小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

「断る」
どこから見ても完璧な笑顔を顔に浮かべて、ロイは即答した。白い歯がきらりと輝くオプションまで標準装備的な超笑顔である。だがしかし、ロイの背後には暗雲が立ち込めていた。
が、それを気にするようなエドワードではなかった。
「なんでだよ。アンタ出会ったばっかのオレに開口一番プロポーズしやがったくせに」
「私は君に私のことを好きになって欲しいのであって身体だけが欲しいわけではないからな」
「ぜーたくじゃね?」
「そうとも私は贅沢だ。私のことが好きで、だから抱かれたいというのならともかく。兄弟はと言え私以外の男のために私に抱かれるだと?冗談ではないな」
「俺だって冗談で言ってるわけじゃねえ。本気だ」
「余計に悪い」
「アルの命がかかってんだよっ!なりふりなんざ構ってられるかっ!」
ロイは静かにため息を吐く。
「君ねぇ……、私に対して非常に失礼だとかまあそんなことは考えもしないんだろうが、まあいい。だが、少しは落ち着いて考えてみたまえ。……君と私が結ばれれば魔女の呪いは解けるのかも知れん。だが『結ばれる』という言葉に対する定義が不明だ。身体だけ重ねればいいのかそれとも身も心も結ばれなければ意味はないのか。そのあたりがはっきりせんではないか」
「あ……」
エドワードがロイに抱かれることを犬に噛まれるなどと表現した、そのこと自体エドワードがロイに対して欠片も恋情など抱いていないことが分かる。
出会いがしらにいきなりプロポーズをしたロイにも非があるかもしれないが、エドワードも口が過ぎる。
そのあたりを説明したところで今のエドワードは聞きもしないだろう。彼の頭の中にあるのはアルフォンスを死なせないというその感情のみなのだから。
ため息を、つくしかない。
エドワードはロイの気持ちなど斟酌したりはしないのだ。大事なのはロイではなくてアルフォンス。双子の片割れというそれは余程の強い絆で結ばれているのかもしれないが、それにしてもエドワードの、ロイとアルフォンスに対する対応の差に少々いらつきもしてきてしまう。
しかし、それを抑えて、ロイはエドワードにわかる言葉で、納得が出来る理屈を淡々と述べるにとどまった。
「先程、トリシャ殿が言っただろう。魔女の呪いに勝つのは愛の力だけだと。……現状から考えるとだね、ただ身体だけを抱いたところで呪いが解けるとは思えん」
「じゃあ何かよ。今すぐアンタとオレがやったとして、それ、オレの一方的なやられ損ってことになるのかよっ!」
「……やられ損……、君ねぇ……」
「アルが死んじまうっつーかもしれねえならオレの身体くらい……って思ったのに、ちくしょ……」
チクショウなどとはこちらが言いたいセリフだ、とロイは思ったが更なる寛容さと度量を総動員してそれをぐっと耐えた。
「かと言って掌を返すようにこの私を即座に好きになるというのは不可能だろう?」
「会ったばっかの人間をほいほい好きになんかなれっかよ」
一目惚れという言葉もあるのだが、などという無意味な反論も、ロイはしなかった。ただ、告げる。
「ならばとる手段は一つ」
「……なにか、アルが死ななくていい方法とかあるってのかよっ!」
「ああ」
「何だよそれっ!」
「抗え」
「ああ?なんだそりゃ」
ワケわからねえこと言って誤魔化すんじゃないだろうなと言いたげなエドワードを制して、ロイはトリシャに向き直る。
「お聞きしたいのですが、貴女は先ほど『今までは言うわけにはいかなかった。言えば運命が変わるかもしれなかったから』と仰いましたね。とすれば、運命とは完全に確定したものではなく、変えることが可能ということではないのでしょうか?」
トリシャはロイの言葉を肯定するでも否定するでもなくただ憂いの表情のまま唇をかんだ。
「……可能か不可能か、ということであれば変える可能性は有ると言えます。ただ……」
「ただ?何かあるのですか?」
「私が占うのは現状から見える未来です。今はない不確定要素が入ってくれば未来もその要素のために変わるともいえます。けれど、意識的に変えるのはとても……とても難しいのです。今まで私はたくさんの方の未来を占ってきました。例えばある方に『水辺に近寄ってはいけない。近寄れば悪いことが起こる』と告げました。彼は『では、近寄らないようにします』と返事はしました。実際に水のある場所には近寄らないようにと気もつけていたようです。ですが……結局、水の事故に巻き込まれて命を落とされて……」
トリシャは言葉を濁した。
「多少気をつけたところで経過はともかく結果は同じになると?」
「……ええ。100パーセント完璧に未来が占えるというわけではないのですけれど。そう……ですね、例えば人の性格や気質をある時を境に突然真逆にするというのは可能性の話で言うのならば可能でしょうけど……。でも、出来るとも言い難いでしょう?怒りっぽい人に、今日から突然穏やかで寛容的な性格に変わってくれと言っても……、不可能ではないでしょうが、なかなか難しいものがあると思います」
「けれど、不可能と言い切れるものでもない」
「……そう、ですね。何がどう作用して未来に変化をもたらすのかはわかりません。不確定要素が多すぎるんです」
トリシャの顔色は暗い。過去、トリシャに占いをしてもらい、望まない未来を知り、それを変えようとして、けれど変えられなかった何人もの人間の顔。それがトリシャの脳裏をよぎる。
運命を変えるのは不可能ではない。
けれど、トリシャが提示した未来に抗えた者などただの一人として居なかったのもまた事実。
「ただ、不変のものとも言い切れない。些細なきっかけで、運命が変わってしまうこともあるんです」
例えばいつも朝飲むコーヒーを、今日は思いつきで紅茶に変えてみた。そんな些細な出来事によって、その先の未来が大きく変わることもある。もちろん変わった未来が確実に良いものになるという保証もない。
悪い方向に変わる場合もある。
確実なことはなに一つとしてはない。
ただの占い。
そう言ってしまえればいい。
だが、トリシャの占いはほぼ100パーセントに近い確率で未来を当ててきた。
ならば、可能性として。エドワードとアルフォンスはこのままでは間もなく死を迎えることになる。
それを回避するにはエドワードとロイが結ばれなくてはならない。
現状で、分かっている対抗手段はそれだけだ。
けれどやはり、エドワードがロイと恋の落ちるのは限りなく難しいと言える。
ロイは不敵に笑う。トリシャの言葉を理解した上でそれでも。
「結構。ならば、変えてみせようではないか」
「え……?」
「運命に抗って、望む未来を手にすればいい。……戦って勝つというのは私の得意技でね」
ロイは、敢えてゆっくりとエドワードに目を向けていく。金色の瞳がロイを訝しげに見上げていた。
「君はどうするね?失敗前提で私に抱かれてみるか、それとも私と共に運命に抗ってみせるか」
「……今、母さんが、未来を変えるのはすげえ難しいって言ったばっかだろ?アンタに勝算とかあんのかよ」
探るような低い声。
「もちろんある」
きっぱりとロイは答えた。揺らぎなど欠片も無い声だった。
エドワードの瞳が大きく見開かれる。金の色がその輝きを増した。
「アンタに出来て、オレに出来ねえわけねえよな」
にやり、と不敵な笑いを、エドワードはロイに返した。
「やってやる。運命なんかに抗って、そんでもってオレもアルも男のまま、このままで、すっげえ長生きする未来掴んでやるっ!」





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