小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

エドワードの未来を表す札は『混迷の闇』と『崩れ落ちた塔』と『死神』。それは前からアルフォンスの札にもトリシャの札にも出ていたものだ。
そこからエドワードが死んでしまうという可能性を読み取った。
けれど、今のアルフォンスの顔色は尋常ではなく青ざめている。
「未来が霧に閉ざされてるなんてレベルじゃない。兄さんは死んじゃうんだよ。……それも、近い将来に」
「そんなの前から分かってたコトだろ。だから仕方なく女装なんかしてこんなところまでやってきたんだぜ?運命の相手見つけてソイツぶっ飛ばせばいーだろって……」
「ぶっ飛ばしたら駄目なんだよ……。いい、兄さん、よく聞いて。兄さんの寿命はあと一ヶ月」
「へ?いっかげ……つっ、て……」
アルフォンスは手にしていたカードをエドワードにつきつけた。
「ボクはカードに聞いた。もしも、兄さんが運命を拒否したら兄さんの命はどのくらいもつのかって。答えがこれ。月と数字の1。つまり……一ヶ月ってことだろ……」
「冗談……、じゃねえな、オマエの占いだ……」
「うん……。ボクの占いは外れたことが無い。それを初めて嫌だと思ったよ……」
アルフォンスはゆっくりと慎重な手つきでカードをポケットにしまった。そうしなければ指が震えて大事なカードを取り落としてしまいそうだったからだ。
このままでは一ヶ月後にエドワードが死んでしまう。
それを占いで知ったところでどうしようもない。
唯一の回避方法はエドワードとロイが結ばれることだが、今日出会ったばかりの、しかも同性の男と……などは考えたくもない。けれど嫌だ、不可能だ、とばっさり切ってしまえば死ぬだけだ。
「死にたくねえならソイツと……ってかよ。冗談じゃねえ……」
エドワードも力無く呟くのみだ。
死ぬのも、今日出会ったばかりでいきなり求婚などしてきた男と結ばれるのも、どちらもごめんである。
けれど、エドワードの顔に浮かんでいる表情は死の恐怖ではなく困惑。正直一ヶ月後に死ぬと言われてもそんな実感は無い。信じられないわけではないのだが、戸惑うばかりだ。
だからこそ、冗談じゃないと思うばかりで思考がその先へと進まない。
アルフォンスもエドワードと同様に、どうしよう……と繰り返すのみだった。
誰も、何も言えなかった。
エドワードやアルフォンスはもちろん、ヒューズやグレイシアもだ。
ヒューズたちもアルフォンスの占いの腕は知っている。
絶対に外れない占いということを。
だからこそ、告げることができる言葉など何もなかった。けれど。
「死なれては困るな」
ロイが、何かを考えるように腕を組みながら、告げた。
「せっかく出会えた運命の相手だ。君が私と結ばれるのを冗談ではないと思っているとしても、死ぬよりマシだろう。この場で私のものにしてもいいが?」
言葉を一つ一つ区切るようにはっきりとした声だった。
反射的にエドワードはロイを睨みつける。
「……このオレを手籠めにでもするってか?」
エドワードの声は低かった。
「死にたくないのなら私のものになりたまえ」
ロイの声も同様に、低くそして固い。
「死ぬのもごめんだけど、アンタのモンになるなんてもっと嫌だね」
「どちらも拒否する、というのかね?……このままでは一ヶ月後に死ぬというのに?」
エドワードはロイを睨みつける。
「死ぬのが嫌だからアンタのものになる?冗談じゃねえ、馬鹿にすんなっ!」
怒りのままに声を荒げたエドワードに、ロイは満足そうな笑みを向けた。
「ならば、嘆いていないで足掻きたまえ。私は君への助力は惜しまんと約束しよう」
「へ?」
「唯々諾々と運命の命ずるままに服する気が無いのなら足掻くしかないだろう?占いを信用するのならば君が死ぬまであと一カ月もある。それまでに何か回避の方法なりを見つければいいだけの話ではないか」
「アンタ……ヒトゴトだと思ってすっげえ簡単に言ってねえか?」
呆れたように、エドワードは告げたが、その口調からは怒りの温度は無くなっていた。
「そうかね?君と私は運命の相手なのだろう?ならば君が死ねば私も死ぬというのもあり得る話だと思うのだがね?」
「あ……」
言われて初めて、エドワードはそれに気が付いた。その可能性も、あるのかもしれないのだ。
「私も死ぬのはごめんだ。私はイーストエンドの王となり、国を収める義務がある。百年後に死ぬのならともかく一ヶ月後では即位すら出来ん。ならば私が生き残るために、君を手籠めにするくらいの事はさせてもらう……とも思ったのだがね、嫌がる相手に無理矢理というのは私の好む所ではない」
「だから……足掻けって?」
「まあ、君は君で足掻くがいい。私は私で勝手にする」
「は?」
「だから、一か月以内に君が私を好きになればいんだ。簡単だろう?」
「は、あああああああ?アンタ何言って……」
そして、エドワードに向かってウインクまでしてみせた。
「私を好きになりたまえよ、そして、君の自由意思で私の手を取ればいい」
「冗談じゃねえええええええええ、誰がアンタなんか……」
「ならば、私と結ばれなくとも死ななくてすむ方法を探し当ててみるのだね」
はっはっはとロイは高らかに笑う。
目を丸くしたのはエドワードよりもむしろアルフォンスだった。
ロイを見て、そしてヒューズを振り返る。
「あの……、殿下ってこういう方だったんですか……」
「あー、まあ、呆れないで付き合ってやってくれ」
「付き合ってって……」
「ま、とりあえず、エドが死ななくて済むようになんかの方法見つけないといけねえんだろ?ついでにロイもか。二人が死んだらそれはそれで面白くねえからなぁ……」
「おい、ヒューズ、私はついでか」
ロイが口をさしはさんだ。
「あー、エドはともかくロイちゃんは簡単に運命に殺されたりなんざしねえがろ?」
「当たり前だ。私を誰だと思っているんだ」
「あー、はいはい、ロイ・マスタング殿下だろー?」
憤っているのかふざけているのか、わざとらしく胸を逸らすロイに、ヒューズはへらっと笑った。
「憎まれっ子は世にはばかるからな、まあお前は大丈夫だろ?あー、そんでもってアル、お前がもっかい占ってみればいーんじゃねえか?なんか回避する方法、占いで出たりしねえのか?」
アルフォンスはヒューズに首を振って見せた。
「ボクの力じゃここまでしか……」
力不足を嘆くように、ぎゅっと唇を噛む。
「あら、じゃあ……トリシャに占ってもらったらどうなのかしら?」
グレイシアの言葉に、エドワードもアルフォンスも今更気がついたように背筋を伸ばした。
「そうだよ、母さんだよ母さんっ!母さんならきっと何かわかるよっ!」
「そうだなアルフォンスっ!そうときまればリゼンブールに帰るぜっ!」
「うん、兄さんっ!絶対に兄さんを死なせはしないからねっ!」
光明が、見えたのかもしれない。
希望が、掴めるかもしれない。
リゼンブールの魔女たる母であれば。
がしっと力強く兄弟はお互いの肩をたたき合った。

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