小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

どんっ!と御大層にロイは胸を張って主張した。
「この私が、男にプロポーズをするなど天地がひっくり返ったところであり得んな」
後ろ暗いところなどない、私は間違ってなどいないと言葉だけではなく態度でも表している。
「そのあり得んことをいきなりしやがったのはテメ―だろ。名乗りすら上げてねえ出会いがしらに結婚してださいだ?しかもこのオレ様に向かってお嬢さんだと?いいか、何度も言ったがオレは男だ」
エドワードはそんなロイに中指を立てて臨戦態勢の構えである。
「いや、君が男だというそのこと自体がおかしいのではないのかね?実は君は女性なのだろう。うん、そうに違いない。」
「何だとゴラっ!喧嘩売っていやがるのかテメエっ!オレは男だって何度も何度も言っただろうがっ!その目は節穴かっ!」
「いや、私ほどの慧眼の士はおらんと断言できる。私の目に間違いはない。この私が目を惹かれたのだ。」
「ほー、慧眼?けっ、よっく言うぜ。男のオレに惹かれたんならアンタはホモ決定」
延々と繰り返されるロイとエドワードの応酬に、アルフォンスは天を仰いだ。ヒューズは我関せずでエリシアと遊び、先ほどエドワードに銃口を向けたホークアイは、そのエドワードがロイにとって危険ではないと判断したためか、てきぱきとハボックやブレダ達に何やら指示を出している。そしてロイとエドワードが舌戦を繰り広げているうちに、ヒューズ家の周りは何十人もの人間によって完璧なる警固のための配置がなされていた。
「えーっと兄さんそれからロイ・マスタング殿下?あのですね、グレイシアさんの素晴らしい手料理の数々が冷めてしまってはもったいないのでその辺にしてまずは食事にいたしませんか?」
控えめに、アルフォンスが仲裁をかって出た。その声に答えたのはエドワードのぐーぐーという腹の音だったが空腹よりもプライドを取ったエドワードである。
「女に間違われていきなりプロポーズとかかましたコイツをシメてから思う存分手料理のほうは味あわせてもらうからちょっと待ってろアルフォンスっ!」
ノンブレスでひと息に叫んだ兄に、ため息をつくアルフォンス。
「出会いがしらにプロポーズ云々はともかく。女の子に間違われたって仕方がないじゃないのさにーさん、自分の格好わかってる?制服とはいえスカートだよスカートっ!それもすんごおおおおおおおおおおく似合ってるじゃないのさっ!黙ってれば美少女だよ美少女っ!一目惚れしてプロポーズかましちゃってもおかしくないくらいの美人だよ兄さんはっ!」
「そうだな。君は黙っていれば美人だ、というか美少女だな。だが、スカートを履いているから女性だと思ったのではないぞ」
口を挟んだロイをぎっとエドワードは睨んだ。
「アンタは黙ってろウルセエっ!」
「いや、話を進めさせてもらおう。このヒューズ家に到着していきなり出会った君にプロポーズをしたのではない。先ほど、私は君を見て、何かこう……血が滾ったのだよ。運命とやらを特に信じるわけではないが、な」
「へ?」
「殿下が……兄さんを見た、ですか?いつどこで?」
エドワードとアルフォンスはさっと目と目を交わしあった。エドワードにとってロイの発言は心の底からムカつくと言いただなものばかりであるが、少なくとも見目形は実に麗しいのだ。さらさらした短い黒髪、意志を感じさせる瞳。年頃は三十前だろうか、その若さで既に王冠でもかぶって玉座にでも立っていれば何と立派な国王だと皆が皆思えるほどの貫録すらある。一度見たら忘れない、網膜に焼きついて忘れることなど出来ないであろう。そんな麗しい青年に、心当たりなどない。
「つい先ほどだ。君たち二人は学校から駅に向かって全力疾走していただろう。私はこのヒューズ家に向かう途中、車の中から君達を見た」
「あー、さっき、ですね……」
「その時に、だ。君の……、エドワードと言ったか、君の姿を見た瞬間にこの私の血がざわついた。ブレダ……ああ、私の部下には『一目惚れ』でもしたかと問われたが、そんな甘いものではないと思った」
「あー……、そりゃ、うちのにーさんは一目惚れされるなんて日常茶飯事なくらいのウツクシー外見してますよ」
中身はともかくね、とアルフォンスは付け加えはしなかった。
「しかもその相手がこのヒューズ家に居る。私にはわかった。私がイーストエンドの国王になる直前のこの時期に、なぜわざわざ昔の悪友とはいえヒューズに会いにアメストリスまで来なくてはならなかったのか、行かねばならんと焦燥さえ感じたのか。……全てはエドワード、君に会うために違いない。そう、確信した」
滔々と語るロイに対して、エドワードは白目を向ける。
「へー、アンタの事情はともかく。オレはアンタに運命なんて欠片も感じねー」
ふん、馬鹿馬鹿しい、と嘲りの視線を向ける。
「なー、アル。お前だってコイツの言うことなんか馬鹿馬鹿しいとか思うよなー」
同意を求めようと、エドワードは顔をアルフォンスのほうへ向けた。
だが、アルフォンスは。
「……全ては兄さんに会うために?運命?血が騒ぐほどの焦燥……?」
ぶつぶつと何やら考え込んでいるようだ。
「おいアル?おーいアルフォンス―?」
エドワードの声など聞いてはいない。ただ、独り言を繰り返す。
「この場所……、ポイントは学校ではなくてこの家?いや、手札はあの学校に兄さんが女の子の制服で通うと出た。……なら、もしかして……」
ポケットから素早くカードを取り出して、それをシャッフルする。
円を描くようにして、一枚一枚と床に並べ、それを捲っては、顔を顰め、また捲っては、ぶつぶつと聞き取れないほどの独り言を繰り返す。
占いを、しているのだ。これ以上も無く真剣に。
アルフォンスの額からは汗さえ流れ落ちていた。
だから、エドワードは黙ってそれを見続けていた。
普通の占いをするだけならいい。
けれど。
ぼうっと、青白く。アルフォンスの占いのカードが淡い光を放ちだす。
触れてもいないはずのカードが一枚また一枚と、宙に浮く。
「おい、アルっ!」
「いいから黙ってて兄さん」
本来、これは見られてはいけない姿なのだ。
勝手にカードが宙に浮くなど、この現代社会ではおかしい現象だ。手品ならともかく。超能力とでもいわれるようなそれを見せてはいけない。それがトリシャからきつく禁じられていることだった。
そう、トリシャやアルフォンスが行うのはカードを使っての単なる占いではない。
これは魔道と呼ばれてしまう範囲のもの。
魔法など、映画や漫画や小説の中でしかないそれを、今アルフォンスは皆の前で使ってしまっているのだ。
止めなくてはならない、とエドワードは焦った。
けれど、始まった占いを止めるのは危険だということは知っていた。
魔法の発動を途中で止めれば、占者たるアルフォンスにどんな反動が起こるかわからない。
けれど、躊躇している間にも、宙にに浮いたカードが勝手にアルフォンスの周りを飛び回る。そしてその速度が目に追えないほどの速さになりそして。
カ……ッっと、目を焼く程の真っ白な光を放った。
咄嗟に誰もが目を瞑った。
「アルっ!」
エドワードが叫んだその声が、家の中に反響する。
そうして、皆が目を開けた時には、たった一枚を残して、他のカードは全て床に落ちていた。力無く、落ちる。先まで宙に浮き、自在に動いていたことが嘘のように。
ただ、たった一枚だけ、ふわふわと浮いているカードがあった。
アルフォンスは恐る恐るそれに手を伸ばす。
「にい、さん……」
カードを手にしたアルフォンスは青ざめていた。
「アル……、大丈夫か?」
「このカード、『運命』だ……」
「へ?」
「『運命』だよ『運命』っ!ボクが今占ったのは二つっ!そこに居るロイ・マスタング殿下が兄さんの運命の相手かどうかってことっ!」
「おいアルっ!」
「カードの答えはイエスだよイエスっ!殿下が兄さんの『運命の相手』だ」
「ちょっと待て嘘だろっ!」
「ボクのカードは嘘なんて言わないよっ!」
「知ってっけど知ってっけど嘘だろぉおおおおおおおおっ!いや、嘘だと言ってくれっ!」
「ボクだって言いたいよボクだって。しかも、しかも、だよっ!」
「何だよまだあるってのかよっ!」
「……占ったのは二つって言っただろ」
アルフォンスの目は虚ろだった。自身の占いの結果など信じたくなかった。だが、手札は嘘は言わない。手札の読み間違えなどもしてはいないともわかっていた。
エドワードは、そんなアルフォンスらしからぬ様子を見てごくりと唾を飲み込んだ。
その先を、聞きたくない。
聞いたら後悔をする。
けれど、聞かないままでもいられないのだ。
「もう一つの占いって……何だよアル」
自分の声が恐ろしく低いとエドワードは思った。
「兄さん……」
アルフォンスは床に落ちたカードを、丁寧に一枚一枚、その絵柄を確認しながら拾う。
わかりきっている占いの結果。
それを信じられない……、いや信じたくなくて、凝視をするがごとく見続ける。
「ロイ・マスタング殿下が兄さんの運命の人。そして……」
「そして?」
「兄さんと殿下が結ばれないと、兄さんは死ぬ」
重々しく、アルフォンスは宣言をした。







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