小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

エドワードとアルフォンスは何かを言おうとして唇を開き、そしてその唇を何の音も立てないまま再び閉じた。一度や二度ではなく何度も何度もそれを繰り返す。何をどう言えばいいのかわからなかった。トリシャの発言をどう受け止めていいのかも。仮にその発言がトリシャでなかったら何を馬鹿なことをと一笑に付しただろう。しかし、母が嘘や戯れを言うはずなど無い。
本来エドワードとアルフォンスは女の子。
他意などなく、言葉の裏に余計な意味なども無く。
単なる事実をトリシャは告げただけだとは理解は出来る。
けれど、自分達が女の子だと言われてそれをはいそうですかと素直に受け入れられるはずもない。
どこからどう見ても、自分達の身体は男の身体である。女性のような柔らかな身体のラインでは当然ないし、また、筋肉の付き方も女性とは異なることは一目瞭然だ。そして、まだ少年の未発達な身体とはいえ足の付け根にはきちんと男たる象徴も存在しているのだ。自分の身体を見間違うわけはない。その身体と、16年もの間付き合ってきたのだから。
「か、母さん……あの、その」
ややあって、なんとかアルフォンスが声を出した。が、やはりそのまま唇を閉ざす。
トリシャはそんなアルフォンスを静かに見つめた。
「驚かせてしまったかしら……ね?」
「そりゃ……、驚くっつーか、なんつったらいいか……」
もごもごと呟いたのはエドワードだった。
「今まではね、言うわけにはいかなかったの。言えば運命が変わるかもしれなかったから。もしも、悪い方に変わってしまって……例えば殿下とエドが出会うことが出来なくなったら……、そうしたらもう手段は無くなってしまうわ。エドもアルも死んでしまうしかなくなる。だから、今まで呪いの事もあなた達が本来女の子であることも何一つ告げてはこなかった。たった一つわかっていたことが、16歳になったらアメストリスの中央へエドワードが行けば、運命の相手に出会えるということだけ。それを歪めるわけにはいかなかったの。だから、エドワードとマスタング殿下が出会えた今ならもう少しだけ言えることがあるのだけれど……」
「私、ですか?」
口を出すつもりはなかったが、不意に名を呼ばれてロイは無意識のうちに反応してしまった。話の腰を折ったような形になってしまったことを、ロイは少々舌打ちしたい気分になったが今更だと思いなおし、トリシャに続きを促した。
「エドワードとアルフォンスが男の子の身体になっているのは……呪い、と言っていいのかしら。……殿下は、アメストリス最悪と称された、かの魔女のことをご存知でしょうか?」
「概略程度でしたら……」
アメストリスの最悪の魔女。
己の魔力の強大さを誇り、その力でアメストリスだけでなく世界の全てを自分の支配下に置こうとの野望を持ち、ありとあらゆる国中に放った魔女のことだ。彼女が力を振った数年間でアメストリスの国土のほとんどが瘴気に侵され、そして人口は半減した。魔女に立ち向かった勇者や魔道士が何百人も死んだ。数多くの攻防があり、そして最終的に魔女はこのリゼンブールの地にて滅びを迎えた。もちろん容易く滅んだりはしなかった。魔女の呪いのために、男性はこの地に長い時間いることは出来ない。三日もここに居れば瘴気に侵されて、ゆっくりと身体が壊死していくのである。女性に対してはそこまでの影響はない。それは何らかの理由により魔女が男性に対して恨みを持っているからだと言われているが、それも実のところは定かではない。
「魔女は、滅びました。けれど、彼女と戦い、そして彼女を打ち負かした数多くの者達は未だにリゼンブールに繋ぎとめられています。私は、この土地から出ることはできません。それも、私達があの魔女から受けた呪いの一つです」
「呪いの一つ、ですか?」
「ええ。リゼンブールに今住んでいる私達は未だに大なり小なり何らかの魔女の影響を受けているんです。魔女は滅びの時にありとあらゆる呪詛を唱えながら死にましたから」
「その呪いの一つがエドワードやアルフォンスに降りかかっているというのですか?」
「はい。多分、呪いのためにエドワードもアルフォンスも男の子の身体となったのだと思います。エドワードが運命の相手と結ばれればエドワードとアルフォンスに降りかかっている呪いは解けるはずです。魔女の呪いに打ち勝つのはたった一つ、愛の力だけですから」
愛さえあれば性別など無関係だとトリシャは思っているのだが、どうにもこうにもエドワードは仮とはいえ同性同士という点に拒否反応があるようで、トリシャは静かにため息をつくしかなかった。ロイはと言えば「なるほど」と静かに頷いただけであった。詳しいコメントは控えたいというところだろうか。
「待って、母さん」
「なあに、アル」
「聞きたいことも突っ込みたいこともたくさんあるんだけどボクには」
「何かしら?」
「兄さんと殿下が結ばれたら、その結果呪いが解けて兄さんは女の子に戻る……ってことでいいの?」
「ええ、そうよ」
「その場合ボクは?」
「アルフォンスとエドワードは双子だから、自動的にあなたも女の子に戻るわよ。あなた達二人の運命の軌道はほぼ平行のラインを進んでいるから」
「もしも、結ばれなかったら、やっぱり兄さんは死んじゃうってこと?」
「そうね。その場合はエドワードだけではなくアルフォンスも同じ運命を辿ることになるわね。ただ、エドのほうがより強く呪いの影響を受けているの。だから、エドの運命の相手は手札で探ることは出来た。だけど、アルの相手はわからないの。多分、殿下の近くに居るとは思うのだけれど」
「……ボクの運命の相手が仮に現れたとして、それも……男の人?」
「ええもちろん。アルも本来女の子ですからね。でも……アルの運命はエドワードの影に隠れてしまって読みとれない。だから、わからない。確実に呪いを解く方法はエドワード次第ということになるの」
「母さんの力をもってしても……分からないの?」
エドワードはロイと結ばれるのを拒絶している。そして運命の軌道はエドワードとアルフォンスが現状ほぼ一致しているというのであれば。
アルフォンスは自分の運命の相手とやらを探しあて、その相手が男だろうと女だろうとさっさと既成事実を作り、呪いなどといてしまえばいいと考えた。だが、ロイの近くにその相手は存在するということだけでは誰が自分の相手だかわからない。少なくとも、側近の者として名前がわかっている者だとしてもハボックにブレダ、ファルマンにヒュリーの四名だ。紹介されてはいないがヒューズ邸の周囲を警固していた者も何十人といる。もしくはこのアメストリスやリゼンブールには来てはいないが、イーストエンドの国に居る者の中にアルフォンスの相手が居るかもしれない。試しに、とばかりにそんな多数の相手と関係を結ぶわけにはいかない。誰か一人に固定されれば歯を食いしばって犬に噛まれたつもりになって耐えることもできるとは思ったのだが……。さすがに、大多数の男性と試しに関係を持ちたくはない。それに、間違った相手と行為に及んで失敗、という羽目になったらアルフォンスだけではなくエドワードもその時点で死んでしまうかもしれないのだ。
間違いは犯せない。
アルフォンスは青ざめるしか無かった。
「ええ……ごめんなさいね」
トリシャも俯くしかなかった。
「おい、ロイ……とか言ったか、イーストエンドの次期国王さんよ」
これまで口を挟むことが無かったエドワードがじろりとロイを睨んだ。
「何かね、エドワード?」
「オレ一人の問題ならともかく。アルを死なせるわけにはいかねえ。……犬に噛まれたと思って我慢してやるからさっさとオレのこと抱けよ」
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。