小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
そんなこんなで三日三晩。エドワードとアルフォンスは睡眠食事以外の時間はそれらの膨大な図書に没頭した。
命がかかっているからという焦りよりも、寧ろ二人の顔は喜びに満ちていた。
山のような本。それを読みふけることが出来る幸せ。
しかもファルマンという非常に優秀な検索機能付きだ。
エドワードとアルフォンスが読みたいと希望する本などはいくらでも湧くように積み重ねられた。
積み重ねられた書物を流れるようにして読んでいく、その速度も恐ろしく速い。あっという間に数十冊が読み終わり、そしてエドワードはアルフォンスと意見を交わす。そしてまたファルマンに書籍を積み重ねてもらう。
それを何十回と無く繰り返した後に、ひょっこりとロイが迎賓室へ顔を出した。
「やあ、エドワード、アルフォンス。調べ物は捗っているかね?」
ファルマンはすっとロイに対して頭を下げたが、没頭継続中の二人はロイがやってきたことにも気が付かない。
「……ずっとこんな調子か?」
「はい、殿下。ものすごい勢いで書物を攻略していますね……」
感心と呆れの中間のような声でファルマンは答えた。
「なるほど。もしかすると運命を克服する何らかの方法を本当に発見してしまうかもしれないなあ……」
ソファに沈む込むように腰をかけながら、ロイは二人を見る。
そしてふと気が付いたかのように「少々痩せたか?」と眉根を寄せた。
「きちんと食べて寝ているのかね?」
「は……。夜には部屋にご案内をしているのですが……」
「ここの本を何冊も持ちだして、ベッドの中でも読みふけっているんだろうなあ」
「ええ、本当に熱心で……」
「ふむ……」
ロイの低い声が聞こえたのか、突然アルフォンスがパッと顔を上げる。
「あ、あれ?殿下?」
「おや、ようやく気が付いたかねアルフォンス。お邪魔しているよ」
アルフォンスは恐縮し、慌てて立ち上がった。がたんと、音を立てて椅子が後ろに倒れかけ、それをファルマンがすっと椅子を支えた。
「すみません。ボクも兄さんも気が付かないで……」
「いいや、構わんよ」
「ファルマンさんもすみません。あ、ほら兄さん、兄さんってばっ!殿下がいらっしゃったよ挨拶くらいして」
がしがしとエドワードの肩を揺らす。
「うあ?なんだぁアル?なんか見つけたのか?」
「違うよ、そうじゃなくて。……殿下だよ」
「あー……」
凝った肩をばきばきと回しながら、エドワードはついでのようにロイを見た。
「何だアンタ、わざわざ来たのかよ」
邪魔するなと言わんばかりの口調に思えたが、エドワードの瞳には反抗や反発のような感情は無かった。寧ろその逆で口元には笑みさえも浮かんでいた。ロイはそれに気が付き内心では驚いたが、それをわざわざ口にはしなかった。エドワードの機嫌が悪くないならそれに越したことは無い。
「晩餐会から三日も放っておいてすまないね」
「いーや、おかげで本が読みたい放題だ。ものすっげえ充実した時間だったぜ?」
「そうか。それなら良かったが……。何か進展があったら聞かせてもらえないかなと思ってね」
「あー、まあ、最悪の魔女についてはかなり色々調べられたケドさ。俺の知りたいことにはまだ届かねえからなあ……」
運命の相手と結ばれるのではなく。男のまま、死にもせずにこれからの人生を生きて行くこと。
それを可能にする方法は無いのか。
調べても、調べても、見つからないような気がする時も実はあった。例えば夜、真夜中の寝入る一瞬前。例えば読んだ本が期待に反して何の収穫も無かった時。もしかしたらこのまま死ぬのかもしれないと、ふと魔が差したような考えが浮かんだことが何回もあった。
だが、そんな時には何故だかロイの声が聞こえてくるのだ。
抗え。
運命に抗って、望む未来を手にすればいい。
リゼンブールでロイの発した声が、エドワードの心の中に響いてくる。
ロイの声のおかげとエドワードは思いたくはないが、もう数週間で死ぬかもしれないという切羽詰まった感は薄れるのだ。
大丈夫。きっとうまい方法が見つかる。
そう信じられる。
「ま、そのうち。両手広げて万々歳っていうふうに運命なんか軽く乗り越えてやっから、まあ見てろって」
「そうか……」
笑って答えるエドワードにロイも笑みを返した。
「期待している……と言った方がいいのかな?まあ、君が私に惚れてくれれば本当は一番いいのだがねぇ……」
「まーだそんなこと言っていやがるのか。これまでずっと男として生きてきたんだ。今更女になんかなれるか気色悪い」
女装をしていた時でさえ、足元がすーすーして心もとなかった。服だけでも冗談じゃないと思ったのに身体ごと女などになるとはどれほどのものか考えたくもなかった。
女の自分など、想像するだに気持ちが悪い。
「男のままでも構わんが?」
「は?」
「惚れたのは君に、だ。女性だから好きになったのではなく、疾走している君に惚れたのだよ。真っ直ぐに前を向いて走る、あの時の君の瞳は実に美しかった。男だろうが女だろうが君の瞳の輝きに変わりはないだろう?大事なのは君が君であること、それだけだ」
「え、えと……」
不覚にもエドワードは動揺した。
確かにプロポーズはされていた。
しかも初対面の出会いがしらに突然だ。
その時は「何寝ボケたことを言っていやがるんだこのおっさん」程度にしか思っていなかった。が、衒いも無く淡々と、客観的事実を述べるかのごときロイの言葉に何やら今更ながらに頬が熱くなるエドワードであった。
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