小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
金色の瞳が強い意志を持って輝きを増す。ああ、これだとロイは思った。
初めてエドワードを見た時、無意識のうちに魅かれたのはこの瞳だったのだ、と今更ながらに理解する。
真っ直ぐに、前だけを見つめる。
射抜くように。
何物にも負けない強さで。
そうか、これに惹かれたのか。これを私は欲したのか。
声には出さなかった。内心だけでロイは呟く。そして濁りのない瞳を惚れ惚れと見続ける。ロイの口元は意識をしないままに笑みを浮かべていた。
「で?とりあえずアンタの意見聞きたいんだけど?勝算あるってどういう手段に出るつもりだよ」
「ああ……、先ずは君達に私に国まで来てもらおうかと思っているよ」
「……なんでわざわざアンタの国なんか行かなきゃなねーんだ?リゼンブールは魔女の里だ。運命に対抗するための手段とかあのアメストリス最悪の魔女のこととか調べたりするのにここ以外の場所に行ってどうするんだ。魔道関係のことなんかリゼンブール以外のどこにもなんにもねーだろ?」
アメストリス最悪の魔女が滅びてから、魔道そのもの自体を危険視したアメストリスの権力者たちはそれまで当たり前のようにあった魔道を全て封印し科学技術に頼った生活を徹底した。国策として、魔道を無いものとしたのだ。リゼンブールだけが唯一の例外だった。
「それはアメストリスでの話だろう。私の国は違う」
「へ?」
「リゼンブールは魔女の里なのだろう?そして、トリシャ殿のような力のある魔女もいる。力があるからこそ、最悪の魔女の呪いを解くには愛の力が居るということを突き止めたのだろうが……。だが、それ以外の手段など他の場所にでも行かない限り見つかるはずはない」
きっぱりとロイは断言した。
「なんでだよ」
疑い深く、エドワードはロイを睨むように見た。
「他に何か対抗策があるというのならば、既にトリシャ殿が君たちの呪いを解いているはずだろう?」
「あ、そっか……」
「アメストリスの国家権力の中枢に探りを入れれば何かしら魔女に対する記述なり書物なりがあるのかもしれないが、そんなもの簡単に閲覧など出来はしないだろう。とすれば、私の国に来た方が早い。なにしろこの私は次期国王という身分だからな。イーストエンドにも魔道や最悪の魔女に対する歴史書だのが山のようにある。一般の閲覧は禁止されている者だろうと何だろうとこの私の命を下せば簡単に閲覧可能になる」
「おおっ!そうかっ!アンタ意外と使えるヤツだなっ!」
きらんと、エドワードの瞳が輝いた。
「私の国に行くまでの移動のための時間のロスを差し引いても手っ取り早いだろう?まあ、私が国に帰るためにまた時間はかかるだろうが……、その間だけは待っていて欲しいがね」
リゼンブールにロイが来る時も手続きだの警備だのにかなりの時間が取られたのだ。イーストエンドに帰るためにもまた同じような手間がある。特にアメストリスの国家主席だの権力者だのとの会談はあるし警備の問題もある。
けれど、それを差し引いても確かにロイの国に行ってしまったほうが結果的に得る物は大きいだろうと、エドワードにもアルフォンスにも理解できた。
二人は顔を見合わせて頷き合った。
「殿下と一緒に僕たちがイーストエンドへ行くまでの間は母さんやこのリゼンブールの皆に出来るだけいろんな話を聞いて少しでもかがかりになるようなことはないか調査していればいいんですよね」
「そうだよ。ほらロックベルのばっちゃんとかさ、あの魔女と直接戦ったことがあるっていっつも言ってんじゃん!そういうの、聞けるだけ聞いておけば時間のロスは限りなくゼロに近くなるだろ」
「口伝のものは絶対にリゼンブールのほうがたくさんある。なにしろここは魔女の里だからね」
「ほかの体系立った書物とかはイーストエンドで調べりゃいいんだ。……よし、アルっ!時間が惜しい。先ずはばっちゃんトコに行こうぜっ!」
「うん、兄さんっ!」
エドワードとアルフォンスはさっさと走り出した。その後ろ姿を見送って、ロイは後ろに控えていたホークアイやブレダ達に帰国の手配を指示した。
「あの……、マスタング殿下」
控えめな声がロイを呼んだ。
「何でしょう、トリシャ殿?」
トリシャは憂い顔でロイを見る。
「書物などは確かにイーストエンドのほうが閲覧はしやすいと思いますが……。そうそう何か運命を覆せるようなものがみつかるとは思えないんですが……」
見つからなければ待っているのはエドワードとアルフォンスの死でしかない。トリシャはぎゅっと唇を噛みしめてその死という運命の重さに対えた。
「そうですね。私もそんなものが見つかるとは思ってはいません」
「は、い?」
「書物など探ったところで何も見つかるはずはない。いや……何か見つかる可能性は皆無ではないのでしょうが……。そう上手くいくとは私も思ってはいませんよ」
運命に抗う。呪いを解く。
しかも、期限付きだ。
あと二十日程度の日数で、そんなことが可能かと言えば限りなく不可能に近いというのが常識的な判断だ。
「では何故マスタング殿下はあの子たちにイーストエンドに行けば何か見つかるかもしれないなどということを告げたのですか?」
トリシャの疑問はもっともだ。ロイは微笑みを浮かべてトリシャに告げる。
「もちろん、エドワードに生きてもらうためですよ」
「意味が……よく、」
分からないと眉根を寄せるトリシャにロイは「そうですか?」と不思議そうな顔をした。
「トリシャ殿が仰ったのではないですか。『呪いに打ち勝つのは愛の力だけ』だと。リゼンブールはエドワードが今まで過ごしてきた馴染みのある場所であり、ここに一般の男性は三日と居ることが出来ないのでしょう?ならば、私とエドワードが近い距離にいられる場所に移るのみです。私もそうそう国を空けておくことなどできはしませんし、また、イーストエンドであれば私も自由に動ける。私のテリトリーに彼を連れていき、そこでゆっくりと口説けばいい。……と、まあ、そう言うことなのですが。ですがそれだけではエドワードは私の国などに来ることはない。ですから、言葉は悪いですか餌をまいて釣り上げる……という手段を講じたまでです」
悪びれず、ロイは滔々と答えた。
トリシャは目を丸くしてロイを見る。
自信にあふれた顔だった。自分のテリトリーに連れ込むことができればエドワードを口説くことができる。そういう自信に。
トリシャはその自信にあふれているロイの顔を見て逆に不安になった。
「あの子は……エドワードは相当頑固ですし、そんなに簡単に気持ちを変えることなどないと思いますけれど……」
『男』のエドワードは同じ男性であるロイに恋などすることはない。本来は女性だったと聞かされてはいそうですかとそれを受け入れることなどできはしない。
アルフォンスの命がかかっているからロイを受け入れると言いだしたときでさえ『犬に噛まれたと思って我慢するから抱け』という姿勢でしか無かった。
エドワードからすればロイは運命の相手だろうが何だろうが恋する対象などでは決してない。
ロイに口説く自信があるからと言ってそれで安心などしていられない。
このままではエドワードもアルフォンスも命を落としてしまうだろう。
けれどロイは平然と答える。
「恋に堕ちるのに時間など不必要でしょう?断言しましょうか、そのうちエドワードは私と恋に堕ちますよ。我々は運命の相手なのですから」
トリシャは「そうですか……」とため息の用に漏らし、それから俯き続けた。

そうして数日の後、エドワードとアルフォンスはロイと共にイーストエンドへと向かっていった。
イーストエンドについたら、呪を解く方法がきっと見つかるのだという期待に満ちた瞳を輝かせながら。













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