小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

ずだだだだだだだだだだだだだ……、と駅を駆け抜け電車に乗って、その電車の中でも足踏みをするようにして、二駅を過ぎ、そして電車から降りてまたもやスーパーダッシュをする二人。
「た、ただいま戻りましたー」
「遅くなってごめんなさいっ!」
さすがに息を切らしてエリシアとグレイシアの待つ家に飛び込んだ。
「おー、お帰りエドにアル」
二人を出迎えたのはエリシアを腕に抱えたヒューズだった。
「あ、あれ?ヒューズさん今日は早いんですね」
外交官という職業柄、ヒューズは早朝に出かけそして帰宅は深夜になることが多いと聞いた。そのヒューズが夕飯前に帰ってきているのはもしかして、このヒューズ家に暮らし始め、そして今日が転校初日の自分達を気遣ってくれたのかもしれないと、アルフォンスはちらりと思った。
「あー、今日な、仕事半分プライベート半分っていうかなあ……」
エリシアを降ろしながらヒューズは笑った。
「あー、グレイシアが今日の夕飯六時半からだって言ってただろ?それ、今日は俺のな、学生時代の友人というか悪友というか、ま、若かった頃に一緒に馬鹿なことしまくったヤツがな、今日来るんだよ、ウチに」
「へー、ヒューズさんの友達?」
「だもんでな、夕飯の時間も指定してもらった」
「あ、それでグレイシアさん今朝学校に行くときに6時半にご飯って言ってたのか」
そうかお客さんが来るからか、とか納得をしながら皆でリビングに向かえば、そこには大きな皿を持ってそれを運んでいるグレイシアがいた。
皿の上にはオーブンから取り出したと思しき鴨のローストが香ばしい香りを振りまいている。蜂蜜の甘い香り、そしてそこに寄り添っているのは木イチゴのビネガーソースのほのかな酸味。匂いだけでも口の中に唾が溜まるほどに美味しそうである。
「あら、エド君アル君お帰りなさい」
「あ、ただいまです。というかすごいごちそうですね。そんなにたくさんお客さんいらっしゃるんですか?」
他にも生ハムとフルーツのサラダやスモークサーモンのマリネに3・4種類はあるチーズの盛り合わせ、ムール貝の白ワイン煮、ラム肉のカイエット、アップルパイにチョコレートのムースまでがずらりとテーブルに並んでいる。しかもまだ鍋やらフライパンの上でぐつぐつと煮込まれている料理もある。いったいどれくらいの量を作るつもりなのだろうか?
「そうねぇ、何人みえるのかしらね?」
「あ、じゃあ、ボク手伝いますね!」
「あら助かるわ。それじゃ手を洗って来て頂戴ね」
「あ、オレも手伝うよっ!」
エドワードとアルフォンスはバタバタと足音を立てながら洗面所に向かい、そしてそれから手早くエプロンを身に付けた。
「えーと、何から手伝えばいい?」
首を傾げるエドワードに「サンドイッチを作ってもらえるかしら。ローストビーフは薄切りにしてあるから、グレービーソースとレタスとマヨネーズとトマトを挟んでもらえればいいだけにしてあるから」
「……すんげえ美味そうなんだけど……」
思わずごくりと喉を鳴らしたエドワードをアルフォンスが睨む。
「兄さん、つまみ食いは駄目だよ」
「わ、わかってるけどこう……、ああああぁハラヘッタ!美味そうで目の毒!マジで!」
叫ぶエドワードにグレイシアはにっこりと微笑んだ。
「余ったら食べてもいいわよ。こっちはええとね、ローストビーフのサンドは護衛の人用だから、お皿に並べるんじゃなくて、一つ一つラップでくるんでもらえるかしら?」
「護衛の、人?」
「そうなのよね、みんな家の中に入ってもらえればいいと思うんだけど……、やっぱりどうしても外も警固しないといけないらしくて……、でも何もおもてなし出来ないのはね、申し訳ないからせめてこのくらいはって思うのよ」
警固とはどういうことなのだろうかとアルフォンスとエドワードは首を傾げるが、それには気が付かずにグレイシアは手早く出来たばかりのスープをポットに注ぐ。そして、エドワードとアルフォンスが作ったサンドを紙の袋の中に詰めていく。
「やっぱり身分の高い人は大変なのねぇ……」
「身分の高い人?」
ふう、と残念そうにグレイシアはため息をつく。
説明してくれそうも無いので、アルフォンスはエリシアに絵本を読んでやっているヒューズに目を向けた。
「あー、アルとエドはイーストエンドっつう国知ってっか?」
「ええ、まあ。名前の通りこのアメストリスの東の小国ですよね」
「あの国、王政だっつーことも知ってる?」
「ああ、えっと……、今は女王が治めているんでしょう?マダム・クリスマス陛下……でしたっけ?こう、その、恰幅のいいというか太っ腹というか豪快そうな女性の方をニュースで見たことがありますけど?」
「皇太子っつーか、次期国王は?」
「あー、見た見た。黒髪の優男ってカンジの」
「うん、すっごい美形のタラシっぽい人でしょう!あ、失礼。すごく端正な顔の美形の方ですよね。イーストエンドの国民に大人気ってなんかそういう特集っぽいのも見たことありますよ、もちろんテレビでですけど」
「それなりにあの国もことは知ってんだな?」
「ええ、友好国ですし。美形の一族ってことで、アメストリスのテレビ番組でもよく紹介されてますし。でもそれがどうしたんですか?」
アルフォンスは今日このヒューズ家に来る予定の客について聞いたつもりだった。
けれど、ヒューズはイーストエンドの話をしだしている。意味がわからず訝しげに尋ねる。
「ヒューズさんは外交関係のオシゴトだから、その、ええとイーストエンドの関係者でもいらっしゃるんですか?」
非公式な外交でも行うのだろうかと一瞬思ったが、水面下の外交官同士の交渉であれば自宅に招くようなことなどしないだろうし、そもそも「身分の高い」などという言葉が出るわけはない。
「あー、関係者っつうか本人つうか……な、」
「はい?」
「ま、もうすぐ来るだろうから、来てのお楽しみってことで!」
「はあ……」
仕方なしに、半ばため息のような返事をする。それから、今更のように気がついた。
帰ってきてそのままグレイシアの手伝いをしたため、アルフォンス自身もエドワードもまだ制服を着たままである。
……着替えたほうがいいんじゃないんだろうか?
そう思った途端にドアのチャイムが「キンコーン」と高らかな音を立てた。
「あら、いらっしゃったかしら?」
「あ、じゃあオレが出るよ!」
このままローストビーフを見ていれば、アルフォンスに教育的指導をされてもつまみ食いをしそうだと懸念したエドワードが素早くドアに向かった。
「にーさん、お客さんお迎えするんならエプロン取りなよ!」
「あー、よっしく!」
言われたとおりにエプロンを外して、それをエドワードはアルフォンスに投げた。
ひょいと、それをキャッチしたアルフォンスは「あー……、兄さんも制服のままだった……」と己の発言を少々悔やむ。制服のスカート姿で客を迎えさせるくらいなら少々ソースやら何やらで汚れてしまったエプロンのままのほうが良かったのかもと思ったがもう遅い。
「はいー、いらっしゃいませー」
明るい声でドアを開けたエドワード。
そして。
もちろんそこにはテレビでしか見たことが無かった黒髪の男が居た。
イーストエンドの次期国王。ロイ・マスタングである。

「へ……?」
思わずぽかんと口を開けて、そしてエドワードは何度もその顔を凝視した。

ロイも、先ほど車内から見たばかりの金色の髪の少女を見て驚いた。
ハボックに跡を追わせたので、このヒューズ家に彼女が居るのはわかっていた。だが、ドアを開けられてすぐに会えるなどとは予想だにしていなかった。ざわりと、やはり血が騒ぐ。
――ははは、殿下。一目惚れでもなさいましたか?
からかうように告げられたブレダの声が蘇る。
一目惚れ……、などという生易しいものではない。
今すぐに手に入れなければならないような使命感。
……この気持ちは一体何だ?
分からないままに、いや、半ば無意識に、ロイはエドワードの手を取って、そしてすっと跪いた。

「結婚してくださいお嬢さん」

挨拶も何も無く。
名前さえも尋ねてはいないのに。
開口一番ロイはエドワードにプロポーズを、した。

「ふざけんな、オレは男だっ!」
とっさに反射的に、スカートから繰り出だしたのは豪快な右足のキック。
ロイの顔面に炸裂するかと思ったそれは、紙一重で避けられた。

そして。
ロイの瞳に焼き付いたのは、エドワードのすっきりとしたカモシカのような脚……というか、太もも。
エドワードは渾身の蹴りが避けられたことに驚く間もなく、横から飛び出してきたホークアイに地面に叩きつけられて。そのまま後頭部に銃口を突き付けられ、身動きが出来なくなった。

騒ぎを聞きつけてやってきたヒューズやアルフォンスはその光景に目を白黒させそうになったが、一応表面上は冷静さを保ちつつ。
「まあ、なんだその……」
どこから突っ込んでいいのやらわからないがと前置きして。
「よう、ロイ。ひっさしぶりだなあ。いきなり騒ぎになるとはさすがお前」
ははははははは、と衒いもなく大笑いをした。


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