小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

すぐさまリゼンブールにとんぼ返り……というわけにはいかなかった。仕方なしに仏頂面をしつつエドワードはアルフォンスと共に学校に通い続けた。
「だあああああああ、もうメンドクセえなあっ!アイツいつになったら体空きやがるんだよっ!」
エドワードが叫んだところでロイは現在、超が付くほど多忙である。
ロイと共にリゼンブールへ行く。
それだけのことが実に困難なのだ。
元々ロイは、アメストリスに旧友のヒューズに会いに来ただけであった。が、ロイの身分が身分である。限りなく個人的な用事だけで済ませられるかと言えばそれは限りなく不可能に近い。
警備一つとってもそうであるし、歓迎のための晩餐会だのどこぞの視察だのアメストリスを治めているキング・ブラッドレイや外務大臣などなどとの会談だのがてんこ盛りのである。さすがのロイもエドワードに迫る暇もないくらいに忙しい。ヒューズ家に立ち寄れる隙も無いほどのようだ。新聞の記事を見ても、アメストリスの様々な要人とにこやかに握手をするロイの写真が山のように載っている。
しかも急遽リゼンブールに行くという元々の予定とは外れる行動をとるために、外交筋の調整やら元々の予定の前倒しやら帰国の延期やらでロイ本人どころか護衛や秘書官含めて皆がバタバタと調整に走り回っている状態なのである。
「ホークアイさんって人によると、ロイ・マスタング殿下はあと3日はお忙しいってさ。それに専用列車を仕立ててもらって行くでしょう?一応他国の殿下だからテキトウな汽車に乗るわけにはいかないんだしさ。で、汽車の運行もダイヤ通りにはいかなくなるからそのへんのすり合わせだのしてもらってそれからようやく出発だってさ。可能な限り早めてもらうつもりで目下皆さん精鋭努力中だそうだよ。だから兄さん、吠えてないで大人しく待ってようよ」
次の時間は数学と、教科書やノートを机に並べるアルフォンスは無表情だった。エドワードが吠えるのももう両手両足を超える回数だ。正直聞き飽きた。それにただでさえ目立つというのに教室で立て続けに吠えられればクラスメイトの皆さまの視線が痛い。
「なあ、アル。あんな奴ほっぽっといてさ、オレ達だけでさっさとリゼンブールに帰っちまおうぜ」
大人しく待つなどエドワードの性に合わないのだ。それに、学校に通うためには女装をしなければならない。認めたくはないが運命の相手とやらが見つかったのならば女子の制服など着たくはない。だが、占いに逆らうわけにもいかない。女装の苦痛と待ち続ける苦痛で、エドワードのイライラは上昇曲線を描くばかりだ。
「……先に帰ってもいいけど、でも、どーせ殿下がリゼンブールに来るまで進展はないよ」
リゼンブールの魔女の魔女たるトリシャも、運命を覆すための方策を知るための占いをするには本人が目の前に居ないと難しい。名や写真程度で占えるようなものではないのだ。
「う、ううううううう、チクショ……メンドクセえええええええっ!」
「ま、せっかくだから学校生活満喫しようよ。どうせあと少しくらいしか通えないんだし。普通の学校って面白いとか思わない?」
もちろんリゼンブールにも学校はある。エドワードもアルフォンスも幼馴染みの少女たちと一緒に学校へは行った。が、そこで学ぶのは主に魔術、そして占術である。リゼンブールは魔女の里だ。トリシャのようにカードによる占いを行う者もいるし、薬学や本草学に通じ医者のような役割を持つ者もいる。特殊な術を使えないものも、『ホノリウスの誓いの書』や『アルス・ノトリア』といったグリモワールを研究する者たちもいる。魔女というよりも賢者や識者と言った方がいいような感はあるが、それでも特殊な環境ではあるのだ。
「音楽の授業とかもさ、音階になーんにも意味含んでないで、単に歌って楽しいってカンジの歌とか、ボク習うの初めてだしね、楽しいよ」
ちなみにアルフォンスやエドワードがリゼンブールで習った歌には全て何らかの含みがある。特に魔術の才があるアルフォンスがうっかり鼻歌でも歌おうものならば精霊を召喚してしまうことさえあった。
「おまえはそーだろうけどさー」
ちなみにエドワードには精霊を召喚することは出来ない。魔術や召喚術や果ては錬金術までをも学び、その知識は人一倍以上にはあるのだが、それのどれをも発動することは出来てはいない。
トリシャによれば、エドワードの魔術の才は封印がされているらしい。
らしいというのは、それに関してトリシャは説明をしたがらないのだ。
困ったような、泣きそうな顔をして、そして俯いてしまう。
そんな母の姿を見たくなくてエドワードもアルフォンスもそのことを聞くのは止めた。母を悲しませたくはない。
ふう、とエドワードは息を吐く。
「……ま、しっかたねえかー」
「そーだよ兄さん。今は状況が動かない時なんだよ。だったら出来ることをやるしかないよね。今はこういう普通の社会を学んでおこうよ」
「へーへー、了解」
そして、ふと思いついたように付け加える。
「学ぶっつうのはともかく。グレイシアさんの手料理、めちゃめちゃ美味いから、そっち堪能することにしとくぜ」
「あははは、食い気は全てを凌駕するってカンジ?」
「んー、あのあのアップルパイは絶品だし。……怒ると腹が減るけど、せっかくの料理、味わえないっつーのがもったいねえ」
エドワードは無理矢理自分を納得させるようにうんうんと頷いた。


結局、それから10日の後、エドワード達はリゼンブールへと向かうことができた。
「おかえりなさい、エド、アル」
にこやかに、トリシャは一行を迎えた。
「ただいま母さん」
「それから初めまして、ですね。皆さん」
トリシャはエドワードやアルフォンスの後ろのロイやホークアイ達に軽く会釈をした。
「初めまして、ミセス・エルリック。私はロイ・マスタングと申します。後ろの者は私の信頼する部下でホークアイとファルマン、それからハボックです」
護衛をぞろぞろと引く連れてくるわけにもいかず、最低限の人員のみをこのエルリック家に引き連れてきて、後の護衛はすべてリゼンブール駅付近のホテルに待機ということにした。
トリシャはじっと探るようにロイを見る。その瞳の色は相対する者にまるでそこに全宇宙の真理があるかのような錯覚を起こさせる程に深い。ロイはトリシャの目線にたじろぐことなくその視線をにこやかに受け止める。すると、トリシャはほっとしたかのように肩の力を抜いて、告げた。
「貴方がロイ・マスタング殿下、エドワードの運命の相手、ですね」
「そう……私は思っていますが。彼にはそれが気に入らないようではありますね」
ロイはちらと視線をエドワードに流した。トリシャが運命の相手と告げた途端にエドワードの顔が不貞腐れたのだ。
「まあ、エド。マスタングさんはとても素敵な方じゃないの。何か不満なのかしら?」
「……………………母さん」
「出会ったばかりだからまだ相手の事が良くわからないとか、そういうことかしら?」
「…………………………それ以外にも問題あるだろ……」
少女のように首を傾げる母親に対しては、さすがのエドワードも母に向かっては怒鳴りつけたりは出来ないようだ。地を這うほどに低い声を出すが、それ以上何かのリアクションを起こしたりはしない。
「あら?問題って何かしら?」
「あのなあ、母さん。オレは男でソイツも男だろ。運命の相手とかって違うだろ。間違いとか誤解とか……ぜってー、ソイツ違う。オレはホモじゃない」
仕方なしに告げるエドワードにトリシャは「ああ、そういえば」と呟いた。
「あのね、エド。あなたは知らなかったでしょうけど、エドは女の子よ」
「は、い?」
言われた意味がわからずトリシャを凝視する。
「リゼンブールは魔女の里だもの。男性は3日とここに居られないの。だからね、本来エドワードは女の子。もちろんアルフォンスもよ」

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