた。

そうして。
その中にはエドワードの『運命の相手』が居たのであった。
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