小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

夏目は、うわぁと心の中で叫びをあげたが抱きしめている名取の腕は一向に緩まない。それどころか夏目がじたばたと抵抗すればするほどぎゅうぎゅうに羽交い締めにされてしまう。
「な、なとりさ……」
離して下さい、皆さんからの視線が痛いです。
そう告げようとするが名取と夏目を取り巻く面々から「これがあの写真の」だの「名取さんの趣味ってこーゆー感じだったんですかー」などと口々に告げられ、夏目が声を発しても聞いてもらえそうにない。
「あーのー、だから撮りの準備に入らないと~」
と言うイチの声にも誰も反応しないという現状なのだ。わいわいと、楽しそうというか新しいおもちゃを発見した子供のように、皆が夏目を興味津々に見つめてくる。夏目は、さっきソーヤに「そのうち紹介する」といわれた他のメンバーなのかなこの人たちと思ったのだが、それにしても自分達を取り囲む面々はバンドのメンバーというには少々数が多い。ソーヤとイチ、それからギターを片手にしている男にコーヒーの缶を手にしながら「写真よりも実物が可愛いねー」と夏目に笑いかける女性がいたり、まだまだ夏目の視界から見える限りだけでも3・4人はいた。そんな数の人間に取り囲まれてしまっている。これでは名取の腕の中から逃れたところでこの包囲網から逃れることも出来はしない。
夏目は仕方なしに、絶対後で殴ると心に決めながら、名取の腕の中でふるふると震えそうになる身体を半ば無理矢理に押さえていた。

「うおらっ!貴様らっ!名取が来たんなら撮影開始するって言っただろっ!遊んでねえで準備しろっ!イチ、ソーヤ、クマ、ヤスっサウンドチェック済んでんのかっ!柿崎さんイーゼルとかセットのほうの配置完了してねえですよねっ!」
包囲網の向こうからいきなり怒声が飛んできた途端に、夏目達を取り巻いていた皆が一斉にその声の主のほうを見てそして、一斉に四方に逃げだした。が、運悪く、イチがその怒声の持ち主に掴まってしまう。
「わあああああ、上条様っ!すんませんっ!まだっすっ!」
そう答えたイチの胸倉を、上条と呼ばれた男はがっしりと掴みあげる。
「まだだあ?いい度胸してんなオマエらっ!オ・レ・は超忙しいつってんだろ?ノーギャラのサービス仕事に手間かけさせんじゃねえっ!」
「ひーっ!すんませんすんません今すぐにっ!」
真っ青な顔で尻尾を丸めるイチとは対照的に、ソーヤがこれまたニコニコと笑顔を振りまいて上条の袖を引く。
「かーみじょーさーん。まあまあ、見てよ、えっと名取先輩の恋人さん、すげえええ可愛いいいいいでしょ?」
「あー?」
ぎろり、と睨まれて。思わず夏目は逃げそうになった。先ほどからの乱暴な物言いといい睨みつけてくる眼光の鋭さといい、何よりも190近くあるであろう背の高さとシャツの上からでもわかるがっちりとした筋肉質の身体つき……は何とも言われぬ迫力があった。
じーっと値踏みをされるように見つめられて、非常に居心地が悪いがそれでも夏目は上条の不躾な視線から目を逸らさなかった。
「えっと、……夏目、貴志です。初めまして……」
ぼそりと小さく、そう告げた夏目の頭を、上条はガシガシと乱雑に撫ぜる。
「おう、よろしくな。えーっとだなオレは、なんつーかコイツら……ソーヤ達を売り出そうっていう首謀者の一人で上条ってもんだ」
わしわしと髪をなでられながら告げられて、夏目は「首謀者って何?」と首をかしげることも出来なかった。
「あのねえ上条さん。首謀者は無いでしょう首謀者は。……あのね、夏目。この人はねえ、私の所属する事務所の……敏腕プロデューサーだとかなんとか、えーと肩書なんでしたっけ?」
名取が上条を紹介してくれようとしてくれているらしいのだが、どんな立場の人間だが名取にも不明らしい。
「あー?肩書とかメンドーだからどーでもいいだろ?一応名取の所属している芸能事務所ってののな、新人発掘部門で、まああれだ、日々テキトーにライブハウス遊びに行ったりコイツらデビューさせよって策略組んだりってそーゆーのやってるんだがよ」
「はあ……」
よくわからないがすっと差し出された名刺には何やらごちゃごちゃとした長い肩書と上条アツシという名前が印刷されていた。
「ええと、だ。今回は遠くから来てもらっちまってありがとなっていうかすまんな。これも予算がなくてな~」
はははと乾いた笑いをされても夏目には実のところよく分からなかった。
「えっと、あのそれで……名取さんには詳しい説明してもよくわからないだろうから現地でやること説明するって言われたんですけど……、その、おれは、何をすればいいんですか?」
ここまで来てしまった以上逃げることもできないだろうと、夏目は腹を決めようとした。
「あー、そうだよな。撮影とか言っても本格的なもんというよりは家庭用機材であいつらの演奏シーン撮ってだな、その合間合間にストーリー性のある話を挿入ってカンジでさあ、なんつったらいいかなー?」
「えっと、名取さんが画家の役って聞いたんですけど……」
「そんで君が絵に描かれている女の子の役ね。って言ってもイメージわかねえだろうから。そーだな、ちょっと待ってくれ。おーい、衣裳どこだー?」
はいこれですー、と誰かが持ってきてくれたその衣装を上条は受け取り、そして脅しとも言わんばかりの凶悪な笑みを浮かべた。
「まずはこれに着替えてくれるかな?」
「は、い?」
笑みの迫力に負けてうっかり受け取ってしまったそれは、オーガンジーを幾重にも重ねたようなふわりとした手触りの、白のサマードレスであった。
茫然と、夏目は受け取ってしまったドレスを見た。更にその上にウイッグも載せられる。
――こ、これ、どー見てもスカート……って言うよりド、ドレス……?それになにこれええと、カ、カツラかな?
この場にニャンコ先生がいなくてよかった、見られたら絶対に爆笑される。などと思考を逸らしているというか、状況について行けない夏目をよそに、上条がどんどん勝手に話を進めていた。
「じゃ、さっそくよろしくな。えーっと更衣室なんてモンはねえから、楽屋で。おーい誰か夏目君を楽屋に案内してくれ」
その誰かという言葉にソーヤが片手をあげて答えた。
「あ、はいはい。俺、行くよっ!えーっと名取先輩のコイビトさん?楽屋こっちだから、来てくれる?」
夏目の腕を引っ張りながら楽屋のほうへ向かおうとするソーヤの頭を、後ろから上条がペシンと叩く。
「オマエは歌の準備をしやがれ。案内なんて余裕じゃねえか」
振り向かないまま、そのままで。ぴたりとソーヤは足を止める。
「……余裕、なんてないけど。俺はいつでもどこでも歌うよ」
一瞬だけ、ソーヤの顔から笑顔が消えた。当たり障りのない、人懐こい笑顔。そのソーヤがほんの僅かな瞬間だけ白い顔になっていた。感情が停止したような目。無表情。思わず夏目はソーヤを見た。
「歌うって言った。おれの歌、聞いてるクセに届いてないのは上条さんのほう……だろ?」
「ソーヤ……」
「歌うよ。届いても届かなくても。だけど、」
「だけど……なんだ?」
上条の問いかけには答えず、ソーヤは夏目へ視線を向けた。その顔には既に先と変わらない人懐こい笑みが浮かんでいた。
……ああ、仮面みたいだなこの笑顔。
不意に夏目はそんなことを思った。
「あのさ、コイビトさん。きっと俺達の歌聞くの初めてだよね?」
「あ、はい。えっと、ごめんなさい」
聞いたことありませんと、夏目はなんとなく恐縮して首をすくめる。
「だから、まずはちゃんと俺の全力の曲、聞いてもらいたいんだ。それにどんな気持ちで俺が歌うのかとかそういうの、ちゃんと知って撮影に協力してもらいたいしさ。だから君が着替えている間、ちょっと俺と話しをようよ。そんで着替え済んだら俺は歌うから。そうしたら聞いてくれる?……撮影それからってことでいいよね上条さん」
「……わーかった。みんなにも伝えとく。夏目君の着替えと調整待ちな。ああ、じゃあこの隙に名取も着替えしておいてくれ……」
「はいはい。私は白衣羽織るだけでしたよね?筆とか絵の具とかはどこですか?」
「あっち。柿崎さんのところ。柿崎さーん、名取の白衣、汚してある?」
客席の一角をどけて、白い布を床に敷き詰めてその上にイーゼルを設置していた柿崎が、上条のほうに怒鳴りながらも返事をした。
「あー二人ともこっち来てもらえますか名取さんと上条さん。ええとですね、名取さんの衣裳のほうはすでに油絵の具で汚してありますけど、もうちょい汚してみましょうか?カメラ通してチェックしますんで着てみてください。それから……」
名取は、ソーヤ君夏目の着替えのほうはよろしくーとひらひら手を振って、柿崎と呼ばれた男のほうへ上条と二人歩いて行ってしまった。
既に意識を切り替えているのか俳優・名取周一としての顔つきになっていた。
夏目はやはり状況がつかめないまま、ソーヤに腕を引かれ、楽屋へと連れて行かれたのであった。

「ごめんなー、バタバタしてて」
楽屋にいくつか置いてあるパイプ椅子に座りながら、ソーヤはごめんねと夏目に頭を下げる。
「いいえ、っていうかあのその……おれ、何が何だかよくわかってなくて」
「夏目君は学生だっけ?ライブハウスとか撮影とか縁のない生活?」
「はい……」
ドレスとウイッグを両手に抱えたまま、着替えもせずに夏目はその楽屋で途方にくれた顔で立っていた。着替えなくてはいけないのはわかっていたが、ドレスなど躊躇なく着られるものではない。それに、状況がわからないなりに、先ほどのソーヤの表情が何か気にかかっていたのだ。
「俺は、俺達のバンドはね、今までここのライブハウスとかでインディーズでライブやったりCD出したりってつまり歌い続けてきたんだよ。そんで今回上条さんに発掘されてさ、めでたくメジャーデビューのはずだったんだけど……」
「はず、なんですか?じゃあ今回の撮影って?」
「うん、それがさー。上条さんの事務所のイチオシの大型新人てのが今月デビューするって決まっちゃって、俺達はまた次の機会にデビューしましょってね、延期になって。まあそれでも俺はいいんだけど」
「延期……なんですか?」
「……上条さん、せっかちでさ。俺達とっととメジャーデビューさせたいってキレちゃって。事務所の社長と喧嘩したみたいでね」
「え、ええと……」
夏目はなんといっていいのか分からずに口を濁す。
「うんそれで『事務所がやらねえんならオレが勝手に売るから見てやがれっ』ってさ。いい歳した大人なのにねぇ、馬鹿みたいでしょうあの人」
馬鹿みたいと言いながらもソーヤは嬉しそうに笑っていた。
「プロモ作って動画サイト流してそっからどっかの企業に売り込んでCMタイアップぐらい勝手に取ってきてやるから見て居やがれって。事務所の社長と喧嘩して、社長もねえ『そんなの勝手にやって万が一売れたら事務所的には元手無しで儲かるからラッキー勝手にやれ上条』ってさあ……。ホントいい加減でしょこの業界。で、ね。上条さん本気出して個人的なツテ総動員で。名取先輩のマネージャーさんとかと仲いいらしくて俺達のライブ二人でよく来てくれてて、そんで名取先輩も引っ張ってきちゃったし、柿崎さんって人もふだんは舞台美術とかやってる人らしいんだけど、そんな感じでいろんな人に出世払いのノーギャラでとかいって上手いこと言って各方面の一流の皆さま引っ張ってきちゃって。皆さまもねえ、ギャラなんて一円もでない上に俺達みたいな新人バンド売るために半分面白がって半分上条さんへの恩返しみたいな感じで参加してくれちゃって。まーすげえ俺達恵まれてるなーって状態で」
「は、はあ……」
「なもんで、今回の撮影しだいなんだ。俺達のバンドの未来は」
バンドの未来。そんな大層なものに自分がかかわるのか。夏目の背にはひやりとしたものが流れていった。
「お、おれなんて素人ですよ素人っ!おれのせいで失敗とかしたら……」
責任重大。なんてものに誘いだしたのだと本気で腹の底から名取を恨みたくなった。
「だいじょーぶ。コイビトさん、俺達のイメージにぴったり。ホント可愛いよね。名取先輩が惚れまくってるのも無理もないっ」
にこにこにこと言われて、その問題もあったと夏目は眉根を寄せた。
「あ、あの、宗谷、さん?その『恋人さん』て言うのやめてくれませんか」
「んんん?恥ずかしい?じゃ、夏目君て呼ぶほうがいい?」
恥ずかしいのではないというか恥ずかしいというか夏目はうううううううと唸ってしまった。
「……男同士で恋人とかっておかしいとか思わないですか?」
顔を真っ赤にしながら、それでも夏目はしっかりとした声でソーヤに尋ねる。
「んー。この業界ゲイの人とか特殊性志向の人とかいっぱいいるらしいよ?それに俺の好きな人も男」
「ええっ!?」
ソーヤはさらりと口に出したが、それは思い切り問題発言なのではないだろうかと夏目は思わず叫び声をあげてしまう。
「夏目君と名取先輩と違って俺はぶっちぎり片想いだけどね。うん、男」
「男って……ええ、と。片想いなんですか?」
「うんそう。好きだって言ってもキスしてもセックスしても俺のこと振り向いてくれなかったんだよねあの人」
もはや驚きの声もあげられずに、夏目はそれこそ穴があくほどソーヤを凝視する。
……今、宗谷さん、なんて言った?キスしてもセックスしても振り向いてくれなかったってええとええとええと……。
思わず、目の前の宗谷がどこかの誰かに組み敷かれているところをうっかり想像して赤い顔を更に二倍も三倍も赤くしてしまった夏目だった。
「何をしても無駄だったよ。でもねえ、俺、あの人好きだって気持ちは変えられないんだよね。だから仕方がない」
「仕方がないって……」
「うん、いいんだ。それでも俺は歌うから」
「歌う……ですか?」
「うん。俺のね、気持ちは全部歌にして吐き出すんだ。あの人に届けって、さ。……届かなくても歌うけど。ま、それは置いておいて。両想いの夏目君と名取先輩はすげえ羨ましい。あのさ、気持ちが届いて伝わり合うって、奇跡だとか思わない?男とか女とか関係ないよ。好きな人と好きだって言いあえるのは……すごいと思う」
「宗谷さん……」
どこか遠くを仰ぎ見るみたいにソーヤは呟く。夏目に伝えているのではなく、独り言のように。
奇蹟。気持ちが通じ合うことは。
呟かれたソーヤのその一言は夏目の胸の奥にまで沁みていった。

くるぶしの辺りまである長いサマードレスはふわふわと足にまとわりついて歩きにくい。それに、胸のあたりまである長さの髪も重くて重くて仕方がなかった。ソーヤと一緒に楽屋から戻る最中、夏目はずっと下を向いていた。ちなみに足は裸足である。ぺたぺたと、ソーヤの後について歩く。
……ううううう、こんなカッコウ、名取さんに見られるの恥ずかしいっていうかううううううううううううう。
往生際悪く、夏目は思う。だが、そう思う比重はそれほど重いものではなかった。夏目の気持ちの中の、今大きな位置を占めているのはドレスを着ているという恥ずかしさよりも、先ほどのソーヤの言葉のほうだった。ぐるぐると気持ちが渦を巻く。気持ちが悪いほどに繰り返し繰り返しソーヤの言葉が心に浮かぶ。
片想い。
振り向いてくれない。
けれど、想う。想い続ける。
……その相手って誰ですか?おれの……知ってる人、だったりしたら……。
口を開け、言ったらだめだよなとまた口を閉じる。口は閉じても相手というのをつい連想してしまい、その自分の思考にうっと、詰まる。
「夏目君は可愛いな~、可愛い可愛い抱きしめちゃうね~」
ソーヤは楽屋でのやり取りなど忘れたかのようにご機嫌だ。どうやら夏目の扮装が相当お気に召したらしい。ふんふんと鼻歌まで歌っている。
が、ぺたり、と。夏目は足を止めて考え込んでしまった。
――歌うよ。届いても届かなくても。
上条に向けてそう言った時のソーヤの仮面のような顔。あの時、傍に、名取も居た、というのが夏目の気にかかっていた。
――うん。おれのね、気持ちは全部歌にして吐き出すんだ。あの人に届けって、さ。……届かなくても歌うけど。ま、それは置いておいて。両想いの夏目君と名取先輩はすげえ羨ましい。気持ちが届いて伝わり合うって、奇跡だとか思わない?男とか女とか関係ないよ。好きな人と好きだって言いあえるのは……いいと思う。
宗谷さんの言ったあの人って……届かなくても歌うって相手ってそれ……。おれのことなんかを羨ましいとか言うのってそれって……。
どうしても浮かんでしまうその考えを振り払おうと、夏目はぶんぶんと首を横に振った。
ホントおれ何を考えているんだろう……。
考えを否定しようとする、がしかし。
……でも最初、宗谷さん……、名取さんに抱きついてたし。名取さんも宗谷さんの……頭とか、撫でたりしてたし……。
「ん?どーしたの?」
覗きこまれてうっかりと、夏目は「あの、宗谷さん。聞いても……いいですか?」と言ってしまった。
「んー?にゃーに?」
「さっきの……あの、宗谷さんの、」
「ほい?」
「あの……宗谷さんの好きな人って、もしかして名取さん……ですか?」
「……はひ?」
きょとん。宗谷の顔を擬音で表すのならばまさにそれで。夏目は今言ったばかりの言葉を激しく後悔した。が、しかし。発した言葉はもう取り消しは出来なかった。己の迂闊さを恥じながら、夏目はすみませんすみませんと頭を下げる。顔どころか耳までも、いや全身を恥ずかしさで赤に染めて。
あはははは、と笑いながらもソーヤはそんな夏目微笑ましげに見た。
「違うよー、おれの好きな人は別の人」
夏目はソーヤの前からもう姿を消したいというか逃げたくて仕方がなくなった。
「ホントすみません、おれ……っ!」
あああああ、もうおれ、ホント何言ってんだろう……。これじゃまるで俺が宗谷さんに嫉妬しているみたいだ。……みたいとかじゃなくて、実際に、その……名取さんに抱きついた宗谷さん見ておれ、正直ムカついてたのかも……。
「いーよいーよ。夏目君はホント可愛いなあ。名取先輩が惚れまくってるのがホントよくわかるよ」
フォローをされているようで非常に居た堪れない。
「か、可愛くなんかないです。こんなこと考えて……」
嫉妬の、感情。誤解してそんなものを思ってしまうなんて。だが、宗谷の目は優しかった。
「んー、名取先輩も夏目君に愛されてんだねぇ、いーなあ。ホントうらやましーなー。俺もいつか両想いとかにならないかなー、届かないかなー」
軽く言う口調に、その誰かに気持ちが届いて欲しいという切望が潜んでいるようで。夏目の胸は色々な意味でずきずきと痛んだ。


3へ続く




スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。