小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。
「煽るって……?」
何をどう続けていいのかわからず何となく、ロイの言葉を繰り返して聞いてみる。
「先ほどのように、わざと敵愾心を煽る。そうして死力を尽くしてでも生き延びてもらう。そう、し続けているんだよ私はね……」
「……それ、アンタしたくてしてんの?」
ロイは、口ごもる。
「……他に、出来ることが無くてしかたなく、というのが言い訳かな」
「出来ること、ねえの?」
「……私への敵愾心を無くして心穏やかに過ごしていただくように、と従兄殿の気持ちを変えることは……やろうと思えば出来ないことはない」
「じゃ、それ、やれば?」
あんなふうに逆恨みをし続けられるくらいなら、それを解消するためにどんな手段でも取ればいいのに。
そういうふうに単純にエドワードは思えた。
ロイは、くすり、と笑った。
「そうしたらあっという間に天の国行ってしまうだろうね。なんとしてでも生きようという気持ちなどなくなるのだとおもうよ。あの人は私に王位など継がせるかという一心で生き延びているようなものなのだから」
エドワードは己の失言を悔い、顔を顰めた。ロイであれば、出来ることくらいは既にどんな手段でも取っているのだろう。エドワードが何も言わなくとも。
「ごめん……」
「君が謝らずともいいのだよ。……それにね、従兄殿だってわかっているのだと思うから」
「え?」
「自分がどんなに理不尽なことを私に言っているのかということくらい理解しているはずだ。従兄殿は聡明な方だからね。わかった上で敢えて私を怨むという方法で生きながらえていく道を選んだんだと思う。死なないために……彼自身が生きたいからというのもあるだろうが、女王陛下や彼を大事に思う皆を悲しませないように生き続けている。そうして残り少ない命であることも理解している。だから……、自分がたとえ死んでも残された人が悲しまないように……、嫌なヤツが死んでせいせいしたとでも思ってもらえるように、わざとあのような態度を取り続けているんだよ……」
きっとね、とロイは続けた。
きっと……という言葉にはそうであって欲しいという願望も含まれているようだった。
けれど、ロイは物事を客観的に見ることが出来る。多分、その推測は間違いではないのだろう。
あの男は、必死になって生にしがみついているのだ。
たとえどんな手段を講じてでも……と。
エドワードにもそれが理解は出来た。あの男の瞳の強さは生きるために魂すらも振り絞っているのだろう。
エドワードには何も言えなかった。
例えば、あの男がアルフォンスで、例えばエドワード自身がロイの立場であったら。
何が何でもアルフォンスには死んで欲しくない。
エドワードを恨むことでアルフォンスが生きながらえてくれるのならそれで構わなかった。
生きていてくれさえするのならばと。きっとそう思ったはずだ。
ロイも、そうなのだろうか。
エドワードはロイを見る。
薄らとした影がロイの顔を遮って、表情が掴めない。
ロイに掛ける言葉が見つからない。
エドワードは口を開きかけまた閉じそして。
「あの……さ、オレが、出来ること、ある?」
目を合わせないように顔を逸らして告げる。
「エド?」
アンタが珍しく辛そうな顔をしているから慰めてやれれば、などということは言えない。
それは同情だ。
きっと、ロイはそんなことは望まない。
――同情ではなく共感すること。
魔女に対しての言葉ではあったが以前にロイはそう言った。
きっとあれはロイ自身に対する希望も含まれているのだ。
同情など、そんなものを欲してはいないのだろう。だけど、ほんの少しだけ、辛いという気持ちは理解してもらいたいのかもしれない。
「えっと、その……あれだ。……オレも、アルも、アンタに世話になってるから、その……礼っつうか、魔女のこともあるし、そのなんつーか、してもらった分くらい等価交換で、オレがアンタに出来ることあるのかなって今ふっと思ったり……」
苦しい言い訳のような気が、エドワード自身にもしていた。
けれど今、どのような言葉で何をロイに告げていいのかわからない。
だから下を向いたまま、ぼそぼそとした口調になる。
誰かを恨まねばならないほど辛い思いをしたことなど無い。
今までのエドワードは、狭いリゼンブールという地で大きな波風も立たないまま暮らしてきた。
母と弟と近隣の住民との実に穏やかでのんびりとした日々。
エドワードにとっての世界はパステルカラーのような色合いを帯びていた。
不満など無い。
苦しい思いなど何一つなかった。
魔女のように世の中に恨みをまき散らすような感情などしらない。
ロイの従兄のように相手を恨むことで生きながらえるようなそんな状況など知らない。
わからないのだ。
綺麗な空気の中で生きてきたから。
悲しみや辛さや恨みというようなマイナスの感情は。
わからない。だから、共感など出来るわけは無い。
けれど、辛い誰かをそのままにしておいて、自分とは無関係だなんては言えなかった。
辛いなら、せめて。
何も言えなくても手を伸ばして抱きしめてやるくらいのことは出来る。
それで相手の辛さが解消できるなんて思うほどおめでたくは無いけれども。
ほんの少しだけ、些細なことくらいなら。
こんな自分にでも出来ることがあるのではないかと。
ロイは少しだけ躊躇して、ゆっくりとエドワードの手を伸ばしてきた。
「…………ても、構わないかい?」
ロイの声は少しだけ、震えていた。だから、その声がうまく耳に聞こえてこなかった。
「な、なに?オレ、出来ること、ある?」
「しばらく……ほんの少しの間でいい。そのまま、そこにいてくれないか?」
「いる、だけで……いいんか」
「ああ……」
ロイは、そっとエドワードを抱き寄せた。
抱きしめる、ではなく、抱き寄せる。
壊れそうなものに手を伸ばすと言った繊細さで。
ほんの少しだけ、ロイの身体とエドワードの身体の間は空いていた。
見ていいものかどうか躊躇はしたが、それでもエドワードは上目づかいでロイの顔を見上げてみた。
風が吹いてロイの髪を揺らした。
黒髪が、ロイの漆黒の瞳を隠してしまっていたので表情がわからない。ロイの前髪に手を伸ばしてその髪を払い、顔を見てみたい気がしたけれども、それをしていいのかどうかもわからない。
だから、手を伸ばさずに。
そっと窺い見るだけで。
ロイの薄い唇は微笑みのような形を作っている。
けれど、笑っているとは思えなかった。
エドワードは、何か言葉をかけようとして、けれどやはり言える言葉が浮かばない。
口を開きかけてまた閉じて。
どうしようもなくなって、視線を逸らす。
空に浮かんだ白い雲がゆったりと流れていくのが見える。
噴水の水音が聞こえる。
水滴がかかっていく睡蓮の花がある。
光が、水滴に跳ねる。
視界に映るものは美しいものだ。
美しいものがここにはあるというのに。
心からの笑みを浮かべることが出来ればいいのに。
けれど、ロイの指はかすかに震えているのだ。
エドワードはロイが泣いているのかと思った。が、そうではなかった。
涙は見えない。
では悲しいと感じるのは何故なのだろう。
かすかに震える指が何を、ロイのどんな気持ちを表しているのか。
エドワードは何も言えないからこそ考えるしかできなかった。
推測することは出来ても、それを言葉にして表すようなことはしれはいけないような気がしていた。
だから、エドワードは何も言わないで、ただ、ロイを見ていた。
かける言葉もなく、できることもなにもない自分が少しだけ悔しかった。
――もう少しだけ、もうちょっとだけ、何かしてやれねえのかな……。
手を、握って、そしてまた閉じる。
この小さな手で、出来ることはたかが知れている。
だけど。
エドワードは躊躇した手を伸ばした。
そっと、ロイの背に自分の手を回す。
せめて、抱きしめてやるくらい。
そう思って。
ぐっと、ロイにしがみつくように抱きついた。
「エド、ワード……?」
ロイが驚いたようにエドワードの名を呼んだ。
「あー……、えっと……」
エドワードは、ロイの背中にまわした自分の手を、急に恥ずかしく思ってしまった。けれど、いきなりその手をひっこめるのもおかしいように感じた。
「あー、き、気まぐれだからこれっ!」
そして、引っ込めるのではなくてあえて更に強く抱きついた。
恥ずかしいのならいっそもっとしてしまえ。
開き直りの心情で。
何故、抱きついてくるのかと問われても、うまく自分の気持ちを言葉にすることなど出来そうもなくて。
気まぐれで無いことだけはわかっている。
ロイに何かしてやりたいと自分でそう感じたことも。
エドワードは自分の気持ちがよくわからなかった。
恋愛という意味で、ロイに心惹かれているわけではない。そこまで強い感情ではない。
けれど。
「……ありがとう、エド」
かすれるような声がエドワードの耳に聞こえた。風に消えてしまいそうなほど小さな声で。
そうして、ロイは強く強くエドワードを抱きしめる。
このまま時が止まるような感覚がして、エドワードはそっと目を閉じた。


そうしてそのままどのくらいの時間が過ぎたのか。


ゆらり……、と。
生温かく、風が揺れた。


その風の先に一人の女がいた。


「どうして……」
女は震える声を出す。

「どうして、なの……?」


恨むような目つきで、女はロイとエドワードを凝視した。








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