小説・2

BL二次創作&創作。18歳未満の方はお戻りください。無断転載厳禁です。

(*R18)






「あまり無理はさせない……つもりなんだけどね。でもごめん。私も歯止めがきかないかも……」
夏目に覆いかぶさってくちづける合間に、名取は真顔で告げる。
「は、い……?」
ぼうっと、熱に浮かされていた夏目には名取の言葉の意味がわからなかった。いや、正直それどころではなかったのだ。歯列をなぞる名取の舌先。ざらりと撫ぜてくるその舌に、夏目は口腔内だけではなく身体の奥までを直接に舐められたように感じていたのだ。唾液の絡まる音。忙しなく触れてくる名取の掌。音が、熱が、鼓膜にも皮膚にも響く。夏目は飲みこまれそうになる身体の熱をぐっと耐えて名取を見た。名取は初めて見る顔をしていた。外の明かりにほのかに照らされる横顔。そして逆の反面に濃い影が落ちる。憂いを帯びているようにも見える眼差し。だが、そこにはあからさまな情欲が浮かんでいた。
うわあ、と。夏目は思った。いつもなら、こんなにストレートに感情を表す名取ではない。けれど、名取の目も腕も全てが夏目を欲しいとそう訴えていた。
求められていることが、言葉以上に肌で感じられる。
すごい、と。そうも思った。
強く強く、求められてそれが伝わる。言葉ではなくて、身体で、感覚でそれがわかる。
夏目はそっと名取の背に手を伸ばす。ぎゅっと抱きしめて、そして。
「歯止めなんていらないです。おれ……に、名取さんを全部ください」
伸ばした指の先が繋がったことがこんなにも嬉しい。奇蹟のような瞬間。体温が、上がる。鼓動が苦しい。指だけでなく吐き出す息も身体の全ても、深いところで繋がっていく。
「夏目……」
「想いが、通じ合うのは奇跡だって今日言われました。おれも、そう思います。だけど……」
「だけど、何?」
「通じ合うだけじゃもう足りないんです。おれ、名取さんに好きだって前に言った時、名取さんがおれの気持ちを受け取ってくれたそれだけで幸せでした。充分だと思った。でも、違いました。もっと欲しいって……欲が、出てるんです」
名取の、背に触れる。肩甲骨をなぞるように素肌を探る。手を繋ぐよりも遥かに強く気持ちが伝わってくるような気がした。
「伝わって、通じ合ってそれから……もっと強く繋がっていたいです。気持ちが繋がり合った奇跡を、そのままにしておくんじゃなくて、もっと……。言葉が上手く出ないんですけど、もっと強く結び付きたいって」
だから、おれにもっと触れてください。全部、ずっと。
触れ合うことができる奇跡。それをもっとずっと強く感じたい。
そしてもっとその先に、行きたい。
手を伸ばし、その手が大事な人に届く。好運。それだけではもう足りない。
結びつくまでは確かに奇蹟が必要なのかもしれない。奇蹟でなければほんの些細なタイミング、運。そういうものなのかもしれない。けれど、運だけ、ならば。いつか神様のきまぐれで無くなってしまうかもしれない。
そもそも夏目は、自覚した想いを名取に告げることなど考えもしなかったのだ。
――同じものを見ることができる友人は君だけだよ。
そう、以前に言われた。出会ったばかりのことの話だ。それが嬉しかったこともある。だが友人と言われたことを次第に苦しくも思うようになった。せっかく知り合った同じものを見ることができる人。その人を好きだと思ったその感情が友人としてのものに留めておけたのなら苦しくは無かったのに。そう考えたことは何度もあった。
男のおれが名取さんに好きだとか言ったら……。
拒絶されるだろう。気持ち悪がられるかもしれない。あからさまに線をひかれなくても、だんだんと疎遠になって、友人ですらなくなるかもしれない。好きだと自覚した感情など押し殺し、単なる友人として傍に居られればいいとさえ、以前の夏目は思ったのだ。
それを、好きだと言葉に出したのは単なるの衝動。考えた末のものではない。
――おれは名取さんが好きです。
言うつもりもなかった言葉を口にして、すぐ夏目は後悔した。駄目だと思った。せっかく友人として築いた絆もこれで失うのだと。名取の驚いた顔。それを見て逃げたくなった。けれど。
――私もだよ夏目。
信じられなかった。名取のその返事を。驚いて、けれど名取は笑顔を浮かべたのだ。
――え?
――私も、ずっと夏目が好きだった。
抱きしめられて、泣きそうになった。現実感がなかった。都合のいい夢を見ているだけではないかと疑った。ぐっと強く抱きしめられてようやく。じわりじわりと、想いが伝わったことが沁みてきた。
多分、あれは奇跡。
あの時うっかりと想いを告げなかったら。きっと夏目も名取も同じ気持ちを秘めていることに気がつかないまま、苦しんでいったことだろう。
それを思えば今はなんという幸福を手にしたのだろうとさえ思う。
思いが通じて、手を伸ばして触れ合って。そして一つに結ばれる。
名取と夏目に訪れた幸運。
ソーヤには訪れなかったその奇跡。
訪れるか訪れないか、その差が何かはわからない。運だというのなら、逆のあり得たのかもしれない。
たとえばの仮定。ソーヤには、訪れて。名取や夏目には訪れなかった。
そんな運命だってあったかもしれないのだ。
あやふやな、奇跡。幸運と不運の境目などわからない。
だから、と思う。
だけど、と思う。
奇跡なんて、そんなあいまいなものに頼るのではなく。もっと強いものが欲しい。結ばれたばかりの細い細い糸。いつ切れるかもしれないタイトロープ。
そんなものではなくもっと強い絆を結びたい。手を伸ばして、届いて嬉しい。そこで留まってはいられない。
もっとずっと強いつながりそれを欲するのならば。この先に必要なのは奇跡ではなく互いの情熱。
「夏目……」
夢じゃない奇跡じゃない。現実に手を伸ばせば互いの熱がここに在る。
「私も、そうだよ。夏目。触れるだけではもう足りない。もっと確かなものを感じたい。一瞬の奇跡なんかじゃなくて、ずっと夏目との時が続いて欲しい」
抱きしめて、抱きしめられる。体温も、鼓動も、吐き出す熱も、全て今だけのものではなくずっと。お互いに触れ合ってお互いに共有する。そうしていきたいと願う。
「願うだけじゃなくて、そうなるように努力していくよ。これから、喧嘩とかもするかもしれないし、すれ違う時もあるかもしれない。でも、そんな時だって忘れないから。触れあえた幸福を……ね、」
溢れる気持ちを言葉で全て伝えることは難しいとばかりに、名取は夏目の首筋に吸いついた。同時に、前をまさぐっていく。
「あ……、」
名取の背に回していた手に力が入る。爪を立てるようにして肩甲骨にしがみ付いた。
「なと……り、さん」
背を掴んだのも名を呼んだのも、性急かに思える行為を咎めるものではなく、むしろ逆った。早く、触れたい。同じ思いであることを言葉だけではなくもっと深いところで感じたい。名取も夏目も同じ気持ちで。唇で、強く吸われて夏目は喉を逸らす。筋を這うようにして名取の唇が下へと向かう。肩を通り、柔らかな腹部へまで達した。が、そこで終わりではない。情欲を湛えかけはじめた夏目の下腹部へと向かう。羞恥に、腰が逃げかけたがそこをぐっと堪えた。「いいかな夏目」確認のように問われたそれに、夏目はこくりと首を縦に振る。
自分でも触ったことなどない場所に名取の指が押しあてられる。前も、同時に掌で包まれて。
「う……っ」
歯を食いしばって耐える。
「夏目、息をして。止めないで」
「は、い……」
意識して、息を吐く。そして吸う。呼吸に合わせて名取の指が先へと進む。進めば進むほど違和感と痛みが増す。けれど、あるのは痛みだけではなかった。上下される名取の手の動きに段々と夏目のそこも固さを増す。
「ごめん、最初だけ痛むかもっていうか痛いよね。我慢、出来る?」
「だいじょうぶ……です」
大丈夫と言いつつも、夏目の顔は引き攣っていた。正直痛い。痛みよりも違和感が酷い。いや、痛いだけなら耐えられた。痛みと同じくらいの快楽が確かにあるのだ。更に羞恥のほうが、強かったのかもしれない。触れて、擦られるその快楽と痛みを産んでいるのが名取の手だと、意識すればするほどどうしても身体に力を込めてしまう。少しでも負担を減らそうと唾液を塗り込みながら、名取の指が抜き差しを繰り返す。夏目の呼吸が荒くなり、それに合わせて名取の指も早さを増す。するとますます夏目の身体が固くなる。
「ごめんね夏目、ちょっと我慢して」
指の、抜き差しで生ずる痛みと違和感に耐えろと、言われたかと夏目は思った。だが、名取は。
「あ、あ、あああああ名取さ……っ!」
息が、そこに、触れた。名取の形のいい唇が、夏目のそこを含み、そして吸う。指で触れられる以上のとてつもない快楽で、脳までもが沸騰しそうだった。
「や、やめ……」
辞めろと言いかけて、夏目は口を結んだ。
先をと望んだのは名取であり夏目なのだ。
恥ずかしくて、気が遠くなる。だけど、辞めてほしくは……ない。
中を抜き差しされる違和感と痛み。そして前を名取の口に含まれる快楽。反する感覚にわけがわからなくなり混乱する。どうしようもなくなり夏目はひたすらに名取の名を呼んだ。何度も何度も繰り返し、名取さん名取さん名取さん、と。
目尻には涙が浮かんでいた。それを見て名取が指を抜いた。
え、と。とまどう前に当てられた、熱い塊。それが何か分かって、夏目の全身が無意識のうちに引き攣った。
「……ごめん、まだ痛いと思うんだけど。我慢、して」
名取の声が酷くかすれていた。顔にも酷く辛そうな表情が浮かんでいる。夏目に負担をかけている。それが苦しいと、名取はそう思っていた。辛くはさせたくはない。けれど、どうしても初めてそれに、夏目の身体は固く強張ってしまう。これでは快楽よりも痛みのほうしか感じられないのではないか。そう思いながらも、その先を求める情欲を止めることなど出来なかった。だから、ごめん、と謝るしかない。耐えてくれ、と頼むしか名取には出来なかった。夏目の後孔に触れたそれを、名取は謝りながらもぐっと突き刺した。
「い……っ!」
じりじりと、名取が入ってくる痛み。少しでも負担を軽くできればとせめて体重をかけないようにそっとは為されたが、それでも身体を二つに引き裂かれるように痛む。
痛い。けれど、辛くは無かった。
夏目の肌にかかる名取の息のリズムが切なげに早い。少しだけ夏目より速く脈打つ器官が、夏目の中にある。名取が、自分の中に、いる。繋がっている。それを思えば痛みは鋭くともちっとも辛くは無い。
「ごめん……」
謝らないでください、と声を出すことなどはもう無理で、せめて笑おうとしたけれど、その顔も引き攣ってしまう。
指などとは比べ物にもならないほどの圧迫感と身体を穿たれる痛み。それよりも名取のほうが痛みや辛さを感じているのではないのだろうか。そう思った途端に、夏目は名取の背中を思い切り、力いっぱい抱きしめた。
「な、とりさん、ごめんばっかり……」
「うん、ごめん。夏目に無理をさせているね」
顰められた名取の顔が哀しかった。痛い、けれど辛くは無いのだ。それが伝わって欲しかった。
「無理、じゃない、です」
抱きしめる。手を繋ぐよりももっと名取が近くに感じる気がした。
痛いけれど、辛くは無いんですむしろ……と、夏目は、痛みをこらえながらも名取へと微笑んだ。
「繋がってるの、うれし……です、から」
「なつめ……」
痛みをこらえるかのような名取の顔が驚きに変わりそして。
「ありがとう……」
目を細めながら、名取は夏目の目尻に小さく唇を落とした。触れて、離れる微かな感触。けれど、優しいそれに、夏目の強張りが溶けていった。
「夏目……」
繰り返される優しいくちづけに夏目は「……ぁ…、」と吐息を洩らす。心地よくて、甘い。痛みは確かに身体の奥にまだあるけれど、それすら心地よく感じられるほどの優しいキスだった。もっと、して欲しいと、夏目は名取を見上げた。もちろん、と名取も目で答える。触れて離れるそれに、次第に熱が加わっていく。優しいだけではない艶めかしい情欲が少しずつ大きくなる。
「……っは、ぁ……」
息を吐いた途端に、名取の舌がするりと忍び込んできた。夏目はとまどうことなくそれを受け入れる。舌が、擦れ会うたびに肌がざわりと泡立つ。絡めとられた舌先を吸われた途端にずくりと、名取と繋がったままのそこが疼いた。
「熱い……です、名取さ……」
先を、と促す夏目の声に、それでも名取は慎重だった。
「痛かったら止めるから。無理はしないで夏目」
ゆらりと、一つ。揺らされて、確かにまだそこは痛んだけれど、それよりも熱さのほうが大きくなった。探りようにゆっくりと、また名取が夏目を揺らす。
「あ、あ……あ、」
ゆらりゆらりと揺さぶられていたそれが次第に速さを増す。穿たれて、引き抜かれて、そして奥を突かれる。夏目の口から痛みではない嬌声が零れ始めた。
「あ…っ、んぅ……」
「……大丈夫?夏目?」
はい、と答えるより先に。夏目の身体がびくりと揺れた。
「あ、ああああ……っ!」
ひときわ声が大きく上がった場所を、名取はぐっと強く推した。夏目は嬌声を上げ、腰を揺らす。
「あ……あ…あ……っ」
繰り返されていくうちにいつしか痛みは消え去った。いや、無くなったのではないが気にならない。それよりも夏目は名取の熱に溺れていく。名取も同様だった。最初に歯止めがきかないかもと告げた通り、名取は夏目を容赦なく穿ちだした。角度を変えて、リズムを変えて。ゆっくりと、そして性急に。欲しいと、もっとと先を急ぐ。
夏目は、激情をぶつけてくるような名取に翻弄されながらも必死になってその名を呼んだ。名取さん、と呼ぶたびに、深く触れる。また、名取さんともう一つ呼べばもっと奥へと名取が進む。羞恥も痛みも、まだ夏目の身体の奥にはあったけれど、それを凌駕するほどの熱に飲み込まれる。身体の中を擦られて、かき混ぜられて乱れていく。けれど、二人ともがその狂おしいばかりの熱を等しく感じているのだ。それが、はっきりとわかる。
「ふ…ぁ、あ…、あ、あ、あ……っ」
上がる嬌声が、止まらない。意識が飛びそうになるのを必死になって堪える。名取の背に、爪を立てていることにも気がつかない。
「なとりさ……、も……っ」
「うん、私も、だよ……」
奥を、突き上げられた瞬間。夏目の欲望が爆ぜた。同時に、名取が低く呻く。夏目の身体の奥に熱いものが満ちていく。
「夏目……」
荒い息のままに、名取は夏目を抱きしめた。夏目も、背中にまわした腕をそのままに、名取の肩口に鼻先をすりよせた。
「――愛してるよ」
囁かれた名取の言葉にふわりと微笑んで、そしてそのまま夏目は意識を失った。


5に続く




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