小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
考えろと言われてみても、相手を呪い恨むような恋愛感情などエドワードにはさっぱり分からない。
恋など、今までしたことなどない。
誰かに心を奪われたことなど皆無である。
エドワードは探るようにアルフォンスを見た。
「なあ、アル。お前なら分かるか……?」
問われて、アルフォンスはただ首を横に振った。
「兄さんだって知っているでしょ?ボク達誰か好きになったことなんてないじゃない」
アルフォンスも、エドワード同様初恋すらまだなのはお互いに承知の上である。
「だけどさ、お前はオレと違って……ほら、なんだっけ?はーれくいん?とかオンナノコとかが好きそうな、なんか流行りの小説とか読んだりするじゃねえか。少なくとも恋愛に関しての知識はオレよりあるだろ……?」
「あのね、にーさん。波乱万丈の恋愛ストーリー読んでああ面白かったーって感動はするよ感動は。でもさっきも殿下が言ってたでしょう。『本にかじりついているだけでそれらがすべてわかるはずなどない。直接見て触れて知って……体験して感じること。これが大事なのではないのだろうか』ってさあ。実体験皆無だもん。恋っていいよね、とか思っても、それ、ボクの体験伴わない単なる憧れでしかなかったんだよ。しかもさ……ボク達は一応今まで男として育って来ただろ?でもホントは女の子でした、とか言われてさ……、ボク、女の子と恋すればいいのかそれとも、ぼくの運命の人も性別男なのかなとか、そっちで悩むだろ?」
「……お前はまだ悩める余地があっていいよな……。オレなんて……。なあ、アル。俺の運命の相手ってホントにコイツなのか……」
「手札は嘘は言いません」
「だよなー……」
二人して、顔を見合わせて重々しくため息をつくしかなかった。
「恋愛なんてわかんねーうちに問答無用でコイツと恋愛しなきゃ命にかかわるって酷くね?ちょっと待てよとオレは言いたい」
「……ちょっと待てよどころか殿下に対して拒否の姿勢貫きまくりじゃないのさ兄さんてば」
「だってコイツ出会いがしらにいきなりプロポーズなんかかましやがったんだぜ?」
「知り合ってしばらくしてからおもむろにプロポーズなら良かったの?」
「……オレは男だっつーのっ!男が男から何が嬉しくてプロポーズなんてされなきゃいけないんだよっ!」
「……男だったと思ってたけどホントは女の子でしたってオチついてるけどね。男と女なら問題ないでしょ?」
「…………男で居られるように努力の真っ最中だっての。オマエ、女になりたいのかよ」
「…………今まで男だと思って生きてきたからね。思考の転換はかなり難しい……」
「頑張って考えてみろよ」
「……兄さんこそちゃんと自分の運命考えてよ。殿下と結ばれないと死んじゃうんだからね。回避したいなら対抗策考えないと」
「そのために目下努力中じゃねえかよオレもオマエも。……本読みまくってそれじゃ駄目だってこんなところに連れ出してきたのはコイツだコイツっ!」
煮詰まった八つ当たり的に、エドワードはビシっとロイを指さした。
「私が何かね?」
「魔女に気持ち考えろだの体験してみろだのなんだのエラソーに言ってるけど、呪い解いて運命を回避する方法、探さねえとオレもアンタも死ぬかもしれねえんだぜ?ちっとは焦ったりしてみろよっ!」
「焦る必要などないだろう?私は死なない。死ぬわけはない。我々は運命の相手というのならば君も当然死ぬことなどはない」
「……なあ、どっからそーゆー根拠のない自信出てくるわけ?繰り返しになるけど呪い解かなきゃ死ぬっての」
「君が、私を心から好きになれば死なないのだろう?」
「……ジョーダンじゃねえっての」
「本気だが。まあ、それが無理ならば次善の策は考えてはある」
「なに、それ。呪い解く方法とかアンタ知ってんのかっ!」
ならばさっさとそれを言えと、エドワードはロイに掴みかからんばかりだった。
「あの……殿下。魔女の呪いを回避する方策があるなら教えてください」
控えめにアルフォンスもロイを見上げる。
「……死ぬわけにはいかないからね。死にたくもないし。私は君たちが男であろうと女であろうとそれはどちらでも構わないから、まあ、その策を突き進めても構わないのだが……」
ロイは独り言のように呟いて、目を逸らす。
「ごちゃごちゃ言ってねーで、さっさと吐けっ!なんか対抗手段あるんだな?」
「うーん、言っていいものか……」
「言えってのっ!」
「では、ヒントだけ。……自分で考えることを放棄してはいけない。私の答えが正解であるとは限らないのだから」
「いーから言えっ!」
「同情ではなく共感すること。以上だ」
エドワードはロイを殴りそうになった。握った拳をふるふると震わせている。
アルフォンスはそんなエドワードの腕を咄嗟に掴んだ。公衆の面前で、次期国王たるロイを自分の兄に殴らせるわけにはいかない。
「兄さん、暴力は禁止。殿下もそういう謎かけみたいにあいまいな答えではなくて具体的な方策を示して下さいませんか?」
ロイは薄く笑うと首を横に振った。
「今言えることはこれだけだよ。具体的に魔女に対して最初にこれをして次にあれをして、などとは言えない。魔女に対峙して、どうなるかはその時次第だろう」
対峙と言った。
「アンタ……魔女をぶっ殺すとかそういう手段に出る気か?」
「私の話をちゃんと聞きたまえよ。退治ではなくて対峙だ。……魔女ときちんと向き合うこと。魔女に同情することなく共感して、彼女に呪いを解いてもらうこと。それを考えているよ」
「……どうやって?」
「出来るんですか?そんなこと……」
魔女は、強大な魔力を持つ。
昔、国中の魔道士たちが総力を挙げて魔女を滅ぼし、それでも呪いが残った。
「だって最悪の魔女ですよ?強大な魔力を持って、死んだ後だっていうのにボク達に呪いをかけるような……。
そんなことが可能なのだろうか?
「どんな強大な力を持つ魔女だと言っても元は人間だろう?」
「そー……だけど」
「恋に破れて、悲嘆にくれて、世界を呪う。失恋した者ならだれでも当たり前に持つ感情だ。魔女で、しかも潜在的に強大すぎるほどの魔力を持っていたからその魔力が暴走した。当時の権力者たちだの魔道士たちだのが、世界を滅ぼしてしまうほどの力に怯えて、寄ってたかって彼女を責め立てて、世界に対する悪役に仕立てたのではないのかな?彼女はただ悲しかっただけなのかもしれない。恋人を恨んだだけだったのかもしれない。それなのに、皆に、最悪の魔女と、世界を滅ぼす魔力を持つものだと攻撃されて……。それの繰り返しで彼女がだんだん歪まされた結果が『最悪の魔女の呪い』となって君たちに振りかかったのだとしたら。……最初の根本の原因を取り除いてあげなくては彼女が可哀想だろう」
なんでもないことのようにロイは淡々と語る。
「死んでからも恨みが残るなんて可哀想じゃないか。彼女ももう自身の重く暗い情念渦巻く呪縛から放たれて、天の国にでも行くべきだ。温かな、優しく美しい世界に、心穏やかに過ごせる世界へね」
「アンタ……魔女が可哀想な女だって思ってんの?」
ロイは頷いた。
「恨みを持ったまま生きる。恨みを持ったまま死ぬ。それはね、酷く辛いことだと思うよ。出来れば恨みなど解消して過ごして欲しい。生きている人にも死んだものにも。そう私は思っている」
きっぱりとした強い口調だった。
まるで実体験が籠っているような。
「……アンタは誰かを恨んだり恨まれたりとか……したことあんの?実体験があるからわかることなのかそれ。本ばっかり読んでねえで体験して考えろってオレ達に言ったのって……そういうこと?」
ロイは薄く笑う。
「相手を恨んだことも、相手から恨まれたこともある。恋愛以外でもね、現状私は恨みを持たれているしね。……本当にあんな暗くて重たい念はさっさと解消してもらいたいものだな。……と言ってもこればかりは相手の気持ちの問題だからな。簡単には行かないが」
「誰かに、恨まれたりしてんのか?誰に?どうして?」
ロイはすっと人差し指を立てて、それを自身の唇にあてた。
「それは、ここでは言えないことだ。往来のど真ん中だからねここは」
だが、王宮に帰ってから教えてあげようとそれだけを加えて、ロイはすたすたと市場を歩いていく。
先と同じように、いろんな屋台を冷やかすようにして回り、屋台の人間に声をかけ、そして相手からも好意的な声をかけられる。食べ物や飲み物を振る舞われ、それに笑顔で受け答えていく。
先ほどとまったく変わらない様子で、笑顔を振りまくロイ。
こんなロイが誰かに恨まれているとは思えなかった。
誰かを恨むような人間にも思えない。
……女のヒトを、捨てたとか、失恋したとか、裏切ったとかかな?
エドワードは考えてみるが、どうもしっくりこなかった。
確かにエドワード自身はロイのプロポーズを速攻で蹴り飛ばしたが、それを恨みに思っているなら自分たちに対して協力などしてはくれないだろう。だから、そうではないとは思う。
顔は良いし権力も地位もあるのだから女の人にはモテるのであろうとはわかる。ならばロイを好きになった女性を裏切って捨てて、それで恨みに思われたのではと考えてはみたが、それもしっくりとはこない。少なくとも、誰かを騙すような人間にも思えない。
わからない。
ロイのことなど何一つ。
……出会いがしらに男の俺のプロポーズしたような変なやつっていうことと、それから、意外にも国民の皆様に支持されてるとか、そのくらいしか知らねえなオレ、こいつのこと。
きちんと向き合って、知るべきなのかもしれない。
少なくとも、認めたくはなくても『運命の相手』なのだ。
恋に落ちることはなくても、それでもこのままでは魔女の呪で共に死ぬかもしれないのだ。
……知らないと、いけないかもしれない。コイツを知ることが必要なのかもしれない。

「知らなければならない」から「知りたい」に変わるまではまだ遠いが、それでもエドワードは今初めてロイという人間に興味を持った。
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